スキルのせいで厨二病患者に認定されました   作:厄介な猫さん

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てな訳でどうぞ


幽霊屋敷へ

六層へやってきてから少し。

コーヒーは今日もログインしていた。

 

「今日はどっちから先に行くべきか……」

 

町を出てすぐの場所でコーヒーは少し悩んでいた。

町から西にある洋館か。それとも東にある墓地か。

西の洋館は一部のアイテムの効果が二倍になるスキルが、東にある墓地は消費MP軽減スキルが手に入る場所である。

 

「ん?」

 

そうこう悩んでいると視界の隅によく知った二人の姿が入る。片方はフードを被って顔は分からないが、そのフードがついたローブには見覚えがあり、本来はこの場にいないはずの人物が手に入れたはずのローブだ。

 

「あ!コーヒーくん!!」

 

コーヒーが疑問に感じて目を細めている内に、もう片方―――メイプルがコーヒーに気づき、ローブのフードを深く被った人物の手を握ったままこちらに近づいて来た。

 

「コーヒーくんは今から探索?」

「ああ。東か西かで悩んでいたんだが……どうしてサリーが此処にいるんだ?」

 

コーヒーの最もな質問に、フードの人物もといサリーは消え入りそうな声で答えた。

 

「……どうしても手に入れたいスキルと装備があって……それで……」

「ああ、うん。察した」

 

つまり、スキルや装備の効果に目が眩んで自身にとっての地獄に赴いたということだろう。だが、フィールドにいる幽霊達に即負けて、メイプルに助けを求めたといったところか。

 

「それで目的地は?」

「町から西に向かった所にある洋館だって!!」

「西の洋館か……彼処は一部のアイテムの効果が二倍になるスキルが手に入る場所だな。俺もそっちへ行くか悩んでいたところだし、良かったら一緒に行くか?」

「賛成!サリーは?」

「お願いします……手伝って下さい……」

 

コーヒーの提案をメイプルは両手を上げて承諾。サリーも顔を隠したまま丁寧語でお願いしてくる。

 

「それじゃ……シロップ!【覚醒】!アーンド【巨大化】!!」

 

メイプルは腕を掲げてシロップを呼び出すと、直ぐ様シロップに指示を出して巨大化させる。

 

「シロップよろしくね。【身捧ぐ慈愛】!【天王の玉座】!!」

 

メイプルは速度重視でそのまま天使モードとなって、シロップの甲羅の上に玉座を出現させてそこに座る。サリーとコーヒーもその前の甲羅の上に座るのだが……

 

「CF……洋館の位置は分かる?」

「?一応把握してるが?」

「じゃあ……ナビゲートは任せた……」

 

サリーはそう言って丸まり、《無貌のローブ》にすっぽりと隠れてしまった。ご丁寧に落ちないように【糸使い】の糸で両足と甲羅を繋げて。

そんなサリーにコーヒーは内心で溜め息を吐きつつ、メイプルに目的地の具体的な場所を教えていく。

 

「それじゃあ、出ぱーつ!!」

 

メイプルの号令と共に空飛ぶシロップはそのまま西に向かって進み始める。

 

「はぁ……ここからだ……嫌だ」

 

すっかりみのむし状態となっているサリーは弱々しく呟く間も、シロップに乗ったコーヒー達はふわふわと順調に進んでいく。

 

「漂うは雷玉 揺蕩うは天の雷 我が周囲を回って攻め守れ―――揺らめけ、【遊雷星】」

 

コーヒーはレベルアップによってINTの基礎値を50にしたことで使えるようになった、【雷帝麒麟】に内包されている魔法【遊雷星】を発動させる。

 

シロップ―――厳密にはコーヒーを中心に四つの大きな蒼い雷球が現れ、まるで惑星のように周囲をゆったりと旋回してシロップと共に進んでいく。

 

「おお!新しい魔法だ!」

「厳密には元々あった魔法だが、基礎INTの要求値制限で使えなかった魔法だけどな」

「そうなんだ。それじゃあ、まだ使えない魔法があるの?」

「いや。もう制限は全部解除されたから、【雷帝麒麟】の魔法はこれで全部使えるぞ」

 

メイプルとそう話している間にも、シロップの周りを飛ぶ雷球は青白い顔をした女性や苦しそうな呻き声を上げる男性の幽霊を消し去っていく。

 

この第六層の大半以上のモンスターが純粋な物理攻撃が効かない為、メイプルの【機械神】では追い払えても撃破は出来ず、STR極振りのマイとユイもダメージを与えられずに苦戦している。

 

一応、物理でも属性攻撃であればダメージを多少は与えられる。【フェザー】によって全攻撃に雷属性が付与されているコーヒーには道中の幽霊は敵ではなかった。

 

そして、メイプルの【身捧ぐ慈愛】と【天王の玉座】で道中の幽霊モンスターの攻撃は実質無効となっている為、幽霊達はコーヒーと【機械神】で追い払うメイプルの経験値の糧となっていた。

 

