目的のダンジョンへは、ジベェに乗って向かっていた。
「これが空飛ぶ魚か……まるでキャラメルに座っているような座り心地だな」
「メイプルのシロップもー、すべすべで気持ちいいよー?」
ジベェに始めて乗った僧服姿のアロックの感想に、ミキはシロップの座り心地も良いと告げる。
「シロップとはあの亀のことか?【楓の木】のギルドマスターは中々いいセンスを持っているようだ。今度、パンケーキをご馳走しよう。シロップという亀も食べられるパンケーキをな」
「相変わらずスイーツへの情熱が凄いわねー」
「当然だイズ。俺はパティシエ。厨房は戦場であり、調理は何時だって真剣勝負だ」
「そういえば、お前はリアルでもそっちの仕事をしているんだったな」
どうやらアロックはリアルでも菓子職人のようだ。アロックもクロムの言葉を否定せずに頷く。
「ああ。リアルでは客のオーダーやオーナーの要請で作れるスイーツには限りがあるからな。こちらでは俺の望むままにスイーツを作れる」
「その割には、お客さんの要望も聞いてるみたいだけど?」
「ただ単に作りたいスイーツを作るのは二流だ。一流のパティシエは、場所と客のニーズに合わせ、最高のスイーツを提供する者だ」
「相変わらずのプロ精神だな……」
クロムが苦笑して肩を竦めていると、目的のダンジョンが見えてくる。
「お、そろそろ到着だな」
「それじゃ、ボス戦でのアロックの護衛はよろしくね?」
「了解。ま、生産職に戦闘は無理だからな」
イズのお願いにコーヒーは頷くも、アロックは何故か不敵な笑みを浮かべている。
「その心配は不要だ。先日、三層のクエストでとあるスキルを手に入れたからな。【機械の演舞】」
アロックはそう告げた途端、アロックの隣に装備一式が纏まったような一体の機械人形が現れる。
「【機械の演舞】。事前に登録した装備品を機械の人形として遠隔操作する生産職専用のスキルだ。装備の強化も含めて全ステータスは共有、人形が倒されれば俺も倒される」
「こっちも戦う生産職かよ……」
二人目の戦う生産職という事実に、コーヒーを含め、サリー、クロム、カスミは何とも言えない表情で溜め息を吐く。
ちなみにイズとカナデは興味深げにその人形を眺め、極振り三人衆は目を輝かせ、ミキはいつも通りであった。
「今回は両腕を杖にした魔術型……スキル【魔力弾】が付与されているから道中の戦闘も援護くらいなら問題はない」
【魔力弾】は文字通り、MPを対価に魔法攻撃の球を放てるスキルだが、その威力は固定の上に本当に小さいのだ。
消費MP15に対し与ダメージが1と本当に割に合わず、消費MP減少も受け付けない。なので、誰も取ろうとしない不人気スキルである。
「ちなみに俺の現在の装備はMP強化型。トータルで2000近くある。装備に付与したスキルによって自動回復速度も早い」
「うわぁ……また【普通】じゃないプレイヤーね」
サリーの呟きにコーヒーとカスミはうんうんと頷く。
「ギルドの勧誘もあるだろうな。まあ、お前のことだ。勧誘は全部断っているんだろ?」
「当然だ。ギルド所属になれば情報を取られるのではないかという疑心暗鬼が生まれてしまう。結果、客足が遠のき俺のスイーツを口にするプレイヤーが減ってしまう」
「確かに一理あるな。イズも今や【楓の木】専属の生産職だし、どうしてもそういったものが生まれるからな」
そうこう話している内にダンジョンの入口に到着し、一同はジベェの背中から降りる。
「それじゃ、さくっと倒すか」
「そうだね、行こう」
クロスボウを肩で担いだコーヒーの言葉にサリーが頷き、二組のパーティーはダンジョンの中へと入っていく。
ダンジョン内には物理無効モンスターや物理大幅軽減モンスターが溢れかえっていたが……
「「えい!えい!」」
「輝け、【フォトン】!」
軽減モンスターはマイとユイが一撃で葬り、無効はシアンが魔法で二人と同じく一撃で葬っていく。
当然、数が多いためシアン一人では全てを対処しきれないので……
「弾けろ、【スパークスフィア】!」
「穿て、【サンダージャベリン】!」
「【魔力弾】!」
アロックが機械人形から放つ【魔力弾】で牽制しつつ、コーヒーと魔導書を展開したカナデが魔法で吹き飛ばしていく。
クロムはマイとユイを優先して守り、イズとミキが回復アイテムを使ってクロムのHPを回復させる。
「これでは私の出番がないな……いや、一応はあるか」
