青王と逝くブリテン異聞帯   作:飴玉鉛

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前回までのあらすじ。

ARAYAのルートにGAIAとMOONがログインし駅伝の様相を呈してまいりました。

ARAYA(TAS)→?
GAIA(TAS)→メスガキ
MOON(TAS)→はくのん
ORT が 仲間に なりたそうな 目で こちらを 視ている
世はまさに超代理戦争時代。
ただし敵は本能寺にあり(意訳・ARAYAはぼっち)


ガバるレフ

 

 

 

 

 レフ・ライノールは迷っていた。道に迷っているのではなく。

 

「………」

「………」

 

 マシュを探していたら出くわした、この少女。マシュが姉と呼び慕う、完成されたデミ・サーヴァント。

 名をガートルード・キリエライト。無垢なる魂と英霊の力を持つ戦闘機械。マシュ・キリエライトと瓜二つの容姿の持ち主でありながら、能動的な側面を強化したような、いわば猫のような存在だ。

 精神性も似通っている。だが全く性格が違う。アクが強い、個性の差。言ってしまえばそれだけなのだろうが、どうも困った性格の少女。

 通路の真ん中で出くわすなり足を止め、思わず口をつぐんでしまったのが運の尽き。透明な眼差しで自分を見詰めてくる彼女を前に、レフの頬へ一筋の汗が流れた。

 

「………」「………」「………」「………」

 

 見合って、見合って。

 ジリ、とガートルードが初動の動作を見せる。

 ジリ、とレフの重心が後ろに逸れる。

 英霊の力を行使する戦闘形態でなければ、ガートルードの身体能力はただの少女のもの。剣聖としての技量は意図して封じているらしい。

 でなければ、自分とて彼女の動きを視認できまい。そう思っている。認めている。だが、そんな事はどうでもいいのだ。

 

 ジリ、ジリ。

 

 不意にガートルードの目が光る。レフは紳士らしい体面をかなぐり捨て、身を翻して逃走した。

 だが遅い。腰の辺りに強烈なタックルを食らってレフは転倒した。咄嗟に彼女に衝撃がいかないように受け身を取る。

 

「レフ教授ー……」

「………」

 

 顔をスリスリと背中へ擦り付けてきて、レフが伸ばしている癖の強い髪を両手で弄んでくるガートルード。その様はまさに猫、レフは通路の床に倒れたまま、無言で彼女の気が済むのを待つしかない。

 レフはこの少女が苦手だった。率直に言って、戸惑う。自身でも良く分からない感情がうねっている。そんな感情を齎すガートルードが苦手で、苦手で、堪らない。オルガマリーも自分に気を許しているが、それはどうでもいいし鬱陶しく思っているのに、ガートルードのこの無条件に近い親愛の念が堪らなく――嬉しい、などと。

 されるがまま暫く待つ。するとやっと気が済んだのか、ガートルードはレフから離れた。それが――名残惜しい、なんて。どうかしている、自分はどうしてこの少女を……『娘』のように感じているのだ。

 

「気は済んだようだね」

「はい。突然すみませんでした」

「――いつもそう言っているが、改める気配がないのはどうしてかな。私としても反応に困ってしまう」

「だって――その、レフ教授が……あったかい目、してるから、です……」

「………なんだって?」

 

 終わりは近い。別離は近い。だから堪えきれず、積もった疑問を叩きつけてみた。

 すると返ってきたのは予想外の言葉。

 温かい目、だって? ……自分が? そんな目で、ガートルードを見ていたというのか。

 

「悲しい目で、わたしやマシュを見てる時もありました。だから、慰めてあげたくて。でもどうしたらいいのか、分からなかったから……こんなことしてました。ごめんなさい」

「……いや。気にしてはいないよ。それよりマシュを知らないかね? 彼女に用があるんだ。もちろん……君に、も」

 

 ガートルードを助け起こしながら訊ねると、不意に痛みが胸に走った。

 傷を負ったのかと思ったが、そうでもない。今の痛みは、いったい……?

 

 それは無視しなければならない致命的なエラーだ。故にレフは迷走しそうな思考を強引に切り替える。

 

 この少女の度を越した洞察力は、生まれや育ちからして有り得ない。であれば彼女に宿った剣豪に由来するものだろう。

 彼女の脅威度は非常に大きいと言わざるを得ない――本当に?――だから確実に処■しなければならない――英霊など雑兵に等しいのに?――彼女を■さねば壊れるのは自分だ、確実を期すために爆破物の配分を変えて彼女へ多めにする――やめろ――頭が痛い――やめろやめろやめろ――

 

「レフ教授?」

 

 呼ばれ、我に返る。

 

「マシュならあっちに。わたしへの用事は、なんですか」

「あ、ああ……ありがとう、助かった。それからそろそろブリーフィングの時間だよ。レイシフトが始まる。君も急いで管制室に向かうんだ」

「? はい、分かりました。――教授」

「……なんだね?」

「泣かないでください」

「――――」

 

 記憶が、飛んだ。防衛本能が飛ばしたのだ。

 ガートルードとその後、どんな言葉を交わしたのか、全て忘れている。忘れなければならない。

 レフはよろめいて、歩く。よろめきながら、歩く。胸が張り裂けそうだ。頭が割れそうだ。この感覚は、なんだというのだろう。

 

 ひどく、吐き気がする。

 

 ――瓦礫の山に下半身を潰された少女。慟哭するマシュと、手を握る青年。それに――気が狂いそうな何かが、レフを襲った――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 わたしはお姉ちゃんなので、妹を守ろうとした。ただそれだけの事。