「そういえば東には何があるの?」

「レイスやスケルトン、リッチーが出てくる墓地。手に入るスキルは消費MP軽減。魔法だけじゃなくMP消費スキルも対象で結構良いスキルだそうだ」

「おおー、そっちも良さそう。サリーは……無理だね」

「うん……無理」

 

メイプルの言葉にひたすらに丸まって震えているサリーは力なく同意する。

その間もコーヒーとメイプルは物理的に幽霊達を除霊していく。

 

しばらくして、眼下にボロボロとなった大きな洋館らしきものが見え始める。

その周りは他の場所に比べて霧が濃く、全体をはっきりと確認することはできそうにないが、あれが今回の目的地で間違いはない。

 

「彼処が例の目的地?」

「ああ。彼処で間違いない」

「それじゃあ降りるね!」

 

メイプルがゆっくりとシロップを降ろしていく。

そのままコーヒーはシロップの甲羅の上から降り、続いてメイプルもサリーの手を引いて地面に降り立つ。

 

もし、イズやカスミがいたらサリーのエスコートをコーヒーにやらせていただろう。メイプルはサリーはお化けや幽霊が本当に駄目だと分かっているので、それを利用しようという気は流石になかった。

 

そして、洋館の探索の為にメイプルは玉座を消してシロップを指輪に戻し、サリーも顔が覗ける程度にフードを被り直す。

 

「一回駄目だと思ったら無理……心を無にする、無にする……」

「……一応、サリーの心の準備が済むまで待つか?」

「一時間かかっても終わらず、すぐに逃げたのを私は知っています」

 

メイプルのその言葉に、天使モードで武装を展開したままだった事に少し疑問に感じていたコーヒーはそれで察した。

 

「なので、私は心を鬼にします!!」

「……仕方ないか。それじゃ頼んだ」

 

メイプルの宣言にコーヒーは仕方なしと諦め、展開されている武装にしがみつく。

サリーはメイプルが自爆飛行を敢行すると気付き、顔を青くして強引にメイプルの手を振りほどこうとするも、それよりもメイプルの方が早かった。

 

「それでは豪快におじゃましまーーす!!」

「あああああああああっ!!」

 

自爆飛行による轟音とサリーの悲鳴がBGMとなり、コーヒー達はそのまま半開きであった洋館の扉へと突っ込んでいく。

そして無事に(?)洋館の中へと入り、同時に扉がバタンと音を立てて閉じた。

 

「よっ……と!」

 

床をバウンドしたことでしがみついていた武装から投げ出されたコーヒーは空中で一回転してそのまま無事に着地する。

こんな芸当、現実では出来ないしやろうとしたら着地に失敗して首ゴキとなるのは確実だ。

 

コーヒーは立ち上がって周りを見渡すと、エントランスらしき場所からは入口の扉とは別に正面と左右、階段を登った先の二階にも扉がある。

 

天井にはボロボロのシャンデリア。壁に取り付けられている燭台の上の蝋燭は短く、火も小さく不気味さを強調していた。

 

「広いねー。で、どこへ行ったらいいの?サリー」

「えっと……あれ?……ちゃんと調べられてない」

「コーヒーくんは?」

「基本はダンジョンの場所とモンスター、手に入るものしか調べないので、中は不明です」

 

コーヒーは割と探索も含めて楽しむ方なので、目的のものの最短距離を調べることはほとんどしない。

それをする時は、絶対に手に入れたいスキルや装備の時だけだ。

 

「そっかー。じゃあ、全部見て回るしかないか」

 

メイプルのその言葉に、メイプルの手を握っているサリーが首をぶんぶんと横に振った。

 

「ちゃんと調べてもう一回来ようよ。そうしよう?今このまま探索しても効率が悪いし、モンスターも弱くないよ。戦闘回数も増えるし最短距離を確認してから……」

「それやったら時間が掛かるだろ。主に、腹を括るのに」

「…………」

 

コーヒーのもっともな指摘にサリーは反論出来ず、無言となる。

 

「大丈夫だよサリー。私とコーヒーくんがいるから、ね?だから、ささっと探索して終わりにしよ?」

「うん……」

 

メイプルのその言葉にサリーは頷く。

メイプルが入れば基本的に全ての攻撃から守ってもらえ、属性攻撃や雷系統の魔法を使えるコーヒーなら道中のモンスターもそこまで苦戦はしないだろう。

生まれたての小鹿のように足を震わせているサリーが一緒でも、十分に攻略は可能なのだ。

 

「それじゃ、どこから調べる?」

「右の扉からで!」

「配置は?」

「私が先頭でコーヒーくんが最後尾で!」

「了解、ギルドマスター」

 

メイプルが右の扉を開け、扉の向こうにあった長い廊下をサリーの手を握ったまま進んでいく。そんな二人のすぐ後ろをいつものクロスボウを肩に担いだコーヒーが歩いていく。

 

長い廊下には左に曲がることができるところが幾つかあり、その先には部屋に繋がっているであろう扉もあることから、調べる場所は多そうであった。

 

「どこから行こうかな……うわっ!?」

「どうし……うおっ!?」

 

どこから調べようか悩んでいたメイプルが突然驚いたように声を上げ、コーヒーもどうしたのかと聞こうとした矢先に足に違和感を感じ、声を上げて下を見る。

 

