「ふー……とりあえずは安全だな」
「ど、どうしようか?」
「どうしようかって言っても……メイプル、【機械神】以外で奪われたスキルはある?」
どちらにせよそれを確認しなければならないと、サリーはメイプルに聞く。
「ちょっと待ってね……【機械神】以外には……【滲み出る混沌】と【天王の玉座】に【百鬼夜行】……嘘!?装備のスキルも取られてる!?」
「……装備のスキルは?」
メイプルの言葉に嫌な予感を覚えたコーヒーはメイプルに聞く。どうか杞憂であってほしいと。
その願いは、届くことはなかった。
「……【暴虐】に【影ノ女神】、【黄金劇場】が消えてるよ」
その瞬間、コーヒーとサリーは頭を抱えた。
よりにもよって、組み合わせたら本当に凶悪なスキルがセットで奪われてしまっているのだから当然である。
「じ、時間制限は?」
「……ないみたい。こ、これ返ってこないのかな?」
メイプルが不安そうに二人の方を見る。
コーヒーとサリーは最悪過ぎる状況に頭を痛めながらも憶測を口にした。
「多分、ボスを倒すか、この階層を出たら戻ってくると思う。もしくは死亡するか」
「少なくともイベントが終われば確実に返ってくるだろうが……」
その場合は塔の攻略を諦めるということであり、三人とってはあり得ないことだが……
「奪われたスキルが本当に最悪だ。その二つが残っていれば即終わらせられたのに」
「同感。それに、私のスキルまでコピーしていたから……」
「もしかして、ボスが鎖から抜け出せたのは……」
「間違いなく【八式・静水】でしょうね。この分だと【蜃気楼】や【水神陣羽織】まで使ってきそう」
「コピーの方は……あの時、だろうな」
そう呟くコーヒーが思い浮かべているのは最初にボス部屋に入った時の光景。
ボスの鏡にはサリーしか写っておらず、可能性としてはボス部屋を開けた人物のスキルをコピーする能力だったのだろう。
「それで、どうやって攻略する?コピーしたのがサリーのままだったら……本当にキツいぞ」
「うん……私のスキルが全部使える上に、メイプルの凶悪なスキルも取られてるし……」
そこでサリーはある事に気付いた。
「……そういえばCF。その【孔雀明王】は雷系統以外のスキルを【封印】するのよね?」
「ん?ああ。ステータスに関するスキルは対象外だし、封印が無くなるインターバルもあるが……」
そこでコーヒーはサリーが何が言いたいのかを理解した。
「まさか、【孔雀明王】で……」
「ええ。【孔雀明王】でスキルを全部封じてあのボスを倒す。それしか手がない」
【孔雀明王】は味方のスキルまで【封印】してしまう使い勝手が悪いスキルだ。なので、味方の弱体化を考慮しなければ確かに勝算はある。
「だが、十秒のインターバルがある。その間に【黄金劇場】を使われたらそこで詰みだぞ?」
【黄金劇場】の【皇帝権限】はスキルの【封印】を無視して発動できる為、それでスキルを強引に使われれば一発でアウトになってしまう。
「それについてなんだけど……CF、《信頼の指輪》に【孔雀明王】を登録して。それで使えるかどうかを確認する」
《信頼の指輪》にセットしたスキルが問題なく使えるなら、そのインターバルを埋めることが可能となる。
コーヒーもサリーの意図に気づいて【暗視】を【孔雀明王】へと登録し直した。
「それじゃ……【孔雀明王】」
サリーがスキル名を唱えると、サリーの背後にコーヒーと同じ孔雀の翼と上尾筒が展開される。
「上手くいったわね。正直、違和感が強いけど……普通に戦闘して動く分には問題ないわね」
「そうなると……メイプルは今回出来ることがないな」
「うん……そうだ!【爆雷結晶】を取得すれば……」
「ごめん、メイプル。今はスキルを取得しないで」
メイプルが思いついたように自身のインベントリを操作しようとするも、サリーがそれをやんわりと止める。
「?どうして?」
「正直、あのボスのスキル強奪が何処まで発揮するか分からない。もしかしたら、封印を突破して発動するかもしれない」
「これほど凶悪なボスだからな。その可能性が捨てられない以上、下手にスキルを覚えて向こうの強化の足しにするのは避けないとまずい」
「そっかー……そうだよねー……」
