スキルのせいで厨二病患者に認定されました   作:厄介な猫さん

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てな訳でどうぞ


トラウマ直前の危機一髪

メイプルとサリーと分断されたコーヒーは現在、廊下を飛んで駆けてながら道中のモンスターを追い払っていた。

 

「マジで何処に飛ばされたんだ!?」

 

コーヒーは部屋の扉を片っ端から開けて呼び掛け、二人の代わりに出てきた幽霊を速攻で沈めていると、サリーからメッセージが届いた。

 

『今赤い手がパネルを塗り潰してログアウト制限を掛けるエリアにいる。早く助けて』

 

どうやらサリーは現在ログアウト出来ないエリアにいるようだ。おそらく、ログアウトで逃げようとした所でログアウト不可能となり、こうして助けを求めるメッセージを送ったのだろう。

 

「取り敢えず、探す為の目印が出来たな。早いとこそのエリアに向かうか」

 

コーヒーはそう呟くと、自身のパネルを確認しながらそのエリアに向かって廊下を駆けるのであった。

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

一方、メッセージをコーヒーとメイプルの二人に送ったサリーは変わらずに机の下でぶるぶると震えていた。

 

「しばらくはここにいよう……」

 

ローブに丸まっているサリーの言うしばらくとはメイプルかコーヒー、どちらかが来るまでを示していた。

ようはずっとと同義である。

 

だが、そんなサリーを見逃してくれるようにこのエリアはできていない。

ぎいっ、と音を立てて部屋の扉が開き、ギシギシと足音を鳴らして部屋へと何かが入ってくる。

 

「……!!…………」

 

サリーは両手で口を塞ぎつつ、《無貌のローブ》のスキル【貌なき王】を発動してその姿を消し、息も止めて自身の存在を殺す。

 

その存在はギシギシと音を立たせながらゆっくりと近づいているようで、机の下にいるサリーの目の前に青白い足が見えた。

 

「……っ!!」

 

サリーは顔面蒼白となりながら、必死にこのまま気付かず部屋から出ていって欲しいと願い続ける。

そんなサリーの願いが届いたのか、人のものとは思えない足は、そのままサリーの前を通り過ぎていく。

 

「…………」

 

このままいけばやり過ごせる……そう安心しかけていたサリーだったが、メッセージを受信した音が鳴ったことでそれは打ち破られた。

 

「っ!!」

 

その音に気付いた足は急速に此方へと迫ってくる。

今は【貌なき王】を発動しているため、仮に机の下を覗かれてもその存在はサリーを見つけることはできないのだが、いつもの冷静さがないサリーは恐怖から机の下から転がり出て、バタバタと部屋から抜け出した。

 

「た、助けてぇええええっ!!」

 

思わず上げたその声に反応してくれたのは、壁や地面から伸びる白い手と、血にまみれて体の抉れた子供の霊だった。

白い手も子供の霊も声の主を探すように辺りをキョロキョロと彷徨っているが、当然、ホラー感満載な光景にサリーは益々追い詰められていく。

 

「【超加速】!超加速、超加速ぅ!!」

 

サリーはスキル名を何度も告げ、幽霊から逃げる為に無茶苦茶に走ってまた別の部屋へと入る。

 

「……ぅぁぁ……」

「ひぎゃぁああああああああっ!!」

 

その部屋にいた片目が空洞になっている男の霊に、サリーは絶叫。すぐさま部屋を飛び出して再び無茶苦茶に走っていく。

当然、廊下にも幽霊が溢れかえっているので何処もかしこもサリーにとっては地獄なのである。

 

幸い【貌なき王】のおかげで幽霊達はサリーを捉えきれておらず、逃亡自体は比較的容易ではあったが、無茶苦茶に逃げているサリーはエリアの奥へ奥へと進んでしまっている。

そして……

 

「ひぐっ……すん……っ」

 

サリーは現在、ベッドの下に隠れて泣いていた。

逃亡の最中で運悪く、あの冷たい腕に何回か捕まってしまい、AGIが大分減少していた。

 

もし幽霊がオークやゴブリンの見た目をしていたなら、触れてくる腕を容易にかわし続けていたであろう。

だが、明らかな人の姿をした幽霊の前にはその回避能力も発揮しないのである。

 

「お願い……来ないで……」

 

サリーは泣きそうな声で幽霊が来ないことを祈る。

【貌なき王】は単身で挑もうとしたフィールドで一回、この洋館で既に一回使ってしまっている。残り回数は後三回。

今は効果が切れており、連続発動は出来ず次に使用可能となるには30分も掛かる。

 

「後十分……それが過ぎればまた使える……それまでは……」

 

