スキルのせいで厨二病患者に認定されました   作:厄介な猫さん

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出来上がったので投稿
てな訳でどうぞ

※コーヒーの弓スキル【流星】を【流れ星】に変更しました。
理由:原作でスキル名が被っていたため。


最悪のハイブリッド

図書館と鏡の展覧会を行き来して奥を目指すコーヒーとサリー。

十字架状の盾を正面にして罠やモンスターを警戒しながら本棚の通路を進んでいく。

 

「あのー……そろそろ解放して欲しいかなー、なんて……」

「ん?何か聞こえたか?サリー」

「何も聞こえないわよ?空耳じゃない?」

 

十字架状の盾―――形状を十字架状にした【クラスタービット】に磔にされているメイプルの声をコーヒーとサリーは聞こえてないという風にスルーする。

 

モンスターの攻撃は基本はメイプルシールドで受け止め、その間にコーヒーとサリーがモンスターを仕留めることで戦闘を問題なく進めていた。

 

「流石に少し暗くなってきたな」

「そうね。CF、確か【暗視】を持ってたわよね?」

「確かに持っているが……って、ああ。そういうことか」

 

コーヒーはサリーの言いたいことを理解し、自身の《信頼の指輪》の【遠見】を【暗視】へと登録し直す。

 

「それじゃ、【暗視】……うん、灯りが無くても見えるよ」

「これで進む分には問題ないな」

 

コーヒーも【暗視】を使って暗闇でも見えるようにし、薄暗い通路を慎重に進んでいく。

暗い通路をメイプルシールド、サリー、コーヒーの順で周りを警戒しながら歩いていくと、突然何の前触れもなく、地面から手の形をした黒い影が伸び、メイプルシールドを鷲掴みにした。

 

「ええ!?何これ!?」

 

メイプルがそう叫んだ瞬間、メイプルから天使の羽と輪が消え、同時に例の本のモンスターが何体も襲い掛かってくる。

 

「弾けろ!【スパークスフィア】!!」

 

コーヒーはすぐにメイプルを巻き添え、もとい、【クラスタービット】で全身を覆ってから【スパークスフィア】で本のモンスターを一掃しようとする。

だが、今回放った【スパークスフィア】は何時もより光が弱かった。

 

「いつもより威力が弱くなっている?まさか、一部のスキルと魔法を弱体化するエリアなのか?」

「そうかもしれないね。たぶん、火と光も対象になってると思う」

 

サリーはそう言って、麻痺が入って動けない本達を斬っていく。

相変わらず耐久値が低く、ダメージも受けていたのであっさりと倒すことができた。

 

「後は手の方……って、あれ?」

「いつの間にか消えてるな。たぶん、【身捧ぐ慈愛】が解かれた後だな」

 

コーヒーはそう呟くとメイプルを解放する。この状況で肉壁を敢行し続けるわけにもいかないし、お仕置きの方ももう十分だろう。

 

「ふー、やっと解放されたよー」

「それよりメイプル。【身捧ぐ慈愛】は使える?」

「んー……封印されてるみたい。三十分の間だけど」

「あの手はメイプルだけを狙ったから……【身捧ぐ慈愛】が原因かな?」

「取り敢えずこのまま進むか。幸い、スキルのお陰で暗闇でも問題ないし」

「ううー……二人が羨ましいよー」

 

一先ずサリーが装備を元に戻したメイプルの手を引っ張って進むことにし、三人は薄暗い通路を慎重に歩いて行く。

少しして、コーヒーとサリーの目に本棚と鏡が交互に鎮座している通路が入ってきた。

 

「あの鏡、どう見る?サリー」

「うーん……こうも規則正しく並んでいると、絶対何かあるわね」

「そうなの?私には何も見えないから分からないよー……あ、そうだ!」

 

メイプルは何を思いついたのか、インベントリから何かを取り出す。それは……二本の蝋燭だった。

 

「……メイプル?」

 

サリーが懐疑的な視線を向ける中、メイプルは二本の蝋燭を同じく取り出した手拭いで頭にくくりつけ、視界を確保した。

 

「ふっふーん!このミキから貰った【魔除けの蝋燭】があれば安心して進めるよー!」

「……ちなみに効果は?」

「名前の通り幽霊のお祓い!!後、フィールド効果を受けないんだって!!」

「ああ、だから普通に明るいんだな」

 

【暗視】を解除したコーヒーとサリーは何とも言えない気分になるが、鏡から伸びた黒い手でそれはすぐに吹き飛んだ。

 

「え?嘘!?」

 

地面から伸びた黒い手と同じ手に鷲掴みにされたメイプルは、そのまま鏡に向かって引き摺られていく。

その鏡には一つだけ青い目をした人型の影がいる。

 

「【ダブルスラッシュ】!!」

「【パワーブラスト】!!」

 

