コーヒーが【結晶分身】を取得してからしばらくして。
「もう、広い部屋はいいかな……」
「そうだな……」
コーヒーとサリーは精神的に疲れているのか、サリーは毛玉の上で、コーヒーは小舟の隅でぐったりとしていた。
理由は単純、この階の広い部屋が、全てモンスターハウスになっていたからである。
先に進むために大きな部屋に入る度、通路が封鎖されてモンスターが大量に溢れ出てくるのだ。
それを上空からの一方的な攻撃で全部沈めていたのだが、基本的な火力の低さが災いしてそれなりに時間が掛かってしまっている。
ステ振りとスキルの関係からある程度火力の低さは諦めてはいるのだが、やはり安定した高火力の攻撃が欲しいと少しは思ってしまう。
「今日はこの階のボスを倒して終わりでいいだろ」
「そうね。今日手に入れた素材の幾つかはイズさんに渡して……残りは売りましょ」
「よーし!それじゃあ、もうひと頑張り!!」
【大噴火】かイズ印の攻撃アイテムしかこの階のモンスターにダメージを与えられないメイプルが元気いっぱいに告げ、三人はボス部屋へと突入するのであった。
―――――――――――――――
時間を遡って、一番先に六層を攻略しているパーティーがいた。
そのパーティーはNWOの最前線のトッププレイヤー集団【集う聖剣】の主力メンバーだ。
「ペーイーンー、私とサクヤちゃんの負担が大きい気がするんだけどー?」
「ロォング。私は支援だけですので、後方、回復、援護を全て押し付けている社畜デリカさんの負担が一番です」
「ちょっと待って。今、押し付けてるって言ったよね?後、私は社畜じゃないからね!」
文句を言っていたフレデリカはサクヤのカミングアウトにジト目で詰め寄っていくも、当のサクヤは涼しい顔で言葉を返していく。
「そもそも、この六人で挑む提案をしたのは貴女でしょう。なので、馬車馬の如くキリキリ働いてください。本に喰われて涎まみれとなったベトデリカさん」
「それなら四階で蛙に食われたサクヤちゃ、いや、ヌメヤちゃんもそうでしょ!!」
「それは外道デリカさんも同じでしょう。二回目からは私を盾にしようとしていたのですから」
「それはそっちも同じでしょーが!!」
相変わらず口喧嘩が絶えない二人に、ペイン達残りのメンバーは苦笑して見守る。しかし、いつまでもこのままという訳にもいかない。
「レイド。悪いが二人を止めてくれないか?」
「俺達が割って入っても、男の俺らじゃ止められないからな。後ダリぃし」
「俺なんか同じように蛙に喰われてっから、余計な飛び火が来そうだしよ」
「ハァ……了解した」
レイドは男性陣の要請に溜め息を吐きながらも、フレデリカとサクヤの間に割って入って二人を宥めていく。よく口喧嘩はしても険悪になったり尾を引いたりしないので、根本から仲が悪いわけではないのですぐに落ち着くだろう。
レイドが仲裁している間、男性陣は最大のライバル達について話し合っていく。
「メイプル達はどこまで進んでいるんだろうな?」
「んー、三、四階辺りまでは進んでいるんじゃないか?」
「けど、二階のボスのコピーと強奪は凶悪だっただろ。おかげでサクヤの演奏スキルを同時に幾つも使ってくるし、俺のスキルは奪われるし」
「そいつはサクヤの【英雄の協奏曲】とフレデリカの【多重全転移】の凶悪コンボで強化したペインの超火力の一撃で倒しただろ」
「代わりにそこで探索は中断したけどな」
サクヤのパーティーメンバーへの無限バフスキル【英雄の協奏曲】は第六回イベント前に修正され、上がり幅が一秒毎に10%へと変化した。だが、使用中は常にMPを消費し続け、MPが尽きたら強制終了。デメリット時間も演奏時間の十倍という新たな制限が設けられた。
しかも一秒毎のMPの消費量も結構多いため、第四回イベントのような無限強化は乱用できなくなったのだ。
