スキルのせいで厨二病患者に認定されました   作:厄介な猫さん

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てな訳でどうぞ


雨エリアにて

傘騒動は一先ず収束し、雨エリアへと真っ直ぐ向かう道中で何度かモンスターに遭遇しつつも、コーヒー達は苦もなく撃退しながら向かっていた。

 

「足が重い……」

「うん……行きたくないなあ……」

 

約二名の足取りは著しく重かったが。

いっそのことログアウトして離脱したいのは山々だが、それはそれで後日ネタにされる為、約二名は半ば諦めたように歩いていた。

そして、四人は目的の場所へと辿り着いた。

 

「相変わらず降っているな……」

「じゃあ、傘を出すね」

 

メイプルはそう言って雲でできた傘を自身のインベントリから取り出し、カスミがすぐにメイプルの傘の中へと入ってしまう。

 

「ねえ、メイプル。私がおぶるからカスミと三人で一緒に進も?ほら、メイプルはAGIが0だから進むのに……」

「それだとメイプルが濡れる可能性がある。わざわざリスクを引き上げる必要もないだろう」

 

サリーが諦め悪く提案するも、カスミの正論で真っ二つに切られてしまう。

 

「なら、【クラスタービット】で―――」

「それだと砲弾が鬱陶しそうだなぁ……」

「ああ。ごり押し出来るか不明な手段に頼るのもどうかと思うぞ」

 

コーヒーの提案も事実を突き付けられて否決。二人の味方はどこにもいなかった。

 

「むぐぅ……マジで相合傘しないといけないのか……」

「うう……なんでこんな事に……」

 

コーヒーは諦めたように黒の傘を取り出し、サリーも同様に諦めたようにコーヒーがさした黒の傘の中へと入っていく。

少し大きいとはいえ、本来は一人用。

つまり……肩を寄せないと傘の内側に収まらないのである。

 

「傘のお陰で上からの雨は大丈夫だが、近くの地面に落ちて弾けた雨粒は避けるようにな」

「分かった!」

 

メイプルとカスミ、コーヒーとサリーで相合傘となった状態で、四人はゆっくりと雨が降るエリアに足を踏み入れた。

 

「良かった。弾いてくれてるね」

「このような見た目だが、あの店にある限り効果は保障されているのだろうな」

 

メイプルとカスミは傘らしくない傘がきっちり役目を果たしてくれていることに少し安心しつつ、前方を進む二人に視線を向ける。

 

「他に人がいなくて良かった。もしいたら……耐えられそうにない」

「そうね……」

 

互いに肩を寄せざるを得なかったコーヒーとサリーはどこか暗い気分でゆっくりと歩いている。

二人としてはメイプルとカスミの後ろを歩きたかったが、AGI0のメイプルではどうしても基礎スピードが違う為、必然的にコーヒーとサリーが前を進む羽目となっていたのだ。

 

「早くこの雨から抜け出したい……」

 

コーヒーの消え入りそうな呟きにサリーは無言でこくこくと頷いて同意する。

 

「何か良い仕返しがないものか……」

 

この状況を生み出したメイプルに軽い仕返しが出来ないものかとコーヒーは悩んでいると、サリーが思いついたように話し始めた。

 

「CF。メイプルがVITに極振りした理由は知ってたよね?」

「確か……痛いのが嫌だから、だろ?」

「ええ。小学生六年生の頃、予防接種で大泣きしたくらいにね」

「サササ、サリー!?何で急にその事を!?」

 

まさかのサリーの暴露にメイプルが慌てたように声を上げる。その意図を察したコーヒーは意地の悪い笑みを浮かべ始めた。

 

「他に大泣きしたエピソードは?」

「あるわよ。例えば―――」

「わー!わー!!」

 

コーヒーの質問にサリーが更に暴露しようとしたところでメイプルが大声を上げて必死に遮る。

そんなメイプルにカスミが少し同情していると、カスミにも矛先が向いた。

 

「ちなみに今後のイベントで第四回と同じ動画が出る可能性は?」

「あるんじゃない?そしたらカスミは公開処刑されるわね。戦闘中はあんな格好になるから」

「ぐはっ!?」

 

妖刀の羞恥心を煽る姿を指摘されたカスミは自身の胸元を押さえた。

そんな小さな仕返しを果たしつつ進んでいると、雨が降っていないボスエリア手前の場所へと到着した。

 