カスミがそう呟いて視線を向ける先には……服の裾を掴んで震えているサリーだった。
「大丈夫か?サリー」
「大丈夫大丈夫。ボスは九尾でお化けじゃないから大じょーぶ!」
人魂モンスターにすっかりビビり腰となっているサリーの声は上ずっている。どう見ても大丈夫ではない。
まあ、ボス戦の頃には復活するだろうと考え特に指摘せずに進んでいく。
メイプル不在ではあるが、
「そのお人形さんを動かす時はどんな感じですか?」
「人形劇の操り人形を動かしている感じだな。糸で上から操るタイプのな」
「だから手を動かしているのですね」
「ああ。こうした方が感覚としては操り易いからな」
シアン達がアロックと談笑できるくらいには。
そして一行は苦もなくボス部屋の前へと辿り着く。
「まずは俺達だな」
クロムを先頭に装甲が幾ばくか落ちた戦車パーティーがボス部屋へと入っていく。
戦車パーティーの作戦はアイテムの効果で一定時間装備に麻痺効果を付与させた状態で攻撃を仕掛け、イズも【麻痺爆弾】という威力は低いが麻痺効果のある爆弾と【粘着爆弾】を投擲し、麻痺が入り、動けなくなったところで極振り三人衆が一気に仕留めるというものだ。
「何分かかると思う?私は五分」
「僕は三分かな?」
「んー、七分じゃないかなー?」
「俺は十五分かな?」
「戦力的には十分ではないか?」
待つ間は暇なので、コーヒー達は戦車パーティーの攻略時間を予想しつつ、作戦を確認しながら待っていく。
五分後、クロムから無事にボスを倒したというメッセージが届いた。
「予想はサリーが正解だったな」
「そうね。それじゃ、私達も行きましょうか」
サリーの言葉に全員が頷き、扉を開けて中へと入る。
ボスモンスターは情報通り、艶のある黄色い毛並みを持つ九尾だ。
「作戦通りに行くわよ!」
サリーの号令が響く。
サリーは左斜め前、カナデはアロックが操る両腕が剣となった人形と共に右斜め前、残りはコーヒーが正面に立って待機している。
サリーは走りながらイズから渡されたアイテムを使用し、武器に麻痺効果を付与させる。
そして、サリーの視界には九尾の右上半分がコーヒーから伸びる赤いサーチライトのようなものに覆われる。
「確かにこれは連携がしやすいわね」
サリーはそう呟きながら狐の前足を切り裂く。
狐はサリーに注意を向けるも、そのタイミングでコーヒーが放った矢が九尾の顔に突き刺さる。
九尾は噛みつきや爪、尻尾でサリーに攻撃を仕掛けるも、サリーは【氷柱】を駆使してかわし、威力が高そうな物理攻撃が迫った時には―――
「【九式・水牢】!!」
タイミングよく回転することで相手の物理攻撃を無効にしつつ、その威力を上乗せした一撃を放つカウンタースキルで逆に九尾にダメージを与えていく。
そうしてサリーが注意を引いていることで、カナデ達は自由に動ける。
「【パラライズボム】!!」
「切り裂け!!」
カナデがアイテム【パラライスボム】と名称が良く似た麻痺効果を持った魔法を放ち、STRとAGI重視のレンジャー装備となったアロックが操る人形の微弱の麻痺効果を持った剣が振るわれる。
ミキはアイテムである大きな爆弾を取り出すと、それを釣り針に引っ掻けて待機する。
少しして、九尾に麻痺が入って一時的に動きが止まった。
そこで、ミキが釣竿を振りかぶった。
「それじゃー、行くよー。【一本釣り】ー」
ミキが新たなスキル、本来は釣り針を遠くに飛ばして大物が釣れやすくなる釣りスキル【一本釣り】で釣り針に引っ掻けた【粘着樽爆弾】を九尾に向かって放り投げた。
この【一本釣り】はDEX依存で最大距離が決まるスキルであり、アイテムを引っ掻けて飛ばすのは【釣り餌】として扱われて重さに左右されないのである。
そんな迫る爆弾は九尾の身体にぶつかった瞬間に爆発。白い粘着物に被われて完全に動きを封じられてしまう。
「CF!!」
「ああ!照すは希望 輝きは次代に継がれ 此処に顕現す―――【聖刻の継承者】!!」
サリーの呼び掛けに、コーヒーはスキルを発動しいつもの槍十字の紋様が背後に顕れる。
「羽織る衣は雷の化身 我は雷神に認められし者なり―――【雷神陣羽織】!!」
更にコーヒーは新しいスキルをはさせる。コーヒーの身体から、あの鬼が羽織っていた陣羽織が金の粒子を靡かせながら周囲を飛び回る。
そして、そのままコーヒーへと被さり、聖刻モードに加え金の陣羽織も追加された。