何せ十秒以降はデメリット時間中のHP・MP以外のステータスが0となる上、その時間も十倍。MPが尽きればそこで効果は終了。大幅な弱体化である。
二階のボスはその凶悪コンボで倒せこそしたが、本のボスも【英雄の協奏曲】を使ってステータスを上げて対抗した為に倒す時間がかかってしまい、ペインのステータスダウンが二時間も続くという結果となってしまったのだ。
「弱体化されるのは仕方ないさ。メイプル達のスキルだって幾つか修正が入っている筈だからな」
ペインがそう締め括ったタイミングでレイドが口喧嘩していた二人を連れて戻ってくる。どうやら無事に仲裁できたようである。
その後も他愛ない会話をしながら探索を続けていると、盾と槍を持った結晶兵士三体、その後ろに弓を持った結晶兵士一体の計四体のモンスターに遭遇した。
「この狭さなら!!」
ドラグが真っ先に飛び出して斧を横薙ぎに振るう。その一撃は盾に防がれはしたが、ノックバック攻撃によって吹き飛ばして転倒させる。
そんなドラグに三本の矢が飛来するも、フレデリカの【多重障壁】によって受け止められて敢えなく失敗に終わる。
「ありがとよ、フレデリカ」
「お礼を言うくらいならもっと気をつけてよねー?防御も回復もほとんど私の担当なんだからねー!」
フレデリカがドラグに文句を言っているうちに、先程吹き飛ばした兵士が三体とも何事もなかったかのように起き上がろとする。
「お?ノーダメージか?」
「パワーアタッカーのドラグさんの攻撃が効いていないとなると、防御力が相当高いですね」
「なら防御貫通が必須だな……我が短剣は屈強な鎧を無視する―――【アーマースルー】」
サクヤの分析にドレッドは短時間、短剣に防御貫通能力を付与するスキルを使って起き上がりかけていた兵士の一体の頭部に短剣を連続で突き刺していく。
「唸れ、【痛感の旋律】」
「削り取れ、【蛇鱗】」
サクヤも演奏スキルでメンバー全員にバフをかけ、レイドも蛇腹状となった刀で防御貫通能力が付与された攻撃を行い、二体まとめてガリガリとHPを削っていく。
「【トリプルスラッシュ】!!」
「【鎧砕き】!!」
その間に後衛の弓使いをドレッドが三連撃で斬り裂いて光に変え、ドラグも今度は防御貫通スキルを使ってレイドによってHPが削られていた兵士二体を一撃で砕くのであった。
「思ったより雑魚だったな。防御貫通を使わないとダメージが通らないのが面倒だけどよ」
「今までの階と比べたら雑魚ですが、これだけで終わるとは思えません」
「だな。五階のどこぞのゲームのボスにそっくりなボスは、広範囲に高威力の攻撃を放ってきたしな」
その五階のボスはメイプルに瞬殺されたことを六人は知らない。知ったら、自分達の苦労は何だったのかと思い悩んでいただろう。
そんなペイン達も件のモンスターハウスへと足を踏み入れる。
「モンスターハウスか……中々に面倒だな」
「どうするー?」
「俺がやる。ドラグ、時間を稼いでくれるか?」
「任せろ!大地を割砕し蹂躙せん―――【地割り】!!」
ドラグは速攻で斧を地面に叩きつけて地面を割ろうとしたが、その割れ具合は何時もの半分以下だった。
実は、この階の地面は【大噴火】や【地割り】等のフィールドに干渉するスキルに強い耐性を持っている。コーヒー達の場合は【大噴火】を使ったのが六階が始めてだったので気が付かなかったのだ。
そんな地味に質の悪い特性で思ったより足止めできず、大量の結晶兵士達は六人に群がっていく。
「打ち砕け!【粉砕の音色】!!」
サクヤがパーティーメンバー全員に防御貫通能力を付与する演奏を始めてフォローに入る。
「ありがとねサクヤちゃん!同時に燃えよ、【多重炎弾】!!」
「吹き飛ばせ!【破雷】!!」
「逆巻く旋風は汝を斬り刻む!【旋風連斬】!!」
「悪ぃ!燃え盛る斧で薙ぎ払わん!【バーンアックス】!!」
