【天の雫】の入手から時間が経ち、残り三つのキーアイテムもプレイヤー達の探索により入手場所が明らかとなった。
情報も出回り、調べれば四つのキーアイテムや敵のことを知ることは容易である。
ソロ攻略も不可能ではないが難易度が高いため、現状はソロで攻略できるプレイヤーは少数だ。
そして、例の証についてはあまり情報が出回っていないのも現状であった。
「んー……今はいいかな。此方の証のこともあるし、通行証のレベルも上げないといけないしね」
サリーは集めた情報から一人では苦労すると判断し、周りにも頼れる仲間もいることからキーアイテムの入手は後回しにすることを決める。
ちなみに【天の雫】はソロで既に入手済みだ。
……その難易度は格段に跳ね上がっていたが。
「踏み込んで早々に流星群は予想外よ……」
サリーは疲れたように一人呟く。
サリーがコーヒー達の情報を元に件のフィールドに訪れた際、一歩踏み出した時点で星が一気に降り注いできたのだ。
当然サリーは情報と違う展開にびっくり仰天。咄嗟に【八式・静水】を使わなければ死に戻りしていた程だ。
その後は流星群となったフィールドを駆け抜け、何とか【天の雫】を手に入れたのだが、同時にもう一つアイテムを手に入れたのだ。
「【水の宝玉】か……多分、【水神の証】を持っていたことが原因でしょうね」
サリーは自身のインベントリにあるアイテム名を呟きながら、今まで集めた【水神の証】を見やる。
今までの情報を合わせれば、コーヒーがいると【龍の逆鱗】入手の難易度が格段と上がりそうである。
そんな事を考えつつ、そろそろギルドから出ようとした所でちょうどギルドの扉が開く。
そこにいたのはサリーにとっては最近よく見る人物。
「やっほー、サリーちゃん。ちょうど出かける所だったー?」
フレデリカである。
フレデリカはちょくちょくやって来てはサリーに決闘を挑み、負けて帰るのがワンセットである。
ちなみに決闘はサリーの全勝だが、フレデリカも次第に攻撃を当てることが……まだできていない。
「まあね、通行証のレベル上げの為に雑魚狩りにね」
「そっかー……待っててもあれだし私も手伝うねー。ささっと終わらせて、一勝負!!」
「いいよ、ならささっと狩りに行こう」
フレデリカの提案を断る理由もなかったので、サリーはあっさりと承諾した。
「ふっふふー、今日こそは当てるよー。色々戦術を考えて来ているからねー」
「それいつも言ってない?」
「新戦術がいつも一回で破られるからでしょー。魔法を弾いたり、返したり、すり抜けたりするのは反則だよー」
何度も決闘しているから、フレデリカはサリーが一撃で沈む耐久値であること、厄介なスキルには制限時間があることは流石に知っている。知らなければ本当に間抜けではあるが。
サリーは今回どうやって勝とうかと思考を巡らせながらフレデリカと共にフィールドへと赴く。
「【六式・圧水】!」
サリーは両手のダガーに1.2メートル程の水の刃を纏わせ、モンスターを切り裂いていく。
【六式・圧水】。五分間の間、防御貫通能力と水属性のある水の刃を短剣に纏わせるスキルだ。
使用中は【ダブルスラッシュ】等の攻撃系統スキルが使えず、リキャストも一時間と長いが使い勝手が良いスキルである。
実際、例のクエストも【六式・圧水】で最初にある程度ゲージを溜めてから水魔法を放っているのだから。
【流水短剣術】はその殆どがプレイヤースキルが反映されやすいスキルであり、それが高いサリーとの相性は抜群であった。
「こっちも良いけど……やっぱり魔法もいいなぁ」
そう呟くサリーの視線の先には、得意の魔法で弾幕を張ってモンスターにダメージを与えているフレデリカだ。
コーヒーの魔法を見て思うことでもあるが、あまり魔法に手を伸ばしていないのが勿体無いようにも思える。
今のサリーは基本、壁を作って攻撃をずらすことにしか魔法を使っていない。
MPもそこそこにAGIとSTRメインへ舵を切っているから当然ではあるが。
「CFの場合は本来は後衛だからね……近接まで出来るようになったのは呆れたけど」
その近接もあくまで迎撃程度だからまともに打ち合えば勝つのはサリーだ。だが、コーヒーの近接には強力なノックバック効果がある。
強制的に距離を取らせ、本来の距離に持ち込めるのは地味に厄介である。
