スケルトンを倒してから十数分、コーヒーとサリーは未だ森の中にいた。
「……整理できたか?」
「……うん。CFは?」
「なんとか。ログアウトしたら再燃しそうだが」
互いに少し離れて背中を向いてお互いの状態を確認しあう。
コーヒーとサリーがまだ森の中にいる理由。それは、ある意味スケルトンのせいである。
気が動転して思わずコーヒーに抱きついてしまったサリーは、頭が少し冷えて気持ちも少し落ち着くと今度は羞恥心がマッハで襲いかかり、顔を真っ赤にしてマフラーで顔を隠してその場に蹲ってしまった。
対するコーヒーもプレートアーマーを押し付けられたとはいえ、女の子に抱きつかれたのには変わらないので、少々思考が熱暴走しそうになっていた。
それを事故、仕方ない、まだマシと考えてどうにか落ち着かせたが。
「それで、どうする?今日はもう探索を止めるか?それとも別行動で探索するか?」
「……流石に今切り上げるのは勿体ないし、別々だとそれはそれで余計なことを考えそうだから、まだ一緒に探索するわ」
サリーはそう言って顔を隠していたマフラーを解く。頬はまだ若干赤いが、最初の顔全体がリンゴのように真っ赤となった時と比べたら幾分かマシである。
「そうか……一応、新しいスキルを確認しておくか」
コーヒーはそう言って自身の画面を操作して新しいスキルを確認していく。
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【皐月の加護】
HPが10%低下し、MPが1.5倍増加する。
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「MP増加スキルだな。代わりにHPが低下するが……」
「プラス補正での増加じゃなくて倍補正で増加するスキルなのね。これはプラスで追加された分も含めたMPじゃないとちょっと厳しいかな?」
「けど、1.5倍増加は結構デカイぞ。魔法を使うプレイヤーなら取得しておきたいスキルだよな」
「確かにそうね。私はHPが低下しても一撃死するのに変わりはないから大した影響はないし、【廃棄】せずに持っておくわ」
今回の【皐月の加護】は【電磁結界】や【グロリアスセイバー】等のMPが多いと有利なコーヒーと、HPが減っても一撃でも受けたら倒されることに変わりのないサリーにとってはプラス方面が強いため、このまま所持することを決める。
「逆にメイプルには枷だよな」
「確かにね。貴重なHPを削っても、MPがあまり高くならないから利点がないわね」
何せメイプルはVIT極振り。サリーの言う通り、貫通攻撃に対する貴重なHPを削ってもMPの最大値が小さいメイプルではこのスキルは生かせない。逆に弱体化しかねない。
「それ以前に、この塔を攻略できるかが怪しいけどな」
「うん。幾らメイプルでも間違いなく返り討ちに合うわね」
何せ、拘束トラップや即死トラップ、強制送還のギミックがあるのだ。メイプルでも一人でこれを突破するのは不可能だろう。
仮に攻略出来そうな人物がいるとしたら、勘の鋭いドレッドと罠使いのマルクスくらいだろう。
例のスケルトンに勝てるかは別問題だが。
「このスキルのことを皆に教えたら……カナデやシアンが手に入れたいと思うだろうな」
「【集う聖剣】ならフレデリカとサクヤかな?【炎帝ノ国】はミィとミザリーさん、マルクスの三人は確実ね」
「けど、最終的には諦めそうだよな。悪辣なトラップの前に」
この手のダンジョンは運の要素も含まれる。
モンスターハウスは事前情報があればトッププレイヤーなら突破できるし、時間制限もお化けを目印にすれば可能性はある。毒部屋は耐性持ちなら強硬突破も不可能ではない。
そんな強運持ちなんて……
「……何故かメイプルが突破する姿が浮かび上がったんだが」
「奇遇ね。私も同じ光景が思い浮かんだわ」
此処にはいない天然なギルドマスターのほのぼのとした表情を脳裏に描いた二人は何とも言えない表情となる。
「ひとまず、ここから出るか」
「そうね。宝箱をさっさと回収しましょ」
コーヒーとサリーはスケルトンの話題を意図的に避けて転移の魔法陣に乗る。
例の塔の屋上に転移されると、そこには一つの少し大きめの宝箱が鎮座していた。
