クロムが新スキルを手に入れて数日。
コーヒーは現在、カナデとシアンと共に東の墓地に向かっていた。
「確か、目的のスキルはリッチーの姿をしたボスがドロップするんだよね?」
「ああ。墓地にはスケルトンやレイスが大量に徘徊している上にすぐに群がるから避けて通るのは困難だけどな」
「後、そこで出現するモンスターが低確率でMPとINTを上げるネックレスをドロップするみたいです。なので、すいませんが……」
「別に構わないさ。少し使いたい魔法もあったしな」
「うん。レベル上げにも丁度いいしね」
シアンの言葉にコーヒーは何てことのないように答え、カナデも紫の魔導書を手元でくるくる回しながら頷く。
コーヒーはジェイソン事件の後、新スキル【アイアンメイデン】の使い勝手と効果をメイプルの協力のもと確認していた。
【アイアンメイデン】は説明欄に記載されていた通り、HPを50消費して発動すれば、与ダメージが50になるという対プレイヤー向けのスキルだった。
何せVITや軽減、無効を無視してダメージを与えれれるから【不屈の守護者】や【空蝉】といったスキル以外では攻撃を耐えられないのだ。
ただ、作り出せる武器はどれも真っ赤な血に塗れており、メイプルも怖いと感想を洩らしていた。同時にあれのダメージが抜けていないサリーの前では使わない方がいいとも。
「カナデは今日はどんなスキルを引き当てたんだ?」
「んー、今日役に立ちそうなのは【鎮魂の聖歌】かな?幽霊やゾンビといったオカルトモンスターにしか効果は発揮しないけど、大幅に弱体化できる魔法だよ」
「……本当に引きが強いな」
「うん。【ミラーデバイス】でその魔導書も数十冊は作ったからね」
「でも、大丈夫なんです?【ミラーデバイス】は魔導書に保管した分しか……」
シアンが心配そうに呟くも、当のカナデは特に気にした様子もなく答える。
「大丈夫だよ。【ミラーデバイス】の魔導書はまだまだ数え切れない程残ってるし、戦闘で使う【ミラージュロイド】の方もたっぷり保管しているからね」
「本当に【魔導書庫】と相性が良いよな」
第四回イベントの最中で引き当てたスキル【夢の鏡】が内包していたMP消費スキルと【魔導書庫】と本当に相性が良いことにコーヒーは何とも言えない気分となる。
「そういえば、この階層で手に入るスキルで少し凶悪なのがあったね。CFにとってだけど」
「……【矢避けの加護】のことか?」
コーヒーのその言葉にカエデは頷く。
【矢避けの加護】とはスキル発動から二分間、飛び道具による物理的な遠距離攻撃が一切当たらなくなる、弓やクロスボウを武器とするプレイヤーにとっては凶悪なスキルである。
一応、一メートル以上でないと効果は発揮しないという条件があるが、遠くから攻撃を当てる弓使いにとっては凶悪であることには変わりはない。
現在、このスキルを手に入れようと多くのプレイヤーが躍起になっている。その理由は言わずもがなである。
その中に【炎帝ノ国】と【集う聖剣】のプレイヤーも含まれていることは言うまでもない。
「その場合は魔法や【クラスタービット】等で応戦するつもりだが?」
……もっとも、手札が多いコーヒー相手には微妙なところではあるが。
そんな新しいスキル等で会話に花を咲かせながらコーヒー達は歩いていく。
当然、フィールドで彷徨っている幽霊がコーヒー達に気付いて接近するも―――
「響け、【鎮魂の聖歌】」
「弾けろ、【スパークスフィア】」
「輝け、【フォトン】!」
カナデの【鎮魂の聖歌】によって響いた音色で幽霊達は大幅に弱体化され、それをコーヒーとシアンが吹き飛ばしてあっさりと消し飛ばした。
そんな風にサクッと幽霊達を倒しながら進んでいると、目的の墓地へと到着する。
「ついたね。情報通り、レイスやスケルトンがいっぱいだね」
「それじゃ、道中の幽霊を殲滅しながら奥を目指すか。迸れ、
コーヒーはそう言うや否や、すぐに【リベリオンチェーン】を発動して周辺にいたレイスとスケルトンを雷撃と共に光へと還元していく。
コーヒーが【リベリオンチェーン】を使ったのは、今回試したい魔法の使用条件が【リベリオンチェーン】を五回以上使用しておかなければならないからだ。
「【鏡の檻】」
カナデは紫の魔導書を開き、高さ10メートル、半径6メートルはあるであろう鳥籠のような形をした紫の檻【鏡の檻】でスケルトンとレイスの群れをその中へと閉じ込める。
「それじゃシアン、よろしくね」
「はい!溢れよ、【フラッシュティア】!!」
カナデの言葉に頷きながら、シアンは地面から光の衝撃を放つ光魔法【フラッシュティア】を【鏡の檻】の内部で発動させる。
