鬼と間違って三回も戦い、【百鬼夜行III】を取得したメイプルと別れたコーヒーは【クラスタービット】のメタルボードに乗って一人探索していた。
「こういう時、空を飛べるって便利だな」
コーヒーは誰に言う訳でもなく呟く。
何せ、真っ白な雲の地面は所々出っ張っていたり凹んでいたりと走るには全く向いておらず、全力で走るとバランスを崩して転んでしまうのは確実だ。
サリーと一緒に探索しても良かったが、サリーは一人で探索すると言ったのでコーヒーはあっさりと受け入れて今探索に出ているクロムとカスミとも違う方向へ探索を開始したのである。
道中で見つけたモンスターは上空からクロスボウで射抜きつつも、基本は真っ直ぐに進んでいく。
「ブリッツ、【針千本】」
もちろん、相棒のレベル上げも同時に行ってである。
そのまま進んでいると、何ともおかしな雲に遭遇した。
「白い……雷雲?」
コーヒーはおかしな雲に疑問を露に首を傾げる。
前方の空を覆う雲は白く分厚いのだが、青白い電気が常に迸っているのだ。
その電気は雷として地面に落ちもせず、ただゴロゴロと音を鳴らしているだけだ。
「何というか、奇妙な場所だな。行ってみるか」
コーヒーは興味を抱いて、その場所へと近づいていく。
そのまま雷雲の下を飛んで通り抜けようとした所で、前触れもなく変化が訪れる。
「へ?―――ぶへっ!?」
そのエリアに入った瞬間、コーヒーが乗っていた【クラスタービット】が突然光となって消えたのだ。
いきなり宙に放り出されたコーヒーはそのまま雲の地面に顔面からダイブする。
幸い、雲であることからそこまで痛くはなかったが顔面からダイブしたから地味に首が痛かった。
「いつつ……何で【クラスタービット】が急に……?」
まるで【封印】された時のような消え方だと感じつつ、鼻を押さえて立ち上がるコーヒー。
念のために【クラスタービット】を再発動しようとするも、発動しない。
「まさか……このエリアに入るとスキルが【封印】されるのか?」
その可能性に行き着いたコーヒーは回数制限のない、他のスキルの状態を実際に使うことで確認していく。
その結果。
「雷系統のスキル以外が【封印】状態……HPやMPの増加値は変わっていないから、ステータス増加系統のスキルは対象外ということか……」
自身の代名詞とも言えるスキルが健在なのは助かったが、それでも強力なスキルが封じられたことに変わりはない。
【名乗り】や【口上強化】等の発音スキルは、その特性からか問題なく機能していたが。
「本当にどうするべきか……」
一度引くべきか。それともこのまま進んで確認するべきか。
コーヒーが出した結論は。
「……このまま進むか。この先に何かあるのは確実だからな」
探索の続行であった。
コーヒーは意を決してそのエリアを進んでいく。
足場は悪いので走りにくいが、歩く分には問題はない。
「本当におかしなエリアだな。モンスターらしき存在はいるんだが……全く襲いかかってこないし」
青白い雷そのもので構成された鳥型のモンスターが奥に進むに連れてその数が多くなってきているのだが、コーヒーが呟いた通りその鳥達はただ飛ぶだけで一切何もしてこないのだ。
「そういえば、この青白い鳥……三層でのあの小鳥とよく似てるな」
【自由への翼】関連の出来事を思い出しながら進んでいくと、やがて前方にある物が見え始めてくる。
「あれは……巣、なのか?」
白い雲の地面の上に、上空雷雲と同じ雲がまるで鳥の巣のようにそこに鎮座していた。
遠目からでもさの大きさが分かるくらいには大きく、明らかに普通ではないことを証明している。
コーヒーは警戒しながらもその巣へと近づいて行く。近づくにつれ、高さだけでも二階建ての一軒家くらいはあり、幅も相当広い。
「どんだけデカイ鳥が此処に棲んでいるだよ……?」
その尋常ではないサイズの巣に、コーヒーは呆れた気分で近づいていき、後10メートルで目と鼻の先となった時点で上空の雷雲から何かが飛び出てきた。
「……デッカ」
それを視界に収めたコーヒーはそれだけを呟く。
飛び出てきたそれは鳥。種類としては孔雀が当てはまるだろう。孔雀の特徴である上尾筒は折り畳まれているが金に輝いており、その鮮やかさが窺える。羽はインドクジャクと同じ青藍色。その大きさは……15メートルはあるんじゃないかという位にデカイ。
そのデカイ孔雀は雷雲の巣に降り立つと、その大きく長い上尾筒を広げて金に輝く美しい羽色を見せつける。
そして、その上尾筒から魔法陣が次々と展開され、魔法陣から蒼い雷で出来た剣がコーヒーに向かって撃ち出された。
「迸れ!
