「んー、暴れた暴れた。丁度いい気分転換になったわ」
背伸びして体を解すサリーの近くには、光の粒子となって消えていくモンスター達がいる。
100体とのモンスターとの戦いは……コーヒーとサリーの二人には通用しなかった。
「まあ、確かに今回は気分転換になったな。前回はトラップを警戒してたから凄くやりづらかったし」
「あー……確かに普通は警戒するわね。ああもトラップ続きなんだもの。ここにもトラップがあると考えるのが普通よね」
そうして話し合っていると、部屋の中央から大きな宝箱が光と共に現れる。同時にすぐそばに転移の魔法陣が展開される。
「これが例の宝箱か……演出からして何も知らなければ確かに思わず開けてしまうわね」
「ちなみに【魔力感知】の目ではどう写っているんだ?」
「赤い靄がばっちりあるわ」
どうやら宝箱のトラップは魔法の類だったようだ。
「予定通り宝箱は無視して……周りの壁を調べるか」
「そうね。この魔法陣も罠の可能性がなきにしもあらずだからね」
すっかり疑心暗鬼であるコーヒーとサリー。今までのトラップが悪辣だった為、罠がこれだけとは到底思えなかったのだ。
「壁には……赤い靄は一つもないわ」
「となると……あるとしたらスイッチか」
「まずは入口の階段の向かい側から調べましょ。そこからCFが時計回りに、私が反対方向から壁を調べる。いいわね?」
サリーの提案にコーヒーは頷き、まずは階段の向かいの壁を調べる。
すると、丁度真ん中辺りに近くで見ないと気づかない程の四角い切れ目を見つけた。
「これは押し込み式だよな……どうする?」
「私の勘では大丈夫と言ってるけど……念のために少し離れてから【クラスタービット】で押しましょ」
「だな。これもトラップの可能性があるしな」
本当に疑心暗鬼となっているコーヒーとサリーはある程度距離を取ってから、コーヒーが発動した【クラスタービット】でそのスイッチを押す。
すると、ガコンという音と共に壁の一部が床へと収納されていき、上へと続く階段が顔を覗かせた。
「……本当に質が悪いな。宝箱だけじゃなく、転移の魔法陣も罠だとか」
「あの魔法陣は強制送還か、もっと凶悪なモンスターハウスへの転移だったのかもね」
警戒して正解だったとコーヒーとサリーは半目で階段を見つめながらそう思う。
モンスター100体との戦闘で判断を鈍らせたところで、宝箱と転移の魔法陣を見せつける。
最初は宝箱にかかり、次は魔法陣にかかる。本当に悪辣過ぎるトラップである。
ともかく、宝箱と魔法陣は無視して六階への階段を歩いていく。
「次はどんなトラップが待ち構えているんだろうな?」
「流れからして……吊り天井かもね」
次のトラップエリアを予想しながら六階へ到達すると、そこは祭儀室のような部屋だった。
そして部屋の真ん中には、転移の魔法陣が光を放っている。
「トラップは?」
「魔法の類は無いわね。赤い靄はあの転移の魔法陣だけよ」
「……近くまで行くか」
「そうね。上への階段も今のところないし、近くまで行こうか」
コーヒーとサリーは物理トラップを警戒しながら中央の魔法陣に近づこうとする。
『そんな警戒しなくてもこのエリアに罠はねぇよ』
突然の声にコーヒーとサリーは身構えて周囲を見渡す。しかし、周囲には誰もいない。
『ははっ、随分と驚いてるな?そりゃあ、いきなり声が聞こえたら当然か』
声色からして男性であろう、どこか軽そうな口調にコーヒーとサリーはどこか文句を言いたげな瞳となる。
『にしても、俺様自慢のトラップタワーを突破するなんてな。お兄さん、ちょっと予想外だったぜ?』
「何が予想外だ。此方は散々死に戻りして挑んだんだぞ?」
「CF。NPCに文句言ってどうすんのよ。気持ちは分かるけど」
少しいらっとしているコーヒーに、サリーは呆れながら宥める。
『ま、俺様は今見えている転移の魔法陣の先にいるぜ?覚悟が決まったら此方に来な』
そこから男性の声は途絶える。
「このパターン、絶対戦闘だろ」
「そうね。間違いなく戦闘ね」
「準備は……不要だな。迸れ、
「ええ。準備は不要。【剣ノ舞】も下のモンスターハウスで最大まで高まっているからいつでも行けるわ」
互いに戦闘準備は万全だと確認して、コーヒーとサリーは魔法陣の上に乗る。
魔法陣の光に包まれ、転移した場所は……森林であった。
「……ジャングルというより森の中だな」
「そうね。敵は―――」
サリーが敵を探そうと周囲を見渡した瞬間、コーヒーは射手としての直感が働き、本能のままに【クラスタービット】を操作する。
カンッ!
