第一回イベントの翌日。
コーヒーは何時ものようにイズの店へ訪れていた。
「黒水晶300、ウィンドイーグルの羽400、麒麟の鱗50、メタルスライムの欠片30で装飾品としてのガントレットを作って欲しい……と」
「はい。イベントには間に合わないので見送ったんですけど、明日は大型アップデートがあるのでそれに合わせて」
明日のNew World Online発売三ヶ月目に行われる大型アップデート。幾つかの新スキルとアイテムの追加はネットを賑わせたが、本命はそこではない。
今回最大の目玉は、新階層の追加だ。
現在の一層目となるマップの最北端にあるダンジョンにいるボスをパーティー、ソロ問わずに倒せば、二層目となるマップに進めるようになる。
新しい素材アイテムの追加で、イズは作れる物が増えると喜び、クロムはどんなスキルが手に入れようかと思案していた。コーヒーももちろん、素材やスキルの追加に俄然やる気が出たものだ。
「うーん……出来ないことはないけど……個人的には蒼水晶と金カブトの甲殻も欲しいわね」
「それがあったら、もっと良いのが出来るんですか?」
「そうよぉ。そのユニーク装備にピッタリなガントレットが作れるのよー。もちろん性能もね」
「どちらも普段イズさんが採掘している洞窟に出てきますね。わかりました、明日までに持ってきます」
コーヒーはDEXが比較的高く、【採掘】スキルもあるので入手自体は然程難しくはない。場所も【ライトニングアクセル】を使えばあっという間だ。
「頑張ってねー」
そうしてコーヒーはイズの店を後にする―――前に、新たな来訪者が現れた。
「イズさん!お久しぶりです!」
「あら!いらっしゃいメイプルちゃん。随分と有名人になったわね」
「ありがとうございます!あっ、コーヒーくんもこんにちは!今日は、イズさんに話があってきたんです……無理ならいいんですけど……」
メイプルはそう前置きして、ここに来た目的―――性能より、見た目に拘った純白の装備一式の製作費用は幾ら掛かるのかと聞いてきた。
「そうね……ある程度素材を持ち込めば、装備一式でも100万Gに抑えこめると思うわ。素材によってはある程度性能は上がるかもしれないけどね」
「白い素材でメイプル向きとなると……洞窟の白水晶と、地底湖にいる白い魚の鱗かな?」
「地底湖の魚はメイプルちゃんでも釣れると思うけど……採掘する白水晶の方は厳しいかしらね?メイプルちゃん、DEX、結構低いでしょ?」
「はい……」
素材情報を聞いて分かりやすく肩を落とすメイプル。まあ、素材の入手が難しいと知らされたら当然だろう。
「あっ、そうだ!ちょうどコーヒーが素材集めに洞窟に行くから、護衛という形で一緒に行ったらどうかしら?コーヒーなら採掘できるし、ね」
妙案とばかりに、自身の両手を叩くイズ。
「うーん……俺は別に構わないんだが……メイプルはどうなんだ?」
「あ、はい!よろしければ同行させて下さい!!」
どうやら問題ないようである。
白水晶が出たら、それは全部メイプルが貰うという形で護衛の依頼料と決め、コーヒーとメイプルは洞窟へ向かうことにした。
「ま、待ってよ~、コーヒーく~ん……」
「……本当に遅いんだな」
コーヒーは立ち止まって亀の如き速度で追いかけてくるメイプルを待つ。
このペースだと、洞窟に到着して奥の採掘場まで辿り着くのに時間がかかる。それだと、採掘の時間が減ってしまう。
準備はログイン前に済ませているとはいえ、明日は学校があるのだ。夜更かしして寝坊でもしたら洒落にならない。その為、移動にそこまで時間をかけるわけにもいかないのだ。
なので、少し強硬手段で行くことにした。
「メイプル、先に謝っておく。すまん」
「え?コーヒーくん?どうして急に謝って、私の手を握って」
「迸れ!
