最初に攻撃を仕掛けたのはアラクネだ。
アラクネは細い指の両手をサリーに向けると、指の数だけ白く細い糸を放出する。
「【氷柱】!!」
サリーは迫ってきた十本の糸を三本の氷の柱で受け止めて防ぐ。
こういうモンスターの場合、紙一重で避けても糸を操って次の瞬間に拘束するのがお約束だからである。
「【水神陣羽織】!!」
サリーは新しいスキルである【水神陣羽織】を発動する。
サリーの体から水色の陣羽織が飛び出し、水色の粒子を放出しながらサリーの周りを飛ぶ。そしてそのまま、サリーに覆い被さるようにくっついた。
「【大海】!!【古代ノ海】!!【天ノ恵ミシ雫】!!」
サリーは続けて二つのスキルを発動。サリーを中心に薄い水の膜が地面に円上に広がり、それとほぼ同時に周りから青い光を纏う魚達が現れる。
そして、サリーの頭上から水色に輝く玉が現れ、そのまま上空へと昇っていく。玉は一定まで上昇するとその光を一層強め、辺り一面に雨をサァァァ……と降らせ始めていく。
アラクネはそれを認識すると八本の脚に力を入れ、地面の水に触れる前に飛び上がる。
飛び上がったアラクネは両手を広げて糸を放出。それぞれを木の幹に繋げて宙ぶらりんの状態となり、そのまま足場を作り始めていく。
「【四式・交水】!!」
サリーはダガーを十字に振るい、十字に飛ぶ斬撃をアラクネに向かって放つ。
十字に飛ぶ斬撃は足場を作って逆さとなっているアラクネの身体に命中し、そのHPを削る。
「今ので二割……HPやVITはそんなに高くなさそうね。なら、いけるかな?」
残り八割ほどとなったアラクネのHPバーに、サリーは勝利を見出だして不敵に笑う。
対するアラクネは紅い目でサリーを睨み付けたかと思うと、右手に緑の球を出現させる。
その緑の球を、サリーに向かって投げ飛ばした。
「どう見ても毒よね……【一式・流水】!」
サリーはそう呟いて【一式・流水】を発動。自身に迫ってきていた紫の球をダガーで弾き飛ばし、明後日の方向へ向かわせる。
弾かれた緑の球は木の幹にぶつかった瞬間に破裂。緑の液体となって滴り落ちていく。
やっぱり毒だったかとサリーは流し見つつ、アラクネに向かって魔法を放つ。
「流せ、【ウォーターボール】!!」
水属性の魔法を放ち、アラクネに更にダメージを与える。
「残り六割半……これなら何とかなるかな?」
【水神陣羽織】で威力が上昇している水魔法の威力にサリーは内心で微笑む。【天ノ恵ミシ雫】でアラクネは被ダメージも増加している。
だが、アラクネはそうはいかないと言わんばかりに奇声を上げる。
その奇声に答えるように糸の壁を作っていた蜘蛛達が一斉にサリーに襲い掛かって来た。
「やっぱりそう簡単には行かないか……【大海】!!【二式・水月】!!」
サリーは時間切れとなっていた【大海】を再び使用しつつ、【二式・水月】で襲い掛かって来た蜘蛛達を同時に切り裂く。
「【十式・回水】!!」
続けてサリーは高速で放つ六連撃スキルを使用。蜘蛛を六体切り裂いて光の粒子へと変える。
「噴き出せ、【ウォーターウォール】!!【氷柱】!!【跳躍】!!」
サリーは水の壁で牽制しつつそのまま氷の柱を作り出すと、それを足場にしてアラクネに向かって飛び上がる。
アラクネはサリーに向かって両手を突き出すも、サリーは止めと言わんばかりにスキルを発動させる。
「【水神蒸発】」
途端、アラクネを中心に水蒸気爆発が炸裂し、白い煙が上空を包み込む。
サリーが跳躍したのは、【水神蒸発】の射程範囲内にアラクネを捉える為だったのだ。
「【流水短剣術】は水系統のスキル……魔法も含めて十回使った上に被ダメージも増加してるから流石に耐えられないでしょ?」
綺麗に着地したサリーはそう言って上空を見上げる。
その上空を漂う白い煙から、白い何かが突き破った。
「!?」
サリーは咄嗟に飛び退こうとするも、いつの間にか足に蜘蛛の糸が絡まっていて思うように足を動かせない。
そのため仕方なくダガーを交差させて受け止めようとするも、それは失敗だったとすぐに悟る。
何故なら、その白い何かはサリーの両手にぶつかるとその勢いのままサリーを後ろへと押し倒したのだ。
「うあっ!」
その勢いからサリーは息を吐き出す。
