コーヒー、カナデ、シアンが東の墓地へ挑戦して数日。
コーヒーは今日もスキル入手に動こうかと思い悩んでいた。
「今日はスキル【幽体離脱】を手に入れにいくか?けど、正直使い所がなぁ……」
掲示板でも上がっていたスキル【幽体離脱】は三分間、自身のAGIを75%上昇させるという【超加速】の上位とも言える加速スキルだ。だが、使用中は与ダメージが50%減少するというデメリットも存在するのだ。
正直、このスキルは逃亡向けである。
「正直戦闘向けじゃないし……今日は素材集めとレベル上げにするか?」
メイプルは現在、サリーの為に空中に透明な足場を作るスキルを有した靴を手に入れようと狩りを続けている。
たまには何も考えずにモンスターを狩るのもいいかとコーヒーは考え、今日はフィールドを適当に動いて経験値を稼ぎつつ素材を集めることを決めた。
そんな訳でコーヒーはフィールドへと出るのだが、そこで知り合いのプレイヤーと顔を合わせた。
「久しぶり。今から狩りに行くのか?」
コーヒーの言葉に、知り合いである鬼のような仮面を着けた女性ー―――レイドは振り返ってコーヒーに顔を向けた。
「ああ、久しぶりだなCF。確かに今から狩りに行くが……お前もか?」
久しぶりにあったレイドの言葉にコーヒーは無言で頷く。
「そうか。なら、一緒に行くのはどうだ?予定があるなら無理にとは言わないが」
「いや。今日の狩りは何となくだし、予定もないから別にいいぞ」
レイドの提案を断る理由もないのでコーヒーはあっさりと了承し、二人でフィールドのモンスター狩りへと赴く。
「【雷翼の剣】!断ち切れ、【ボルテックスラッシュ】!!ブリッツ、【散雷弾】!!」
コーヒーはスキルによる変則的な二刀流で近づいてきていた女の幽霊を切り裂きつつ、ブリッツに指示を出して周囲の幽霊に攻撃を仕掛けさせる。
「切り裂け、【紫電一閃】!!」
レイドも紫電を纏わせた蛇腹となった刀で数体の幽霊を同時に切り裂く。
幽霊のようなモンスターには純粋な物理攻撃は通用しないが、スキルによる属性攻撃ならダメージを与えられる。
「追え、【雷鳥撃】!!」
レイドは青い雷を漲らせた左手を払うように振るい、そこから雷を迸らせた青い鳥を放つ。青い鳥はまるで意思があるかのように動き、避けようと動いた幽霊を追って体当たりした。
瞬間、雷撃が炸裂してその幽霊は光となって消える。
「例の雷弾の攻撃スキルか……やっぱり使いやすそうだな」
コーヒーは五層で手に入るスキルを見て小さくそう呟き、クロスボウの引き金を連続で引いて次々と幽霊を射抜いていく。
そんな雷コンビは幽霊を倒しながら適当に進んでいると、枯れた木々が生えている場所が見え始めた。
「お?彼処は……」
「確か情報ではMPが一切回復しないエリアだったな。道中は純粋な物理攻撃が効かない幽霊が蔓延っているとも」
「奥にはボロボロの廃墟があって、そこには一体の強力なモンスターがいると言う情報だったな」
どうやら狩りをしながら進んでいる間に特殊なエリアに近づいてしまっていたようである。
「で、どうする?二人でも挑めないことはないが」
「ふむ……属性攻撃スキルが使える私と全ての攻撃が属性攻撃のCFが一緒なら、このエリアを突破するのは容易だからな。せっかくだから挑んでみよう」
そんな軽い感じで挑戦を決めた二人は、コーヒーは【避雷針】のストックを作ってから枯れた木々のエリアへと足を踏み入れる。
道中の幽霊はレイドのスキルによる属性攻撃とコーヒーの矢によって悉く撃退されていく。
「スキル無しで幽霊にダメージを与えられるとは……武器も普段とは変わらないから、常時発動しているスキルによるのものか?」