「それがCFの新スキルかー。中々格好良いね」
コーヒーの新しいスキルを見たカナデは称賛の声を上げる。
「驚くのはここからだ。雷の宝玉を守りし九頭の龍よ 我が威光と成りて汝に示せ―――【九頭龍雷閃】!!」
コーヒーがクロスボウを九尾に向けて構えると、クロスボウの周りに数字が浮かび上がっていく。
最後に玖の数字がクロスボウの先端に浮かび上がると、コーヒーはクロスボウの引き金を引く。
数字が九尾に向かうと同時に顕れる龍の頭。その龍達は口を大きく開け、九尾に次々と噛みついていく。
九尾は抵抗して暴れようとするも、粘着物のせいでろくな抵抗も出来ずただやられていくだけだ。
「残りし漂う雷火よ 夜天の月の下で再び返り咲け―――【雷神月華】!!」
【九頭龍雷閃】が決まったコーヒーは九尾に急接近し、【雷神月華】を発動させる。
途端、コーヒーを中心に雷撃が炸裂し、九尾のHPを更に削り取る。
「これが【蒼き雷霆】の実力か……」
「そうだよー。あの陣羽織は初めて見るけどねー」
「CFもまたパワーアップしたね」
「こういうスキルかー……やっぱり強力なスキルね」
それぞれがコーヒーの新スキルへの感想を呟く中、コーヒーはもう一つの新スキルを発動する。
「我は
その瞬間、コーヒーから槍十字の紋様が消え、髪と瞳の色も元に戻る。
それと入れ替わるようにコーヒーの背後から金色の雷が轟く。
その向こう側に溢れるは雷神の従者と妖、コーヒーの両隣には金と銀の二人の大鬼。
その手に持つ金棒は……雷を纏っている。
「「「…………」」」
「おー、妖怪さん達の大行列だー」
そのインパクトにアロック、カナデ、サリーは絶句。ミキは相変わらずの平常運転だ。
「行け」
コーヒーの指示を受け、二人の大鬼が九尾に攻撃を仕掛けていく。
二人の大鬼のステータスは低いため、一撃では決まらずただひたすらに連打していく。
「……まるでアーモンドを粉々に砕くような光景だな」
「……メイプルも鬼を召喚できるようになるのかな?」
「メイプルなら……あり得るわね」
九尾が二人の大鬼にリンチされる光景に、サリー達はどこか悟ったような眼差しで見守っていく。
そして、残り三割だった九尾のHPは0となり光となって消えた。それと同時に五層へと繋がる道が現れる。
「……一応、行こうか」
「行くー」
やらかした本人でさえも複雑な気分のまま、五層へと足を踏み入れていく。
少し弾力があるふわっとした地面。否、正確には白い雲の上。
五層は雲の国。天上の楽園だった。
「今回は空かー。CFにぴったりなスキルが有りそうね」
「あー、確かに。雷雲があっても不思議じゃないからな」
「雲か……この階層ではマシュマロやバニラ、生クリーム、白を意識したスイーツがベストだな」
新たな階層に期待を馳せつつ、アロックと別れたコーヒー達はこの階層のギルドホームに向かってクロム達と合流し、その日はそのままお開きとなるのであった。
ちなみに後日。
「ああ……そっち行っちゃってたかー」
「【最強】で間違えてしまったんだな……」
「そうだよー。それに気づかずに三回も戦っちゃって……本当に疲れたよ……」
「……三回?」
「うん。三回。三回勝っても次の階層に行けなかったから、そこでおかしいことに気づいたんだよ……」
「まさかスキル【百鬼夜行】のレベルは……」
「三に上がったよ」
「流石メイプル……また予想を上回ったな」
五層入りの前に、インフルエンザから復活したメイプルは間違えて鬼と三回戦い、【百鬼夜行III】を取得してしまっていた。
「どうやって三回も勝てたの?」
「一回目はイズさんから貰った五個の【樽爆弾ビックバン】を全部使って。二回目は装備を変更して【身捧ぐ慈愛】関連のスキルでHPを一割にして条件を満たした後はいつもの装備で耐えて無敵モードで。三回目は……スキルを総動員してすっごく疲れたよ……」
「「うわぁ……」」
メイプルにしか出来ない攻略方法に、コーヒーとサリーは遠い目となるのであった。
同時にメイプルなら最後の試練もクリア出来そうだとも思うのであった。
さらに後日、【影ノ女神】の発動条件が、HPが一割以下のまま一分を過ぎると発動。回復したりHPの最大値が変動すると時間がリセットされるという修正がされるのであった。
メイプルの鬼は強化されました(テッテレー
原作よりパワーアップしたラスボス様なら、このくらいは大丈夫でしょう。うん
感想お待ちしてます