サリーの後ろを守るように展開した【クラスタービット】の板から固い音が響く。
「へえ?今のを防ぐか。姿は見えてない筈だけどな」
戦闘モードとなったコーヒーは男性の言葉に反応せず、声がした方向へと次々と矢を放っていく。
「CF!」
「へ―――うおっ!?」
突如サリーが飛び付いて自分ごとコーヒーをその場から引き剥がす。
その直後、先ほどまでコーヒーとサリーがいた場所から透明の何かが蒸気のような猛烈な勢いで噴き出した。
「まさか、トラップか!?」
「違う!赤い靄は足下にはなかったから、敵の遠隔攻撃だと思う!それと、魔法トラップがあちこちに仕掛けられてる!!」
どうやらこの森にも魔法トラップが大量に設置されているようだ。
実際、サリーが飛び付いたのも恐怖センサーからの咄嗟の判断だ。その判断は正解ではあったが。
「サリー!敵の居場所は!?」
【魔力感知】を持っているサリーなら見つけられる。そう思っていたコーヒーだったが、サリーから返ってきた言葉はまさかのものだった。
「それが……【魔力感知】の目にも何も写らなかったの」
「……マジか?」
「マジよ。声がした方向を凝視したけど、動く赤い靄は見えなかった。多分、敵は強力な隠蔽スキルを持っている」
「だとしたら厄介……だな!」
コーヒーは直感のままに【クラスタービット】を操作し、不可視の攻撃を再び防ぐ。
「攻撃まで見えないなんて……本当に厄介ね!」
「全くだ!箱型の全方位防御は使えないしな!」
使えば間違いなく地面からの攻撃の餌食。飛ぼうにも例のギミックのせいでそれも取れない。
ここまで条件の厳しい戦いは久々だ。
「【雷旋華】は!?」
「あれの使用中は俺は動けない!下手したら地面からの攻撃の餌食だ!!」
サリーに言葉を返しながら、コーヒーは旋回させるように【クラスタービット】を操作して不可視の攻撃を防いでいく。
「!CF!あっちに動く赤い靄がある!あれがおそらく―――」
「穿て!【サンダージャベリン】!!」
言うが早いか、サリーの言葉が終わる前に指差した方向に向かって【サンダージャベリン】を放つ。
放たれた雷槍は……そのまま通過した。
「外したか!敵は!?」
「右の方向!それも地面じゃなくて木から木へと飛んで移動してる!」
「了解!穿て!【サンダージャベリン】!!」
サリーの指示に従ってコーヒーは再び【サンダージャベリン】を放つ。
「どうだ!?」
「ダメ!また避けられた!!」
「反応良すぎだろ!?」
【サンダージャベリン】は速度と貫通能力に秀でた魔法だ。それを簡単に避けるとは……あの敵は反応速度が高く設定されていそうだ。
「サリー!次の方向は!?」
生い茂る木々のせいもあって敵の姿を捉えなれないコーヒーはサリーに指示を仰ぐも、そのサリーは訝しげな表情で目を細めていた。
「……距離を取ってる?でも、どうして……?」
どうやらサリーの紫に光る目には例の敵は距離を取っているようだ。
そのサリーの呟きにコーヒーも疑問に思う。向こうが有利の筈なのに……
「「!!」」
しかし、すぐにある可能性に行き着いた二人は目を見開き、コーヒーはサリーに顔を向け、サリーは思わずコーヒーに顔を向けそうなのを堪えて、次第に小さくなっている赤い靄を凝視し続ける。
「サリー!!」
「分かってる!」
コーヒーの呼び掛けにサリーは間髪入れずに走り出し、コーヒーはサリーの後ろをぴったりと付いていく。
おそらく、あの強力な隠蔽スキルは自身の存在を捉えさせないこと。つまり、【魔力感知】でも目視出来ない距離であの強力な隠蔽スキルを使うつもりだと察したからだ。
だが、それも地面から突き破るように出てきた岩壁によって遮られた。
「魔法トラップ!?確かに進行方向の地面に赤い靄があったけど、まだ踏み抜いていないのに……!?」
「まさか、任意の起動も出来るのか!?」
これではギリギリの距離で避けるのは危険だ。近くにいるだけで敵は起動するだけで強引に罠に掛けられるのだから。
「―――しまった!?」
魔法トラップの岩壁の赤い靄で敵の赤い靄を見失ってしまったサリーは急いで岩壁の天辺に登って確認する。
動く赤い靄は……消えていた。
「やられた!気をつけてCF!また不可視の攻撃が来るわよ!!」
「本当に厄介過ぎるだろ……!」
コーヒーは苦い気分となりながらも、岩壁から降りてきたサリーと背中合わせとなって周囲を警戒していく。
互いに耳を研ぎ澄ませ、少しの異音を逃さないようにするために。
『やれやれ……せっかく俺のテリトリーに誘い込んだのに、こうも粘られるとはな』
すると、森全体に響き渡るように例の男の声が聞こえてきた。
