今回の二階は迷路だった。
「この迷路の特徴は?」
「物理トラップ多め。壁の押し潰しがあるから誤爆はまずい」
迷路の特徴自体は覚えているコーヒーは、その特徴を質問してきたサリーに伝える。
「了解。取り敢えず迷路攻略の定番の壁伝いで進んでいきましょ」
サリーはそう言って、壁に手を当てて進もうとする。
「待つんだサリー。壁にも―――」
カチリ
コーヒーが警告を発しようとするも、その前にサリーが手を当てていた壁の一部が音を立てて凹んだ。
「へ?」
「【アンカーアロー】!!」
サリーが間抜けな声を洩らすが、コーヒーは構わずに【アンカーアロー】をサリーの背中に当て、間髪入れずに力任せに引っ張る。
「うわっ!?」
サリーを強引に引っ張ってその場から離脱させた直後、天井から通路を埋め尽くす程の四角い柱がプレス機のようにせり出て、サリーの足スレスレを通過して床を叩き付けた。
力任せに引っ張ったことでコーヒーは後ろへと倒れ、さらに引っ張られたサリーがコーヒーの腹の上に尻餅をつく。
「ぐふっ!?」
思いの他押し潰された衝撃が強かった為、コーヒーは苦悶の声を洩らす。
対するサリーは最初こそコーヒーに文句を言おうとしたが、四角い柱が天井へとゆっくり戻っていく光景を見てその気も失せる。
「うわ……壁にもトラップのスイッチがあったのね……確かにトラップの定番だけど、いきなりそれをぶちこむとか本当に質が悪いわね……」
危うく死に戻りする羽目となっていたサリーはコーヒーを敷布団にしたまま顔を向ける。
「ありがとねCF。おかげで助かったわ」
「どういたしまして……それより早くどいてくれないか?」
女の子の体温を感じているコーヒーとしては少しキツい。もし、誤魔化す為に重いと言えば……足蹴の餌食となるだろう。
「あ、そっか。ゴメンゴメン」
サリーはそう言ってあっさりと立ち上がってコーヒーから離れる。
「それじゃ、ここもトラップに気をつけながら進むわよ」
「当然」
気を取り直した二人はトラップが蔓延る迷宮に足を踏み入れていく。
「あ、そこから少し先の右側に魔法トラップがあるわ。左の方に寄せて進むわよ」
「了解」
【魔力感知】で魔法トラップを見つけられるサリーの指示の下でコーヒーは進んでいく。
……摺り足で。
「何で摺り足で進んでいるのよ?」
「床のトラップを警戒して。床のトラップは少し凹んだ程度じゃ作動しないのは確認済みだからな」
「なるほどね。踏み抜かない限りは床のトラップは作動しない。そして、少し凹めばそこにトラップがあるというわけね」
「そういうこと」
サリーの言葉にコーヒーは頷き、一緒に次の階に上がる階段を目指して進んでいく。
「あ、彼処に宝箱があるわよ」
「それもトラップだ。開けたら壁から大量の槍が突き出てきたり、ミミックだったり、壁がスライドして閉じ込めてからの毒責めだったり散々だった」
「……本当に徹底しているわね」
そうして15分かけて、最初のトラップ以外は引っ掛かる事なく二階の迷路を突破した。
「俺一人だとこの時点でHPは半分を切っていたんだけどな……」
「それだけ魔法トラップが悪辣だったのね……実際、魔法トラップのすぐ近くに物理トラップが配置されていたし」
実際、コーヒーもこの手には何度も引っ掛かっていた。
物理トラップに気づいてそれを避けても、魔法トラップに引っ掛かり、そのまま別のトラップに引っ掛かるのがお約束になっていたからだ。
「トラップって見てる分には面白いけど、掛かった当人には堪ったものじゃないわよね」
「ああ。傍観者なら楽しめるけど、やられる身としては本当に堪ったものじゃないからな」
そうして二人は三階の部屋へと足を踏み入れる。
「床から吹き出す毒の煙が時間差で壁を作ってるわね……この部屋の特徴は?」
「残念ながら初見です。ちなみに俺の最高到達階数は三階です」
「三階なのに初見って……ああ、中身が丸々変わっていたのね?」
「正解。トラップ地獄と迷宮はもちろん、吊り天井や水攻め、ゴーレム系統のモンスターの徘徊や火炎地獄、果てはモンスターハウスと本当に様々だったからな」
本当にトラップのオンパレードを思い出して、コーヒーは再び遠い目となる。