「へ?―――うわぁああああああああああああっ!?」
町を出て早々、メイプルの手を握ってからの強化補正された【ライトニングアクセル】による全力疾走。メイプルの叫びが道中で木霊する。
無論、道中のモンスターは完全無視である。
結果、十分足らずで目的の洞窟の入口前に辿り着いた。
「うにゅ~~……」
「……本当にノーダメージだな。どんだけVITに振っているんだよ」
目を回して何とも抜けた声を上げるメイプル。コーヒーの言う通り、メイプルのHPバーは微塵も減っていなかった。
その後、何とか復活したメイプルと共に洞窟の中へと潜っていく。
「さすがに酷いよコーヒーく~ん。せめて、説明してからにして欲しかったよぉ」
「悪かったよ。リアルの都合もあるし、出来る限り採掘の時間を確保したかったんだよ」
「あー、わかるよ。私もそっちを疎かにするわけにはいかないし」
「ま、この埋め合わせは護衛の報酬でちゃんと補填するさ」
「約束だよ!!」
そんな会話をしながら、コーヒーとメイプルは奥へと目指していく。
道中、蜥蜴やゴーレム、お目当ての金カブトが襲いかかってくるも……
「えい!」
メイプルの黒い大盾一つで、苦もなく撃退されるのだった。
「本当にその盾、強力すぎるだろ」
「あはは……強いからスキルの取得に向いていないんだよね。触れた瞬間に自動で発動して全部飲み込んじゃうから」
「ああ。だからスキル取得用も兼ねて、純白の装備一式が欲しいと」
確かにメイプルのあの大盾はスキル取得にはあまりにも不向きである。対象を問わずに全部飲み込むのだから。
コーヒーは微妙な気分になりつつも、金カブトだけは先に仕留めて素材の甲殻を回収していく。メイプルの盾だと素材まで全部飲み込んでしまうからだ。
「コーヒーくんの攻撃、全然弾かれないんだね」
「まあ、防御力を無視出来るスキルを持っているからな」
「防御無視!?つまり、コーヒーくんの攻撃は痛いってこと!?」
「そうなるな。クロムが痛そうに腹を押さえていたのは知ってるだろ?」
勿論、他言無用だということも付け加えておく。メイプルも素直に頷いて了承してくれる。
「さてと、ようやく目的の場所についたな。入口の見張りは任せたぞ」
「任されました!」
画面を操作して、クロスボウからピッケルに持ち変えたコーヒーは採掘を始めていく。
メイプルは大盾を構えて見張りに務める。
ただ無言で採掘するのも暇なので、せっかくだから会話しながら採掘することにする。
「そういえば、二層へ行く為のボス退治はどうするんだ?」
「うーん……出来れば私の友達と一緒に行きたいなぁーって思ってます」
「友達?もしかしてリアルの方のか?」
コーヒーの疑問に、メイプルはあっさりと頷いて答えていく。
「はい。実は、その友達に勧められて始めたんですよ」
「そうなのか。で、肝心のその友達は?」
「都合でまだプレイ出来てない状態です」
「おおう……」
友達に進めておいて自分はプレイ出来ないとは……かなり苦行な気がする。
そんな他愛ない会話を交わしながら、採掘を続けていく。
「……っと、そろそろ引き上げの時間だな。白水晶は今回は此れだけ取れたぞ」
コーヒーはそう言って、メイプルに白水晶を63個渡す。目的の蒼水晶は34個しか採掘できなかったが、他の鉱物系素材アイテムも手に入っているので結果は上々だろう。
「後、今回採掘した蒼水晶以外の鉱物は山分けな。これらを売れば少しは財布が潤うぞ」
「ありがとうございます!!」
「例の詫びだからお礼はいらないよ。それじゃ、またな」
「はい!今日はありがとうございました!」
メイプルの感謝の言葉を最後に、コーヒーはログアウトした。
―――現実。
「さてと……もう寝るか」
浩はハードの電源を落とし、さっさとベッドに潜って就寝についた。
―――――――――――――――
「それじゃ、行ってきます」
「いってらっしゃーい」
制服を着て、母に見送られて学校に向かう。
ここ数日で日差しも強くなり、春らしく、ぽかぽかとした陽気が心地よくなってきている。
浩の席は窓際ではないので、その辺りはあまり関係ないかもしれないが。
それでも、浩は春を感じることが出来る。