「宝箱はあれを倒すと現れるんだな。いや、クリアしないと出てこないのか?」
「多分、あの時の対策じゃないかしら?」
サリーの言うあの時とは、第二回イベントの最終日のあれのことだろう。
「まあ、あれの言葉もあるから本当の報酬だから……ご開帳っと」
コーヒーはそう言って宝箱の蓋を開ける。
中には、深緑のクロスボウと同じく深緑のフードマントの二つが入っていた。
「これ、あれの装備の一部だよな?」
「そうね。間違いなくあれの装備の一部ね」
頑なにスケルトンと口に出さず、コーヒーはクロスボウを、サリーはフードマントを手に持って詳細を確認していく。
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《イチイの弓》
【STR-50 DEX-25 INT-35】
【シャーウッドの森】
【休眠修復】
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《無貌のローブ》
【STR-30 VIT-30 DEX-50】
【貌なき王】
【休眠修復】
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「……装備したらステータスがダウンするけど、付属スキルが凶悪すぎる」
「……ええ。こっちも凶悪よ」
互いに装備品を確認したコーヒーとサリーは揃って遠い目となる。
「《イチイの弓》の専用スキル【シャーウッドの森】は複数のスキルの集合体だな。どれも状態異常付与持ちで……耐性や無効を無視して状態異常やデバフを付与できるスキルだな。後、【大樹の祈り】は状態異常かデバフを与えないとMPを喰うだけの魔法になる」
「うわぁ……耐性と無効を無視して状態異常に出来るとか……それも凶悪ね。ちなみにダウンするステータスは?」
「STRとDEX、INTの三つ」
「……うん。完全に嬲り殺しになるわね」
むしろSTRが下がっても毒等の状態異常でダメージを与えられるから、本当に質が悪い装備だ。
「サリーの方は?」
「こっちの【貌なき王】は……五回の回数制限や視界に写っていないことが条件だけど、一度発動すつと十分間は町以外で透明になれる上にあらゆる感知スキルに引っ掛からないというぶっ壊れスキルよ。使用中は自分の画面以外のフォーカスが合わなくなるみたいだけどね」
「その辺りは悪用対策だな。町の中まで透明にでもなられて、相手の画面を確認できたら大問題だからな」
この辺りの対策を怠らないからこのゲームは人気があるのだろう。
「こっちはSTRとVIT、DEXが下がるからあんまり使いそうにないけどね」
「でも、組み合わせ次第では恐ろしく化けるよな」
何せ、ドレッドの【神速】のように姿が消せるのだ。それも、【神速】よりも長い時間で。
普通に凶悪なスキルである。
「【休眠修復】は……朧やブリッツの【休眠】の装備版か」
「耐久値が尽きると自動的に自身のインベントリに戻って、24時間は装備不可能になるのね。一応、壊れて喪失する心配はないけどメンテはちゃんとしないとね」
取り敢えず互いに今回の装備を自身のインベントリにしまってから次はどうするかを相談する。
「次はどうする?」
「転移の魔法陣で下へと降りて探索しましょ。空は……流石に、ね」
サリーの提案にコーヒーは素直に頷く。
空からの探索は……今は精神的にキツい。
そんな訳で転移の魔法陣で塔の入口に戻り、取り敢えずジャングルの中心であろう方向に二人一緒に進んでいくのだが……
「CF、左側から赤い靄が近づいて来てる」
「了解」
【魔力感知】で簡単にモンスターを見つけられるサリーの指示に従うことで、コーヒーはクロスボウの連射で射抜いて次々とキルしていた。
「いずれ修正されそうなスキルだよな、それ」
「どうかしら?これ、凄く目が疲れるのよね。だから、一回解除するね」
サリーはそう言うと、紫に光っていた左目を元に戻す。
「確か、ジャングルの中央にもMP増加スキルがあったんだよな?」
「ええ。どこかの誰かさんは塔の攻略に夢中だったけどね」
そんな事を話し合っていると、近くの茂みががさがさと揺れる。
