メイプルの盾が物理的に増えて数日。
コーヒーがギルドホームに顔を出すと、本当に予想外な人物がそこにいた。
「サリー?何でお前が此処にいるんだよ?」
「……軽い気持ちでまた来たのを後悔しています」
コーヒーの質問に、緑色のローブで全身を隠してソファで丸まっているサリーは消え入りそうな声で答える。
サリーがまた六層に来てしまった理由。それは先日のリカバリー会でマイとユイ、シアンの三人がコーヒーから装備を貰った話を聞いたからである。
三人が笑顔でコーヒーから貰った装備品を見せる中、サリーは何故か形容し難い不快感が胸中を支配したのだ。
それが“嫉妬”であることがサリーは気づいていないが、そんなモヤモヤ感からつい六層に足を踏み入れ、空を飛ぶ白い影を見た瞬間に心が折れたのである。
「じゃあ、すぐに五層に戻るのか?」
「うん……CFは?」
「墓荒らし」
サリーの質問にコーヒーは端的に今日の予定を伝える。
今日の目的地である墓地は、棺桶の中にスキルの巻物や装備が入っているそうなのだ。
当然ハズレの棺桶もあり、中には何もないのはお約束、最悪の場合は中で眠っていたゾンビやスケルトン、吸血鬼が起きて襲いかかるという要素もあるのだ。
コーヒーはその中で、雷属性が一定時間炎属性へと変わるスキルの巻物を手に入れようと考えていた。
「そう……頑張ってね」
サリーはそう言って逃げるように五層へと戻っていくのであった。
そんなサリーを見送ったコーヒーはギルドホームを後にして目的の場所へと向かっていく。
今回コーヒーが挑戦する墓地の棺桶は、すべて地中の中に埋まっている。それをこの階層で購入できるスコップで掘り起こして開帳というのが一連の流れとなる。
ちなみにその墓地はとても広く、どこに何が入っているかは本当に運任せとなっている。掲示板でも一度アイテムが出た墓を掘り起こしたら今度はゾンビだったことから、一定のタイミングでリセットされるだろうと意見が一致していた。
しばらくして、コーヒーは目的の墓地に到着した。
「うわぁ……墓が大量に鎮座してるな……これは本当に骨が折れるぞ」
規則正しく配置された目が眩む程の墓の数にコーヒーは軽い目眩を覚える。見れば先に訪れていたプレイヤー達が墓を掘り起こしている。
これが現実なら、祟られるのは確実だ。
「何にせよ、まずは墓を掘り起こさないとな」
コーヒーは気を取り直してスコップで墓の手前の地面を掘っていく。現実では罰当たりな行為だが、コーヒーはそれから目を逸らして地面を掘り続けていく。
掘り始めてから数分、地中から物々しい雰囲気を放つ棺桶が顔を覗かせた。
「うっ……臭いまであるのか。地味にキツいな」
コーヒーは鼻を押さえて顔を顰めながらも棺桶の蓋を開ける。
中は……空っぽだった。
「ハズレか……なら次だ」
コーヒーはそう言ってすぐ隣の墓の地面を掘っていく。
再び数分かけて墓を掘り起こして棺桶の蓋を開けると、今度はゾンビが襲いかかってきた。
「砕け!【崩雷】!!」
それをコーヒーは雷の杭を叩き込んでスタンを入れ、矢を何発か頭に叩き込んで即お陀仏にしたが。
そうして墓を掘り起こし続けること二時間。
「……そろそろ当たりが出てほしいんだが」
未だに空っぽかモンスターのどちらかしか出てこないことにコーヒーはゲンナリしていた。
棺桶のモンスターはドロップアイテムがないので経験値しか手に入らず、スコップでしか地面を掘り起こせないからどうしても時間がかかる。
「後一時間やったら今回はここで切り上げよう。当たりが出ないと地味にキツい」
コーヒーはそう言って、再びスコップで地面を掘っていく。
ザクザクと地面を掘り、再び棺桶を掘り起こして蓋を開けるも中身は当然空っぽである。
「……次」
コーヒーはすぐに隣の墓を掘り起こす。
次の棺桶は……二つの銀色の指輪が入っていた。
「名称は……《信頼の指輪》か。効果は……」
コーヒーは《信頼の指輪》という名前の装備品の詳細を確認していく。その効果を確認したコーヒーは何とも言えない表情となった。
「これ、一人じゃ意味ないな。パーティーかつフレンドでこの装備を持ってないと駄目なやつだ……」
