今日も今日とて、運営はイベントの進行状況と各階にバグが発生していないか確認していた。
「現在トップの【集う聖剣】の主力メンバーは六階のボス戦に突入しましたね」
「ああ。にしても、何で六人で挑んでいるんだろうな?【炎帝ノ国】の主力メンバーも六人だし」
どのような理由で六人だけで最高難易度に挑んでいるか分からない二人は揃って首を傾げる。
「他の状況は?」
「多くが二階と三階で止まっている感じですかね?四階と五階は合わせて二組しかまだ挑めていませんし」
運営のプレイヤー達への挑戦状とまでに難易度を引き上げた最高難易度の塔は精鋭プレイヤー達に猛威を振るっているようで、二人は悪どい笑みを浮かべる。
「でも、挑戦してリタイアするパーティーはいないんですよね」
「全員凄いやる気だなぁ。まあ、その分素材や取得スキルも多少追加したが」
「ですね。あ、三階のボスの戦闘記録見ます?」
「見よう」
男は適当に幾つか記録映像を選び、画面に順番に表示していく。
「うーん……このボスも凶悪だな。てか、何で巨人から一角獣に変化するようにしたんだ?」
「このボスを作った人によれば、『その場から動かなくなるから人型より一角獣の方が強そうに見えるからだ!!』っと、言ってました」
「そうか……」
男はそう返して最後の映像を確認すると、例の三人パーティーの映像が映っていた。
「……【ワイルドハント】で空中戦を展開してるな」
「ですね……しかもサリーも《信頼の指輪》で【ワイルドハント】の筏を足場代わりにしてますね」
「あ、氷形態になったな」
「なりましたね。あ、メイプルが【獄炎石】を使いましたね」
映像はそのまま流れ続け、ボスは第三形態の一角獣に姿を変えていく。
「メイプルが化け物になって攻撃してますね」
「ふっ、残念だったな。第三形態の氷は外装で本体にダメージは与えられないぞ!!」
ボスが溶岩を噴き出させる光線を放つも、メイプルは咄嗟に右に飛んで回避する。だが、その後の溶岩の海に戻ったことでメイプルは溶岩の海へと沈んでいく。
「よし!!そのまま溶岩にやられろ!!」
「ついにメイプルの年貢の納め時が!!」
だが、サリーがメイプルを救出して水を放つ大砲をぶっぱなし、コーヒーの【グロリアスセイバー】で一気に倒されたことで二人は一気に消沈した。
「「…………」」
「……まあ、財布にダメージを与えたからな」
「ええ、そうですね。財布に大ダメージを与えましたからね」
二人はそう言って気を取り直すと、黙々と作業を再開していった。
――――――――――――
四階へと続く階段を上る間、三人―――厳密にはコーヒーとサリーが今回得たスキルについて話し合っていた。
「【大噴火】は消費MPが50だから数回で枯渇寸前になるし、発動前の三秒間の硬直が本当に痛いわね」
「こっちの【氷霜】は氷属性じゃないと効果を発揮しないし、持ってるのは【羅雪七星】だけだから全然意味がないな……」
本当に逆だったら良かったのにと、コーヒーとサリーは揃って溜め息を吐く。
「まあ、今回互いに得たスキルは指輪に登録して有効活用しましょ」
「そうだな」
コーヒーは【死霊の助力】を【氷霜】に、サリーは【魔力感知】を【大噴火】へと登録し直す。
サリーなら【氷結領域】で水属性を氷属性に変えることができ、コーヒーはMPもそこそこある上に【クラスタービット】や【雷旋華】等で発動前の硬直による隙を埋めることができるからだ。
メイプルはMP関係から【大噴火】をスキルスロットに付与しようかと考えていたが、それにサリーが待ったをかけた。
何故なら、今回のイベントをクリアすればメダルは十枚となってメダルスキルが手に入るので、その後で考えた方が最善だからだ。
「【黄金劇場】やCFの【クラスタービット】のような大食いはともかく、【大噴火】はその二つに比べると大食いじゃないし、スキルスロットは一度付与すると二度と返ってこないしね」
「《信頼の指輪》はあくまで“登録”で切り替えは自由だが、スキルスロットの方はそうはいかないからな」
コーヒーもスキルスロットは結構余っているが、付与するならMPを一度に大量消費するスキルか癖が強過ぎるスキルが最善だと判断している。
「それに、攻撃力は今のところ十分足りてるでしょ?」
「攻撃も防御もバッチリです!!」
「じゃあ、今回は見送って次の階に挑むか。そろそろ見えてきたしな」
そうして三人は四階へと足を踏み入れる。
音を立てて落ちる水とその向こうに広がる森。
音を立てて落ちる水は滝で、滝壺からは幅の広い川が流れており遠くには海らしきものが見える。