二人の言い分に納得したメイプルは少し肩を落とした。
メイプルはVIT極振りでそれ以外のステータスは0だから、完全な戦力外である。
「あ!私の手持ちのアイテムにモンスターを引き付けるのがあるから、それでボスの注意を私に向けさせれば……」
「そうだな。それで行こう」
「念のために《闇夜ノ写》と《新月》は外しておいて。特に【悪食】を奪われたら本当にまずいからね」
メイプルの【悪食】は本当に万能で凶悪なので、万が一取られた上に【黄金劇場】を発動されたら……これでも詰みである。
メイプルもサリーの言葉に頷いて黒の大盾と短刀を外し、純白の大盾と短刀へと装備し直す。
最初にボス部屋に入るのもメイプルに決め、【孔雀明王】のインターバルを埋めるように発動してから三人はボス部屋へと再び入った。
「ボスの鏡は……サリーのままだね」
「そうね。以前最悪の組み合わせのまま……それじゃ、予定通りに行こうか」
「了解。迸れ、
コーヒーは【名乗り】を使ってステータスを強化する。
HPが全回復したボスである本はパラパラと頁を開き、炎が書かれた頁を開く。
当然、【孔雀明王】の効果範囲にいるので何も起こらない。
「羽織る衣は雷の化身 我は雷神に認められし者なり―――【雷神陣羽織】!!」
コーヒーは金の陣羽織を纏い、雷神モードとなる。【孔雀明王】発動中は【聖刻の継承者】は使えず、【ジェネレータ】は雷系統スキルだが、使用後のデメリットから今回は見送った。
本は頁を次々とめくってスキルを発動しようとするも、【孔雀明王】によって全部不発に終わっていく。
「唸るは雷鳴 昂るは信念の灯火 雷鐘響かせ威厳を示さん―――瞬け、【ヴォルテックチャージ】!!」
コーヒーが【口上強化】込みで【ヴォルテックチャージ】を発動させている間に、本は頁をめくって雷が書かれた頁を開いた。
すると、周りの本棚から黄色い本が幾つも飛び出てきた。ボスは漸く【孔雀明王】の対象外であったスキルの頁を開いたようである。
「メイプル!!」
「うん!!」
ダガーを構えたサリーの呼び声に、メイプルは既に取り出していたアイテムを使ってボス達の注意を自身へと向ける。
アイテムの効果を受けた黄色い本は雷をメイプルに向かって放つも、ダメージは全く通らない。
その間にサリーが両手のダガーを振るい、その本達を斬り裂いていく。
「……やっぱり一撃じゃ倒れないか。でも、今回は注意を引けばいいだけだからね」
サリーはそう呟いて、ボスを含めた本達にヒットアンドアウェイを繰り返して注意を引き付けていく。
「輝くは不屈の雷光 残響する雷吼は反逆の証 汝を縛る雷鎖は因果を砕く理 迅る雷撃は軛となりて駆け巡る 絡み捕らえる雷電は暗雲をも吹き飛ばす 閃き煌めく天雷よ 雷呀の鎖と為りて一切合切を打ち砕け!!」
メイプルとサリーがボスの注意を引いている間に、コーヒーは【口上詠唱】による長い詠唱を完了させ、今度こそ一発で終わらせる為に発動させる。
「限界を超えし蒼き雷霆よ迸れ!【リベリオンチェーン】!!」
発動した雷の鎖は瞬く間に頁をめくっていた本を縛り上げていく。
「ソーサー!!」
縛り上げてすぐにコーヒーは追撃の詠唱を放ち、本を縛り上げた鎖をチェーンソーのように動かしてダメージを与えていく。
コーヒーは片っ端からMPポーションを開けてMPが尽きないようにし、頁を変えられないこの状態で一気に倒そうとする。
ボスのHPが削られ続けたことで、サリーが写っている宙に浮く鏡が次々と現れるが何も起きない。
現在開いている頁も化け物が書かれている頁の為に配下も呼べず、HPがどんどん削られていく。
さらに手が空いたサリーがダガーで本をグサグサと刺し続け、同じく手が空いたメイプルも攻撃アイテムの札をペタペタと貼ってダメージをどんどん与えていく。
スキルを【孔雀明王】によってほとんど封じられ、集団リンチのように攻撃されたボスは、そのままあっさりと倒されるのであった。
「何とか倒せたな……」
「そうね。今回はある意味運が良かったわ。もしコピーされていたのがCFだったら……」
「……完全に詰みだな、うん」
サリーの指摘にコーヒーは深く頷いて同意する。