敵を閉じ込めつつ、光魔法の効果と威力を上昇させる檻の中で放たれた光の衝撃波は檻の中を全て呑み込み、中に閉じ込めていたスケルトンとレイス達を全て吹き飛ばした。
「【鏡の檻】は耐久値はあまり高くないし、増幅の役目を終えたら壊れちゃうけど……シアンが放てば確実に葬れるね」
「はい!【フラッシュティア】は本来は攻撃範囲が狭いですけど、カナデさんのおかげで一度に多くのモンスターを吹き飛ばせます!!」
「うわぁ……これはこれで凶悪な組み合わせだな。いや、メイプルの時と比べたらマシか?」
ブーメランであることに気付かず、コーヒーは何とも言えない表情で呟く。
第四回イベントの無限増殖コンボは本当に凶悪であった。大量のメイプルの前に多くのプレイヤーは最終的には逃亡一択となったのだから。
……先にも言ったが、スキルの組み合わせで一人でおかしい一撃を放てるコーヒーも十分凶悪だが。
「アイテムは……全部素材だね」
「やっぱり一発で出てこないですね」
「低確率だから仕方ないだろ。片っ端からモンスターを根気よく倒していくしかないだろ……迸れ、【リベリオンチェーン】」
コーヒーはそう言いつつ、【リベリオンチェーン】を再び放って同じくスケルトンとレイス達を倒していく。
「【ミラージュロイド】」
「「「【鏡の檻】」」」
カナデは【ミラージュロイド】で自身の分身を作り出し、その分身に【鏡の檻】を発動させて先程と同じように檻の中へと閉じ込める。
「溢れよ、【フラッシュティア】!【連続起動】!!」
シアンも先程と同じ魔法を【連続起動】でノータイムで発動して次々とスケルトンとレイス達を吹き飛ばしていく。
それを繰り返しながら奥を目指して進み続け、ボスが出現するエリアの手前でコーヒーが倒したモンスターが黒い宝石が填められた首飾りを落とした。
「お?これが例の装備か?」
コーヒーはその首飾りを拾って装備の詳細を確認していく。
===============
《隠者の首飾り》
【MP+250 STR-30 VIT-30 DEX-30 AGI-30 INT+50】
===============
「……これはシアンしか装備出来ないな」
「うん。僕やCFじゃちょっと厳しいね」
装飾品の詳細を確認したコーヒーとカナデは微妙な表情で呟く。
確かにこの装飾品はMPとINTを上げるがそれ以外の、HP以外のステータスを大きく下げてしまう。STRは百歩譲ってスルーできても、それ以外のステータスも下がるので最悪の場合極振りと同じステータスになってしまう。
普通の魔法使いでも、装備するのを躊躇う程バランスが悪い装備品だ。
「という訳で、これはシアンに上げるよ」
「え、でも……」
「正直これを使う機会は俺にはないし、INT極振りのシアンの方がこれを活かせるしな」
コーヒーはそう言って《隠者の首飾り》をシアンに譲る。
「すいません、ありがとうございます。このお礼は何時かしますね」
シアンも素直に受け取り、頭を下げてお礼を告げる。
「それじゃ、この先にいるボスをサクッと倒して帰ろうか」
「はい!」
「ああ。それで今回試したい魔法を最初に放つが構わないか?」
コーヒーのその言葉にカナデとシアンは頷いて了承する。
そのまま墓地の最奥へと到着し、少々物々しい墓標からボスモンスターである黒のローブを纏ったリッチーが幽霊の如く姿を現す。
「それじゃ……墜ちろ!【リベリオンチェーンメテオ】!!」
コーヒーはある程度の基礎威力を測る為に【詠唱】のみで魔法を発動する。
リッチーの頭上に雷の鎖の欠片が次から次へと集まっていき、巨大な雷鎖の塊になっていく。
そのまま巨大な雷鎖の塊はリッチーへと真っ直ぐ落下し、容赦なく押し潰した。
【リベリオンチェーンメテオ】は使用可能条件と一度使用すると【リベリオンチェーン】の使用回数がリセットされる故にその威力が高く設定されている。
実際、リッチーのHPバーは一気に半分まで減っているからその威力は【グロリアスセイバー】の次に高そうである。
本来、運営は【リベリオンチェーンメテオ】が【雷帝麒麟】の最強魔法として設定していた。【グロリアスセイバー】は武器を犠牲にする特性から使用自体が困難になる筈だったが、【破壊成長】付きのユニーク装備のせいでそのデメリットは全く機能しなくなってしまった為、【グロリアスセイバー】が最強魔法に成り上がってしまったのである。
「【ミラージュロイド】」
「「「【鎮魂の聖歌】」」」
「輝け、【フォトン】!【連続起動】!!」
