九頭龍と化した龍との戦闘から四日後。
「くあー……流石に少し夜更かしだったか……」
大きな欠伸をかきながら浩は通学路を歩いていた。
昨日は通行証のランクが最大になる直前だった為、一気に通行証を最大ランクの【拾】に上げたのだ。だが、ログアウトした時点では既に日を跨いでおり慌てて眠りについたのだが、少々寝不足となってしまったのである。
そんな感じで学校に着くと、お馴染みの二人は既に教室にいた。
「おはよー、本条さんに白峰さん」
「おはよう、新垣くん!」
「おはよう新垣。今日は随分と眠たそうね」
「例のランクがマックス間近だったから一気に最大まで上げた結果です」
別段隠すことでもなかったので、浩は寝不足の理由を明かす。途端、白峰はからかうような眼差しを向ける。
「おやおやー?真面目に授業受けてる新垣さんは、今日は夢の世界行きですかなー?」
「その夢の世界にしょっちゅう行っているお前が言うことか?まあ、流石にこのままだと本当に授業中に寝そうだから、授業が始まるまでは机に突っ伏しておくことにするよ」
浩はそう言って会話を切り上げ、自身の机に突っ伏して仮眠を取り始めた。
今日の浩の休み時間のほとんどが仮眠となったのは言うまでもない。
―――――――――――――――
―――放課後。
「……なあ、みんな。最近、新垣が本条さんや白峰さんと仲が良い気がするんだが」
「それは俺も思った。今日の休み時間なんか、二人が新垣をよく見てたし……」
「確かに普段は休み時間中は読書か次の授業の準備をしているアイツが寝ていたのは珍しかったけど……」
「それに、たまに三人で会話しているところも見たし……」
「その事で山田大佐。少し心当たりがあります。発言よろしいでしょうか?」
「許可する。佐藤少尉」
「たまたま聞こえた会話に“ゲーム”という単語があり、ゲーム関連で仲良くなったのではないかと推察されます」
「ゲームか……どんなゲームか見当はつかないか?」
「それでしたら自分が。発言の許可を」
「田中大尉。許可する」
「New Wolrd Online。通称『NWO』の可能性が高いと思われます。こちらのタブレットの映像をどうぞ」
「……このメイプルってプレイヤー、顔が本条さんに似ているな」
「サリーは白峰さん似だね。新垣は……どれだ?」
「このコーヒーというプレイヤーじゃないか?髪の色は違うけど、顔全体は新垣に似ているし」
「じゃあ、新垣はゲームを通して二人と親しくなったのか?」
「その可能性は濃厚です。後、こちらの映像を」
「「「「…………」」」」
「……俺、ゲームのソフトを急いで買うわ」
「奇遇だね。僕もだよ」
「その前にハードも用意しないとな」
「ああ……そして……」
「「「「「白峰さんをお姫様抱っこした新垣をこの手でボコボコにしてやる!!」」」」」
非リア充の叫び声が上がるのであった。
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「さて……【雷神の証・拾】を手に入れにいくか」
今日もログインしたコーヒーは玖と拾の鳥居の間にある町中を探索していく。
【雷神の証】の捌と玖は入手しており、捌は白兎、玖は鰐だった。
建物に入っては中にいるNPCに話しかけて確認を何度も繰り返し、コーヒーは装飾品を売っている店で虫籠にいる蝉を見つける。
「その子は売り物じゃないよ……この子は家の大事な看板蝉だよ」
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クエスト【蝉の戯れ】を受注しますか?