「うわ……森全体に響くとか、これじゃ声で場所を予測出来ないじゃないか」
「まったく同感ね。本当に厄介極まりないわね」
どこまでも存在を掴ませない相手にコーヒーとサリーは嫌そうな顔をする。
『ま、
男の言葉にコーヒーとサリーは警戒をより一層強める。
『森の恵みは圧政者の毒 我が墓標はこの矢の先 その道は栄光も名誉もなき荊為り―――』
明らかな魔法の詠唱にコーヒーとサリーは顔を青ざめさせ、より一層警戒を強める。
『猛毒と弱体は爆心 麻痺と石化は必中 火傷と凍傷は癒えぬ傷 呪縛と封印は抹殺―――』
その詠唱から嫌な予感を覚えたコーヒーとサリーは互いのステータスを急いで確認する。すると、自分たちのステータスがいつの間にか幾ばくか下がっていた。
『制限と暗闇は不浄の毒 毒傑は深緑の森より湧き出流り 弔いの樹はその牙を研ぎ澄ます―――貌無き狩人の命に従い解き放て、【大樹の祈り】』
男の詠唱が完成し、遠くからメキメキという音が響くと同時に深緑の煙が辺りに充満していく。
次の瞬間、爆発がコーヒーとサリーを襲った。
「やれやれ。ようやく終わったか。だが、オタクらも随分と間抜けだったな。AGI以外のステータスが減少していることに気づかないなんてな」
爆発が収まり、二人がいた場所に深緑のフードマントで顔を隠した男がそんな事を呟きながらその場に降り立つ。
「まっ、これも苦い経験ということで―――」
「迸れ!【リベリオンチェーン】!!」
男の呟きを遮るように、雷の鎖が瞬く間に男に迫ってその身体を縛っていく。
「な!?」
男は驚いて後ろに振り返ると、それぞれの陣羽織を羽織ったコーヒーとサリーがいた。
コーヒーとサリーが死んでいない理由は単純。コーヒーは【夢幻鏡】、サリーは【空蝉】でダメージを無効化したからだ。
そしてすぐに木の陰に隠れると、阿呆にもその場に姿を現したのでそれぞれの陣羽織を発動し、一気に勝負に出たのである。
そんな千載一遇の好機にサリーは両手のダガーを構えて男へと猛烈な勢いで接近していく。
「やべ……!【茂みの煙】!!」
男は地面に左手に持っていたクロスボウから矢を放ち、地面へと突き刺す。
途端、地面から黄色い煙がサリーの足下から噴き出していく。
「【零式・水面返し】!!」
対するサリーは煙に呑まれる瞬間に【流水短剣術】の強力なスキルを発動。男のスキルの効果を受けたサリーはすべてのデメリット効果を男へと全部移す。
―――【水神陣羽織】のデメリット効果も。
「CF!」
「サンダー!!」
サリーの合図にコーヒーは【リベリオンチェーン】の追撃で応える。
「ぐぁああああああああ―――ッ!?」
電撃を受けた男は絶叫を上げる。
何せ、雷属性のダメージが三倍となっているのだ。威力は【口上強化】してないので威力は決して高い方ではないが男のHPバーは残り四割となるまで減少する。
「【十式・回水】!!」
そこにサリーが高速の六連撃を叩き込む。
弱体化が解かれ、【剣ノ舞】と【水神陣羽織】でSTRが上昇して威力が上がっている六連撃―――【追刃】も合わさった12連撃―――を男は耐え切れる筈もなく、HPバーを全損させる。
そのタイミングで男のフードが取れ―――隠れていた骸骨の顔を露にした。
「―――。~~~~~~~~ッ!!」
サリー絶句。そして声にならない絶叫を上げてコーヒーに全速力で突撃。迷わずしがみついた。
「ぶべっ!?」
全速力でしがみついてきたサリーに押し倒されるようにコーヒーは地面に背中を打ち付けられ、声を洩らす。
「な、何でスケルトンなのよ!?」
「知るか!後、プレートアーマーが顔に当たって地味に痛い!!」
ヘッドロックではないかというくらいに抱きついてくる涙目のサリーにコーヒーは抗議の声を上げる。
プレートアーマーが無ければ役得だったかもしれないが……それはそれで後で地獄となってしまうだろう。
「あー、負けた負けた。勝負はお前さん達の勝ちだ」
スケルトンはNPC故に二人の状況を無視して設定された台詞を放ち、言葉を続けていく。
「俺が消えたら転移の魔法陣が現れる。それに乗ったら塔の屋上へと転移される。屋上には報酬の宝物があるからお前さん達が持っていってくれ。心配しなくても罠じゃねぇから安心しな」
スケルトンはそう言い終えると、光の粒子となって消えた。同時に転移の魔法陣が展開される。
ピロリン♪
『スキル【皐月の加護】を取得しました』
同時に伝えられるスキル取得の通知。
新たな力を得ると同時に、塔の攻略が成された事が証明された瞬間でもあった。
感想お待ちしてます