「ああ。属性が付与されているから純粋な物理攻撃じゃないからな。それでダメージが与えられているんだよ」
「そうか」
レイドの質問にコーヒーは隠す意味もないと考えてあっさりと明かし、レイドもゲームのマナーからそれ以上の詮索はせずに頷いてその話を終わらせる。
道中は枯れた木の枝に止まっている鴉が行き先の目印となっている情報は既に出回っているので、特に迷うこともなく奥へと目指して進んでいく。
そうして道中の幽霊を退けつつ進むこと数十分。コーヒーとレイドの視界に不気味な廃墟が見え始めた。
「そろそろ目的地だな」
「確か彼処にいるモンスターはフランケンシュタインだったよな?」
「ああ。情報ではSTRとHPが高いそうだ。二振りの金色のハンマーを武器に、挑戦してきたプレイヤーを数撃で葬ったそうだ」
「まるでマイとユイのモンスター版だな……」
何となく象を思い浮かべたコーヒーは苦笑いでそう呟く。これでVITも高く魔法が使えて高火力だったら、一人戦車となっていただろう。
「しかし、フランケンシュタインか……幽霊屋敷のジェイソンと言い、この分だと吸血鬼や狼人間が出てきそうだな」
「確かに。後、レイドはジェイソンに挑んだのか?」
コーヒーの質問にレイドは頭を振る。どうやら挑戦してはいないようだ。
「私は挑戦していないが……フレデリカとサクヤ、ドラグを含めたギルドの何人かはジェイソンに見事にやられたな」
「……その後は?」
「フレデリカとサクヤを含めた女性メンバーが精神にダメージを負った。後、掲示板に書かれていたことだが、サリーも被害に合う直前だったそうだな。それを助けたのがお前だとも」
「……余計な事を」
本当に余計な事を書いていた大盾使いに、今度会ったらジョークアイテム【火だるまの種】をぶちこんでやるとコーヒーは頑なに誓う。
それを察知した大盾使いは背筋に悪寒を感じて身震いして、ギリギリ普通の刀使いは首を傾げていたが。
そんなコーヒーにレイドは苦笑しながら話を続けていく。
「しかし、第四回イベントといい、お前は本当に良いタイミングで現れるな。タイミングを図っているのではないかというくらいにな」
「全部偶然なんだが……確かに本当にタイミングが良いと自分でも思うな」
レイドの指摘に、コーヒーは何とも言えない気分となって遠い目となる。
そのまま廃墟へと足を踏み入れると、中では黄緑色に輝く魔法陣が鎮座していた。
「あの魔法陣の転移先にフランケンシュタインが待ち構えているんだったな」
「ああ。転移先もMPは回復しないから魔法やMPを消費するスキルは慎重に使わないとな」
互いにモンスターの情報を確認しながら、二人は魔法陣に踏み込んでその場から転移する。
光が収まるとそこは薄暗い、広い空間の部屋であった。窓も扉もなく、あるのは部屋の中央にある診察台だけだ。
その診察台には二メートルは優に越える大男が座っていた。その大男は継ぎ接ぎだらけで、耳に当たる部分には金の円錐形のヘッドホンのようなものが取り付けられており、すぐ隣には二振りの金色のハンマーが立て掛けられている。
その大男―――フランケンシュタインはコーヒー達を認識すると立ち上がり、二つのハンマーをその手に握ってぶら下げる。
そのまま、その大柄な体躯からは想像できない素早さでコーヒー達に肉薄した。
「ゴァアアアアアアアアアッ!!」
雄叫びと共に振り下ろされるハンマー。喰らえばタダではすまないその一撃をコーヒーとレイドは互いに弾けるように左右に飛んで避ける。
「迸れ!
「高鳴れ!
