サリーが【カフェピグマリオン】のお土産を買ってから数日。
コーヒー達はギルドメンバー全員で山頂へと向かっていた。
「11人だから、今回も二組に分けないと無理だな」
「そうね。さっきの赤鬼と同じくメイプルとマイとユイ、シアンを固定にして私とクロムさんとイズさん、コーヒーはカナデとミキとカスミの組分けでメイプルのパーティーに混じるのが妥当ね」
コーヒーの言葉にサリーは頷く。
全員でモンスタードロップのキーアイテムを手に入れようという話となった時、サリーは例の流星群の話をし、難易度が跳ね上がりそうな【龍の逆鱗】は後回しにして先に【赤鬼の角】を手に入れようと提案したのである。
もちろん、サリーの提案に全員が頷き鬼退治を先に行ったのだが、戦車パーティーの前に瞬殺され、予定より大幅に時間が短縮されたのである。
その余った時間で龍退治に行こうとクロムが提案し、全員が満場一致で賛成したのでこうして向かっているのである。
「情報では……空中から電気の玉を吐き出す。高度を下げたタイミングで魔法や弓で攻撃。魔法攻撃は軽減されるため弓推奨。一定値までHPを減らせば地面すれすれまで降りてきての突進や爪攻撃、ブレス……貫通攻撃は爪だけ。しばらくすると空に戻っていく……ですね」
「それだけならほぼ勝ちだが……コーヒーがいると難易度が跳ね上がる可能性が高いんだろ?」
「【水神の証】を持っていたサリーが一歩踏み込んだ瞬間に星が降り注いできたそうだからな。CFがいたらその龍も強化されると考えるのが自然だな」
「ええ。例の立て札の順番からして……赤鬼が炎神、龍が雷神、雲が水神、峡谷が風神と関わりがあるでしょうね」
カスミの呟きにサリーが憶測を交えながら頷く。
キーアイテムの一つ【草薙の酒】は【天の雫】と同じ展開で手に入れるアイテムで、違いは絶景だが足場の悪い峡谷と、一番足場が悪い一本道の通路で鎌鼬が襲いかかってくるくらいだ。
鎌鼬を避けて辿り着いた洞窟の奥には湧水ならぬ湧酒があり、それを手で掬うことで【草薙の酒】が手に入るのだ。
そちらのアイテムもメイプルとパーティーを組んだことで既に入手済みである。
そうこう話し合いながら、メイプルの防御を受けながら襲いかかってくるモンスターを蹴散らして進み、一行は目的の魔法陣へと到着する。
「それじゃあ、先に行ってくるね」
戦車パーティーに加わったサリー達が魔法陣に乗り、光に包まれて戦闘フィールドへと転移される。
残されたコーヒー達は少しの間待つこととなった。
「どれくらい強化されるのかな?」
「サリーの話を聞いた限りだと、相当理不尽になりそうだね」
「一応【竜殺し】のスキルを持っているが……初見ではどうなるか分からないな」
「いざとなったらー、ジベェに乗って近づけばいいよー。メイプルが入ればー、簡単に近づけそうだしねー」
そうして話すこと数分。メイプル達は山頂へと戻ってきた。
「おかえり。どうだった?」
「情報通りだったからすんなりいけたな」
「そうね。空を飛んだメイプルちゃんと同行したシアンちゃんが一定値までHPを削って、地上に降りて来たところをマイちゃんとユイちゃんが攻撃したらあっさりと倒されたわ」
そうしてパーティーを編成し直し、戦車パーティーに今度はコーヒー達が加わる。
そして、戦車パーティーにとっては二度目となる龍退治へと赴く。
転移先のフィールドは荒野。
空は……暗雲が立ち込めている。
「あれ?あんなに雲が空一面を覆っていたかな?」
「いえ。暗い空でしたがあんなに雲はなかった筈です」
「うん。それに雰囲気もさっきとは違うし……」
どうやらさっきとは違う光景らしく、メイプル達が首を傾げていると、暗雲から雷がゴロゴロと音を鳴らして立ち込めていく。
そして、その暗雲からゆっくりと、九頭の金色の雷の龍が顔を覗かせた。
「……サリーの予想通り、難易度が跳ね上がったな」
「うん。真っ白な龍が金色の雷龍に変わったよ」
「首が九つー……九頭龍かなー?」
「これは……骨が折れそうだな」
そう呟いている間にも、九頭の龍は金色に輝く玉とブレスをコーヒー達に向かって放っていく。
