スキルのせいで厨二病患者に認定されました   作:厄介な猫さん

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ジェイソンモドキが本当に人気そうなので、二人の被害者の話を書いてみました
てな訳でどうぞ


ジェイソンモドキの被害者

―――フレデリカの場合

 

「ううー……一人で挑まなきゃ良かったよー……」

 

幽霊屋敷のログアウト制限エリアでフレデリカは周囲を警戒しながら呟く。

一部のアイテムの効果倍増スキルでポーション等の回復アイテムが二倍となるのであれば、上手くいけばポーションの消費を抑えられるかもしれないと考えたからだ。

 

それで今日は予定が空いていたメンバーがおらず、加えて強制ランダム転移のトラップがあることから一人で挑んだのだが、それが失敗だったとフレデリカは痛感した。

 

道中の幽霊は得意の【多重詠唱】による魔法で吹き飛ばしていたのだが、ログアウト制限エリアの徘徊幽霊ビビったフレデリカは脇目も振らずに逃亡したため、見事に迷子になってしまったのである。

 

「ログアウトしようにもできないし……早くこのエリアから出ないと……」

 

そんなフレデリカの耳にギシギシと自身とは別の誰かの足音が届いてくる。

フレデリカは警戒して杖をそちらに構えると……血涙を流す女の霊が暗闇の廊下から現れた。

 

「で、出たぁあああああああっ!?【多重炎弾】!!」

 

徘徊幽霊の登場にすっ頓狂な悲鳴を上げたフレデリカは炎弾を無数に放ってその幽霊を吹き飛ばす。

 

「速めよ、【加速】ぅ!!」

 

もちろん撃破不能モンスターであることは理解しているため、フレデリカは幽霊が怯んだ隙に魔法で自身のAGIを上げて全力でその場から離脱する。

そして、そのまま手頃な部屋に飛び込んでその場に座り込んだ。

 

「はぁ……はぁ……本当に心臓に悪いよー。早くこのエリアから脱出……」

 

そこでフレデリカは気付いた。

血塗れとなった部屋に同じく血で汚れた拷問器具の数々に。

 

「…………」

 

フレデリカがその光景に無言となり、猛烈な嫌な予感に駆られる。

その予感は、的中した。

 

「あ、ああ……」

 

フレデリカは部屋の中央―――この部屋の主であるジェイソンモドキを視界に収めたことで、この部屋は絶対に避けようと決めていた部屋に飛び込んでしまったのだとフレデリカは気付いた。

 

ただ、後に入って怖い目にあったサリーと違うのは極度の幽霊嫌いではない点と、事前に得た情報の量である。

フレデリカは情報収集でこの部屋はジェイソンモドキを倒さないと出られないこと、弱点属性は光と炎、水であることを把握していることだ。

 

「同時に燃えよ、【多重炎弾】!!同時に輝け、【多重光弾】!!幾重に流れよ、【多重水弾】!!」

 

なので、フレデリカは精神を削られながらもジェイソンモドキに有効な攻撃を叩き込む。

 

「ふっふっふ、この私にかかったら―――」

 

フレデリカは若干虚勢を張って笑みを浮かべるも、攻撃によってできた煙から出てきたジェイソンモドキは……ホッケーマスクが取れていた。

爛れた皮膚に剥き出しとなった筋繊維。

 

片方の目は空洞で血を流しており、反対の方は眼球がだらりとぶら下がって取れかけている。

歯も不揃いでボロボロ。鼻に至っては見事に潰れてしまっている。

その顔ははっきり言って……滅茶苦茶怖い。

 

「ひぎゃああああああああああああああああっ!?」

 

当然、その顔を見たフレデリカは絶叫。集めた情報が一気に頭から吹き飛んだフレデリカは逃げ出そうと扉をガチャガチャし始めた。

まあ、当然扉は開かない上にダメージを受けたジェイソンモドキが近づいているわけで。

 

「いやぁああああああっ!?」

 

逃亡しようとしたフレデリカはジェイソンモドキに捕まり、連行されて中央の台に拘束されてしまった。

 

「止めて!本当に止めて!!」

 

すっかりビビり腰となったフレデリカは身を捩って懇願するも、当然ジェイソンモドキは止まらない。

ジェイソンモドキは肉切り包丁を振り上げると、フレデリカの右腕に向かって振り下ろした。

 

「あうっ!?」

 

腕を切断された痛みがフレデリカを襲う。ジェイソンモドキはそのまま何度も肉切り包丁をミンチを作るかの如く連続で振り下ろしていく。

 

「や、あっ、がっ、いっ、やめ……」

 

ダメージエフェクトがまるで鮮血の如く弾ける度にフレデリカに色々な意味でダメージが刻まれていく。

そのままフレデリカはHPをすべて削り取られ、光となってその場から消えるのであった。

 