どの攻撃も結晶兵士にダメージを与えられるようになったことで、フレデリカは無数の炎弾を放ち、レイドは雷を纏った蛇腹刀を叩きつけ、ドレッドは範囲内で高速の連撃を放ち、ドラグは謝りながらも炎を纏った斧を横薙ぎに振るって結晶兵士達を攻撃していく。
「【範囲拡大】!!我が一撃は汝の罪を裁かん!【断罪ノ聖剣】!!」
自前のバフをかけ終えたペインが、かつてメイプルに致命的なダメージを与えたスキルで前方広範囲の結晶兵士達を両断し、光へと変えていく。
「【月夜ノ聖剣】!!【残光ノ聖剣】!!」
さらにペインはまるで瞬間移動したかのように結晶兵士の一体のすぐ近くに現れて一閃。続く一閃で極太レーザーのような光の斬撃を放ち、多くの結晶兵士達を両断する。
一度に多くの結晶兵士達を光に変えたペインは【残光ノ聖剣】使用による硬直で動けなくなるも、その間は他のメンバーが結晶兵士達を相手取っていく。
いくら大量のモンスターが相手でも安定した強さを持つペイン達の敵ではなく、彼等は出鼻こそ挫かれたが窮地に陥ることなくモンスターハウスを片付けるのであった。
「よし、終わったな」
「イエス。ドラグさんの最初の足止めは上手くいきませんでしたが……次に活かせるのでグッドでいいでしょう」
「だねー。次からはサクヤちゃんの防御貫通付与スキルをメインに行こうねー」
「それが妥当だな。ドラグの足止めが何時もより効果が発揮できない以上、面攻撃で対処するしかないだろう」
ほんの数十秒でモンスターハウスを片付けた六人は軽い足取りで探索を再開していく。
道中に落ちているアイテムや素材、スキルなども回収しつつ、六人はサクサクとマップを埋めていく。
「この【結晶化】というスキルは俺達には使えないな」
「だねー。VIT100だと大盾使いくらいしかいないよー」
「幸いスクロールだから譲ればいいさ。それはともかく……今後、メイプルに状態異常は効かなくなったな」
「だな……その程度なら可愛いくらいさ」
「イエス。今の彼女はスキルを無条件で使えるスキルを取得してますから、それと比べたら可愛いものです」
「【結晶化】以外にも、またおかしなスキルを手に入れていそうだよねー」
フレデリカの言葉は間違っていないので、ペイン達は何とも言えない表情で笑みを浮かべるしかない。
「それでも次こそ勝つさ」
「ああ。CFも空飛ぶ船を出せるようになっていたが、負けっぱなしってのは癪だからよ」
そのコーヒーが二丁クロスボウという本当にクロスボウなのかと疑うものを実現してると知ったら……また死んだ魚のような目となるだろう。
「イエス。私もサリーさんへのリベンジは、この新スキル【屍の伴奏】で目にもの見せてみますよ」
「毎回速攻で負かされているけどねー?」
サクヤの宣言に同じく連敗中のフレデリカが茶々を入れる。
サクヤもフレデリカほどでないにしろ、サリーに決闘を挑んでおり、その勝負は毎回一方的にやられているのだ。
これは単にサクヤが弱いからではない。サリーが限界突破&殺意MAXでサクヤをボコっているからである。要するに、幽霊系統のスキルを使われる前に倒す!!というものである。
そんなそれぞれの打倒したい相手を思い浮かべながら探索を続け、六人はボス部屋へと突入していく。
六階のボスは魔術師風の姿をした人型であり、ボスはその手に持つ杖の先で地面を叩いて道中の結晶兵士達を次々と召喚していく。
「全員道中のやつらかよ……面倒臭え……」
「じゃあボスだけ……は無理だねー」
結晶兵士達を召喚していたボスが新たに召喚した全長五メートルはありそうなダイヤモンドのように輝く鉱石で構成されたゴーレムの肩に乗ったことで、フレデリカはピンポイント狙いを諦めた。
「イエス。今までと同じようにやるしかないですね。打ち砕け、【破砕の音色】」
「【多重加速】!!【多重増力】!!【戦いの歌】!!【高揚】!!」
サクヤが防御貫通付与スキルを発動したことで、フレデリカはペインを除く前衛メンバーに効果時間が短いバフを次々とかけていく。
「瞬け!
