コーヒーが合流して早々、サリーは早速最後の作戦を開始の合図を告げた。
「それじゃカナデ、お願いね」
「了解」
カナデは頷くと【魔導書庫】から一冊の魔導書を取り出し、スキル名を告げる。
「【ミラージュロイド】!!」
カナデの周りに三つの紫紺の鏡が現れ、その場で回転すると鏡はカナデへと姿を変える。
【ミラージュロイド】は自身の分身を二人生み出すスキルだ。攻撃を受ける、もしくは魔法を一回使えば分身は消えるのだが、分身が魔法を使っても本体には何の影響もなく、回数制限も消費しない便利な魔法である。
そして【口上強化】によって分身も三体に増えており、本人の魔導書も消費しない。つまり……同じ魔導書を実質何度も使えるのである。
「「「【
そして分身カナデが魔導書に保管してあった、三分間対象の分身を三つ作り出す魔法を使い、メイプルを合計十体に増やす。これだけでも凶悪だが、カナデは更に追い討ちをかける。
「【ミラージュロイド】!!」
「「「【
「【ミラージュロイド】!!」
「「「【
「【ミラージュロイド】!!」
「「「【
【ミラージュロイド】と【
そして、数えるのが面倒となる程に増えたメイプルはそのまま大規模ギルドを壊滅させる為に進軍していく。
カナデはその後も同じ方法で大規模殲滅が可能な者を増やすのであった。
―――――――――――――――
一方その頃【炎帝ノ国】では。
「流石ミィ達ですね。あの状況からここまでオーブを集めて挽回するなんて」
「その分、襲いかかるギルドも増えちゃったけどね……味方も半分以上やられちゃったし……」
「問題ない。俺が奴らを倒せば済む話だ」
ミザリーとマルクス、カミュラは襲ってくる敵を前にそんなことを呟く。勿論、戦いの手を緩めずに。
【楓の木】によって甚大な被害を被った【炎帝ノ国】だが、ミィとテンジア、シンが休む間も惜しんでオーブ奪取に動いたお陰で、何とか順位を立て直していた。
だが、メイプルによってマルクスの罠は大量に吹き飛んでしまっていたので防衛はガタガタ。カミュラもコピーした【
「爆ぜよ!【炎帝】!!」
ミィが【炎帝】で群がってきたプレイヤー達を吹き飛ばす。
「ふっ!!」
テンジアが駆け抜けながら次々と襲いかかるプレイヤーを切り捨てていく。
「はぁあっ!!」
シンが【崩剣】を縦横無尽に操り、多くのプレイヤーを切り刻んでいく。
そんな中、ミィの下に二つのメッセージが届く。
『おそらくメイプルと思われる化け物が大量に接近中、危険』
『空飛ぶ魚が大量に上空に出現、危険』
「嘘……もういいでしょ……ないないない……」
「どうした?ミィ」
顔色が悪くなり、素が出ているミィにテンジアが問いかける。
「実は―――」
ミィが先程届いたメッセージの内容を伝えようとした直後、
「うわぁあああああっ!?」
「ぎゃあああっ!?」
そんな叫び声と共に消える【炎帝ノ国】を攻めに来た者達。
そんな彼等がいた場所には……十体の化け物が佇んでいた。
「「「「「…………」」」」」
目の前の化け物の集団にテンジア達が言葉を失っていると、化け物達は構わずに【炎帝ノ国】を攻めに来た者達を蹂躙し始めていく。
「……何なの、あれ……?」
「……偵察隊の報告によると、あれはメイプルだそうだ」
「……まじで?」
ミィの言葉にマルクスが死んだ魚のような目となる。
そんな中、右の方角ではとてつもなく大きな津波が、左の方角では大量の蒼い雷と幾つもの蒼い奇妙な紋様から何かが次々と地上に向かって放たれていく。
「「「「「…………」」」」」
「……私達を助けに来た……のでしょうか?」
「……いや、そんな甘い連中なわけがない。何かしらの思惑がある筈だ」
ミザリーの呟きをカミュラが否定する。
確かに【楓の木】は自分達に群がって来たギルドを攻撃しているが、善意で動いているとはミザリーも含めて誰も思っていなかった。
「……おそらく、私達に群がるギルドを潰しに来たのだろう。ここで私達を潰すより、私達に群がるギルドを一網打尽で多く潰した方が益となるからな」
「……成程な。俺達を潰すよりそっちの方が自分達の順位を維持しやすいからな」
テンジアの推察にシンが納得して頷く。
【楓の木】は小規模の上に少人数。最後まで戦い抜けるかは怪しいところであり、戦闘を激化させてギルドを一つでも多く壊滅させることで一気に勝負を決めようというのだろう。
「……じゃあ、向こうは僕達を攻撃してこないのかな……?」
「あくまで可能な限りだろう。此方が攻撃したら、連中は火の粉を払わざぬを得ないからな」
「なら、この状況を利用して一気に反撃に出る。全員に【楓の木】の者達には手を加えず、安全圏から襲いかかる連中を倒すように伝えろ。特にメイプルと空飛ぶ魚、CFがいる戦場には近づかないように徹底しろ」
事実上の共闘宣言をしたミィにテンジア達は頷き、【炎帝ノ国】のメンバーすべてにミィの宣言を伝え、戦場へと向かうのであった。
―――――――――――――――
「……どうなってんだ、ありゃ?」
「見る度にどんどんおかしくなってるぞ」