コーヒーは【パワーブラスト】を、レイドは【破雷】を放ってフランケンシュタインを挟み込むように攻撃する。
フランケンシュタインはそれらの一撃をマトモに喰らったが、HPバーは僅かしか減らなかった。
「本当にHPがクソ高いな!?」
「これは骨が折れそうだな」
フランケンシュタインの高すぎるHPにコーヒーは毒づき、レイドは不敵な笑みを浮かべながら蛇腹から元に戻った刀を構え直す。
フランケンシュタインはハンマーを構え直すと、レイドに向かって突撃していく。どうやらレイドの攻撃がダメージが大きかったので先に仕留めようという判断なのだろう。
コーヒーはこれをチャンスと見て不敵に笑った。
「【アイアンメイデン】!!」
コーヒーはHPを一割となるまで消費し、血塗れのマチェットを作り出す。それを見たレイドは何とも言えない表情となったがコーヒーは無視して次のスキルを発動させる。
「深淵に潜む光 輝きは次代に継がれ 此処に顕現す―――【聖刻の継承者】!!」
続いてスキル【聖刻の継承者】を発動し、コーヒーは聖刻モードとなる。これで全スキルの効果は上昇。MPの自動回復はフィールドの仕様から機能していないが問題ない。
「この命を賭けて吹雪く絶対零度の粉雪 七つの星が刻まれし時 極寒の檻に閉じ込め砕き散らさん―――【羅雪七星】!!」
さっきの【アイアンメイデン】で一割となったことで発動条件を満たした【羅雪七星】を発動して、コーヒーは全身から冷気を溢れさせる。
「柔軟なる疾き風 剛健なる迅き雷 迅雷風烈の息吹となりて走破せよ―――【疾風迅雷】!!」
更に【疾風迅雷】を発動して自身のAGIを上昇させ、左手にクロスボウ、右手にマチェットを持ってコーヒーはフランケンシュタインへと突撃していく。
「レイド!スキルが決まってこいつを氷の中に閉じ込めたら、攻撃はしないでくれ!」
「承知した!!」
コーヒーの言葉にレイドは素直に頷く。
レイドに攻撃を仕掛けていたフランケンシュタインは、コーヒーのその状態から狙いを変えるも、レイドが蛇腹剣で攻撃を仕掛けてその注意を引き付ける。
そのままコーヒーはフランケンシュタインにクロスボウとマチェットによる攻撃を七回叩き込み、フランケンシュタインを氷の中へと閉じ込める。
「羽織る衣は雷の化身 我は雷神に認められし者なり―――【雷神陣羽織】!!」
【羅雪七星】が決まった瞬間にコーヒーは【口上強化】で強化した【雷神陣羽織】を発動させ、金の陣羽織を羽織る。
「唸るは雷鳴 昂るは信念の灯火 雷鐘響かせ威厳を示さん―――【ヴォルッテックチャージ】!!」
さらにコーヒーは【ヴォルッテックチャージ】を発動し、次の雷魔法の威力を底上げする。
これで、すべての準備が整い、コーヒーは詠唱を始めていく。
「掲げるは森羅万象を貫く威信 我が得物に宿るは天に座す鳴神の宝剣 夜天に響く雷音は空を切り裂き 無明の闇に煌めく雷光は揺蕩う宝玉 招来る迅雷は万里を穿ち 滾る雷火は揺るがぬ信念の導となる 顕現せし鳴神の宝剣が纏うは我が蒼雷 神雷極致の栄光を現世へ!!」
【口上詠唱】で更に強化し、持ちうるスキルを全て使って強化した最強の一撃を氷の中に閉じ込めたフランケンシュタインに向かって解き放つ。
「限界を超えし蒼き雷霆よ集え!!【グロリアスセイバー】ァッ!!」
過去最大の強化を施した【グロリアスセイバー】をフランケンシュタインに放ち、氷を粉砕しながら容赦なく吹き飛ばした。
九割以上も残っていたフランケンシュタインのHPは一気に数センチとなる。
「あれだけ強化したのに耐えきるのかよ……!?」
フランケンシュタインの異常なまでのHPの高さにコーヒーは驚愕の声を洩らす。当然、コーヒーはスキルを放った硬直でその場から動けなくなるが、今回は一人ではない。
「【ベルセルク】!!【獄雷煉牙】!!」
スキルによって目を蒼く光らせたレイドが超威力の一撃をフランケンシュタインに叩き込む。
当然、コーヒーの【グロリアスセイバー】と比べるまでもないが、それでも本来の威力より高くなった紫電の一撃はフランケンシュタインの残りのHPを吹き飛ばすには十分だった。