コーヒーとサリーはメイプルを捕まえている黒い手を攻撃すると、黒い手はすぐにどろりと溶けて床に染み込むように消えていく。

同時に鏡の中にいた影もどろりと溶けて消えていった。

 

「……倒せたか?」

「んー、多分倒せてないと思う。ちなみにメイプル、スキルの方はどうなってる?」

「んーと……【百鬼夜行】が封印されちゃってるよー」

 

メイプルの報告にコーヒーとサリーは少しだけ面倒そうな表情となる。

例の黒い手は光系統のスキルだけでなく、他のスキルも封印するのだと分かった為である。

 

「この鏡も姿を写していないし……多分、別エリアに繋がっているんだと思う」

「だけどどうし―――」

 

その瞬間、サリーは絶句した。

何故なら、通路の奥から青白い顔をした黒い髪を長く伸ばした女性がゆっくりと近づいてきていたからだ。

 

どう見ても……幽霊である。

それを認識したサリーは、迷わずコーヒーにしがみついた。

 

「?サリー?急に―――」

 

突然しがみついたサリーにコーヒーは一瞬疑問に思うも、奥から土煙を上げるかの如く全力疾走してきた女の霊に気づいたことですぐに察した。

 

「あれ、速すぎるだろ!?」

「ど、どうしよう!?」

「こうなったら鏡に飛び込むぞ!!」

 

幽霊の足の速さからすぐに追い付かれると判断したコーヒーはメイプルの手を引っ張ってサリーもろとも鏡の中へと飛び込む。

飛び込んだ鏡の中は一部屋しかなく、失敗したかと思ったが、女の霊は目標を見失ったようにゆっくりとなり、そのまま素通りした。

 

「た、助かった……」

「あの幽霊、HPバーがなかった。間違いなく避けて進まないと駄目なやつだ」

「幽霊なら、この蝋燭で―――」

「そしたらあの黒い影に狙われるぞ」

 

詳細不明の幽霊とスキルを封印する黒い影という嫌な組み合わせにコーヒーはゲンナリする。

 

「何で……此処にも幽霊がいるのよ……せっかく逃げてきたのに……」

 

幽霊の登場ですっかり弱腰となってしまった涙目のサリー。

あの幽霊の危険性が正確に分からない以上、コーヒーは諦めたようにスキル名を唱えた。

 

「【ワイルドハント】―――【召喚:小舟】」

 

その瞬間、コーヒーのお金が一万G減り、宙に浮く小舟をその場に召喚する。

 

「CF……?」

「その状態じゃ満足に回避できないだろ。これなら数人乗せても飛べるし、これで強硬突破するぞ」

 

そうしてコーヒーはメイプルとサリーを小舟に乗せ、【クラスタービット】で小舟をコーティングしてから空を飛んで通路を進んでいく。

ちなみにサリーは幽霊の恐怖が回復するまではコーヒーの背中にしがみついていた。

 

そうして運営を泣かす空中移動を実行した三人はボス部屋まで辿り着いた。

目の前にはいつも通りの大きな扉が見える。

 

「やっと着いたねー!!」

「途中で無視したルートも幾つかあるけど……今回はいいかな。本当に」

「で、どうする?このまま挑むか?」

「うーん……メイプルのスキルはどうなってる?」

 

小舟から降りたサリーは同じく小舟から降りたメイプルにそう尋ねる。もし、封印されたままなら、ここで時間を潰さなければならないからだ。

 

「あれから黒い手に掴まれなかったから、もう大丈夫だよ!!」

「それじゃあ、行こうか!!」

 

このまま挑戦しても問題ないと分かり、復活したサリーが代表してボス部屋の扉を開ける。

ボス部屋は、本の詰まった本棚と、幾つもの鏡が連なって本棚と同じサイズとなった鏡が壁となっている広い部屋であった。

その中央には、表紙が鏡となっている数メートルはある分厚い本が鎮座していた。

 

「……あれがボスだな」

「そうね。あれがボスね」

 

コーヒーと内心で安心していたサリーがそう呟くと、鏡にサリーを写していた本が青い光を放ち、宙へと浮く。

 

「初代より受け継ぎし機械の力 我が武具を対価とし 三代目として此処に顕れん―――【機械神】!!【全武装展開】!!【攻撃開始】!!」

 

既に【口上強化】で【機械神】を発動していたメイプルが兵器を展開。先手必勝と言わんばかりに攻撃を開始していく。

 

それに迎え撃つように宙に浮いた本もパラパラと頁をめくり、燃える本の絵が書かれた頁を開く。

そして、その頁に対応するように周りの本棚から赤い本が飛び出してきて、火球を撃ち出し始めた。

 

「迸れ!蒼き雷霆(アームドブルー)!!舞え、【雷旋華】!!」

 

コーヒーはコーティングした小舟に乗ったまま【雷旋華】を発動し、雷のドームを纏って突撃。火球を相殺しつつ本を叩き落としていく。

 