コーヒーのスキルは常時貫通攻撃にするスキルもあり、取得したスキルの多くが雷系統だ。
今回のように【孔雀明王】で多くのスキルを封じても、対象外であるコーヒーのスキルによって大苦戦となるのは容易に想像できた。
「でも……今回もCFに助けられたわね。正直、一番活躍してないし……」
「そうでもないだろ。今回のボスなんてサリーとスキルを共有してなければ、インターバルの隙を突かれていた可能性があるんだ。メイプル単体じゃ配下も倒せないし……最悪の場合、注意を引き付けられずに攻撃が此方にも飛んできた可能性もあったんだ」
「……それもそっか」
最初はバツが悪そうに視線を逸らしていたサリーだが、コーヒーのその言葉に思い直して笑みを浮かべる。
そんなコーヒーとサリーをメイプルはニコニコと見守っている。
そんなメイプルの視線に気付いたのか、コーヒーとサリーは誤魔化すように咳払いした。
「取り敢えずメイプル。スキルの方はどうなってる?」
「あ、うん。確認するね……全部戻ってきてるよ。良かったー」
奪われていたスキルが全て戻ってきていたことにメイプルは安堵の息を吐く。
「それじゃ、このまま三階に挑戦するか。正直、【ワイルドハント】を使ったから可能な限り進めておきたい」
「そうね。その【ワイルドハント】はお金を払わないと使えないから、使える内に進めておいた方が良いわね」
コーヒーの言葉にサリーは反対することなく同意し、メイプルも頷いて同意する。
こうして三人は三階に向かって進むのであった。
―――――――――――――――
一方その頃。
「うーん……やっぱり最高難易度の進み具合はわりと予想通りだな。トップでもようやく四階だからな」
「まあ、プレイヤーへの挑戦状みたいなもんですし、当然と言えば当然ですよね」
運営の二人はバグがないかを確認しながら話を続けていく。
「にしても、二階のボスが本当に鬼畜だよな」
「ですね。二階はキャラのスキルが強力であれば強力であるほど強くなっちゃいますからね」
「ちなみにメイプル達はどうなっている?」
「録画映像で確認しますね」
男はそう言ってキーボードを叩き、要注意パーティーの映像を画面に出す。
「おお!鏡でコピーしたのはサリーのスキルか」
「あの鏡は最初に写ったプレイヤーのスキルを全部コピーしますからね。日を跨げばリセットされますけど」
「お、HPが削られて強奪スキルが発動したな」
「あれはランダムですけど……お、【機械神】に【影ノ女神】、【黄金劇場】を奪いましたね」
「ナイスだ本!!そのままメイプル達を倒せ!!」
ボスがある意味最強状態となったことで、運営の胃痛の元凶であるパーティーは不利と判断してボス部屋から逃げ出した。
「メイプル達が一時撤退しました!!倒せませんでしたが、ついに一矢報いましたね!!」
「やったぞ!!ついにメイプル達に一泡吹かせたぞ!!このまま足止め―――」
「ちょっと待って下さい。CFは【孔雀明王】でスキルを封印して逃げましたよね?」
「そうだが【孔雀明王】にはインターバルがあるだろ。その隙をつけ、ば……」
男は何かに気付いたのか言葉が小さくなっていく。
それは、再度ボス部屋に入ったコーヒー達によって証明された。
「……サリーも【孔雀明王】を使ってますね」
「……ああ、使ってるな」
その映像に二人の目が死んだ魚のようになった。
そのまま、ボスはほとんど何も出来ずに倒された。
「「…………」」
「……敗因は?」
「頁を開かないとスキルが使えないことですね……奪ったスキルの頁を開こうとして、自分から何も出来ないようにしちゃいましたから……」
「……そうだな」
二人はそう呟いた後、黙々と作業を再開していくのであった。
ちなみに、【楓の木】の残りのメンバーによるパーティーが一撃でボスを倒した上にスキルの巻物まで落とした映像を見た運営は、口から出てはいけないものが出てくるのであった。
『どうやらCFはメイプルとサリーと共に攻略しているようだ』
『クソ野郎!!』
『リアルハーレムめ!!』
『絶対にいつか倒してやる!!』
『そこ変われ!!』
『二階のあの通路で絶対に羨まけしからん展開が!!』
『本当に何で厨二病患者ばかりが!!』
一部スレ抜擢。
感想お待ちしてます