一応、レア装備には違いないのでコーヒーは《信頼の指輪》を自身のインベントリへとしまう。
今日は目的のスキルの巻物が手に入りそうにないと思いながら、コーヒーは再び墓を掘り起こしていく。
そして、棺桶に突き当たったように固い音が響いた瞬間、人一人入れる大きさしかない魔法陣が展開された。
「は?」
コーヒーが間抜けな声を洩らした直後、視界が深青の光に染められる。
光が収まると、そこは先程までいた墓地ではなく、濃霧が立ち込める場所であった。
「マジでここは何処なんだ?本当に良い予感がしないんだが……」
コーヒーは嫌な予感を覚えながら地面を見る。地面はボロボロの木の板で敷き詰められており、ここは何かしらの建造物のようである。
ついでに常に揺れている。
「まさか……」
木製の床にゆらゆらと揺らぐ地面。思いつく場所は一つしかない。
コーヒーは嫌な予感を覚え始めていく中、濃霧の向こう側から敵が現れたことでその嫌な予感は的中だと証明された。
『ぉぉぉ……』
濃霧から現れた幽霊達はボロボロの衣服は青と白の縞模様で、中には眼帯やバンダナをしている幽霊もいる。
そして、その幽霊達が手に持つ武器はサーベルや銃身が短いマスケット銃である。
もう、疑いようがない。
「ここは幽霊船の甲板かよ!?【クラスタービット】!!」
コーヒーはすぐさま【クラスタービット】を発動。メタルボードにしてその上に乗り、海賊の霊達の包囲から抜け出す。
海賊の霊達は、あっさりと包囲から抜けたコーヒーにその手に持つマスケット銃を向けた。
「やっぱり飾りじゃないよな!メイプルも銃撃できるし!!」
むしろ連射可能、レーザーとミサイルも放てるメイプルの方が近代兵器としては凶悪だが。
そんなツッコミが聞こえた気がする中、海賊の霊達は一斉にマスケット銃の引き金を引く。ついでに遠くの方から轟音が響いてくる。
「おいおい……」
メタルボードで下からの銃弾を防ぐコーヒーはその轟音に再び嫌な予感を覚える。
少しして、濃霧の向こうから飛来した漆黒の砲弾が甲板に大穴を開けた。
「幽霊船は一隻だけじゃないのかよ!?」
コーヒーがそう叫んだ直後、辺り一面を覆っていた霧が次第に薄まっていく。
そうして薄まった霧の先には、大量の船が漂っていた。ついでに砲身はコーヒーに向いている。
「……ちょっと多すぎやしませんかね?」
乾いた笑みを浮かべてコーヒーがそう呟いてすぐ、幽霊船の船団は一斉に轟音を響かせた。
放たれた漆黒の砲弾。それは迷うことなくコーヒーへと迫ってきている。
「本当に最悪だろ!?舞え!【雷旋華】!!」
コーヒーは文句を言いつつも【雷旋華】を発動し、雷のドームで幽霊船団の砲撃を防いでいく。
「取り敢えずどうする?思いきって全部沈めるか?」
このエリアのクリア条件が分からないコーヒーは、脳筋な手段で解決すべきかと頭を悩ませる。
最初の砲撃で甲板に穴が空いたから破壊自体は可能な筈だが確証はない。
「弾けろ、【スパークスフィア】!!」
なので、コーヒーはメタルボードを操作して船の後ろへと移動。船尾に向かって【スパークスフィア】を叩き込む。
その結果は……
「……変化なしかよ。船の本格的な破壊は不可能ということか」
ぶつける前と何一つ変わっていない船尾にコーヒーは軽く溜め息を吐く。
流石に攻撃される中で幽霊船を一つ一つ調べるのは面倒極まりないので、広範囲攻撃で殲滅してから調べることにする。
「深淵に潜む光 輝きは次代に継がれ 此処に顕現す―――【聖刻の継承者】!!」
コーヒーは殲滅の為に聖刻モードとなる。
そのままメタルボードを操作して幽霊船団全体が見渡せるまで上昇し、攻撃スキルを発動させる。
「照すは希望 煌めくは受け継ぎし刻印 天に昇りて絶望を祓う光の柱と化せ―――【聖槍ファギネウス】!!」
スキルを発動したコーヒーはクロスボウを頭上に掲げて引き金を引く。
放たれた矢は上空で蒼く輝く槍十字の紋様を描き、そこから無数の白い槍を幽霊船団へと降り注がせていく。
「羽織る衣は雷の化身 我は雷神に認められし者なり―――【雷神陣羽織】!!」