「それじゃ、ボス戦について最終確認するか」

「そうね」

 

傘をたたんだコーヒーの言葉に、少し距離を取ったサリーも頷き、メイプルとカスミと共にそれぞれのやるべきことを確認していく。

そして最終確認が済み、四人はボスが潜むエリアへと踏み込んだ。

 

「来たぞ、ボスだ!」

 

四人の前方、雲の地面から滲み出るようにして湧き出した水の塊が徐々に人型となっていく。

ゆらゆらと揺れるその体の中には、ボスの核であり弱点である周りの水よりもより一層青い塊が漂っている。

ボスの体が完全に形作られると、曇り空に変化が現れる。

 

「また雨が来るよ!!」

「それじゃ、予定通りにだな!!」

「うん!」

「頼んだぞ三人共!!」

 

四人がそれぞれの役割を果たす為に動き出す。

それに反応するように、ボスは液体の体を変形させて腕を剣の形にする。

 

そして、びしゃびしゃと水を散らしながら三人の方へと向かってきた。同時に空からもゆっくりと直径一メートルはあろうかという大きな水の塊も落ちてくる。

 

「さて、まずは【大海】!で、【氷結領域】!!」

 

サリーはその場でスキルを二つ使い、自身が生み出した水を凍らせて白く輝く冷気を地面に這わせていく。

 

「よし……【糸使い】【氷柱】」

 

サリーはさらに二つのスキルを使う。

氷の柱を立ち上らせ、手のひらから蜘蛛糸を射出してその柱を高速で上がっていく。

 

「おー……すごい……」

「それじゃ、此方もやるか。護衛よろしく」

「了解!慈しむ聖光 献身と親愛と共に ここ身より放つ慈愛の光を捧げん―――【身捧ぐ慈愛】!!」

 

コーヒーの言葉に頷きつつ、メイプルは【身捧ぐ慈愛】を発動させる。

 

「さらにー、邪悪を退ける威光 形成すは光の玉座 光王の加護は威厳と共に―――【天王の玉座】!!」

 

さらにメイプルが新しいスキルを発動。自身の背後に白い玉座を召喚してすぐに玉座へともたれて座る。

 

「……本当に玉座だな」

「んふふー、綺麗でしょー?」

 

若干どや顔で玉座を自慢するメイプルにコーヒーは何とも言えない気分となりつつも、最初の色々と試したい作戦通りにコーヒーはサリーが凍らせている水の塊を次々と撃ち抜いて破壊していく。

 

この水の塊は先程の雨エリア同様に速度低下のデバフ効果が付いている。それを収縮可能となった【糸使い】の実戦運用も兼ねて封殺しにかかったのである。

 

当然、ボスは凍らされた水の塊を破壊しているコーヒーに狙いを定めて襲いかかるも、【身捧ぐ慈愛】を発動しているメイプルが攻撃を全て引き受けているのでノーダメージ。安心して凍った水の塊の破壊に集中できるのである。

 

「そろそろボスが変化するころだな。カスミの妖刀のスキルで攻撃した後で()()よろしく」

「任せて!」

 

メイプルが玉座に座ったまま頷くと、水の剣で攻撃し続けていたボスの中にある核が移動し、雲の地面へとするりと入っていく。

そして、雲の地面から同じような核を持ったボスの写しが何体も現れた。

 

この写しは雨粒を地面に落とせば落とすだけ数が増えていき、核に攻撃し辛くなってしまう。サリーが雨粒を凍らせ、コーヒーが破壊したことで数は最小限に抑えられていた。

 

「【血刀】!!」

 

今度は自分の番とばかりにカスミは妖刀のスキルの一つ、HPを代償とした範囲攻撃のスキルを発動する。

妖刀は赤い液体となって溶けて刃を形作り、無茶苦茶に伸びる、あるいは地面を走って全ての核を攻撃していく。

 

「【血刀】は【紫幻刀】よりは幾分か使い勝手が良さそうだな。少し威力が低いが……」

 

攻撃が終わって元の形となった妖刀を見ながらカスミはそう呟く。

ボスの攻撃手段と段階ごとの変更点がきっちり入っているが、次のメイプルの行動でそれらも無意味となる。

 