サリーも魔法とスキルを駆使して周囲の本を叩き落としていると、鏡から人型の影が水の中から出るように何体も現れる。

 

「CF!!」

「分かってる!輝くは不屈の雷光 残響する雷吼は反逆の証 雷呀の鎖と為りて一切合切を打ち砕け―――迸れ、【リベリオンチェーン】!!」

 

サリーの呼び掛けにコーヒーは【口上強化】した【リベリオンチェーン】を発動。雷の鎖でそのモンスター達とボスである巨大な本を縛り上げる。

 

「ソーサー!!」

 

コーヒーは新たな追加攻撃のワードを唱え、雷の鎖をチェーンソーのように動かしていく。

この『ソーサー』は使用中は常にMPを消費するが、破壊される、もしくは鎖から抜け出すまでは継続ダメージを与えられるのである。

 

そのチェーンソーのごとき攻撃に影のモンスターは全て消え、ボスは縛られている故に頁を変えられず、HPをガリガリと削られ続けていく。

 

「よし!このまま―――」

 

MPポーションを次々と開けてMPを回復していたコーヒーはこのままごり押ししようとしたところで、本は突然すり抜けて雷の鎖から逃れた。

そのまま頁をめくり、何も書かれていない白紙の頁を開く。

 

「……真っ白?」

 

メイプルがそう呟いた瞬間、メイプルの足元から黒い鎖が生え、そのままメイプルの体を這い上がって縛り上げた。

 

「メイプル!!」

 

サリーは黒い鎖はスキルを封印するものだと考え、真っ先にメイプルを助け出そうとする。

 

「っ!サリー!避けろ!!」

「え?―――ッ!?」

 

コーヒーの警告にサリーは一瞬呆けるも、視界の隅に見えた白い何かが迫っていたことで、咄嗟に体を捻って避ける。

その白い何かは……蜘蛛の糸だった。

地面に倒れたサリーはその蜘蛛の糸の出所を目で追うと、宙に浮く小さな鏡が蜘蛛の糸を吐き出していた。

 

「なんで……」

 

サリーは疑問を露に立ち上がろうとするも、これもいつの間にか自身の体が氷に張り付いており、その場から動けなくなっている。

その近くには、水を地面に薄く放出する鏡と冷気を放つ鏡が浮いていた。

 

「これって……まさか私のスキル!?」

 

蜘蛛糸、床の水、冷気。

これらはサリーのスキル【糸使い】【大海】【氷結領域】に該当する能力だ。

それに鏡をよくよく見れば、手を突きだしているサリーの姿が写っている。

 

「ま、まずいよ二人とも!!スキルが奪われてる!!」

 

焦ったようにそう言ったメイプルの兵器が全てすっと消え、ボスは頁をパラパラとめくっていく。

そして、開かれた頁は……いくつもの兵器の絵が書かれていた。

 

「これは……」

「やっば……!!」

 

コーヒーとサリーが目を見開いてそう呟く間にも、空中に幾つもの魔法陣が展開され、そこから伸びるように兵器が生えてくる。

 

それだけではない。同じように鏡も幾つも浮いており、その何れもがサリーがダガーを構えている姿が写っているのだ。

加えて、ボス部屋の扉がいつの間にか氷の柱によって塞がれてしまっている。

 

「【孔雀明王】!!」

 

コーヒーは仕方がないと言わんばかりに【孔雀明王】を発動させる。

途端、【クラスタービット】と小舟は光となって消え、メイプルを縛っていた鎖、サリーを縫い付けていた氷、兵器が生えた魔法陣も同様に消えていく。

鏡の方も鏡の中のサリーがダガーを振るっていたが、何も起こらない。

 

「【ライトニングアクセル】!!」

 

コーヒーは【ライトニングアクセル】で自身のAGIを上げ、サリーを回収して背中に乗せ、次いでメイプルの手を掴むとそのままボス部屋から逃走した。

 

「……一時撤退!てったーい!!」

「同感だ!このまま戦うのはマジで勘弁だ!!」

「同じく!私とメイプルのハイブリッドとか本当にゴメンよっ!!」

 

氷の柱が消えたボス部屋の扉にコーヒーは体当たりして強引に部屋から脱出し、数メートル先の地面で着地する。

ボス部屋の扉は慣性によってそのまま閉まり、追撃の心配もない。

部屋から飛び出た三人は、そのままその場で転がるのであった。

 

 

 




「俺のスキルが……奪われている、だと!?」
「ええ!?」
「鏡から太陽のような炎球が出てきたぞ!?」
「あれは、ひょっとして……」
「ミィの乾坤一擲である奥の手の一つ、【太陽ノ礫】だな……」
「全員、一時撤退だ!!部屋を出て状況を立て直す!!」

カミュラのスキルを奪われ、ミィのスキルをコピーしたボスから逃走を決める【炎帝】パーティーの図。
※この後、広範囲に降り注ぐ無数の炎弾と毒竜に全員沈みました。

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