そして、塔の中にも関わらず青い空が広がっていた。
「おー!すっごい広いよ!!」
「そうだな。結構不思議な光景だが」
「三階も似たり寄ったりなのに何言ってるのよ。とりあえず、降りようか」
三人は崖に沿って作られている足場を降りていく。
そして、周辺を軽く調べると森の方は侵入不可能であることが判明した。
「森が駄目となると川を下っていくしかなさそうね」
「そうなると移動は舟かシロップの二択だが……」
「三階のボスのギミックを考えると、空中への対策はされてるわよね」
「じゃあ、俺が試してみるか」
コーヒーはそう言って、メタルボードにした【クラスタービット】に乗り、川の上へと移動する。
その途端、川から水の矢が次々と放たれ始めた。
「やっぱり空中への対策が取られていたか……」
コーヒーはメタルボードを盾にして水の矢を防ぎつつ、二人の下へと降り立つ。
「空の移動はご覧の通り厳しそうだ」
「そうね。次は川の中の確認ね」
サリーはそう言って川の中へと潜ると、数秒も待たずして慌てたように川の中から飛び出てきた。
「泳いで行くのも無理。中は魚型のモンスターがいて、襲いかかろうと私に向かって一気に集まってきた」
「そうなると……これが最善か?」
サリーの報告にコーヒーはそう呟くと、小舟の船底を【クラスタービット】でコーティングし、それを川の上に浮かべる。
パッと見た限りでは、川を渡る小舟そのものである。
「これで川下りすれば安全に行ける筈だ」
「そうね。一応、川に浸かっているしね」
「それじゃー、のんびり舟の旅と行こー!!」
サリーは呆れながら、メイプルはテンションを上げて小舟へと乗り、そのままゆっくりと川を下り始める。
念のためにメイプルは【身捧ぐ慈愛】を発動しているが、水の矢もなく、森から何も襲ってくることもなく、まさに平和そのものだった。
「こうも何も起きないと暇だな」
「そうね。せっかくだし釣りでもして魚を釣り上げようかな。売ってお金にしたいし……」
最後の方は気落ちしたように呟いたサリーは、自身のインベントリから釣竿を取り出すと、釣糸を垂らして釣りを始めていく。
「じゃあ、俺も釣りをするか。このまま小舟を操作し続けるのも暇だし」
「それなら私も!あんまり釣れないけど……」
コーヒーとメイプルもサリーに続くように釣りを始めていく。
少しして、コーヒーとサリーは見たこともない魚が釣れたが、アイテム欄の詳細を確認するとただの美味しい魚だった。
メイプル?VIT特化だからまだ釣れていませんが?
「ミキなら凄いのを釣るんだろうなー……」
「確かに……どデカイ魚を釣り上げそうだな」
「それ以前に、魚かどうかすら怪しいけどね」
サリーのミキに対する評価にコーヒーとサリーは苦笑い気味に頷く。
ここで船を釣り上げたと聞いても、またおかしなものを釣り上げたのか、としか思わない辺り、相当である。
「他の皆はどうやって移動してるのかな?」
「うーん……川の中はモンスターでいっぱいだったから泳いでは行けないし……町のショップで売ってたボート辺りに乗って移動してるんじゃないかな?」
「かもな。普通は小舟に乗って下りは出来ないからな」
「ボートかあ……それもいいなあ……」
そんな風に談話しながら釣りを続けていると、コーヒーが何かに気付いたように川に視線を向ける。
「?CF?」
「気のせい……じゃない。川の流れが速くなってきてるぞ!!」
水の流れが速くなると共に川の途中にある大きな岩が見え始める。ボートなどがぶつかればただでは済まないのが容易に想像できる。
「【召喚:錨】!!」
コーヒーは【ワイルドハント】の召喚物である鎖付きの錨を召喚すると、錨の鎖を小舟の後ろへ繋げてから川へと放り投げる。
結果、大きな岩にぶつかる直前で小舟はブレーキがかかったように止まった。
「流石にこの流れに逆らって安全に移動するのはキツいぞ。どうする?」
「それなら、三階での屋根付きにして!!かなり荒れるけど、空を飛んで水の矢に晒されるよりマシと思うから!!」
「わか―――」
サリーの提案にコーヒーが頷きかけたところで、所々にある大きな岩の一つに五メートルはあるであろうHPバーが存在しない緑の蛙が鎮座している事に気付く。
その蛙はコーヒー達に顔を向けて口を開くと舌を伸ばし、一瞬で何かを呑み込む。
そして……サリーの隣にいた筈のメイプルはその場から消えていた。
「「……喰われた!?」」
少しの間から、コーヒーとサリーは揃って声を上げる。