どれだけ散々な目にあったのかと思いながらも、サリーは少し気になったことを聞く。
「そのモンスターハウスはどんな感じ?」
「部屋の隅にある四つの魔法陣から様々なモンスターがポップ。ゴースト関連は無し。脱出は不可能で100体倒したら終了。部屋の真ん中にどデカイ宝箱が出現した」
「……その宝箱は?」
何となく結末が見えたサリーは半目となってコーヒーに聞く。
「お察しの通り罠です。それもHPバーのないデカイスライム十体の包囲という」
そのモンスターハウスが三階だったこと、大きな宝箱からてっきり攻略報酬と勘違いした為、コーヒーは迷わず宝箱を開けてしまい、デカイスライムに呑まれて死に戻りした。
「普通は階段で気づくんじゃない?」
「その部屋は登り階段無し。その宝箱とともに魔法陣も展開されたからすっかり騙された」
「……うん。それは私も騙される。というか、高確率で皆騙されるわよ」
トラップの悪辣さと階段、戦闘の後での宝箱と転移の魔法陣。初見で罠だと見抜くのは非常に困難である。
「それよりも今は目の前の階層ね。毒の壁も今のところは十秒おきだけど……極力避けた方がいいわね」
「賛成。途中で吹き出すタイミングが変わる可能性が高いし、越える時はどうしてもという時で」
方針も決め、ここもサリーの先導で進んでいく。
この毒部屋も魔法トラップが豊富だったがサリーの【魔力感知】で難なく突破。今度は十分足らずで三階を突破した。
「此処からは未開のエリアね」
「ああ。ここから先も頼りにさせて頂きます」
階段を歩きながらそう話しかけるコーヒーに、サリーは不敵な笑みを浮かべて返す。
そして、ここからは初挑戦の四階へと足を踏み入れる。
「ここは……二階と同じ迷路?」
「三階までしか到達しなかったが、被りはなかった。見た目が同じでも中身が違うというパターンだったからな」
「そっか」
コーヒーの情報にサリーが頷きながら足を踏み入れると、二人の視界の右側に【25:00】という時間が表示され、一秒ずつカウントが刻まれていく。
「あ。しまった。このトラップエリアのことすっかり忘れてた」
「……このタイマーは何?後、何がしまったなの?」
「それは町への強制送還のダンジョンギミックが発動するまでの残り時間。それ以上にサリーにとってヤバい要素がこの迷宮にはある」
「私にとってヤバい要素?それは―――」
どこか嫌な予感を覚えて聞こうとしたサリーの言葉を遮るように、壁から○レサモドキが出てきて顔を覗かせた。
「ヒィイイッ!?」
お化けが大の苦手なサリーは○レサモドキの登場にビビり、思わずコーヒーにしがみつく。
「な、何でお化けが出てくるのよ!?」
サリーはそう叫ぶも、内心ではある程度目星はついている。
その目星が間違いでないこともコーヒーが証明した。
「このエリアは時間のプレッシャーとお化けの不意討ちでトラップに引っ掛かかりやすくするのが狙いなんだ。一応、お化けにHPバーがなくて驚かすだけで無害なんだが……先導は無理か」
「うん……無理」
お化けの登場ですっかりビビり腰となったサリー。このままじっとしているとタイムアップで強制送還だ。
「……仕方ないか」
コーヒーはこんな形でリタイアしたくないこともあって―――サリーを背中におぶった。
「え?え!?」
「悪いが我慢しろ。こうしないと、お前がビビった拍子にトラップを踏み抜く可能性が高いからな」
実際、以前挑戦した際、思わずビクッとして足を広げて身構えた瞬間に光の衝撃が炸裂したのだ。
その為、このエリアはお化けがトラップの目印となってはいるが……お化けが出なくても普通に魔法トラップはある。
「それだったら【クラスタービット】で―――」
「この塔のギミックを忘れたのか?」
飛んだら強制送還されるダンジョンギミックを思い出し、サリーは何も言えなくなってしまう。
「取り敢えず、そろそろ進まないとまずいから行くぞ?悪いが魔法トラップの発見は頼んだからな?」
「……努力する。【魔力感知:両目】」
サリーは頷きながら【魔力感知】を両目で発動させる。両目がサーモグラフィ状態なら、お化けの輪郭が明確に分からなくなるからだ。
それでも、お化けと理解出来るからサリーにとっては地獄のままだが。
