ボスを倒した勢いのまま三階に辿り着いた三人の前に広がっていたのは、一階と二階とは違い比較的広い空間とゴツゴツした岩の壁。
そして、赤く燃え滾る溶岩だった。
「この階はまた全然違う感じだね」
「そうだね……道は幾つもあるけど、通路ばかりじゃないってことかな?」
「取り敢えず、一つずつ確認してみるか」
コーヒーはそう言って歩き出す。
すると足元からごぽっと噴き出た溶岩が、コーヒーの足をじゅっと焦がした。
それに伴い、コーヒーのHPバーがほんの僅かに減少する。
「「「あっ……」」」
三人はピタッと固まるも、事態を把握したコーヒーは慌てて飛び退き、急いで二人の方へ戻ってくる。
「しまった!!ゲームの溶岩と言えば、触れたらダメージを受けるのがお約束だった!!」
「だ、ダメージ量は?」
「20のようだ!こういうのは大概、防御無視の固定ダメージがお約束だからな!!」
「そうね。あー、火山マップの時点ですぐ気づくべきだった……」
「……やっぱり避けないと駄目っぽい?」
「そうだね。HPが高いCFはともかく、私やメイプルには痛いかな。でもほら、見て」
サリーが指差す先には、ひび割れた地面がほん少し赤く輝いてから溶岩を噴出させている光景が見える。
「なるほどー……あれならちゃんと見てたら避けられるかも!」
「まあ、狭い場所の時は壁にも警戒した方がいいかもね。特に何もない突き当たりは避けるべきね」
「そうだな。…………」
コーヒーはサリーの言葉に頷くも、ある事に気付いて凄く申し訳ない表情となる。
そんなコーヒーにメイプルとサリーは首を傾げていたが、コーヒーの言葉ですぐに分かった。
「その……すまない。ダメージを受けてしまって……」
そう、三人の目標であったノーダメージクリアをコーヒーのミスで失敗してしまったからだ。
コーヒーもそれなりにゲーム経験があるので、少し考えればすぐに気付けたのに、だ。
「あはは、大丈夫だよ大丈夫!!私なんて最初に溺れ死ぬところだったし!!」
「んー、それなら地形や罠はノーカウントでどう?厳密には敵じゃないし」
そんな申し訳なさそうにするコーヒーに、メイプルは自身を引き合いに出して大丈夫と告げ、サリーは妥協案を提示する。
「そうだな……じゃあ、モンスターからの攻撃をノーダメージを目指すか!!」
そんな二人の慰めにコーヒーも気分を切り替える。
「よし、じゃあ行こうか。とりあえず周りにはモンスターもいないみたいだし」
「見通しが良くていいよね!」
「それじゃ、警戒しながら……舟に乗って進むか」
コーヒーはそう言って、【ワイルドハント】の小舟を召喚した。
「これに乗れば溶岩はある程度大丈夫だからな」
「……そうね。高々と噴き出ない限りは大丈夫ね」
「ナイスだよコーヒーくん!!」
三、四人くらいしか乗れない小舟だから狭い通路も通れるので、シロップで移動するよりも質が悪い移動手段にサリーは遠い目となり、メイプルは目を輝かせていた。
そんな感じでコーヒーが下を警戒しながら小舟を飛ばし、サリーとメイプルは周囲を警戒して進んでいく。
少しして、三人の前に三つの道が見えてきた。
「うーん、見通せる範囲じゃどれも同じね」
「それじゃあ、真ん中の道を進もうよ。真ん中ならどこかで左と右も確認できそうだし」
「じゃあ、そうするか」
コーヒーが小舟を操作し真ん中の道を飛んで進んでいく。
「……地面から噴き出す溶岩が本当に多いわね。それに前触れなく溶岩が噴き出すのもたまに見えるし、普通に進んでいたらダメージを受けてるわね」
地面に視線を向けるサリーの言う通り、最初のように少し赤く輝いてから溶岩を噴き出すのもあれば、何の兆候もなくいきなり溶岩が噴き出すものもある。
そんな地味に質の悪いフィールドギミックを眺めつつ、周囲を警戒しながら進んでいると、再び広い空間へと出た。
「CF、ストップ。何かいる」
「ん、んー……確かにいるな。溶岩が鳥の姿をした感じか。壁から流れる溶岩から出てきてるし、出現は止められそうにないな」
コーヒーの言う通り、溶岩をどろどろと滴らせながら飛ぶ一メートル程の鳥型モンスター達は、壁から流れる溶岩から湧き出ている。
「あの溶岩も固定ダメージの可能性が高いし、どうする?」
「一度戦った方がいいと思う。モンスターの性質を知らないと駄目だし」