すると、メイプルとコーヒー、サリーの足を、地面から伸びる無数の透けた白い手が掴んでいたのだ。それも少しずつ伸びてくるというおまけ付きでだ。

 

「しっ、ししし、しっCF!」

「舞え、【雷旋華】!!」

 

サリーの上擦った呼び声に応えるように、コーヒーは【雷旋華】をすぐさま発動させて足元の手達に雷撃を浴びせていく。

雷撃を浴びた手達は苦しそうに暴れると、光となってその場から消えていく。

 

さらに壁からするりと出てきた女性の霊も、コーヒーを中心に展開された雷のドームに近づけず、クロスボウから放たれた矢を頭に何発ももらい、床の白い手と同様に光となって消えていく。

 

「これでひとまずは大丈夫だな」

「うん……メイプルもだけど、CFも一緒で本当によかった」

「うん!私だけじゃ守れても追い払うだけしか出来ないからね!」

 

メイプルはいつも通りだが、サリーは本当に弱々しいままである。

実際、サリーは既に心が半分折れており、半ば諦めかけているのである。

 

それでもまだログアウトしないのは、せっかく付き合ってくれた二人に申し訳ないという気持ちがあるからだ。……それもすぐに消え去りそうではあるが。

 

「急いで探索して帰ろう!」

 

サリーの様子からあまり長居は出来ないと判断したメイプルがそう言って歩き出した所で、足元から鈍い青色の光が放たれる。

 

いつものサリーなら、【魔力感知】を使って事前に気づけていたであろう。だが、ホラーゾーンであったことから【魔力感知】を使うことをすっかり失念していたのだ。

コーヒーはその光から逃れる為、咄嗟に直ぐ様後ろへ飛び下がるもすぐに自身のミスに気づいた。

 

「……あ」

 

今回はコーヒー一人の探索ではなくメイプルとサリーが一緒。つまり……二人は未だに件の光の中である。

 

「【アンカーアロー】!!」

 

光から抜け出たコーヒーは直ぐ様【アンカーアロー】をサリーに向かって放つ。最悪、メイプル一人だけでも何とかなるがサリーは今回そうではないからだ。

 

コーヒーは手応えを感じてすぐに光のロープを引っ張るも、すぐに軽くなり―――光が消えた先にメイプルとサリーはいなかった。ロープの先にも、もちろん何もない。

 

「急いで合流しないとまずいよな……【孔雀明王】!!」

 

コーヒーは孔雀の翼と上尾筒を展開すると、急いで合流すべく廊下を駆けるのであった。

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

光が薄れ、サリーは恐る恐る目を開けた先に広がっていたのは知らない廊下であった。

 

「め、メイプル?CF?ど、どこ……?」

 

光に包まれる中、掴んでいたメイプルの手がすうっと消えていく感覚と、不意に後ろへ引っ張られていた感覚からサリーは一縷の希望をかけて、震える声で二人の名前を呼ぶ。

そこで、ポンと背後から左肩を叩かれた。

 

「ひっ……!」

 

サリーはビクッと背筋を伸ばして硬直し、本能的に左肩を確認してしまう。

そしてすぐに後悔した。

 

「あ……あ、あ……」

 

左肩に置かれた手は白く細い手。それも異様に冷たいというおまけ付き。

しかも、その細い手はそのままサリーを抱きしめようとしてくる。

 

「やああああああああああああっ!!」

 

それを認識したサリーは叫び声を上げながら脱兎の如くその場から走り出す。

その腕はするりと通り抜けた為そのまま逃げ走り、一つの部屋へと飛び込んだ。

 

「は、はっ、はっ。ろ、ログアウト……」

 

今ので心が折れたサリーは一秒でも早くこの場から逃げようとパネルを出した瞬間、パネルに血のような赤い手形がドンドンと音を立てて現れた。

 

「ひぅっ……」

 

一周回って生まれた冷静な部分がこの洋館の情報を思い出させる。

それは一部エリアでのログアウト制限と、そこにいる徘徊モンスターの性質。

 

そのモンスターは触れる度にAGIを減少させ、AGIが0となった時に即死攻撃が飛んでくるというものだ。

つまり、サリーは運悪くそのエリアに飛ばされてしまったのである。

 

「お、追いかけてくる……」

 

猶予は長く、止まることなく注意して屋敷を歩き回れば捕まることもそうそうなく、エリアからの脱出も容易である。

……幽霊が大の苦手なサリーにとっては容易ではないことは明白ではあるが。

 

「ど、何処かに隠れないと……」

 

ログアウト制限によって逃げられなくなったサリーは飛び込んだ部屋を忙しなく見渡し、見つけた机のその下に急いで隠れるのであった。

 

 

 




一方その頃……

「急いで追いかけるぞ!!」
「ああ!絶対にヤツは血祭りに上げてやる!!」
「リア充滅ぶべし。慈悲はない」
「幽霊風情が……俺達の邪魔をするなぁああああああっ!!」

とある四人が血涙と共に空飛ぶ亀を追いかける図。

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