押し倒されたサリーはすぐに起き上がろうとするも、腕を押さえつけられているかのような感覚のせいで起き上がれない。
その感覚にサリーはまさかと思ってそちらに顔を向けると、サリーの両腕は頭上で交差する形で、白い塊によって地面に縫い止められてしまっていたのだ。
「まさかこれ蜘蛛の糸の塊!?」
サリーは慌てて両腕に力を入れて拘束から抜け出そうとするも、両腕を拘束している白い塊ははびくともしない。
そして、白い煙からボロボロとなっているアラクネが飛び出て、そのまま地面に着地した。
そのアラクネのHPバーは……本当に僅かに残っていた。
「まさか……確定耐えスキルを持ってたの?」
そんなサリーにアラクネは紫に変わった目を光らせながらゆっくりと近づいていく。
そこでサリーは現実に返り、何とか生き残ろうとスキルを発動させる。
「【氷柱】!【蜃気楼】!」
氷の柱でアラクネの進行を妨害し、別方向に自分の姿を作り出す。
氷の柱をよじ登ったアラクネはそのサリーに目を向けるも、すぐに興味を無くしたように視線を外し、本物のサリーに向かってほの暗い緑の塊を口から吐き出した。
「【水神結界】!!」
サリーは【蜃気楼】にアラクネが引っ掛からなかった事を苦く思いながら完全防御スキルを発動。雷属性の攻撃以外を完全防御する水の障壁で緑の塊を受け止めていく。
「朧、【覚醒】!【狐火】!!」
サリーを朧を呼び出して指示を出し、【狐火】で自身を拘束する糸の塊を焼こうと試みる。
【狐火】を受けた糸は少しだけ燃えたが、すぐに消えてしまう。
「朧!【狐火】を連続で放って!」
だが、少しだけ燃えた事実にサリーは回数を重ねれば拘束を解くことが出来ると踏んで朧に指示を出す。
しかし、水の障壁が時間切れで消えてしまい、同時に紫の塊が朧とサリーに襲いかかった。
「朧!」
紫の塊を受けた朧は全身を拘束され、サリーは腹部に受けてさらに拘束を強められてしまう。
途端、サリーの陣羽織が粒子となって消え、雨も止み、魚の群れも消えていく。氷の柱も同じように消えていっている。
「この紫の糸の塊……全部のスキルを封じてるの?」
これにはサリーもますます焦りを覚えていく。
試しに装備のスキルである【蜃気楼】を発動するも、幻影は出てこない。
「やばい……これは本当にやばい……!」
装備のスキルまで封じられたサリーは急いで打開策を考えようとするも、アラクネは口から白い糸の塊を吐き出し、今度はサリーの両足を完全に拘束してしまう。
これでサリーは完全に動けなくなってしまった。
紫の糸の塊のせいで朧も炎を吐き出せなくなり、今のサリーには打つ手がほとんど無くなってしまう。
そんなサリーにアラクネはゆっくりと近づいていく。
「く……ん……ッ!」
サリーは何とか腕の拘束だけでも解こうと必死によじらせるが、拘束は本当に頑丈でまったく解ける気配を見せない。
朧も唸り声を上げて拘束を振りほどこうとするも、全身を拘束されているせいで身動ぎ一つ出来ない。
そうしている間にもアラクネはサリーに覆い被さり、自身の顔をサリーに近づけていく。
「……!」
アラクネはサリーの顔と肩に手を当て、草木を掻き分けるように首周りを広げていく。
その光景は、吸血鬼だったならまさに吸血行為に見えただろう。
アラクネはその鋭い牙を覗かせながら、ゆっくりとサリーの首もとに自身の口を近づけていく。
そのままサリーに噛みつこうとした瞬間、サリーは顔を動かしてアラクネの手を振り払い、逆にアラクネの頬へと噛みつき―――食い千切った。
「ふふ……ざーんねん……恨むなら、メイプルを恨んでね」
アラクネの頬を食べたことにより、アラクネのHPは0となる。
アラクネは悲鳴を上げながら頬を押さえ、そのまま光の粒子となって消えていく。それに続くように周りの蜘蛛達も同じように光の粒子となって消え始めていく。
「うえ……やっぱりまずい……ぶよぶよした食感で凄く苦いから、余計にまずく感じるよ……」
アラクネが倒れたことで、自身を拘束していた糸の塊も消えて自由となったサリーは口を両手で押さえて吐き気を抑える。
「……一応、スキル取得の知らせがあったから、スキルは得られただろうけど……出来れば違う方法で追い付きたかったなぁ……」