そんな裏事情に構うことなく、カナデはリッチーを大幅に弱体化させ、シアンが光球をどんどん放ってリッチーのHPを消し飛ばしていく。
結果、リッチーはほとんど何も出来ずに倒されてしまうのであった。
「今回の向こうの敗因は?」
「幽霊と魔法耐性がなかったのがいけなかったと僕は思うよ」
コーヒーの質問にカナデは事実だけを告げる。
確かにシアンの魔法は威力がおかしいが、カナデが魔導書として保管している魔法攻撃を無効にする防御魔法【ディスペルマジック】といった対魔法スキルもあるから必ずしも無敵ではない。
STR極振りのマイとユイも遠くから攻撃されれば自慢の攻撃力を発揮できないし、メイプルもタネさえ分かればしっかりと対策が取れる。
コーヒーも高威力の攻撃は色々と制限があるので、基礎威力は低いのが現状である。
「コーヒーさん!カナデさん!スキルの巻物が落ちてましたよー!」
シアンがスキル巻物を三つ持って二人に駆け寄り、全員でその効果を確認する。
===============
【死霊の助力】
魔法とスキルによるMPの消費量が10%軽減される。
===============
「名称を除けば普通に良いスキルだな」
情報通りのスキル効果にコーヒーは満足げに頷く。
ただ、サリーがこの名称を知ったら幽霊の手助けなんていらない、と言いそうだとも思った。
もちろん、三人は迷わずに巻物を使用してスキル【死霊の助力】を取得した。
「じゃ、帰るか」
「だね」
「はい!」
そうして、三人は道中のモンスターを倒しつつ、町へと戻っていくのであった。
―――――――――――――――
一方その頃。
「ああ……このモフモフ感、本当に癒される」
サリーは五層のギルドホームの自室で、朧をモフモフして寛いでいた。モフモフされている朧も嬉しそうにサリーにされるがままに委ねている。
「レベル上げは……もう二、三日経ってからにしようかな?まだ、そんな気分じゃないし……」
幽霊屋敷のジェイソンモドキに与えられた精神ダメージがまだ癒えていないサリーはそう呟く。こうして朧を呼び出して戯れているのがその証拠である。
そんな中、ギルドの扉を叩く音がサリーの耳に届いた。
「ん?一体誰なんだろ?」
サリーは疑問に感じながら部屋を出て、ギルドの入口の扉を開ける。
そこに立っていたのは、フレデリカとサクヤの二人だった。
「フレデリカにサクヤ?どうして二人が此方に?」
今頃六層でレベル上げや新しいスキルや装備を探していると思っていたサリーは、二人の来訪に思わず疑問の声を上げる。
「いやー、ちょっと気分転換にお話でもねー」
「イエス。先日、六層の幽霊屋敷で怖い目にあったので……って、サリーさん?顔が真っ青ですよ?」
サクヤの幽霊屋敷の単語にサリーはあの出来事を思い出し、顔を真っ青に染めていく。
「あー……サリーちゃん、ひょっとして六層に行ってた?」
フレデリカの質問にサリーはコクリと頷く。それでサクヤもサリーが顔を青くした理由を察した。
「オウ……サリーさんも
「……うん。CFのおかげで死に戻りはしなかったけど……ね」
「サリーちゃんは死なずに済んだんだねー。私は一人で幽霊屋敷に挑んだから……」
「私なんて、ドラグさんがやられたせいで……」
フレデリカとサクヤはジェイソンモドキにダメージを与えられた時を思い出し、一気に死人のような表情となる。
「正直、まだ夢に出てくるんだよね……」
「イエス。あれは下手したらトラウマになりますよ。彼処へはもう二度と行きません……」
フレデリカとサクヤのその言葉に、サリーはトラウマを刻まれずに済んで良かったと、本気で助けてくれたコーヒーに感謝した。
「本当は、この出来事を話してサリーさんをビビらせようと考えてましたが……ジョークになりそうにないので今回は自重します」
「……本当に性格が悪いわね」
「センキュー。誉め言葉です」
その後、三人はギルドホームで大富豪やババ抜き、ポーカーといったトランプゲームで遊ぶのであった。
「なあ、ジェイソンモドキが怖すぎるという意見が大量に届いてるんだが?(ニヤニヤ)」
「怖がってくれて何よりだな(ニヤニヤ)」
「本当に苦労した甲斐があったな(ニヤニヤ)」
「お、またジェイソンモドキの被害者が出たぞ(ニヤニヤ)」
「ちなみに一番は?せーの」
「素で大泣きして自爆したミィ!」
「弱々しく懇願したサリー!」
「大泣きして暴れたフレデリカ!」
「意気揚々と挑んで返り討ちにあったサクヤ!」
「バラバラじゃないか!」
満場一致しなかった運営の図。
感想お待ちしてます