「我が才と情熱を見よ 我を讃える万雷の喝采を聞け 咲き誇る華と共に此処に開演せよ―――【黄金劇場】!!」

 

【口上強化】と共に発動した、第六回イベントで手に入れたスキル【黄金劇場】。

メイプルを中心に金色に輝く魔法陣が展開され、その魔法陣の中にサリーとカスミはもちろん、ボスもいる。

そのまま十秒経過し、コーヒー達はボスと共に専用フィールドへと強制転移させられた。

 

「「「…………」」」

 

初めて見る薔薇の花弁が舞う黄金の劇場にコーヒーとサリー、カスミが言葉を失う中、ボスは変わらずに攻撃を続けていく。

当然、【身捧ぐ慈愛】を発動しているメイプルがいるので攻撃は通らず、加えてフィールドが変わったことで雨粒が無くなっている。

つまり……大幅に弱体化された上に一方的に攻撃が出来るのである。

 

「……取り敢えず、五分以内にボスを倒すか」

「そうね……凄く哀れに感じるけどね」

「やはりメイプルは見ていて飽きないな……」

 

コーヒー達は複雑な気分で武器を構え、大幅に弱体化したボスをサリーも加わってリンチしていく。

 

「あー、またボスの写しが現れたね」

「んー、流石にボスの特性までは封じれなかったか」

「あのボスが一番色が濃いわね。カスミ、あれを攻撃して」

「分かった。【一ノ太刀・陽炎】」

 

流石にボスの写しは登場したが、色合いでMPの量も測れるようになったサリーの【魔力感知】であっさり核の本体を特定。サリーの指示を受けたカスミがそのボスを【一ノ太刀・陽炎】で急接近して切り裂く。

 

「お、ボスのHPバーが減ったな」

「やっぱりあれが本体だったわね」

「じゃあ―――【皇帝権限】!【百鬼夜行】!!」

 

メイプルが【皇帝権限】で【百鬼夜行】を発動させ、スキルの【封印】を無効にして赤鬼と青鬼を召喚する。

玉座に座る天使姿のメイプルに、そんなメイプルの両脇に立つ二体の鬼……本当に滅茶苦茶である。

 

「あれを攻撃して」

 

メイプルの指示を受けた赤鬼と青鬼はカスミの攻撃を受けたボスに向かって飛び出し、その手に持つ金棒でひたすらボスを殴打していく。

今回の【黄金劇場】で半分にされたステータスはSTRとAGI。つまり……鬼から逃げられないのである。

まるでトマトを潰すような光景が目の前で繰り広げられる中、コーヒー、サリー、カスミは遠い目でその光景を見守っていく。

 

「……やっぱりこれはチート過ぎるだろ」

「そうね……間違いなく修正が入るわね」

「メイプルはまたおかしな方向に進化したのか……」

 

三人がどこか諦めたように呟く中、鬼に殴打され続けていたボスがドロドロとなって床の染みのように消えていく。

メイプルによって圧倒的な不利なフィールドにされてなす術なく倒されたボス……本当に哀れである。

 

「ふっふっふー!この女王様の威光の前には、みな無力なのだよー!」

 

対してメイプルは少々威張った口調でどや顔をしていたが。

 

「というかメイプル。【皇帝権限】は強制発動したスキルを50時間使用不可能にする筈だよな?」

「?そうだよ?だから、あんまり使わないスキルを【皇帝権限】で使ったんだよ」

「さいですか……」

 

確かに【百鬼夜行】や【影ノ女神】といったスキルはあまり出番がない。

きっと【皇帝権限】は本来MPが多かったり、硬直時間が長い等の使用しづらいスキルを使用しやすくする為のスキルなんだろうが……手に入れた相手が本当に悪かった。

 

「……なあ、メイプル。いつまでスキルを発動させたままにしてるんだ?」

「せっかくだから眺めようかと!綺麗だけどあんまり見れないしね!」

「……そうか」

 

こうして黄金の劇場を時間いっぱいまで見続けた後、スキル【雨水晶】が記載された巻物を手に入れたコーヒー達はその場を後にするのであった。

 

「それじゃあ、帰りも相合―――って、ええ!?」

「ログアウトして逃げたな……」

 

コーヒーとサリーはログアウトしてから町に再ログインするという少々ずるい方法で戻ったが。

 

 

 




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