《Yes》/《No》
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いつものように現れたクエスト受注画面。
コーヒーは迷わずに受注し、店主の内容も他の者達と同じだったので聞き流し、蝉に例のゲージが表示された時点でコーヒーは速攻で【ヴォルテックチャージ】で強化した【スパークスフィア】を蝉に叩き込んでいく。
それを三十回程繰り返し、蝉のゲージを満タンにする。
蝉は元気よく鳴くと、体から光を放って光の玉をコーヒーに向けて飛ばす。
光の玉は【雷神の証・拾】と刻まれた例の札へと変わってコーヒーの手元に収まる。
「これで全部かな……!?」
コーヒーがそう呟いた直後、今まで集めた【雷神の証】が勝手に自身のインベントリから出てきて、【雷神の証・拾】へとどんどん吸い込まれていく。
【雷神の証・玖】が吸い込まれると、札の文字が光を放ちながら形を変えていく。
光が収まると、札に刻まれた文字は【雷神社の案内板】に変わっていた。
まったく違うアイテムに変わったことにコーヒーが首を傾げていると、店主がその札を見て話し始めていく。
「その札は……そうか、お主は雷神様の従者を皆助けてくれたのじゃな。なら、その札を持ってこの町から北の方角にある社を探すがよい。場所は、その札が導いてくれる筈じゃ」
どうやら次は外のフィールドに出る必要があるようだ。
コーヒーはなんとなく店主にお礼を告げてから店を後にし、町の外へと出る。
【雷神社の案内板】は光を放っており、その光は北の方角に向いている。
「確かに札が導いているな……」
コーヒーは【クラスタービット】を出現させ、メタルボードにしてからその上に乗る。
「CF」
「ん?ミィに……テンジア達か。【炎帝ノ国】の上位メンバー全員と一緒とは……例のキーアイテム集めか?」
後ろから声をかけられ、振り返ったコーヒーはミィ達を視界に収めながら問いかける。
「ええ。今日はこのメンバーで鬼退治ですね」
「俺達は既に手に入れてるんだが……ミィがまだ手に入れれてないんだよ」
「予定があわなかったのか?」
「違うよ……ミィも都合のついたメンバーと一緒に挑みに行ったんだけど……返り討ちにあったんだよ……」
返り討ち。
その単語にまさかと思ったコーヒーを他所にミィ達は話を続けていく。
「実は……そこにいた赤鬼が出回っている情報と違っていたんだ」
「その赤鬼は紅蓮に燃える金棒を二つ持ち、高威力、高ノックバック効果がある攻撃を放ったそうだ。それも一網打尽にするレベルで」
「故に、ミィは最高戦力でその赤鬼を倒しに行くと決めた。奴の攻撃は非リア充の俺が防ぐ。だから、お前を倒すのはまたの機会だ」
相変わらずのカミュラは無視し、コーヒーはミィにある事を聞くことにする。
「もしかして……ミィは数字が刻まれた【炎神の証】を持っているんじゃないのか?」
「!?何故それを……まさかCFも……」
「こっちは雷神。龍が九頭龍にパワーアップした」
コーヒーは自身の【雷神社の案内板】を見せながら、自身のクエスト状況、【雷の宝玉】と九頭龍との戦闘、ついでにサリーの水神クエストについて話していく。
「そうか……前回挑んだあれは私がいたから強化されたのか」
「もう確定だろ。例の証持ちが挑んだら、難易度が上がっていたんだからな」
「例のフィールドが踏み込んだ途端にあの通路と同じ状態……確かに難易度が上がっているな」
「そうなると……普通は敬遠しそうだな。その【宝玉】が証持ちしか手に入らないなら、同じ証持ちじゃないと損なだけだからな」
「言われてみれば確かに」
イベント上の都合か、それとも単なる運営の悪意なのか。
考えられる可能性は……前者だ。
理由は簡単。コーヒーとサリーの情報を元にカスミはそのクエストが受けられる場所へ赴き、受注可能であることを確認した。
次にコーヒーとサリーはそれぞれが進行しているクエストのスタート地点へ赴いたのだが……イベントフラグが立たなかったのだ。
この事から例のクエストは一種類しか受けられず、何れかのクエストを受けないと【宝玉】は手に入らないように設定されているのだと気づいた。
「まあ、どっちにしろ例のクエストを進める上で必須のアイテムであることには違いないけどな」