祈るように手を組む、そんなサリーの願いを破るように足音と扉が開く音がサリーの耳に聞こえてくる。

そして、ベッドの下にいるサリーの目に入るのは……あの青白い足である。

 

「……っ!!」

 

また例の幽霊が現れたことでサリーは息を殺し、気配を殺す。

だが、それもメッセージの着信音でまたしても打ち砕かれた。

急速に迫る足音。サリーは急いでベッドの下から這い出て再び部屋から飛び出して逃亡を再開する。

 

「何でまたこうなるのよぉおおおおおっ!?」

 

サリーは涙を浮かべながら再び廊下を駆けていく。

ちなみにそのメッセージを送られた相手はコーヒーで、内容はログアウト制限エリアに到着したという本来なら嬉しい知らせである。

そうとは知らないサリーはメッセージが届いたことを恨みつつ、そのまま次の部屋へと飛び込んだ。

 

「はぁ……はぁ……もう、嫌だ……」

 

サリーは泣きそうな声で呟きながらその場に座り込む。そこでようやく部屋の中を認識した。

 

床や地面にべったりと付着した血。

同じく血塗れとなっている棘だらけの椅子や木馬、鉄の処女という中世の拷問器具。

部屋の中央の台にちゃり、ちゃり……と音を鳴らして向き合っている二メートル近い巨体の何かがいた。

 

「……っ!!」

 

完全にヤバい部屋に入ってしまったとサリーは気づくも、その巨体もサリーの存在に気付いたのか、ゆったりとした動作で体をサリーの方へと向ける。

 

血に塗れたボロボロの衣服に、右手には服と同じく血に塗れた肉切り包丁。

そして、その顔は血の飛沫がかかった不気味なホッケーマスクによって隠され……膝から下は途中で消えていた。

 

「あ……ああ……」

 

そのホラー映画に出てくるジェイソンのような姿をした幽霊を認識したサリーは、あの幽霊とは別の、このログアウト制限エリアの部屋の一つにいるモンスターの存在を思い出した。

 

そのモンスターに捕まると部屋の中央にある台の上に拘束され、確定ダメージの攻撃をまるで解体するかの如くゆっくりと刻んでいくというホラー感満載の特性を持っているのである。

 

「いやぁああああああああああああっ!!」

 

サリーは大声を上げて立ち上がり、扉を開けて部屋から脱出しようとする。だが、この部屋はジェイソンモドキを倒さないと開かない仕組みの為、ガチャガチャと音を鳴らすだけで開く気配はない。

その間にもジェイソンモドキは肉切り包丁の血をたらしながらゆっくりとサリーに近づいてくる。

 

「か、【貌なき王】!!貌なき王、貌なき王!!」

 

普通ならここで戦闘をするだろうが、すでに心が折れているサリーは戦うという二文字は頭の中からすっかり消えてしまっており、ひたすらに逃げるためにスキル名を叫んでいる。

 

しかし、【貌なき王】は再使用可能とはなっておらず、そもそも発動条件を満たしていないので発動することはない。

そして、必死に逃げようと扉と格闘していたサリーの左腕が、ジェイソンモドキの血が滴る大きな左手に掴まれた。

 

「は、はははっ、離してぇっ!!」

 

サリーは涙を浮かべて振りほどこうとするも、ジェイソンモドキのSTRは高く設定されており振りほどくことは出来ない。

そのままサリーは部屋の中央へと強引に連れていかれる。

 

「いや、いやぁっ!!」

 

サリーは泣いて叫ぶもジェイソンモドキは止まらず、サリーをそのまま台の上へと乗せる。

同時に台の四つの角に刻まれた魔法陣から鎖付きの枷が飛び出し、瞬く間にサリーの手足に嵌まって台の上へと拘束してしまった。

 

「や、やだ!やだぁっ!!」

 

サリーは拘束された台の上で暴れるも、手足に嵌められた枷の鎖がガチャガチャと音を鳴らすだけで拘束から逃れることは出来ない。

 

そんなサリーを、ジェイソンモドキはホッケーマスクの目の穴から覗き込む。その穴から見える目は……暗い空洞であった。

 

「あ……」

 

それを認識してしまったサリーから一切の力が抜けてしまい、台の上で静かになってしまう。

ジェイソンモドキは肉切り包丁を床に捨てると、滴る血からコの形をした大きな杭を作り出す。

その杭を、サリーの腹部を挟み込むように台へと深く差し込み、完全に台の上に固定してしまった。

 

「やめて……やめて……」

 

サリーは涙を溢して弱々しく首を振って懇願するも、モンスターであるジェイソンモドキが止まることは勿論ない。

ジェイソンモドキは滴る血で今度はノコギリを作り出し、その血が付いたノコギリをサリーの腹部へと添える。

そのままサリーにトラウマが刻まれる……直前でばん!と扉が乱暴に開けられた。

 