サリーは上半身を起こしながら画面を操作し、スキルの欄を確認していく。
「【糸使いI】……両手足から蜘蛛の糸を射出するスキルかぁ……イーターじゃないけど、条件は一緒か」
サリーは【糸使いI】の説明文をしっかりと読んで確認し、スキルの能力を確認するために画面を閉じる。
そこで、サリーはあるものに気がついた。
「スキルの巻物……?ひょっとして、あのアラクネが落としたのかな?」
サリーはアラクネが消えた場所に落ちていた巻物を拾い上げ、内容を確認していく。
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【魔力感知I】
視覚情報からMPを検知することが出来る。
使用中は視界が専用のものに変わり、片目だけの展開も可能。
レベルが上がるごとに精度が上昇する。
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「……ひょっとして」
スキル名と効果からある可能性に気づいたサリーは【魔力感知I】を取得し、すぐに試していく。
「【蜃気楼】【魔力感知:左目】」
サリーは目の前に自身の幻影を作り出し、左目を魔力感知モードにしてその幻影を視界に収める。
すると、右目ではしっかりと自身の幻影が写っているのに対し、モロクロとなった光景を写している左目には幻影は無色に写っていたのだ。
念のために自身の両手や朧に目を向けると、自身の両手や朧はぼんやりとした赤い靄が纏わりついていた。
「やっぱりね。アラクネが幻影に引っ掛からなかったのはこのスキルを持っていたからなのね。左目の視界はサーモグラフィみたいで目が疲れそうだけど……これも化けそうね」
サリーは【魔力感知】を続行したまま【糸使い】の方も確認していく。
「【糸使い】……【右手:糸】」
右の手のひらから、アラクネや配下の蜘蛛達が使っていた蜘蛛糸が伸び、少し先の木にぶつかるとぴったりと張り付く。
サリーは力を入れてぐっと引っ張ってみるも、木から糸が離れる様子はなかった。
サリーは伸ばしていた糸を消し、朧も指輪の中に戻すと、スキルレベルを上げるためにジャングルのさらに奥へと進んでいく。
「うわ……この【魔力感知】、少しチート過ぎるわよ……」
左目の視界に幾つか存在する、動く赤い靄にサリーは複雑な気分で呟く。
モンスターやプレイヤーは大なり小なり、MPを持っている。つまり、このスキルの前では壁に隠れても透明になってもしっかりと存在を伝えてくるのだ。
しかも、魔法も赤い靄として表示されるため魔法による罠はこのスキルの前では無力となってしまう。
特にマルクスのようなプレイヤーには天敵と言えるスキルであった。
「【糸使い】の方は、伸縮糸を使えるようになるまでレベルを上げないと何とも言えないけど……探索を続けながらスキルレベルを上げようかな?幸い、危機管理能力も上がったしね」
そうしてサリーは左目に写る赤い靄を避けつつ、糸を伸ばして消してを繰り返しながら探索を続けていく。
しばらくそうしてジャングルを探索していたが、周囲の安全を確認してから【魔力感知】を解除して目をほぐした。
「ふぅ……この状態だと目が凄く疲れるわね……両目だと赤い靄が全体を覆うから誰か分からなくなるし……両目はスキルレベルを上げないと無理かな」
これ以上の探索は危険と判断したサリーは画面を操作して五層の町の広場へと戻ってくる。
「次の探索は……今度の休みの時にしようかな?その間はチケットを手に入れつつ、スキルレベルを上げていこうか」
サリーは今後の方針を決め、目が疲れていたこともあってその日はログアウトするのであった。
そして数日が経過し、長時間のログイン時間が確保できた日。
「…………」
「……珍しいわねCF。向こうでも難しい顔をしていたけど、あんたが頭を抱えて机に突っ伏しているなんてね」
ギルドホームに顔を出した際、まるで壁にぶち当たって挫折寸前となっているコーヒーの姿にサリーは何とも言えない気分で話しかけるのであった。
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