そんな事を考えながら戦い続け、サリーのレベルは35となる。
「ん……なるほどねー。あの時のカラクリはこれだったのね」
「ん?どうしたのー?新しいスキルでも手に入ったのー?」
「まあ、ね?用事も終わったし一戦やる?」
サリーが話題が変えるとフレデリカはすぐに乗ってくる。
そのまま二人は決闘専用のフィールドへと転移する。
そして……
「また負けたー!!あれは絶対当たったのになんでー!?まさか、新しいスキルの効果なのー!?」
フレデリカはまたしてもサリーに負けていた。
今回は偶然フレデリカの張った障壁がサリーの爪先に当たり、サリーはバランスを崩してしまった。
そのチャンスを逃すまいとフレデリカは【多重炎弾】を放ち、本物のサリーに命中した。
フレデリカはようやく勝てたと思ってはしゃいでいたらノーダメージのサリーに攻撃され、見事連敗記録を更新してしまったのだ。
「さあ、どうでしょうねー?」
対するサリーは答えずにはぐらかす。
今回手に入れたスキルは【空蝉】。一日に一度致死ダメージを無効にし、一分間自身のAGIを50%上昇させるスキルである。
取得条件はレベル35までノーダメージであること。第四回イベントでテンジアが【電磁砲】を受けて無傷だった理由がこのスキルがあったからだとサリーは気づいたのだ。
このスキルを手に入れたことで今回集中力が低下していたので、サリーは内心で反省しているが。
「やっぱり教えないよねー……サリーちゃん、この後時間あるー?」
フレデリカの質問にサリーは首を傾げていると、フレデリカは得意げな表情で明かしていく。
「実はねー、第四層に移転した【カフェピグマリオン】のテーブル席を予約しているのだよー!サクヤちゃんとレイドを誘ったけど、テーブル席だから後一人余裕があるんだよねー?どう?」
「え?ホントに?何か見返りを求めたりしません?」
「強いて上げるなら情報かなー?例の立て札の内容の心当たりがないかだけどー」
フレデリカのその言葉にサリーは思案顔となるも、競争相手が強くなるのもそれはそれで遣り甲斐がありそうだと思い、あっさりと了承することにした。
「いいわよ。当然奢ってくれるわよね?」
「予約したのは私だしー、懐はまだまだ暖かいから大丈夫だよー!」
そのままサリーとフレデリカは一緒に町へと戻り、フレデリカの案内でサリーは【カフェピグマリオン】へと足を運んでいく。
「店は通行証がなくても大丈夫なエリアにあったんですよね?」
「そうだよー。誰もが簡単に足を運べるし、お菓子も美味しいからプレイヤー達に人気なんだよねー」
そんな会話を続けながら歩いていると、目的の店まで目と鼻の先の距離となる。
店の前には既に先客が来ていた。
「サクヤちゃーん、レイドー、待ったー?」
「いや、そんなに待ってはいない」
「イエス。私とレイドさんが来たのはつい先程です」
フレデリカの言葉にレイドとサクヤは大丈夫だと告げる。
「しかし、サリーを誘ったとはな。今回の決闘はどうだった?」
「今回も負けデリカだったのではないでしょうか?勝っていたら、分かりやすい程上機嫌の筈ですから」
「ううー……絶対にサクヤちゃんに勝ちデリカと言わせてやるぅ……」
サクヤの辛辣な言葉にフレデリカは唸る。まあ、事実だからしょうがない。
そうして四人で店に入ると、カウンターのケース内には抹茶のロールケーキ、羊羮、カステラ、杏仁豆腐、きんつば、饅頭、三色団子、たい焼き、どら焼、モナカ、落雁等の和をメインとしたお菓子が並べられていた。
「よく来たな。いや、そちらの客が予約していたから当然か」
そんなカウンターの向かいには如何にも無愛想な茶髪の男性が和菓子職人の格好で佇んでいる。
「俺の名はアロック。【カフェピグマリオン】の店主だ。予約席は奥の個室だ。ゆっくりしていくがいい」
アロックはそう言って奥の襖で仕切られた個室に手を向ける。指差しでない辺り、最低限の客への礼儀はあるようである。
「……無愛想な店主ね」
「そうだねー。だけど、それがクールに見えて意外と人気があるそうだよー?今日のおすすめは?」
「本日のおすすめは芋羊羮とカステラだ」
「じゃあ、芋羊羮とカステラをお願いしまーす!みんなはどれにするー?」
フレデリカの言葉にサリー達はケースとにらめっこしてお菓子を選んでいく。