そして、サリーをおぶったコーヒーはお化けの迷路を進んでいく。
「……CF。その先の真ん中にトラップがあるわ。右か左、どっちかに体を寄せて進めば避けられるよ」
「了解。それじゃ、目を瞑っておけよ」
コーヒーがそう言うと、サリーは目をぎゅっと瞑って前に回している腕に力を込める。
当然、密着度が強くなるのだが……背中が痛い。
「……何か失礼なこと考えなかった?」
「単に背中が痛いと思っただけだ」
「……それは私の胸がないってこと?」
どす黒いオーラを纏い始めたサリーに、コーヒーは勘違いを指摘する。
「は?胸のあるなし以前にプレートアーマーがあるだろ。それが当たって痛いという意味だ」
「あ。そ、そうなんだ……」
コーヒーの指摘にサリーはそういえばそうだったと気付き、勘違いした恥ずかしさから頬を赤く染めて顔を背ける。
確かにサリーはスレンダーな体型だが……同じ学生だし、そこまで気にする必要がないとコーヒー個人は思っている。
後、普通に可愛いし。
そんな事を考えながらコーヒーは右側に体を寄せて進んでいると、青白い半透明の幽霊が壁から出てきた。
『ァァァァ……』
「ヒィイイイイッ!?」
幽霊の呻き声に、サリーは悲鳴を上げてコーヒーに力一杯抱きつく。
「グベッ!?ザ、ザリー!ぐるじい!!」
対するコーヒーは首を絞められたことでサリーの腕を叩いて抗議する。意地でその場に留まったが。
「ご、ごめん」
首を絞めていたサリーもすぐに謝って首に回した腕を緩める。
首絞めから解放されたコーヒーは何回か呼吸を繰り返して一言。
「今この瞬間だけ、トラップよりサリーが危ないと思った……」
実際、窒息しそうになったから強ち間違いではないだろう。
その後、何とか時間ギリギリで上へ続く階段へと辿り着きはしたが……
「まさか、十回以上首を絞められるとは……」
「……ゴメンCF。少し迷惑をかけた」
お化けの呻き声や突然の不意討ちにビビってコーヒーの首を十回以上も絞めたサリーは申し訳なさそうに謝る。
「あー、大丈夫だ。実際、サリーのおかげで攻略は順調だし、むしろ逆に助けられてるくらいだ」
対してコーヒーは大丈夫と言って逆に感謝の意を伝える。
そして、五階は……見た目は一階に良く似た空間だった。
違いがあるとしたら、次の階への階段がないことくらいだ。
「……モンスターハウスだな」
「そうね。赤い靄が部屋の隅の四つだけみたいだし、間違いなくモンスターハウスね」
上への階段がないことと、サリーが見つけた四つの魔力の存在に二人はここがモンスターハウスと確信した。
「魔法陣から湧いてくるモンスターは?」
「狼、猿、蟻、ゴーレムと様々だがゴースト系は無し。強さ自体は俺一人でも勝てるほどだ」
「じゃあ、モンスター自体は楽勝ね」
お化けが出ない可能性が高いと判断したサリーは言うが早いかダガーを両手に持って既に臨戦体勢だ。
コーヒーもクロスボウを構えてサリーと共に部屋に入ると、入口の壁がスライドしてその入口を塞いだ。
同時に部屋の隅から四つの魔法陣が展開され、そこから多種多様なモンスターが次々と湧いて出てくる。
「それじゃ、背中は任せたわよ」
「そっちもな」
互いに不敵な笑みを浮かべ、そのままモンスターの群れへと突撃するコーヒーとサリー。
その結果は……五分足らずだったとだけ言っておこう。
ちなみに……
「【俺達の絶対にクリアさせない極悪ダンジョン2】が攻略されてくな……」
「最初はCFが何度も返り討ちに合って大喜びしたんだが……」
「まさかサリーと一緒に攻略するとはな……」
「まあ、あのダンジョンの攻略は【魔力感知】がないと実質攻略不可能だから、それを手に入れたサリーと一緒なら不思議じゃないけどな」
「最終階層の六階はボスモンスターとの戦闘だけど……大丈夫だよな?主に著作権的に」
「丸々コピーではないし、事前に許可は取ってるから大丈夫だ」
「それなら安心だな」
「このダンジョンの報酬はMP増加スキルとボスモンスターが使う武具なんだよな」
「また、強くなるな……」
「その装備はスキルが凶悪だけど……ステータス補正が最悪だからバランスは取れてるだろ、うん」
運営はある意味悟りの境地に至っていた。
感想お待ちしてます