「っ!【聖刻の継承者】!【聖槍ファギネウス】!!」

 

その扉を開けた人物―――コーヒーが状況を認識して、二つのスキルを間髪入れずに発動させる。

途端、大量の白い槍が一気に放たれてジェイソンモドキに容赦なく襲いかかり、ジェイソンモドキに大ダメージを与えていく。

 

「集え!【グロリアスセイバー】!!」

 

さらにだめ押しとばかりに最強魔法も叩き込む。

白い槍に何度も穿たれ、最強魔法である雷の宝剣をマトモに喰らったジェイソンモドキは、そのまま光となって消えるのであった。

 

ピロリン♪

『スキル【アイアンメイデン】を取得しました』

 

新しいスキル取得の知らせが届くが、コーヒーは今回はそれに構うことなく、硬直が解けてすぐにサリーへと駆け寄っていく。

 

「サリー、無事か!?」

「うっ、ううぅ……CFぅ……」

 

ジェイソンモドキが消えたことで、枷と杭が消えて自由となったサリーはそのままコーヒーにしがみついた。

 

「お、おい?サリー?」

「うわああぁん……CF……シィエフゥ~……ひっく、ぐす……」

 

サリーは困惑するコーヒーにしがみついたまま、ぐずぐずと泣き続ける。

幽霊にずっと追いかけられ、最後にはジェイソンモドキにトラウマを刻まれかけたのだ。

というか、サリーの幽霊嫌いが悪化したような気もしなくはないが。

 

取り敢えず、サリーが落ち着くまで待つしかないとコーヒーは考え、メイプルにサリーと合流、保護したというメッセージを送る。

少ししてメイプルからメッセージが返ってきた。

 

『良かったよー。私も二人がいるエリアに到着したから急いで探しに行くね!』

 

どうやらメイプルもこのログアウト制限エリアに到着したようだ。

それを確認したコーヒーはサリーが落ち着くまでは流れに身を任せることにする。

しばらくはサリーにしがみつかれた状態が続き、泣き声が収まったのを見計らってコーヒーはサリーに話しかけた。

 

「落ち着いたか?」

「うん……滅茶苦茶恥ずかしいから顔は見ないで……」

 

サリーはそう言ってコーヒーから離れずに外れていたフードを被り直す。

コーヒーもサリーの泣き顔をばっちりと見ていたので、相当顔が赤くなっているであろうことは想像できた。

 

「それは構わないが……そうまでしてこの洋館で手に入るスキルが欲しかったのか?」

「止めておけばよかったと後悔しているところです……本当に」

「そういえばアイツを倒した時に新しいスキルが手に入ったんだが……」

 

コーヒーはそう言って画面を操作し、スキルの内容を確認していく。

 

 

===============

【アイアンメイデン】

HPを消費することでノコギリ、マチェット、杭、肉切り包丁の何れかを作り出すことが出来る。

与えられるダメージは消費したHPに依存し一分経つと消滅する。

使用してから三分間、HPは一切回復出来ない。

口上

血潮に濡れし刃物 我が鮮血を対価に作り出さん

===============

 

 

「……絶対心臓に悪いよな」

 

【アイアンメイデン】の口上から、どういった見た目になるのかを察したコーヒーは複雑な気分で呟く。

 

「サリーは?」

「……強力だけどいらない。【廃棄】する」

 

サリーも【アイアンメイデン】を取得できたようだが、サリーのHPは低い上にトラウマを刻まれかけた存在を明確に思い浮かべらされるスキルは持ちたくないようである。

 

「そろそろメイプルと合流するか。サリー、歩けるか?」

「うん……」

 

一応、歩けるまでには落ち着いたらしく、コーヒーはサリーの手を握ったまま部屋の外へと出る。

ひとまず、道中の幽霊はコーヒーがさくっと始末しながらもと来た道を辿っていると……

 

「ひぃっ!?」

「メイプル……いや、この場合は仕方ないのか……?」

「あはは……ゴメンね?しばらくじっとしてたんだけど、全然離れてくれないんだよね」

 

徘徊幽霊に見事にくっつかれ、玉座に座って見事に身動きが取れなくなったメイプルと鉢合わせしてしまうのであった。

 

 

 




一方……

「ちくしょう!どこだよここは!?」
「こうなったら俺一人で……ぎゃあああああああっ!?」
「こっち来んなぁあああああああっ!?」
「悪霊退散!悪霊退さぁああああああんっ!!!」

バラバラとなって幽霊に襲われる報われない四人の図。

「……あいつらどうする?」
「放置でいいだろ。全部から回ってるし、何より見ている分には面白いし」
「実害がない限りはBANしない方向だな」

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