【クラスタービット】が使えないコーヒーは【雷旋華】を発動してデカイ孔雀が展開した魔法陣から放たれた雷の剣を防いでいく。
「ブリッツ、【電磁結界】!!」
コーヒーは【雷旋華】が解ける数秒前に【電磁結界】を発動。一種の無敵状態となってデカイ孔雀との距離を詰めていく。
その間も雷の剣は撃ち出されており、凸凹した地形とあって回避も上手くいかずに何回か被弾してしまう。
「あー、くそ。これは地味にヤバい!ブリッツ、【砂金外装】!!」
MPポーションでMPを回復したコーヒーはブリッツに指示を出し、雷系統スキルであった【砂金外装】で自らの体躯を大きくしたブリッツの背中に乗る。かつてサリーがやった移動方法をコーヒーは実行することにしたのだ。
「ブリッツ、あの剣を避けながらヤツの周りを走ってくれ」
コーヒーの指示にブリッツは頷き、巣の周りを周回するように走り始めていく。
デカイ孔雀はそんなコーヒー達を旋回するように体を動かしながら、雷の剣を放ち続ける。
凸凹した地形故にブリッツも最高速度で走ることは出来ないが、四足とあってバランスも取れており、移動速度も今のコーヒーより速いためデカイ孔雀の攻撃をかわせている。
コーヒーは両足でブリッツの背中の針を掴んで落ちないようにしつつ、クロスボウの矢を久々の手動装填で次々と放っていく。
「【ミラートリガー】の有り難さが身に染みる……」
そんなことを呟きながらもコーヒーは矢を放ち続けていく。
デカイ孔雀のVITはそこまで高くないのか攻撃が決まる度にHPは減っているが、ミリ単位の減少のためあまり削り切れていない。
「このままじゃ、スタミナ切れでやられてしまうな……」
幾らVRでも、走り続けたら精神的な疲労は溜まる。
そこからコーヒーは攻撃を一度中断し、作戦に思考を割いていく。
デカイ孔雀からの攻撃を【避雷針】を利用して回避しつつ、勝利への算段を立てていく。
「陣羽織と鎖、【ヴォルテックチャージ】で強化した宝剣で決める。それで決まらなかったら、その時はその時だ」
作戦を決めたコーヒーは早速行動に移してく。
「羽織る衣は雷の化身 我は雷神に認められし者なり―――【雷神陣羽織】!!」
雷系統の強化スキルを【口上強化】で強化したコーヒーに金の陣羽織が覆い被さる。
そして、コーヒーはそのまま詠唱を始めていく。
「輝くは不屈の雷光 残響する雷吼は反逆の証 汝を縛る雷鎖は因果を砕く理 迅る雷撃は
【口上詠唱】で大幅に強化し、【雷神陣羽織】で効果と威力が倍となった雷の鎖が最後の言葉で放たれる。
「限界を超えし蒼き雷霆よ迸れ!【リベリオンチェーン】!!」
コーヒーがスキル名を告げた途端、コーヒーを中心に魔法陣が展開される。
その魔法陣から太く、強靭な雷の鎖が幾条も飛び出し、デカイ孔雀の身体に瞬く間に絡みついていく。
「唸るは雷鳴 昂るは信念の灯火 雷鐘響かせ威厳を示さん―――瞬け、【ヴォルテックチャージ】!!」
その間にコーヒーは【口上強化】したヴォルテックチャージを使用。次の雷魔法の威力は、【雷神陣羽織】の効果もあり、単純に考えればおよそ六倍だ。
雷の鎖に全身を縛られたデカイ孔雀は鎖を振りほどこうと暴れつつ、雷の剣をコーヒーに向けて放ち続けていく。
「【避雷針】!!」
コーヒーはストックしていた【避雷針】でMPを回復しつつ、新たに【避雷針】を発動して幾つかの雷の剣を吸収。即席のMPタンクに変えてしまう。
後は、ブリッツに回避を任せて最強魔法を放つだけだ。
「掲げるは森羅万象を貫く威信 我が得物に宿るは天に座す鳴神の宝剣 夜天に響く雷音は空を切り裂き 無明の闇に煌めく雷光は揺蕩う宝玉 招来る迅雷は万里を穿ち 滾る雷火は揺るがぬ信念の導となる 顕現せし鳴神の宝剣が纏うは我が蒼雷 神雷極致の栄光を現世へ!!」