「叩き割れ!
「高鳴れ!
【名乗り】でステータスを底上げしつつ、ドレッドとドラグは群がる結晶兵士達を斬り刻む、または吹き飛ばしていく。
レイドも蛇腹刀を自身の周りを舞うように振るい、近づく結晶兵士達をガリガリと斬り刻んでいく。
ペインは剣を腰だめに構えてジッとしている。理由は単純。新しいスキルをここで使うからである。
「―――【斬鉄剣】」
一分という長い溜めからペインはスキルモーションに従って剣を振るう。すると、一撃で結晶兵士達とボスを担いでいたゴーレムを両断し、ボスにも大ダメージを与えた。
スキル【斬鉄剣】は発動前の溜めが一分と長いが、効果範囲もその威力も高い必殺の攻撃スキルだ。特に範囲内にいれば確実に斬られる効果がある。
そんなペインの一撃で大ダメージを負ったボスは全身が結晶で出来たドラゴンを四体召喚し、自身も杖から青白い光線を放ち始めていく。
「連なり守れ、【多重障壁】!!」
フレデリカが幾重にも展開した障壁でその光線を受け止めるも、障壁は次々と青白い結晶へと変化していき、ドラゴンの尻尾の薙ぎ払いで簡単に砕かれてしまう。
「これ以上長引くと面倒だな。サクヤ、フレデリカ。例のコンボと俺の【アーマースルー】をペインに渡して一気に終わらせるぞ」
「んー、ペインいいー?」
「ああ。先ほどのモンスター達も再び召喚され始めたし、これ以上時間をかけるのは得策じゃない」
「りょうかーい!」
ペインの返答にフレデリカは快く答え、サクヤも頷いて【英雄の協奏曲】を奏で始めていく。
フレデリカはMPポーションを片っ端からサクヤへかけつつ、可能な限り攻撃力強化のバフをかけていく。
ドレッドは【アーマースルー】、ドラグは【バーサーク】、レイドは【ベルセルク】を発動し、それ以外の攻撃力強化スキルを発動していく。
「すべての力を彼の者へ!【多重全転移】!!」
サクヤにMPポーションをかけてすぐにフレデリカはスキルを発動。すべてのバフをペイン一人へと移す。
「【破壊ノ聖剣】!!」
凄まじい強化を施されたペインの一撃は、ボスとドラゴンの光線も結晶兵士の軍勢を等しく強烈な光と斬撃による衝撃波に呑み込まれ、跡形もなくすべてを吹き飛ばしていく。
「【残光ノ聖剣】!!」
さらにペインは防御体勢を取って辛うじて生き残っていたボスにオーバーキルと言える光の斬撃を放ち、確実に止めを刺したのであった。
戦闘終了後、ペインは早速後遺症に悩まされていた。
「体が重いわけではないが、常に水の中にいるような感じだな。流石に慣れはしたけどね」
「それは仕方ないよー。サクヤちゃんが付与したバフを全部引き受けたんだからねー」
「今回は二分半……元に戻るまで25分はかかります。ログアウトしてもこのデバフは消えませんのでここで一度中断ですね」
そうして、ペイン達は消費したアイテムの補充も兼ねて一度塔の外へと出て、ペインのステータスが戻ってから探索を再開するのであった。
ちなみにコーヒー達のボス戦は……
「芸術は……爆発だよ!!」
【樽爆弾ビックバン】の連続使用でいとも簡単に撃破していたのであった。
「怨霊の―――」
「【超加速】!!【七式・爆水】!!朧【影分身】!!【ダブルスラッシュ】!【四式・交水】!【トリプルスラッシュ】!!」
「ちょっ、殺意が高過ぎですよ!?」
「当たり前でしょ!!【ウィンドカッター】!【十式・回水】!!」
とある決闘の光景の図。
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