その理由は―――
「ずずっ……今日は鼻の調子が悪いなぁ……マスクしてるのに……」
花粉症を患っているからだった。
なので、通学中はマスクを着用しているのだが、本日は調子が悪いので一日コースだろう。
ちなみに家から学校までは歩いて15分。結構近いのである。
あんまり酷いなら、鼻にティッシュを詰めて、耳栓ならぬ鼻栓で強引に鼻水を止めることも考えながら、校門をくぐる。
そのまま教室に辿り着くと、既に二人の女子生徒が登校して席について何かを話し合っていた。
「おはよう。本条さんに白峯さん。相変わらず早いな」
「あ、おはよう!新垣くん!」
「おはよう新垣。そういうアンタも早いでしょ」
浩の挨拶に、二人の少女はいつものように返す。
最初に挨拶を返した黒髪の少女は本条楓。細身で、可愛らしい容姿と体躯から学校内で好かれている人が多いクラスメイトだ。
もう一人の黒に近い茶髪で活発そうな少女は白峯理沙。本条とは友達らしくよく一緒にいる。
浩は登校が比較的早い方だから、二人とはこうしてよく挨拶している。たまに白峯さんから振られる話に相槌を返す程度の仲だが。
浩は自分の席に座ると、持ってきていた本を読み始めていく。もっとも、内容は8割スルーで、ほとんどがゲームについて考えているが。
今日のゲームは昨日と同じ素材集めか、それともイズさんに製作を頼み込むか考える中、本条と白峯は会話を再開していく。
「どうしようか、理沙。新垣くんが来ちゃったし、続きは帰りながらの方がいいかな?」
「続けて大丈夫じゃない?新垣はゲームなんてやってなさそうだからスルーしそうだし」
無視するのは事実だが、妙な偏見を持たれていることに浩は少しムッとして、白峯に反論の言葉を返した。
「それは偏見だろ。俺だってゲームくらいはやっている」
「へー、意外。成績いいから、てっきり家では勉強に時間を費やしているのかと」
「授業を真面目に受けて入れば十分にとれるぞ。基本的には宿題しかやっていないしな」
「……なんか、ズルい」
白峯がジト目で文句を言ってきているが、それなら授業中に居眠りしなければいいとだけ返しておく。
「それじゃあ新垣くんはどんなゲームをやっているの?」
「……New Wolrd Online。今話題のVRMMOゲームだ」
「え?マジで?新垣もやっているの?地味にショック」
本条の質問に今やっているゲームタイトルで返すと、白峯は若干肩を落として落ち込んだ。
「……二人もそのゲームをやっているのか?」
「うん!そうだよ!理沙に勧められてね!」
「私の方は今日からだけどね。ようやく親からゲームの許可が下りたから……あー、無性に新垣が羨ましー」
どうやら白峯は話の流れからして、勉強関係ですぐにゲームができなかったようだ。
「ま、運が良かったら向こうで会えるかもな。ゲーム内のイベントで上位入賞も果たしたからそれなりに有名だし。後、昨日はバグ盾持ちのフレンドと素材集めをしたしな」
「上位入賞……?バグ盾持ちのフレンドと素材集め……?」
浩の言葉に本条は何かを考えるように頭を捻っている。そして、何かに気づいたように口を開いた。
「……もしかして、コーヒーくん?」
「ブフゥッ!?」
本条にキャラネームを当てられた浩は、驚いて思わず吹き出してしまう。
というか、今のワードでキャラネームを当ててくるという事は!
「もしかしてお前、メイプルか!?」
「あ、はい。昨日、コーヒーくんから白水晶と幾つかの素材を護衛の報酬で貰ったメイプルです」
コーヒーの詰問に、本条が昨日の出来事込みで肯定する。
「マジかー……道理で最初に会った時、見たことがあった気がした筈だ。クラスメイトとか……どんな確率なんだよ」
「あはは……私も同じかな。向こうじゃ、髪は白かったよね?」
「リアルバレ防止の一環だ。現実に髪が白いやつは早々いないだろ」
むしろ、本条があれを地毛だと思っていたことにも驚きなんだが。
「世間は狭いわね……」
白峯の言葉に、浩と本条は同意するように頷くのであった。
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