五つの首から放たれたブレスはメイプルに当たるもノーダメージだ。
「ふっふっふ、効かないよ!!」
自慢気に胸を張るメイプルであったが、雷の玉が直撃した瞬間にその余裕は崩れ落ちる。
「ぎゃー!?雷の玉が貫通攻撃に変わってるー!?」
「癒せ、【ヒール】!」
雷の玉にぶつかった瞬間に赤いエフェクトが弾け、ダメージが入ったことにメイプルは焦りの声を上げる。
シアンがすぐに回復魔法を飛ばして事なきを得たが、コーヒー達は厳しい表情となっている。
「完全にパターンが変わってるね。この分だと他にも貫通攻撃がありそうだね」
「これじゃー、ジベェに乗って近づくのは危険だねー。どうするー?」
ミキが方針を聞く間にも今度は落雷が襲いかかってくる。ダメージは入らないが……ノックバックによりメイプルが吹き飛ばされる。
「うわわわ!?」
メイプルが吹き飛ばされたことで、コーヒー達は急いでメイプルの下へと駆け寄る。
その間も九頭の龍はブレスと雷の玉を放ち続けていく。
「迸れ、
コーヒーは【避雷針】で九頭龍の一番強力そうな雷の玉を誘導させ、残りを【雷旋華】を使って防いでいく。だが、落雷もブレスも威力が高いのですぐに破られてしまうだろう。
「【イージス】!!」
「癒せ、【ヒール】!」
その前にメイプルが装備を変更して完全防御スキルを発動し、シアンが直ぐ様回復させる。
「取り敢えずどうしようか?」
「まずはCFがあの龍のHPを削ってからだね」
「こちらから近づくのは流石に危険だからな。高度を下げたタイミングでメイプルとCF、シアンとカナデが攻撃を仕掛けるのが妥当だな」
ひとまず方針が決まり、遠距離からちまちまとHPを削っていく。
10分かけて龍のHPを削り、一定値まで減った九頭龍の内八頭は霧散するように消え、残った一体が暗雲から出て地上に向かって降りて来たのだが……
「……地上に降りて来なかったな」
「はい。地上にすれすれまで降りて来ませんでしたね」
爪に白く輝く玉をもった龍は暗雲と地上との中間の地点までにしか降りてこなかった。
「【飛撃】はギリギリ届きそうですけど……簡単に避けられそうです」
「……完全に私はお荷物だな」
「完全に近接プレイヤーじゃ勝てない仕様だよ。何か……ん?」
「カナデ?何か気づいたのか?」
「うん。よく目を凝らしたら、透明な足場が幾つも宙に浮いているんだよ。あれで近づくこと自体は出来るだろうね」
カナデの指摘に全員が目を凝らしてよく見ると、確かに一人佇める程度の広さの透明な足場があちこちに散らばって浮いている。
「本当だ。攻撃が派手で強力だから気付けなかったよ」
メイプルがそう呟く間にも、龍は爪に握った玉から光線を放ち、口からは先程よりさらに強力なブレスを吐き出し、暗雲からも雷を落としていく。
「うわわ!?あの光線も貫通攻撃なの!?」
「【避雷針】!!」
「癒せ、【ヒール】!」
またしてもダメージを負ったメイプルをシアンが直ぐに回復し、コーヒーが【避雷針】で攻撃を誘導して追撃を防いでいく。
「うーん……近づくのも一苦労だねー」
「あれを避けながら近づくのは……困難だよな」
「飛んで行こうにも……あれじゃ叩き落とされそうだし……」
何とか打開策を思いつこうと一同が話し合う中、カナデが思いついたように口を開く。
「そういえばミキ。この前釣り上げたアイテム【人間大砲】は必ずプレイヤーでなくてもいいんだよね?」
「そうだよー。ある程度の大きさの爆弾でも飛ばせるよー」
「いい案が思いついたのですか?」
シアンの質問にカナデはコクりと頷く。
「うん。上手くいけばCFとカスミを送り届けられるよ」
そのままカナデの作戦を聞いたコーヒー達は満場一致で賛成。ミキは発射アイテム【人間大砲】を取り出す。
「【鏡の通路】」
カナデは以前魔導書として保管していた【鏡の通路】―――通り道の出口の鏡を出現させ、【人間大砲】の中へセットする。
「それじゃー、発射ー」
ミキがそう言って砲身を叩くと、出口用の鏡が空に向かって打ち出される。
打ち出された鏡はそのまま龍の頭上にまで打ち上げられた。