コーヒーとサリーは警戒して互いの得物を構えて注視していると、その茂みからフレデリカとミィが飛び出てきた。
「な、何とか逃げ切れたぁー……」
「同感だ。まさか、あんなモンスターに出くわすとは……」
肩で息をしながらその場に座り込むフレデリカとミィは、そこでコーヒーとサリーの存在に気づいた。
「CFにサリー。まさかここでお前達に会うとはな……」
「本当だねー……二人でデートでもしてたー?」
「……随分と余裕みたいねフレデリカ。後、デートじゃないから」
フレデリカの軽口に、サリーはジト目と共に言葉を返す。
「それはともかく、二人は一体何から逃げていたんだ?」
もっともなコーヒーの質問に、ミィは苦虫を噛み潰したかのような苦い表情で答えた。
「……黒い妙なワイバーン型のモンスターからだ」
「「え?」」
「うん。ワイバーンって言っても翼と前足が一体化している上に黒い毛を生やしているんだよー。四層の狐より素早いから攻撃が全然当たらないし……」
「ならばと私が面攻撃で仕掛けたんだが……それさえもヤツは意図も簡単に避けてしまったのだ」
「加えて、防御障壁も一撃で全部割られちゃったし……勝ち目が無さそうだから必死に逃げて来たんだよー」
どうやらフレデリカとミィは奇妙なワイバーンから逃げていたようである。
「どう見る?サリー」
「間違いなくボスクラスのモンスターね。ダンジョン以外にも、こういった特殊なモンスターが幾つもいるかもね」
サリーが戦ったアラクネも撤退不可能、確定耐えスキル有りと割りと特殊なモンスターだった。加えて【魔力感知】があるから普通は隠れきれずに蜘蛛糸で捕らえられる。
「となると、そのワイバーンも何か良いものを落とす可能性があるのかもな」
「そうね。でも、準備無しでボス級モンスターに遭遇するのは結構キツいわよ……それで、ちゃんと振り切れたんですよね?間違っても連れてきてませんよね?」
「大丈夫の筈だよー。モンスターから逃げるためのアイテムも使ったから、何とか撒けたはず―――」
その瞬間、遠くからバキバキという音が四人の耳に届いてきた。
「「「「…………」」」」
「……振り切れた筈って言わなかったけ?」
「……うん。その筈だよ」
サリーの冷たい眼差しでの質問に、フレデリカは視線を逸らして答える。
「……どんどん音が大きくなってくるな。完全に此方に向かって来てるぞ」
どうやら完全にフレデリカとミィはそのワイバーンにロックオンされてしまっているようだ。
コーヒーとサリーもこのまま此処に居続けたら、巻き込まれるのは確実だ。
「CF、サリー。お前達は今すぐこの場から離れろ。私達のせいで迷惑をかけるわけにはいかない」
「そうだねー……モンスターの擦り付けはタブーだし、自分の不始末は自分でつけないとねー」
ミィとフレデリカはそう言って音が聞こえてくる方向に進もうとする。
それに対しコーヒーとサリーは……
「……新装備を試すに丁度いいかもな?」
「そうね。せっかくだから試そうか」
自身のインベントリを操作して、一部の装備を変更していた。
コーヒーは右手装備である《イチイの弓》、サリーは頭装備である《無貌のローブ》へと装備を変更して。
「……もしかして、一緒に戦ってくれるの?」
「そのつもりだけど?」
「フレンド登録してるし、この状況で見捨てるのは流石に気が引けるしな」
「……ご―――済まない、感謝する」
思わず素で謝罪と感謝を伝えかけたが、ミィはすぐにカリスマモードで謝罪と感謝の意を伝える。
カリスマモードは伊達ではない。あまり嬉しくないことではあるが。
「【貌なき王】」
最後尾かつ誰にも見られていないサリーはさっそく新しい装備のスキルを発動する。
途端、サリーの姿が溶け込むように消えていった。
同時に件のワイバーンもコーヒー達の頭上を飛び越えて姿を現す。
黒い体毛、強靭な太い前足、刃のような二本角に翼、長い尻尾……
「「ナルガク○ガかよ(じゃない)!!」」
別ゲーのボスモンスターそっくりなモンスターにコーヒーとサリーは思わず叫ぶのであった。
迅竜カッコいいよね
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