「りょうかーい!」
サリーの言葉にメイプルは頷くと、早速【機械神】による銃撃を溶岩鳥に向かって放っていく。
放たれた銃弾は溶岩鳥に当たったが、そのまま貫通して飛んでいってしまった。
「あ、あれ?効いてない?」
「まさか……穿て!【サンダージャベリン】!!」
コーヒーはもしやと思って雷の槍を溶岩鳥の一羽に向けて放つも、先ほどのメイプルの銃弾と同じくそのまま貫通し素通りしてしまう。
「やっぱ雷も駄目か!サリー!!」
「分かってる!!」
コーヒーの呼び掛けにサリーはそう返し、水魔法を溶岩鳥に的確に命中させる。すると、モンスターの溶岩はみるみる内に黒く固まり、そのまま地面へと落ちていった。
「水に弱いんだね!」
「これで攻撃が通る筈!!」
コーヒーとメイプルは地に落ちた鳥に向かって矢と銃弾を放つ。今度は貫通して素通りすることなくダメージを与え、光となって消えていく。
溶岩系のモンスターの性質を理解した三人は、そのまま同じ手段で溶岩鳥を駆逐した。
「この階層は水属性の攻撃が必須だな……でないと、勝負にすらならない」
「そうだね。私とコーヒーくんは水属性の攻撃スキルは持ってないし……」
「この階もまた癖が強いわね。情報も出回ってないし……」
「そうなの?」
メイプルの疑問にネットで情報を確認していたコーヒーとサリーは揃って頷く。
「一応、この三階は【集う聖剣】のパーティーメンバーが最初に挑んでいるみたいだけど……全体的に最高難易度の攻略スピードが遅いのよね」
「間違いなくボスで足が止まっているんだろうな。一階も二階も、本当に凶悪だったからな」
「確かにそうね……さっきのボスにメイプルはスキルを奪われたし、私は全部コピーされちゃったし」
本当に攻略させる気があるのかと、コーヒーとサリーは運営に対して少し懐疑的な気持ちとなる。あながち、間違ってはいないが。
「あはは……それなら何れくらい早く攻略できるか挑戦してみない?もちろんノーダメージで!!」
メイプルのその提案にコーヒーとサリーは目を少し丸くするも、すぐに挑戦的な笑みを浮かべた。
「なるほど……それはすごく面白そうだ」
「ノーダメージで最速クリア……難易度は高いけど、凄く燃える!!」
情報伝達はメイプル見守り隊のスレメンバーのクロムを通せばいいので、これに挑戦する価値は十分にある。
「とりあえず、メインはノーダメージで。最速はついでというスタンスで進めるか」
「そうね。この塔限定で手に入るスキルや素材もあるだろうしね」
そうこう話している内に、壁から滝のように流れる溶岩から溶岩鳥が再び湧き出てくる。
「あ!また出てきちゃったよ?」
「今度は無視して……っCF!」
「どうし……げっ!?」
サリーの声にコーヒーがどうしたのかと思ったが、地面から顔を覗かせている蛇のような溶岩モンスターが口から溶岩の塊を放つところを視界に収めたことでコーヒーは咄嗟に小舟を操作してその溶岩塊をかわす。
そのタイミングで溶岩蛇は地面からせり出て、溶岩を撒き散らしながら小舟へと飛びかかるも、メイプルの黒い大盾に受け止められ、そのまま盾の中へと飲み込まれていった。
「あ、危なかった……」
「うん。少し油断してた……ありがとメイプル。助かった」
「ううん、いいよ。それより急ごう!」
メイプルのその言葉にコーヒーは頷き、次の通路に向かって小舟を飛ばしていく。
メイプルも順調?に攻撃手段が増えて【悪食】頼りではないものの、相性のいいスキルであることには変わらない。
メイプルのノーダメージを支える柱の一つであるから、当然と言えば当然であるが。
「通路は広場と比べたら安全……とも言えないよな」
「そうね。さっきの蛇なんか地面から出てきてたし、一概に安全と言える場所は早々になさそうね」
「うん……どこから出てくるのか分からないよね」
地面の溶岩は相変わらず噴き出し続けてまともに歩ける場所を少なくしてくるので、先ほどの溶岩蛇のようなモンスターが出てくるのは勘弁願いたいところである。
「階層が上がる度に面倒なモンスターとか癖の強いのが増えそうだし、貫通攻撃とか固定ダメージとかも気をつけないとね」
「後は回復封じだな。サポート系を封じるのも定番と言えば定番……」
コーヒーはそこで何かに気づいたのか、急に押し黙る。