「【鏡の通路】!」
カナデがそのタイミングで入口用の鏡をその場に出現させる。
「さあ、今だよ!!」
「ああ!」
「もちろんだ!」
カナデの掛け声に、【聖刻の継承者】を発動させたコーヒーと、新装備《身喰らいの妖刀・
ミキのアイテムとカナデの魔法により、コーヒーとカスミは龍の頭上へと一気に到達した。
「照すは希望 煌めくは受け継ぎし刻印 天に昇りて絶望を祓う光の柱と化せ―――【聖槍ファギネウス】!!」
コーヒーは既に展開していた【クラスタービット】に乗って【聖槍ファギネウス】を発動。白い槍の弾幕と、追加で襲いかかる星々が龍のHPを削っていく。
「【終ワリノ太刀・朧月】!【紫幻刀】!」
カスミも龍の頭に降り立つと高威力の連撃スキルを二つ同時に使い、尻尾の方向へ走りながら攻撃を刻んでいく。
コーヒーは通常攻撃で矢を撃ち込みながら尻尾へと向かい、尻尾から転ぶように飛び込んできたカスミを受け止める。
カスミは【紫幻刀】の代償で某名探偵のように体が縮んでしまっているので受け止めること自体は容易だった。
スキルの代償は事前に見ていたので驚くことはないが……変身したカスミの姿にコーヒーとクロムは目を逸らしたのは言うまでもない。
そして、約二名から地味に痛い視線を受けたのも言うまでもない。
「あれだけ叩きこんでまだ四割も残っているのかよ……」
「あれだけ攻撃を叩き込んだのだが……やはり相当強化されているようだな」
コーヒーとカスミがそう呟いていると、龍は自身の身体から雷の龍を生み出しまたしても九頭となる。
そしてそのまま、地上に向かって降下していく。
「あ、これは勝ったな」
「ああ、勝てたな」
凶悪な姿に変化した龍が地上に向かって降りているにも関わらず、コーヒーとカスミは勝利を確信した。
何故なら、地上には凶悪な戦車パーティーが待機しているからだ。
九頭龍となった龍は、その九頭の顎を開いてメイプル達に迫るも―――
「「彼方の敵を攻撃せん―――【飛撃】!!」」
「照射せよ、【レイ】!【連続起動】!!」
【ドーピングシード】に支援魔法、ついでにパーティーメンバーのSTR上昇スキル【鼓舞】によって強化されたマイとユイ、シアンの攻撃により、九頭龍となった龍は残りのHPを全損させるのであった。
「……やっぱりあのパーティーは凶悪だな」
「そうだな……」
絶対に敵に回したくないパーティーだとコーヒーとカスミは沁々と思っていると、龍が爪で掴んでいた玉がゆっくりと浮かび上がり、そのままコーヒーの下へと向かいその手へと収まる。
「【雷の宝玉】……サリーの予想通りだな」
「ああ。やはり、例のアイテムがないとドロップはないみたいだな。私は【龍の逆鱗】しかドロップしていない」
【クラスタービット】の上で服装を整えながらカスミは自身の画面を確認して同意する。
カスミが落とした刀も回収し、魔法陣で元の山頂へと戻るとサリー達が出迎えてくれた。
「おかえり」
「戻ったか。結構時間が掛かったようだけど、やっぱり強化されていたのか?」
「ああ。見事なまでにな」
クロムの言葉に同意しながら、コーヒー達は今回の戦闘について語っていく。
「九頭龍かぁ……しかも貫通攻撃も増えてたのね……」
「普通なら理不尽なレベルよね。私の時もそうだったけど、あれは本当にキツかった」
「あれがフィールド全体に降り注ぐなら……確かに理不尽だな。障害物もあったし」
「普通に移動する分には問題ないけど……星が降り注ぐ状態じゃ本当にキツい」
その後は全員で座れる面積が大きいジベェの背に乗って山を降りるのであった。
ちなみに……
「うぇええ~~ん……集めた情報と全然違うわよぉ~~!」
紅蓮の炎を纏った二振りの金棒を振り回す赤鬼に返り討ちにあったとある女性プレイヤーは裏路地で一人泣き……
「おいおい……鎌鼬は奥の通路からのはずだろ!?」
フィールドに来て早々に鎌鼬に襲われた男性プレイヤーは驚きの声を上げていたそうだ。
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