「…………」

 

死に戻りして六層の町へと帰還したフレデリカは、死んだ表情のまま画面を操作してログアウトするのであった。

二週間後、フレデリカはペインとドレッドと共に幽霊屋敷に再挑戦し、スキル【冥界の縁】を手に入れる事には成功した。

 

「それじゃ、もう一度赴いてあのモンスターに挑戦しに行くかな」

「マジでぇ?流石にめんどくさいんだが……」

「あー!!そういえばリアルでの用事を思い出したから、私はログアウトするね!!」

 

ペインはジェイソンモドキに挑戦しに行く呟き、ドレッドはめんどくさそうに呟き、フレデリカはバレバレの嘘でログアウトして逃げるのであった。

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

―――ミィの場合。

 

(ふぇぇ……まさか一人で幽霊屋敷に行くことになるなんて……)

 

六層が実装された翌日。

ミィは一人寂しくフィールドを歩いて西の幽霊屋敷に向かっていた。

 

(今日はお兄ちゃん達は都合で行けなかったし……みんなが「ミィ様なら一人でも突破できますよ!!」って持ち上げたから、そうだとしか頷けなくて日を改められなかったし……)

 

外面こそカリスマモードの凛々しい姿だが、内心はメソメソ泣いているミィは心の内で嘆く。

西の幽霊屋敷で手に入るスキルはMPとポーションの消費が激しいミィとしては何とかして取っておきたいスキルな為、周りの押しに負けてしまった一因にもなっていた。

 

(後、そこに出てくる例の幽霊の部屋には絶対に行かないようにしよ……)

 

当然、ミィもジェイソンモドキの情報を得ており、絶対に血塗れの扉には入らないと頑なに誓う。

そんな内心で泣きつつも、得意の炎魔法で群がる幽霊を吹き呼ばしつつ進んでいき、ミィは目的の場所へと辿り着く。

 

(うぅぅ……不気味すぎて本当に怖いよぉ~……)

 

ミィは幽霊屋敷の雰囲気に内心でビビりつつも、演技で堂々とした態度で半開きの扉を開けて中へと入る。

エントランスホールを少し歩くと、背後の扉が独りでに閉まる。

 

「ッ!?」

 

ミィは思わずビクッと反応してしまい、慌てて周囲を見渡していく。

 

「……ホッ」

 

ミィはこの場に自分しかいなかったことに、別の意味で安堵した。

ミィは調べた情報を下に、幽霊屋敷の中を歩いていく。当然、廊下に白い手の幽霊や女の霊が現れるも―――

 

「爆ぜよ!【炎帝】!!」

 

お馴染みの魔法で躊躇いなく吹き飛ばし、殲滅していた。

 

「ふん、お前達程度が幾ら群がっても何の脅威でもない」

 

ミィは周りに誰もいないが、カリスマモードでそんな事を呟く。もちろん、どこで誰が見てるか分からないからと言う理由もあるが、それ以上に演技しないと逆に平静を保てそうにないからである。

 

まあ、一人で幽霊屋敷を探索するのは精神的に少しキツいので仕方ないと言えば仕方ないかもしれないが。

そんな外面こそ平常だが、内心ではびくびくしているミィは幽霊の不意討ちに警戒しながら進み、道中の部屋の扉を開けて中を確認しながら進んでいく。

 

「扉に……血はついてないな」

 

ミィは扉を開ける前にその扉の状態を確認してから扉を開ける。

例のジェイソンモドキはログアウト制限エリアにいるのだが、まだ実装から日が経っていないせいで正確な情報が出回っていないためにミィは無駄な警戒をしていたのである。

そして、情報が出回っていないということはこの幽霊屋敷の罠も把握仕切れていないということでもある。

 

「え……?」

 

扉を開けた瞬間、ミィの足元から鈍い青色の光が放たれる。その光の範囲は自身のAGIでは逃げ出せないほどだ。

 

「【フレアア―――」

 

ミィは咄嗟に魔法による離脱を試みるも、ミィはその光に包まれてしまい、その場から別の場所へと強制転移させられる。

 

この強制転移の罠は飛ばされる先はランダム。本当に運任せ。場合によっては最悪の場所に飛ばされる可能もある。

何故この話をしているのかと言うと。

 

「―――ッ」

 

飛ばされたミィの視界に入ってきた光景が血塗れの部屋と同じく血塗れとなった拷問器具が鎮座している部屋だったからである。

そう、ここはミィが絶対に行かないと決めたジェイソンモドキの部屋である。

 

「嘘……本当に嘘でしょ……?何かの間違いだよね……?」

 