「天使、機械、花嫁に続いて、今度は化け物の大群か……」
大量の化け物が戦場を蹂躙している光景にドレッド、ドラグ、レイドは遠い目となって呟く。
【集う聖剣】もこの騒ぎを聞きつけ大打撃を与えられそうならと赴いたのだが、目の前で繰り広げられている地獄絵図に全員が止まってしまっていた。
「……だから言ったじゃない。存在自体が反則だって」
「イエス。メイプルだけではなく、あちらもですが」
フレデリカの疲れたような呟きに、サクヤがひっきりなしに起こる津波と蒼き雷雨も視界に収めながら同意する。
そして、分身達が時間切れで消えるも、少ししたらまた増えて再び地獄に変えていく。
上空からの槍の雨はなくなったが、雷の方はあまり変わらずに猛威を振るっている。
そして、【暴虐】メイプルは流石に防御貫通スキルを何度も喰らったことで【暴虐】状態が解除される。
「【暴虐】が解けちゃった。もう一度……」
「メイプル。例の冠が妖しく光ってるよ?」
一緒に行動していたカナデの指摘通り、《女神の冠》は妖しい光を放っている。
「あ、ホントだ。もしかしたら……」
「うん。【影ノ女神】が発動するか確認しないとね」
そう話している間に、例の冠から黒い光が放たれメイプルを一気に包み込んでいく。どうやら【暴虐】状態でもHPが一割を切ったら条件は満たされるようだ。
それを確認したカナデは魔導書を展開。例のコンボで今度は死神メイプルを増産していく。
増産された【影ノ女神】メイプル達は一気に四方八方へと飛び出し、手当たり次第にプレイヤー達を即死させていく。
「またあれが出やがったぞ!?」
「うん、逃げよう。あれには勝てない!」
「イエス。あれは逃げの一手しかありません!」
「マジで逃げないと俺らまで巻き添えを食らうからな!」
「同感だ。目を付けられる前に離脱するぞ!」
当然、あれに痛い目を見た【集う聖剣】は満場一致で逃亡を選択。脇目も振らずにその場から一目散に離脱する。
「……鍛え直すか。俺も、新しいスキルを探してみるかな」
そんな中、ペインは逃げながらも打倒メイプルに闘志を燃やすのであった。
そしてその後、事実上の共闘関係となった三つのギルドによって、生き残っていたギルドは一気に壊滅の一途を辿るのであった。
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ゲーム外の運営陣はその結果を遠い目で見つめていた。
「これは……もう終わっただろ」
「だな……」
残ったギルドは五つ。それらは全て上位十位以内。報酬も同じものが与えられる。
三日目の夕方で今回のイベントは実質の終了を迎えてしまっていた。
「四日に削って正解だったな。五日だと丸二日半余っていたからな」
「次のイベントの日数も考えないとな」
「イベントの種類にもよるけど……似たイベントは考えないとマズイからな」
「いっその事、上位には更なる報酬の追加でいいんじゃないのか?」
「それをやったらゲームバランスが……」
「いやいや。そんな効果があるものじゃなく、唯の飾りみたいなものを追加するんだ。例えばトロフィーとか」
「成程。それはいい考えかもな」
「唯の記念品ならステータス上の有利はないし、やる気もある程度読み易くなるからな」
「まっ、今はイベントの見所を編集して動画にすることが優先だけどな。もうこれ以上は何も起こらないだろうしな」
そう言って膨大な量の録画データから見所だと感じたシーンを選び出していく。
「メイプルとCFが大分映っているんだが……」
「無茶言うなよ。これでも結構削ったんだぞ?」
「というか、見所シーンのほとんどに【楓の木】が関わっているよな……」
「この初日の救援シーンは確定だな」
「そうだな。これは確定だな」
「おもしろシーン含めてで【炎帝ノ国】の大敗北も加えよう」
「【集う聖剣】と【楓の木】の大勝負は……逆転シーンでいいだろ」
「しっかし、メイプルがまた強化されちゃったな……」
男は深い溜め息を吐いて机に突っ伏す。
「今更だろ。【影ノ女神】のAGI0領域は半径四メートル以内だし、固定だから自身のAGIも上昇できないし逃げに徹すればいいだけだからな」
「それに、ヤバいと言ったらカナデもだろ。今後は強力な魔導書を一度に大量生産できるようになったんだからな」
「イズもヤバいよな。ミキの釣り上げたアイテムを参考に、更に強力なアイテムを作っちまったし」
「サリーの方もヤバいよな。【流水短剣術】を見事に使いこなしてるし」
こうして改めて口にすると、【楓の木】のメンバーのヤバさが改めて実感される。
「メイプル達の行動が読めるようになればなあ……」
「無理言うなよ。そんなの、俺達全員が宝くじで一等当てる並みかそれ以上に難しいだろ」
「……だよなぁ」
全員が揃って疲れたように溜め息を吐く。
そうして運営の予想通り、それ以降は戦闘が一切起こらずに平和な時間が過ぎていくのであった。
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