「CF?」
「いや……こうも癖が強いのが多いから……物理攻撃無効のモンスターがメインの階もあるんじゃないかと……」
「…………」
その可能性に、サリーも押し黙った。
理由は単純。物理攻撃無効のモンスターのイメージは幽霊―――サリーにとって最も苦手な存在が真っ先に思い浮かぶからである。
「その場合はどうする?」
「……二階と同じ方法でお願いします」
つまり、小舟に乗ってコーヒーの背中にしがみつくと言うことである。他には箱に閉じ籠るという方法もあるが、幽霊がいる場所で暗い密室は極力避けたいと無意識に考えていたため、その方法は選択肢に思い浮かばなかった。
そんなことを決めながら三人は慎重に進み、次の広場へと辿り着いた。
そこは短い間隔で溶岩があらゆる場所から天井に届くほど噴き出す危険地帯であった。
その光景に、三人は顔を見合わせた。
「こ、これ、どうすればいいの?」
「メイプルが入れば強引に……いや、無理みたい。あそこ、よく見たら地面じゃなくて溶岩の海だし」
サリーの言う通り、あの広場は地面らしい地面が一切見当たらず、赤々と輝いている溶岩からさらに溶岩が噴き出しているので、海という表現は正しいだろう。
加えて、壁のあちこちから滝のように溶岩が流れているから、壁伝いで突破するのも不可能である。
念のためサリーが水魔法を噴き出す溶岩にぶつけるも、黒く固まった箇所はすぐに溶岩に呑み込まれてしまった。
「うー……駄目かあ……」
これが正解だと思っていたらしいメイプルは分かりやすいほどに肩を落とす。
「となると……一度引き返すしかないか」
強硬突破はどうやっても不可能だと分かり、コーヒーは二人にそう提案する。
天井に届くほど噴き出す溶岩、溶岩の海に滝。
普通に考えれば、あの強硬突破不可能の危険地帯を突破するための解決手段がこの階層にある筈だからだ。
「そうね。別の場所を探索して解決方法を探すしかないわね」
「仕方ないかあ……せっかくやり過ごせたのに……」
メイプルとしては防御力に関係なくダメージを与えてくるモンスターは極力避けたいところだが、この溶岩地帯を無事に突破するにはフィールドを探索するしかないのも事実である。
「まあ、可能な限り避けて進むさ。あのモンスター相手じゃ、俺は手出し出来ないし」
「あれ?確か【ワイルドハント】には水を打ち出す大砲があったはずよね?」
「3000万払えばな」
つまり、お金が足りないし余裕もないので買えないのである。
「……本当に金食い虫なスキルね。その分、性能自体は良さそうだけど」
「じゃあ、私はアイテムを準備するね!」
メイプルは水属性ダメージを与える球とアイテムを詰め込んで放つバズーカをインベントリから取り出すと、球をバズーカにセットして構える。
「本当にいろんなアイテムを持ってるね……」
「というかそのバズーカ、どこで手に入れたんだよ?」
「バズーカはミキから貰いました!後……」
メイプルはさらに《救いの手》を装備して盾を増やし、自身も【機械神】を発動して武装を展開する。
「これで完璧!!後、サリーは大丈夫?」
「……うん。ちょっと慣れてきたよ」
サリーは目を少し細めてチラリと二つの白い手を確認してそう口にする。
……右手がコーヒーの服の裾を掴んでいるが。
「そういえば氷属性は一体どうなるんだ?【フリーズショット】」
コーヒーは疑問を解消する為に、明後日の方向に冷気を放つ矢を放った。
その矢は、ジュッという音と共にすぐに消えてしまった。
「……ここじゃ氷属性は役立たずだな」
「そうね。【氷柱】も同じように消えるでしょうね」
氷属性のスキルはここでは全く発揮しないと分かり、三人はもと来た道を戻るのであった。
「この階層は水属性が必須だな……」
「それじゃあ、水属性を付加するアイテムを渡しておくわねー」
「地面から溶岩が噴き出しているから足元には注意しないとな……」
「じゃあー、【水爆弾】で凝固するか試してみるねー」
「通路がほとんど溶岩で埋まってますね……」
「この魔導書で固められるか試すね。【高波】」
生産職と釣り人のアイテム、図書館の管理人の魔法によって余裕で進めていく【楓の木】のメンバーの図。
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