あれから時が過ぎた三月の初め。
「また修正が入ったよー……」
「流石に仕方ないだろ」
「ええ。修正前の【悪食】なみに凶悪なスキルだったからね」
新たな階層が追加された日、同時にメイプルのスキル【黄金劇場】が修正されていた。
具体的な修正内容は【黄金劇場】の発動時間は五分から十分に延長されたが、【皇帝権限】は一つのスキルに対して一日1回。単発タイプは一分は使い放題、持続タイプは一分経過すると自動的に解除されるという制限が設けられたのだ。
「でも、十分に伸びたのは嬉しいかな。薔薇の花弁がそれだけ満喫できるからね」
メイプルは相変わらず弱体化を気にしていなかった。むしろ、時間が増えて満足している程だ。
これが、メイプルクオリティである。
「こっちの装備の方のスキルは特に修正は入っていないな」
「まあ、こっちは装備したらステータスが大幅に下がるし使いづらいから当然ね」
【シャーウッドの森】も【貌なき王】のスキル付いている装備は装備者のステータスを大きく下げてしまう。その為メイン装備には出来ないので出番が少ないのである。
故に運営もこちらの修正はしなかったのであろう。
「……取り敢えず今回のボスについて話し合うか」
メイプルの【黄金劇場】の内容だけは知っているクロムは話を戻すように、次の階層に向かう為のダンジョンにいるボスについて話し合っていく。
今回のボスは雲で出来たクラゲ。状態異常攻撃を何種類か使うらしく、物理攻撃は普通に効くとのこと。
他にも水と雷、氷属性の攻撃は無効、吸収してHPを回復してしまうとのこと。
そして、防御貫通攻撃は確認されていないそうだ。
「勝ったな」
「ああ。これは勝ちだろ」
「ですね」
「そうだな」
一つ大きく息を吐いてからにこやかに告げたクロムの言葉に、コーヒー、サリー、カスミの三人はあっさりと同意する。
今日は今のところ全員ギルドホームにいる。
つまり、装甲、車体、主砲が完璧に揃った凶悪な戦車パーティーが健在ということである。
「今回の編成は?」
「最初は私とCF、カスミで。メイプル達には負担を掛けるけど……」
「大丈夫だよ!!皆にもあの劇場を見せたいしね!!」
サリーは負担を掛けることを申し訳なさそうにメイプルへと謝るも、メイプルは全く気にした様子はなく、むしろ【黄金劇場】をまだ見せていないメンバーに見せれる絶好の機会だと考えているようだった。
「何気にピンポイントな気もするな……バランスを考えた結果だとも思うが、それなら最初からそうした方がいい気がするんだが」
「うーん……そうとも言えないんだよなあ。【グロリアスセイバー】も発動後の硬直時間が二倍になっていたし」
「それもそうか。やりごたえが無くなったらユーザーも離れていくし、誰でもゲームを楽しめるようにするなら仕方ないか」
何気に試行錯誤しての結果や、想定外の結果からやむ無くそうしていると考えれば仕方がないのかもしれない。
メイプルは防御こそ異常だが、攻撃の方は燃費が悪かったり、対処がしやすかったりと必ずしも無敵ではない。
コーヒーもスキルの関係で全ての攻撃に雷属性が付与されているので、今回のクラゲに対しては完全に打つ手がない。
「軽減ならスキルで無視できるが……無効、吸収は無視できないからな」
「もし属性攻撃無効スキルが実装されたら……CFは完全に無力ね」
サリーの言う通り、将来属性攻撃無効スキルが実装されれば、コーヒーは完全に無力となってしまう。
属性縛りのプレイヤーは少なくないので、実装されれば時間制限が設けられるだろうが。
「とりあえず、先行した後で戦車パーティーが戻って来るってことで」
そんな訳でメイプル、マイ、ユイ、シアン、コーヒー、サリー、カスミが先に六層へ行くためのダンジョンへシロップに乗って赴き、到着したダンジョンを攻略していくのだが……
「【クラスタービット】の津波と矢の攻撃だけでどんどんモンスターが消えていくわね……」
サリーが呆れたように呟く。
道中はボス戦では全く役に立たないコーヒーがダンジョン内のモンスターを片っ端から倒しているので、【身捧ぐ慈愛】を発動しているメイプル以外は完全に暇をもて余しているのである。
最も、今のメイプルなら一人でも簡単にボスを倒せてしまうが。
そうして簡単にボス部屋へと到達し、全てが雲でできた部屋の天井からボスの雲クラゲが現れるも―――
「潰せ、
「潰せ、
「唄え、
「「彼方の敵を攻撃せん―――【飛撃】!!」」
「照射せよ!【レイ】!!【連続起動】!!」
STR上昇の【ドーピングシード】に【鼓舞】、【名乗り】と【口上強化】で攻撃力が上がった
「本当に凶悪なパーティーだな」
「ええ。味方で良かったと本当に思うわ」
「ああ」
開幕して一分も経たない内にボス戦が終わったことで、改めて戦車パーティーの凶悪さを実感した三人は戦車パーティーと共にまだ見ぬ六層へと向かっていく。
「どんなところだろうねサリー」
「さあ?まあどんなところでも大丈夫だけど」
「ある意味死亡フラグだぞ、それ」
そんな他愛ない会話に華を咲かせながら歩いていると、新たな階層へ続く出口が見えてくる。
出口を出た景色は、一面の荒野とそこに残る古びた墓標だった。
「…………」
その光景―――よくあるホラーゾーンにコーヒーは無言でサリーの方へと視線を向ける。
「だ、だいじょうぶじゃなかった……」
そのサリーは顔を青くしてメイプルの右手を握っていた。見事にフラグを回収してしまったのである。
その後、戦車パーティーはクロム達を連れて来る為に五層へと戻っていく。