コーヒーによって大幅に削られ、レイドに止めを刺されたフランケンシュタインはハンマーとスキルの巻物、腕輪を二つずつ残して光となって消えるのであった。
「以外とあっさりと終わったな。それにしても、本当におかしな威力だな。それは」
「どうも。スキルを総動員した結果だし、プレイヤー同士の戦闘じゃまず出来ないけどな」
コーヒーはレイドにそう答えつつ、地面に落ちていたスキルの巻物を拾ってその効果を確認していく。
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【ジェネレータ】
三分間、魔法やスキルによる消費MPが0となり、自身の【STR】【AGI】【INT】が三倍となる。
常に消費する場合は消費量が半分となり、消費量によって変化する場合は効果が二倍となる。
効果が切れてから一時間、MPが0となって一切回復出来ず、【STR】【AGI】【INT】が0となる。
使用回数は一日1回。
口上
無限の魔力を作る機関 その魔力で限界を超えて動かん
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「これは奥の手となるスキルだな」
「ああ。使い所は選ぶ必要があるが、有益なスキルであることには違いないな」
コーヒーとレイドはそう言って、【ジェネレータ】を取得する。
そのままコーヒーはハンマーを、レイドは腕輪の効果を確認していく。
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《轟雷槌》
STR+85
【属性攻撃・雷】
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「おおう……属性付きのハンマーか。腕輪の方は?」
「腕輪はSTRとHPの補正効果だな。それでどうする?」
「俺はこのハンマーを貰っていいか?腕輪の方はレイドで」
「?てっきりハンマーと腕輪一つずつに分け……いや、そうか」
レイドはコーヒーの考えを察して渇いた笑みを浮かべる。
そして、町へと戻ったコーヒーは今回の戦利品を双子の姉妹に渡すのであった。
一方、運営では。
「フランケンシュタインがやられたぁあああああああああああっ!!」
「マジかよ!?誰に倒された!?」
頭を抱えて叫んだ男は画面を操作して、その場面をモニターに表示する。
「【集う聖剣】所属のレイドと……CFかよ!?」
「【聖刻の継承者】と【羅雪七星】、【雷神陣羽織】に【ヴォルッテックチャージ】で超絶強化した【グロリアスセイバー】で吹き飛ばしたのか!?」
「しかも、最初に発動した【アイアンメイデン】でHPの残量を調整してか!!」
「うわぁ―……実装した俺らが言うのも何だが、本当に威力がおかし過ぎるだろ」
「STR以上にHPを第二回イベントの【銀翼】や【海皇】、地中にいる六層の隠しボス【骸龍】よりも高く設定していたのに……」
「それでもギリ耐えてくれたのに……レイドに止めを刺されたのか」
「裏ボスの【骸龍】は大丈夫だよな?【光の王】のように倒されないよな?」
「大丈夫だ。あれはイベントフラグを立てないと地面から姿を現さないからな」
「【骸龍】か……あれも事前に許可を貰ってから実装したんだよな。名称は“龍”なのにスライムだけど」
「烏賊から変更することが許可が降りる条件だったからな。そこは仕方ないだろ」
「けど、スキル【ジェネレータ】と腕輪以外は二人にとっては役に立たな……」
「おい待て。フランケンシュタインが持っていた二つのハンマーは属性スキルが付いていた筈だ」
「「「「……あ」」」」
その瞬間、運営は再び頭を抱えた。
「このままだとあの双子が大暴れしちゃうじゃないか!?」
「せっかく双子対策に幽霊階層を実装したのに!!」
「うわぁああああっ!!うわぁあああああああああっ!!!」
その運営の嫌な予感は後日、最悪な形で現実となるのであった。
五層のギルドホームのリカバリー会にて。
「コーヒーさんから首飾りを貰いました!」
「私達も!」
「このハンマーを貰いました!」
「…………」
「サリー?そんなにむすっとしてどうしたの?」
「……別に」
ニヤニヤ顔のメイプルからそっぽを向くサリーの図。
感想お待ちしてます