コーヒーがメイプル救出の為にその蛙を攻撃しようとクロスボウを構えようとした矢先、メイプルを呑み込んでモグモグしていた蛙は、にゅるりとメイプルを川に向かって吐き出してあっさりと解放する。
蛙の口から解放されたメイプルは、そのまま川の中へと沈んでいった。
「ちょっ!?あれヤバいだろ!?」
「あのままじゃメイプルが溺れて終わりよ!!」
地味にメイプルが溺死の危機となったことで、コーヒーは慌てて錨の鎖を外して流れに逆らうように小舟を必死に操作し、サリーは【魔力感知】をフルに使って水の中にいるメイプルの存在を捉える。
「メイプル!!」
サリーは人型の赤い靄に向かって糸を飛ばし、自身の体を小舟に固定して力いっぱい引き上げる。
引っ張られた糸の先には、目を回しているメイプルがくっついており、そのまま小舟の上へと引き上げた。
「大丈夫メイプル?」
「うぇぇ……蛙の中って結構狭いんだね……後ぐるぐる回って水の中も全然分からなかったし……」
「まあ、無事で―――」
その瞬間、サリーの姿が消えた。
コーヒーはまさかと思って蛙の方に目を向けると、先ほどと同じように口をモグモグしている。
「今度はサリーかよ!?」
コーヒーのその叫びは、メイプルと同じように吐き出されたサリーによって証明された。
「もうあっち行け!!」
流石にあれをスルーするわけにもいかず、コーヒーは蛙に向かって矢を何発も放っていく。
矢を何発も受けた蛙は大岩をぴょんぴょんと飛び移り、森の中へと消えていった。
「よし!次はサリーの―――」
急いでサリーの救出に動こうとした直後、小舟の縁にガッ!と濡れた手が掴む。
そこから、貞○のようにサリーが水中から顔を出し、小舟の上へと上がってきた。
HPは欠片も減っていないので、あの蛙は本当にただの嫌がらせで配置されたようである。
「サリー、無事か?」
「……あの蛙は?」
コーヒーの質問には答えず、サリーは顔を俯けたまま蛙の所在を問い質す。
「ああ、蛙なら俺が追いはら―――」
その瞬間、コーヒーはダガーを喉元に押し付けられ、押し倒された。
「なーんで、あの蛙を追い払ったのかしら?」
「二度も捕食から川へ嘔吐したら、流石に放置できないだろ!?」
「うるさい!あの蛙に仕返ししたかったのに!この怒りをどこにぶつけたらいいのよ!?」
完全に八つ当たりしているサリーにコーヒーはどうすればいいのかと本気で考えていると、操作が疎かになったことで小舟が大岩にぶつかってしまう。
それでコーヒーを八つ当たりから押し倒していたサリーはバランスを崩し……
「「――――――」」
顔……の一部がくっつき、コーヒーとサリーは絶句。というか喋れない。
復活したメイプルは……予想外のハプニングに顔を赤らめつつも写真に収めていた。
そして小舟が再び揺れ、その拍子でコーヒーとサリーは離れる。
小舟は大岩と大岩の間に引っ掛かってその場に止まったが……コーヒーとサリーは理解が追い付いていないのか、未だに固まっている。
最初に現実に帰ってきたのは……サリーだった。
「…………」
サリーは無言のまま画面を操作し―――逃げるようにその場から消えていった。
続いて現実に帰ってきたコーヒーも、メイプルを大岩に移動させてからその場から消え、一人残されたメイプルは、二人がログアウトしたことを確認すると、塔から出ていくのであった。
―――――――――――――――
「ぁぁぁ……ぅぁぁぁ……」
現実に戻ってきた理沙は枕に顔を埋め、ベッドの上で悶えていた。
(何であのタイミングであんなことになるのよ!?私のふぁ、ファースト……が、あんな形になるなんて……)
ゲームのあれをカウントするかしないかは個人の自由ではあるが、感触がはっきりと残ってしまっている為、カウントに入るであろう。
「……明日はどんな顔して会えばいいのよ……」
嫌でも学校で顔を合わせることになる理沙は、悶々と答えの出ない葛藤に悩まされるのであった。
ちなみに浩の方はと言うと……
「ぁああああああああああああああああ―――ッ!!!」
「浩!!うるさいから静かにしなさいっ!!」
大声を上げて悶えていた為、母親に大声で怒られていた。
「川の流れが次第に速くなってるな。みんな、気をつけろよ」
「わーってるよ」
「ん?なんだあの蛙は?それも二匹」
「……猛烈にバッドな予感が―――」
「あれ?サクヤちゃん、どこいったの?」
「ドラグもどこに……って、蛙の口からドラグの足が見えるぞ!?」
蛙に喰われたサクヤとドラグの図。
※この後、フレデリカも喰われましたw
感想お待ちしてます