「では、私も一度五層へと戻る。彼処でしか手に入らないアイテムを買うのを忘れていたからな」
何故かカスミまで……というか、絶対に二人きりにさせる目的でメイプル達と一緒に戻っていってしまった。
当然、残されたコーヒーとサリーは仕方なく二人でギルドホームへ向かうのだが……
「…………」
「…………」
サリーは《無貌のローブ》を装備してフードを深く被り、コーヒーの後ろでコートを両手で握って……というか背中にくっついて隠れるようにして視界を遮断して進んでいた。
コーヒーは後ろから伝わる震えとこの状況から何て声を掛ければいいか分からず、本当に微妙な空気が流れていた。
「ひぃっ!?」
「!?」
時折、サリーが悲鳴を上げてビクッと身体を強張らせるから、コーヒーも思わずビクッとして動きを止めてしまう。
「……本当に大丈夫か?」
「だいじょうぶじゃないから、絶対に離れないで……」
そんな端から見れば不信感全開の二人は外見は廃屋であるギルドホームへと到着し中へと入っていく。
幸い、中は今まで通りであり過ごしやすい快適な空間が広がっていた。
「サリー、ギルドホームの中は今まで通りだから大丈夫だぞ」
「…………」
コーヒーの言葉にサリーは無言のまま、コーヒーの背中から覗き込むようにギルドの中を確認する。
今までと同じ部屋の作りだと確認したサリーはコーヒーの背中から離れて大きく息を吐いた。
「はぁ……やっと落ち着ける。じゃあ……七層が実装されたら帰ってくるってメイプルに伝えておいてね……」
サリーは力なく微笑みながらそう言って画面を操作し―――ログアウトして消えた。
「完全に逃げたな……」
せめて返事を聞いてからログアウトしてほしいと思ったが、流石に仕方ないかとコーヒーは諦める。
サリーのお化け嫌いはこの短い付き合いでも仕方がないと思えるくらいには理解出来ているからだ。
とりあえずメイプル達が来るまでギルドホームで待機することにする。自身の部屋?家具も何も置かれてない、割り振られた当初のままですが?
少しして、残りのメンバー全員がギルドホームへと入ってきた。
「あれ?サリーは?」
「ログアウトした。七層が実装されたら帰ってくるそうだ」
メイプルの質問にコーヒーがサリーが言っていたことをそのまま伝えると、メイプルは納得したような表情となった。
「そっかー……今回ばかりは仕方ないかなあ」
サリーとの付き合いが一番長いメイプルもこればっかりは仕方ないと思ったようで、少し残念そうではあったがあっさりと割り切った。
「それじゃ、俺は情報収集に行くとするか」
サリーの伝言も伝えたコーヒーはそう言って、ギルドの外へと出て行くのであった。
―――――――――――――――
「あー……まさかあんな階層が実装されるだなんて……」
現実世界に戻ってきた理沙はベッドの上に寝転がって呟いていた。
「あんな場所は無理無理。とにかくあの階層は絶対に行かない。ま、他の階層でレベリングしたり調べ直したりすればいいから別にいいよね」
理沙は未練などないというようにごろごろするが、しばらくは楓と新垣、ギルドメンバー全員とは別行動となることを考えれば少し複雑である。
「あー……新垣もお化けが苦手だったら良かったのに……」
それなら二人で別の階層でレベリングしたり探索したりとそれはそれで面白そうだったのに。
「……は?」
理沙は自身のその考えに暫し呆然とした後、顔を真っ赤にして枕に顔を埋めた。
(なんでこんな考えを抱いたのよ私!?これじゃあ、私があいつに気があるみたいじゃない!!そりゃ、最近は色々と恥ずかしい思いをさせられたけど!!全部お化けのせいなのよ!!)
断じてお化けのせいだけではなく、親友と周りの外堀を埋めようとする者達にも一因があるのだが、その事に今の理沙が気づくことはない。
とりあえず気分転換も兼ねて六層の情報を携帯端末からネットで調べ始めていく。
「MP増加スキルか……CFやカナデ、シアンが取りそうね。私も欲しいけど……レイス?スケルトン?無理無理」
出現する敵を見て、理沙はこのスキルの取得をすぐに諦めた。
「スケルトンは最近間近で見ちゃったし……あんな不意討ちは二度とごめんよ」
理沙がいう最近は第六回イベントのトラップタワーのボスのことだ。普通に話していただけに、最後のスケルトン顔は完全な想定外であった。そのせいで新垣に思わずしがみついてしまったのだから。
「…………」
心無しか、顔から湯気が出ているように見える理沙はその後も情報を確認していく。僅かではあるが、分かりやすい場所で手に入るものや一部のクエストは調べることができた。
低確率で一部のアイテム効果を二倍にするスキル。状態異常を与えられそうなスキル。AGI強化に、加速スキル。
空中に透明な足場を一つ作ることが出来る靴。
死亡回数50回以上が条件の高難度クエスト。
これらが、現時点で判明している六層の情報である。
「ああー、うぅー……くぅ、んー!ああー……っ」
呻き声を上げながら、理沙は何度も携帯端末の画面を指で操作して確認するも、当然そこに書かれている文字が変わることはない。
その後理沙は再度ゲームを始める準備をしてはそれを止め、始めようとしては止めを何度も繰り返し、最終的にはぐったりとベッドに倒れこむのであった。
『サリーさんらしき人物が憎きCFの背中にくっついていた』
『『『『『よし!処刑しよう!!』』』』』
一部スレ抜擢
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