「ああ。最後の方が相当な修羅場となるだろうが……進めておいて損はない筈だからな」
「確かに」
コーヒーはキリのいいところで会話を切り上げ、【雷神社の案内板】が示す方角へと向かって飛び立っていく。
空を飛んで悠々と進んでいき、コーヒーは薄暗い森の中へと辿り着く。
「おおう……如何にもな場所だな……」
第二回イベントの幽霊の森のような雰囲気に少し怯みながら、コーヒーは案内板が示す方角を頼りに進んでいく。
モンスターと遭遇することもなく暫く歩き続けていると、少々風化してはいるが圧倒的な存在感を放つ小さな社の前へと辿り着いた。
「入り口は……閉まっているな。ここでの定番はキーアイテムを掲げることだな」
コーヒーはそう呟いて、【雷神社の案内板】を入り口である引き戸へと翳す。
途端、案内板と引き戸は輝き、引き戸はゆっくりと動いて開き始めていく。
入り口が完全に開き切ったところでコーヒーは中へと入る。
社の中は左右の壁には幾つもの仏像が鎮座されており、部屋の奥には僧服姿の金色の鬼が静かに正座していた。
「人間か……儂に何の用だ?儂は体調がよろしく……ん?それは……」
生気がない金色の鬼はコーヒーが持つ【雷神社の案内板】に気付くと、どこか得心がいったような表情をする。
「そうか……お主が我が従者達を助けてくれたのか……儂は雷神。数年前に病を患い力が弱まってしまった、この社の主だ」
僧服の鬼―――雷神は自身のことを話し始めていく。
「儂は代々の町の主に力を与え、守護の為に儂の加護を受けた従者達を町に住まわせていた。じゃが、数年前に病を患い、療養に専念したのだが……力の供給が途絶えたことで従者達には辛い思いをさせてしまった」
雷神は本当に申し訳なさそうに語っている。よほど悔いているのだろう。
「そして……病こそ治ったが力は弱まったまま……このままでは我が従者達は再び弱ってしまう。人間よ、儂の願いを聞いてくれんか?」
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クエスト【雷神の復活】を受注しますか?
《Yes》/《No》
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クエスト受注画面が出たのでコーヒーは迷わずに受注し、同時に雷神が再び話し始めていく。
「実は、膨大な雷の力があれば儂は力を取り戻せる。じゃが、その雷の力は膨大……お主が従者達に与えた雷の比にはならないくらい、膨大な雷を一度に注ぎ込まねばならぬのだ」
それを聞いたコーヒーは、最大強化した【グロリアスセイバー】なら足りるかな?と考えたが、まずは雷神の話を最後まで聞くことにする。
「無論、手がないわけではない。儂が永年の年月をかけて力を溜め込んだ玉……【雷の宝玉】を使えば儂は力を取り戻せる。しかし、その宝玉は儂と宝玉が認めし者以外には牙を向くのじゃ。具体的には試練の場に力を与えて……の」
どうやら例の難易度上昇は宝玉の試練という設定だったようだ。もしかしたら、例のクエストを受ければメイプル達はもう戦わずに【雷の宝玉】を手に入れられるかもしれない。
「本来なら儂が直接赴ければ良いのじゃが……此処を長時間離れられる程力が戻っておらんのじゃ。厳しい試練となるじゃろうが……【雷の宝玉】を持ってきてくれんかの?無論、相応の礼はしよう」
雷神の会話はそこで途切れる。
ここから【雷の宝玉】を手に入れに行くのだろうが、既に入手しているのでコーヒーは自身のインベントリを操作して【雷の宝玉】を取り出す。
「それは、確かに【雷の宝玉】……!宝玉の試練を無事に乗り越えられたのじゃな」
イベントが進行したのでコーヒーは【雷の宝玉】を雷神に手渡す。途端、宝玉が光輝いて弾け飛び、同時に雷神の顔に活気が満ちていく。
光が収まると、雷神は僧服の上からでも分かる程に筋骨隆々となり、威厳と活気に満ち溢れていた。
「感謝するぞ、人の子よ。これで儂も本来の役目を果たせられる。無論、此度の礼はしよう。少し待っておれ」
雷神はそう言って、机の上に紙を置き、筆ですらすらと何かを書いていく。やがて書き終えると折り畳んで封をしてコーヒーに手渡す。