【聖刻の継承者】は使えず、【羅雪七星】も同じく使えないため最大威力ではないが、かつてミィに放った時よりも大幅に強化された魔法を此処に解き放つ。
「限界を超えし蒼き雷霆よ集え!【グロリアスセイバー】ァッ!!」
そして、クロスボウから蒼雷の宝剣が放たれる。
「サンダー!!」
さらにだめ押しとばかりに、【リベリオンチェーン】の追加攻撃も発動させる。
鎖から迸った雷を受け、蒼雷の宝剣に貫かれたデカイ孔雀は九割近くあったHPを一気に全損させた。
「……マジか」
光となって消えていくデカイ孔雀を視界に収めながら、あの超絶な威力を放った張本人たるコーヒーは遠い目となる。
確かにこれで決めたいとは思っていたが、実際に決まるとは思っておらず、二、三割くらいは残ってしまうと思っていた。
だが、実際に倒してしまったことにコーヒーはそのトンでも威力に内心で引き攣ってしまう。
「……あれは、スキルの効果が噛み合った結果だな、うん」
自己弁護のように呟いて一人納得しようとするコーヒーに、スキル獲得の知らせが届く。
ピロリン♪
『スキル【孔雀明王】を取得しました』
新しいスキルが手に入ったことで、コーヒーはすぐにスキルの内容を確認していく。
===============
【孔雀明王】
このスキルの発動中、自身を基点とした半径三メートル内は敵味方問わず【系統:雷】以外のスキルが一部を除き、十秒おきに一分間使用不可となる。
発動中は【浮遊状態】となり、あらゆる状態異常が無効となる。
口上
煌めき輝くは金の上尾筒 羽ばたくは青藍色の翼 加護と共に雷雲の空を飛び回らん
===============
「また凶悪な……いや、【クラスタービット】等が使えなくなるから、五分五分か?取り敢えず試してみるか……【孔雀明王】」
コーヒーは唸りながらも新スキルを発動させる。
すると、コーヒーの背中からあのデカイ孔雀の翼と上尾筒が生える。大きさはコーヒーに合わせてか三メートルくらいだ。
「また派手なスキルだな……【浮遊状態】は一体何なんだろうな?」
試しに【クラスタービット】を操るような感覚で動かしてみると、そのまま自身の体が浮き上がり、自由自在に宙を移動出来た。
「あー……これは空を飛べるという意味合いだったのか。飛ぶだけなら【クラスタービット】より便利だな」
コーヒーは今後の移動手段はこれがメインになりそうだと思いつつ、空を飛んで町へと戻っていくのであった。
一方、運営では……
「……どうする?」
「あの威力はマジでヤバい。九割も残っていたHPを全部刈り取るとか……洒落にならない」
「ああ。おかげでHPが半分になってから顕れる明王が出番無しだった」
「けど、あれは複数のスキルが上手く噛み合った結果だからな……本当にどうしたらいいと思う?」
「というか、【俺達の絶対勝たせない極悪ボス】を倒した時点から詰んだだろ」
「【俺達の絶対勝たせない悪意ボス】の強化版を倒されたからな……メイプルはその悪意ボスに三回も勝ったけどな」
「……極悪ボスは今後倒されると思うか?」
男の質問に、別のモニターを操作していた男が答えていく。
「可能性としては……【水神】クエストを進めたサリーと【炎神】クエストを進めたミィだな」
「マジかー……【陣羽織】系統スキルの修正、やっとくか?」
「正直微妙なんだよなー。【陣羽織】は系統スキルを所持してないと、ステータスアップと専用スキルが使用できるだけのスキルに成り下がるからな」
「じゃあ、修正は無しか?」
「いや、【グロリアスセイバー】は少し修正しよう。硬直時間を二倍にして、発動後の隙を大きくしよう」
こうして、【グロリアスセイバー】は硬直時間が二倍となる修正がなされ、決まらなかった時の危険性が上昇するのであった。
感想お待ちしてます