演技をするのも忘れ、素で顔を青ざめさせるミィに、無慈悲な現実が襲ってくる。

部屋の中央で作業していたジェイソンモドキが、ミィに気づいてゆっくりと近づいてきたのである。

 

「ッ!!ええ、【炎帝】!!【噴火】!!【爆炎】!!【炎帝】!!【爆炎】!!【蒼炎】!!【炎帝】!!」

 

ミィはジェイソンモドキにビビりながらも得意の魔法を放っていく。

炎球が、火柱が、爆炎が、蒼い炎が容赦なくジェイソンモドキを焼いていく。

 

「ハァ……ハァ……」

 

ミィは壁に背中を預けつつ、燃え盛る炎を見つめる。今の乱発で残り少なかったMPが切れてしまったが、すぐに回復しようと画面を操作しようとする。

そこで、血のような真っ赤な手形がドン!ドン!と音を上げて画面を染めた。

 

「ヒィッ!?」

 

突然の不意討ちにミィはビビってしまう。そんなミィに追い討ちをかけるように、炎の中からダメージを負ったジェイソンモドキが姿を現す。ホッケーマスクは……勿論外れてその顔は露となっている。

 

「―――」

 

ジェイソンモドキのその顔を見たミィは絶句。そして。

 

「いやぁああああああっ!!助けてお兄ちゃぁあああああああああんッ!!」

 

完全に演技を忘れて素で叫んだミィは大慌てで扉へと走り、部屋から脱出しようとする。

当然、扉はガチャガチャと音を鳴らすだけで開く気配はない。

 

「ろろろ、ログアウト!ログアウトォッ!!」

 

部屋から出られないと分かると、涙目となったミィは今度は画面を操作してログアウトによる離脱を試みる。

ここも当然、ログアウト制限エリアなのでログアウト不可能。こちらも失敗に終わる。

 

「え!?なんで!?なんで!?」

 

パニックとなったことですっかり情報が抜けてしまったミィは、無意味にも関わらず画面をタッチし続ける。

そんな無駄な行動をしている間に、ジェイソンモドキに右腕を掴まれた。

 

「ウヒィッ!?」

 

ミィは反射的に後ろへと振り返ってしまう。そこで、至近距離でジェイソンモドキの怖い顔を見てしまった。

 

「ぁああああああああああああああああああああああ―――ッ!!!!!」

 

ミィは屋敷全体に響くのではないかと言わんばかりの大絶叫を上げる。精神的に追い詰められたところであの顔を間近で見てしまったのだ。誰だって恐怖で叫ぶ。

もしサリーがジェイソンモドキの素顔を間近で見たら……間違いなく気絶していただろう。

 

「じじじ、【自壊】!!」

 

涙を大量に溢し、完全に大泣きとなったミィは一秒でも早くこの場から逃げる為に、自爆を選んだ。

部屋から出ることも、ログアウトによる脱出も封じられたミィに残された最後の脱出手段。

 

当然デスペナルティが発生するが、そんなペナルティを考える暇もなく、ただただ、この恐怖から逃げ出す為に使ったのである。

 

直後、部屋から凄まじい爆発音が響くのであった。

……翌日。

 

「うぇぇぇん……怖かったよお兄ちゃぁ~~ん……ぐすっ」

 

四層の裏路地の店で、変装したミィは猫に癒されながらグスグス泣いて従兄に甘えるのであった。

ちなみに最後の自爆でジェイソンモドキは撃破されており、ジェイソンモドキを炎属性で相討ちした場合で手に入るスキル【ファラリスの雄牛】を取得していた。

 

【ファラリスの雄牛】はHPを20%払うことで炎属性全ての攻撃に三分間の継続ダメージとHPに与えたダメージの10%分、MPにもダメージを与えるというミィ向きのスキルなのだが……ミィは素直に喜べなかった。

 

その後、とあるバグから臨時メンテナンスが実行された際、ランダム転移にジェイソンモドキの部屋が外された際、ミィは安心して洋館に再挑戦するのであった。

 

 

 




『本当に怖いよなジェイソンモドキ』
『もはや別ゲーレベル』
『メイプルちゃんなら勝てるかも』
『いや確定ダメージがあるから厳しいんじゃないのか?』
『サリーちゃんはたぶん無理だろ』
『情報持ってきたぞ。メイプルは挑戦無し。サリーは怖い目にあったそうだ』
『まさかのサリーちゃん死亡!?』
『ジェイソンモドキ許すまじ』
『いや攻撃される直前でコーヒーが倒したそうだ』
『標的をCFに変更。火力支援を要請する』
『受理した。今すぐCFへ奇襲をかける』
『こちらも受理した。マジで羨まけしからん』
『マジで止めとけ』

一部スレ抜擢。

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