コーヒーは次の広範囲攻撃の為に強化スキルを発動させる。
「唸るは雷鳴 昂るは信念の灯火 雷鐘響かせ威厳を示さん―――瞬け、【ヴォルテックチャージ】!!」
更に強化魔法を発動し、次の攻撃を大幅に強化する。
「昇るは助力を願う晃雷 降り注ぐは裁きの雷雨 積乱雲に潜む雷鳥は囀り 金色の雷獣は天に舞う 轟く落雷は地を焦がし 浴びし者は無慈悲に灰燼と帰す 鳴動の宙より招来りし雷よ 咎ある者達に神罰を―――限界を超えし蒼き雷霆よ降り注げ!【ディバインレイン】!!」
満を持して発動した広範囲魔法は第四回イベントの時よりも広範囲に蒼い雷を降り注がせ、甲板にいる幽霊達を吹き飛ばしていく。
幽霊船から放たれる砲弾も悉く蒼い雷で打ち落とされ、槍と雷の雨で蹂躙していく。
そうして、槍と雷が止む頃には全ての幽霊船は沈黙するのであった。
「これで幽霊船の探索が出来―――」
コーヒーがそう呟いた瞬間、上空から一際大きな幽霊船が突き破るかのように現れる。
その幽霊船は海に落ちることなく、空に浮いてその場を漂っていく。
そして、その幽霊船にはHPバーが存在していた。
「まさか……あれがボスモンスター?」
コーヒーがそう呟くと同時に、空を浮く幽霊船の周りから、空間を突き破るかのようにゴツい砲身が次々と現れる。
その砲身の砲口は、もちろんコーヒーに向けられている。
「また砲撃の嵐か!?」
コーヒーがそう叫んだ直後、その幽霊船の周りに展開された砲口から極太の光線が放たれた。
「弾じゃなくてレーザーかよ!?」
コーヒーは驚きつつもメタルボードを操作してその極太レーザーを避ける。
コーヒーが避ける間にも、その幽霊船は周りに極太の槍や樽を載せた小舟を先ほどの砲身と同じように展開していく。
「本気でヤバイぞ!?【アイアンメイデン】!!」
その小舟に嫌な予感を覚えたコーヒーは凶悪コンボの為に【アイアンメイデン】を発動して【羅雪七星】の使用条件を満たそうとするも、【アイアンメイデン】は何故か発動せずに不発に終わった。
「不発!?何でだ!?」
【聖刻の継承者】に悪系統のスキル封印効果は無かったにも関わらず発動しなかったことにコーヒーが狼狽える。
そんなコーヒーの隙を付くように樽を載せた数隻の小舟が真っ直ぐコーヒーに向かい―――爆発した。
「―――あっぶなッ!!」
間一髪、メタルボードを操作して直撃を避けたコーヒーはノックバック効果からか、盛大に後ろへと吹き飛ばされる。
何故【アイアンメイデン】が発動しなかったのか、コーヒーがそちらにも思考を割こうとした時、その理由が無機質な音声で判明した。
ピロリン♪
『スキル【アイアンメイデン】は、スキル【鋼鉄の聖域】に限定進化しました』
「……は?」
突然のスキル進化の通知にコーヒーは面食らった顔となるも、すぐに意味を理解して画面を開いて効果を確認していく。
「【鋼鉄の聖域】!!」
スキルの効果を確認したコーヒーは画面を閉じ、直ぐ様スキルを発動させる。
途端、コーヒーの身体を覆うように蒼い光が放たれる。
【鋼鉄の聖域】は【アイアンメイデン】が【聖刻の継承者】によって限定進化したスキルだ。
その効果は10の確定ダメージを与える片刃の剣を作り出すスキルだが、その形成数は上限無し。耐久値は現在装備している武器がそのまま反映される。加えて、このスキルで作り出した剣は【クラスタービット】やシンの【崩剣】のように操作することが出来る。
スキル発動中は剣の有無に関係なくMPが一秒毎に2ずつ減少し、一度解除すると再使用まで一時間かかるがそれを差し引いても十分に強力なスキルである。
思わぬ形でスキルを得たコーヒーは自身の正面に20を少し超える剣を作り出し、それらを小舟と砲身、空飛ぶ海賊船へと射ち出していく。
矢の如く放たれた剣は小舟と砲身、空飛ぶ海賊船へと突き刺さり、決まったダメージを与えていく。
コーヒーは剣を作っては射出、作っては射出を繰り返し、空飛ぶ海賊船に剣を次々と刺し続けていく。
突き刺さる剣が増える度に空飛ぶ海賊船へのダメージが増え、確実にダメージを与えていく。