サリーは抹茶のロールケーキときんつば、サクヤは羊羮と三色団子、レイドはどら焼と饅頭を選び、奥の部屋でお菓子を堪能していく。
「うーん、やっぱり美味しいー!」
「イエス。ここのお菓子は本当に美味しいですね」
「ああ。NPCの店より人気なのも納得だな。惜しむらくは週に一回か二回しか開いていないことくらいか」
「そうね。もう少し開店していてほしいと思ってしまうわ」
絶品と呼べるお菓子を食べつつ、サリーは自身が今進行しているクエストの話をしていく。
「へー、そんなクエストがあったんだー」
「何とも変わったクエストですが……立て札の内容からして最後は戦闘になるでしょうね」
「そういえばドレッドが風魔法に精を出していたな。プレイスタイルから疑問に感じていたが……」
「もしかしたらそれ関連かもねー」
どうやらドレッドもサリーやコーヒーに似たクエストをこなしている最中のようだ。
「ところで、CFさんとはどうなっていますか?」
「ブフゥッ!?」
脈絡のないサクヤの質問に、緑茶を飲んでいたサリーは思わず吹いてしまう。
「?そんなに驚くことでしょうか?お姫様抱っこをされていましたからそれなりに親しいのでは?」
「そ、そ、そ、そんな訳ないでしょう!?アイツとはただのフレンド!!同じギルドのメンバーよ!!」
サクヤの言葉をサリーは慌てたように全力で否定する。そんなサリーをフレデリカはニヤニヤとした笑顔で見つめている。
「にゅふふ~、サリーちゃん、顔が真っ赤だよー?そんなに否定すると逆に何かあると思われるよー?」
「まあまあ、あんまり詮索するとサリーが可哀想だぞ。だが、見た目では二人は年が近そうだし意外と気が合ってるのではないか?」
レイドはサクヤとフレデリカを宥めつつも、しっかりと関係性について質問してくる。
「いやいやいや!!確かにCFとはリアルでも知り合いですけど、そんな邪推しているような関係ではありませんよ!!」
「へー、リアルでも知り合いなんだー」
「これは美味しい情報ですね。恋愛の有りがちな展開で草ではありますが」
「!!うぅー……」
墓穴を掘ってしまったことに気づいたサリーはフレデリカとサクヤのニヤニヤとした視線を受けながら縮こまっていく。
「まあ、話を振った私が言うのもなんだが、実際CFの事はどう思っているんだ?」
「……一応、ギルドではメイプルの次に頼れるプレイヤーですね。後、勝ってみたい相手でもあります」
「そして、勝った暁に告白するのですね。ナイスなシチュエーションと言えます」
「違うわよ!?」
サクヤの言葉に机を両手で叩きながらツッコミを入れるサリー。しばらくはこのネタでからかわれそうである。
ちなみに今いる部屋は防音がしっかりしてあるので周りに迷惑をかける心配はない。防音でなければ、サリーはもっと恥ずかしい思いをしていたのであろうが。
「ちなみにこの階層のオススメスポットは人魂と共に月夜の満月が拝める場所ですね。誰かと一緒に行ってみてはいかがですか?」
「行かないわよ!?」
「でしたら私の新スキル【怨霊の焔】で慣れましょう。ドクロに見える焔に見慣れれば、実害のない人魂くらいはスルーできるようになる筈です」
「嫌に決まっているでしょ!?」
サクヤの提案をサリーは全力で却下する。
先日、サクヤが試しにサリーに自動追尾する攻撃スキルである【怨霊の焔】を飛ばした際、サリーは全力で逃げ去ったのだから当然である。
「あー……なるほどねー……私も幽霊系のスキルを手に入れようかなー?でも、それで勝っても何か複雑だし……」
サリーの反応から、フレデリカもサリーの弱点を理解したようである。しかし、プライドが邪魔してか悩んでいるようである。
「そ、それより!前から思っていましたけど、レイドさんの武器は結構変わってますよね!?」
サリーの強引な話の方向転換にレイドは苦笑しつつも、特に隠すことでもないので素直に応じていく。
「ああ。一応は長剣、刀のカテゴリーに当たる武器だな」
「このゲームの武器は他にもありますからね。円月輪や鞭、薙刀や曲刀と多種多様に渡ります」
「だからこそ、このゲームは人気だけどね」
その後は何気ない会話に花を咲かせ、サリーはお土産で幾つか購入してフレデリカ達と分かれるのであった。
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