「本来は町の主に力を授けるのじゃが……これを持って町の主に会うと良い。そこで町の主が力を継ぐに相応しいか試すじゃろう」
コーヒーは雷神が書いた手紙を受け取ると、【雷神の資格】という名のアイテムとして表示される。
例の立て札に書かれていた資格とはこれのことかと納得し、コーヒーは社を後にしていく。
「さて……このまま挑戦すべきか、それとも準備をすべきか……」
挑戦権を得られた以上、このまま挑んでも良いのだろうが、九頭龍のことを考えると返り討ちに合う可能性がある。
「まずは準備と情報収集だな。情報は……次代の主イベントを基準にすればいいか」
コーヒーはすぐに挑戦せず、まずは準備と情報収集に専念することを決める。
三日後……
「……絶対に鬼畜仕様だな」
「ええ。間違いなく鬼畜仕様でしょうね」
ギルドホームで机に突っ伏したカスミを尻目に、コーヒーとサリーは最後の試練の予想で深い溜め息を吐く。
拾の鳥居の先にある建物に住んでいる鬼はプレイヤーの選択した職によって戦闘スタイルが変わるようであり、サリーなら小太刀、コーヒーなら両剣ならぬ両刀のような弓となる。
挑戦したプレイヤーはカスミを含めて何度も返り討ちに合っており、どこかに弱体化のフラグがあるのではないかと言われる程だ。ちなみにソロ限定である。
「弱体化は……まずないだろうな」
「そうね。“最後の”試練である以上、弱体化はないでしょうね」
「しかも、その主は間違いなく強化されるだろうから……」
コーヒーは若干遠い目となって天井を見上げる。正直、勝てるかどうか怪しい。一応、次代の主イベントに関してはキーアイテムの消失はないようだが、こちらもそうだとは限らない為、慎重になっていた。
「うん……挑戦はレベルを上げるかスキルを増やして挑むしかないわね」
サリーも自身のインベントリから取り出した【水神の資格】を眺めながら呟く。サリーも無事にクエストをこなし、最後の試練への必要なアイテムを手に入れられたのである。
「フィールドは荒野のようだから【彗星の加護】は機能するだろうが……」
「私も【終式・睡蓮】が決まれば可能性はあるんだけど……」
「初見だと、相当厳しいよなぁ……」
「そうね。絶対攻撃パターンは変わってるわよね……」
互いに【宝玉】での出来事を思い出し、コーヒーとサリーは揃って深い溜め息を再び吐く。
「あれ?サリー、コーヒーくん。カスミはどうして机に突っ伏しているの?」
そのタイミングで、部屋に入ってきたメイプルが元気ないカスミの姿に首を傾げてコーヒーとサリーに質問してくる。
コーヒーとサリーは気分を切り替える意味でも、カスミが突っ伏している理由である、例の鬼について話していく。
「サリーはまだそこまで行けてないんだっけ?」
「うん、例のクエストを進めていたからまだ入れないね」
「コーヒーくんはどうするの?」
「正直、今挑んで勝てるか凄く怪しい。例のクエストからそのボスは強化されるのが目に見えているしな」
「サリーは?」
「私も同じかな。今出回っている情報だけでも厳しいと感じているからね」
「だからカスミはあんな感じになっているんだね」
今のカスミは、何とか攻略しようとしては倒され続けたプレイヤーの成れの果てである。
「それよりも次のイベントだな。第五回は第三回の時みたいなイベントだな」
「うぐ……大人しく通行証のランク上げに専念するね」
この階層ではやることが多いメイプルは今回のイベントはある程度スルーするつもりのようだ。
まあ、メイプルにとってはあまり得意なイベントではないから当然である。
「それがいいよ。この町はやることが多いし」
サリーも無理にメイプルにイベント参加を強制せず、素直に同意する。
メイプルは町を探索するため、羊の角と着物を装備して町へと出ていった。
「さて、俺はレベル上げとスキルの熟練度を上げに行くかな。サリーは?」
「私は通行証のランク上げかな。最大にしとかないとあの建物に入れないからね」
「確かに」
コーヒーは肩を竦めて同意し、最後の試練を攻略する為に今できる準備を続けるのであった。
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