「無限の魔力を作る機関 その魔力で限界を超えて動かん―――【ジェネレータ】!!」
コーヒーはここが勝負どころだと判断してスキル【ジェネレータ】を【口上強化】して発動。コーヒーの身体から黄緑色の電気が放出され始める。
これによって約四分間は【鋼鉄の聖域】の消費MPが半分となり、【聖刻の継承者】のMPの自動回復によって消費MPが実質0となる。
コーヒーは砲身のレーザーと特攻する小舟をメタルボードを操作して避けながら、確定ダメージを与える剣を次から次へと形成。それらを容赦なく空飛ぶ海賊船へと突き刺していく。
刺さってる間も海賊船にダメージは入り、剣が刺さる度にHPの減りは大きくなっていく。
「【ヴォルテックチャージ】!!集え!【グロリアスセイバー】!!」
そこから【雷神陣羽織】が時間制限で解除される前に強化した【グロリアスセイバー】を海賊船に向けて放つ。
【羅雪七星】と【避雷針】のストックはなく、【口上強化】と【口上詠唱】無しとはいえ、その威力は強力。加えて、【鋼鉄の聖域】で作った剣が大量に刺さって常にダメージを与えている状態では耐えきれる筈もない。
結果、雷の宝剣をマトモに喰らった空飛ぶ海賊は光となって消えていくのであった。
ピロリン♪
『スキル【ワイルドハント】を取得しました』
再び聞こえてきたスキル獲得の通知。金の陣羽織が消えたコーヒーはメタルボードに乗ったままスキルの詳細を確認していく。
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【ワイルドハント】
一万ゴールドを払うことでスキルが使用可能となり、翌日になるとリセットされる。
船や大砲を召喚できるが、事前にお金を払って購入しないと使用できない。
金額は以下の通り。
筏:3000G
小舟:10000G
銛:20万G
爆弾:40万G
捕縛網:60万G
大砲(通常弾):100万G
…………
……
撃槍:1300万G
海賊船:1800万G
大砲(炎弾):2600万G
…………
……
ドレイク号:10億8795万G
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「ブフゥッ!?」
スキルの要求する金額を見たコーヒーはド肝を抜かれたように盛大に吹き出す。
このスキルは使用するにも金、強化するにも金と兎に角お金がかかるスキルだ。
しかも、例のレーザーを放つ大砲は億を超えている。これを満足に使う為には本当にお金を稼がないといけない、まさに金食い虫のスキルである。
またしても癖が強いスキルだとコーヒーは思っていると、黄緑色の電気が消え、同時に散らばっていた剣も消え去っていく。
「【ジェネレータ】の反動か……違和感も凄いし、今日はここら辺で切り上げるか」
【ジェネレータ】のデメリットの大きさを実感したコーヒーは、帰還用の魔法陣を探すこともなく、そのまま画面を操作してログアウトするのであった。
一方……
「おおう……CFが【ワイルドハント】を手に入れちまったな」
「ですね……金額は高く設定してますから使いこなすには相応の時間がかかりますけどね」
「ていうか、あの転移の魔法陣。確率は相当低く設定したんだけどなぁ……」
「《信頼の指輪》もな。あれは指輪に登録した所持スキルを共有するからな」
「それよりもバグの修正を急ぐぞ。バグみたいなキャラはともかく、バグはダメだからな」
「「「「了解です!!」」」」
運営は溜め息を吐きながらもバグを修正する為に作業するのであった。
「メイプル、手を握ってもいいかな?」
「?いいけどどうして?」
「実は……西の幽霊屋敷で凄く怖い目にあってんだ。あれの顔が時々夢に出てくる程に……ね」
「……あはは、そうなんだ」
「そのせいで一人で探索するのが億劫になっちゃって、ギルドの皆に一緒で行動する言い訳を作る羽目にもなったし……」
「それは……大変だね……」
少し涙目となった炎帝様に、困ったように笑みを浮かべるメイプルの図。
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