 体への負荷を考慮し、戦闘形態であるデミ・サーヴァント化を控えている平常時に不慮の爆発に襲われたのだ。

 咄嗟にマシュの腕を引けた自分を、わたしは自賛する。油断していたにしては、よく反応したものだろう。

 何やら駆けつけてくれた青年が、手を握ってくれたのは嬉しかったけれど、顔をクシャクシャにして泣いてる妹の涙を、止めてあげたかった。

 

 わたし、死ぬのかな。

 これじゃとんだ役立たず。生まれてきた意味なんて、ない。

 

『――では、最後の指南だ。真に不動たる境地に心があらば、平素の時にも油断は生じぬもの。そのこと、身を以て学べたであろう。

 であれば次へ活かせ。まだお主には次がある……その幸運を噛み締め、みっともなくも生へしがみつくがよい。

 お主は言ったな。我が剣の無双たるをしらしめたい、爺の剣は至上である、と。吐いた唾は呑めんぞ、我が愛弟子(マゴムスメ)よ。……いつか、至った極みにて対峙する時を……愉しみに、しておく』

 

「ジイ……サマ……?」

 

 ――そうして、旅は始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あぁもうっ! どうなってるのよ!」

 

 カルデアの管制室で、癇癪を起こしたように喚いているのはオルガマリー・アニムスフィアだった。

 奇跡的に、というべきだろう。あるいは本来辿るはずだった、爆死という末路。それはある少女の存在により狂い、爆破犯が仕込んだ爆弾の配分を変えていたから助かった。

 とはいえ全くの無傷というわけでもない。跳んできた何かの破片で頭を打たれ、出血し極短時間とはいえ意識が混濁して前後不覚に陥ってしまっていた。

 今は頭に包帯を巻き、爆破されたカルデアで陣頭指揮を取っている。

 

「私のカルデアスが……私のカルデアが、こんなことになるなんて……! 誰が、こんな……!」

「あー……気持ちは分からなくもないけど、それよりマリー。今は特異点Fに飛ばされてるマシュ達の事を気に掛けるべきなんじゃないかな」

「っ……分かってるわよそれぐらい! なによロマニのくせに。ちょっと、通信はまだ繋がらないの――!?」

 

 傍らにいるロマニに喚きながらも、オルガマリーは実のところ冷静だった。

 こうして喚き立てているのはある種の演技である。こうして不慮の事態に襲われた事で、カルデアのスタッフの混乱は深刻だ。そんな中で変に冷静さを取り繕ったりしても意味がない。ここはむしろ、オルガマリーが逆にいつも通りに振る舞い、ヒステリーに喚いて怒鳴ってスタッフ達の混乱を吹き飛ばした方がいい。

 

 とはいえ半分は素だが。

 

 オルガマリーは魔術師だ。レイシフト適性、マスター適性こそ皆無だが、魔術師としては時計塔のロードの一角の席に座るだけの力はある。

 そしてそうであるからこそ、レイシフト適性がない故のコンプレックスが絡まない事柄に関しては、魔術師として思考できる。そして魔術師らしい精神とは、どこまでも冷徹なものだ。

 未熟ゆえの粗はある。しかし皮肉にもこんな時までふわふわした雰囲気をしたロマニの存在が、オルガマリーの優秀な知性を機能させていた。

 

「所長! 現地にレイシフトしていたマスター候補と通信が繋がりました!」

「――やっとなのね。で、それは誰?」

「Aチームマスター候補主席、マシュ・キリエライトと保塚望月、ガートルード・キリエライト、それから……一般枠の岸波白野だそうです」

「……はあ?」

 

 最初に罪悪感を懐いている少女の名前が出て苦しげな顔になり。最後に予想外の名前が出て素っ頓狂な声が出た。

 オルガマリーは呆気に取られ、しかしすぐに気を取り直す。

 

「ま、まあいいわ。マシュやガートルード、保塚が無事だったのは不幸中の幸いよ。……一般枠の岸波とかいうのよりAチームの連中がいてくれたら良かったのに……」

「マリー。そういう事を言うものじゃないよ」

「うっさいわね。分かってるわよそんなことぐらい。でも戦力的に安定してるマスターがいてくれた方が都合がいいのよ。でもこの際贅沢は言ってられないわ、一般枠だろうがなんだろうが使えるものは使う。……ダ・ヴィンチ、現地に聖晶石を送りなさい。二騎のサーヴァントを呼べるぐらいはあるはずよ。守護英霊召喚システム・フェイトを起動して、カルデア(ここ)の管制室から直接送り込むの。……さっさとしなさい!」

「りょーかい。やれやれ、テンパってるようで意外と頭が回ってるね、所長さんは」

 

 ダ・ヴィンチの揶揄に苛つくも、彼女もサーヴァントだ。万能の天才の言にオルガマリーは苛立ちを堪える。下手に刺激したくない。

 ――本当は、守護英霊召喚システム・フェイトは、デミ・サーヴァントの力に覚醒したマシュの大盾を触媒に機能させるはずだった。

 大盾がなくとも機能自体はする。だが安定性や出力は格段に落ちるだろう。召喚できるサーヴァントの数は、現状の設備の状態を鑑みるに多くて二体。岸波とかいうのと、保塚に一騎ずつだ。マシュにはガートルードがついている。

 

「……誰だか知らないけど、やらせないわよ……やらせるもんですか、私のカルデアなのよ……」

 

 オルガマリーは爪を噛みながら心労、心痛を堪える。

 何もかもが唐突なこの事件。切り抜けて、証明するのだ。自分の価値を。

 そのためにも、

 

「踏ん張りなさいよ……マシュ、保塚。それから……が、ガーちゃん……」

 

 その名前を呼ぶ。すると低俗な愛称で呼ぶのを強制してきた少女が、微笑んでくれた気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 




拙者評価くれくれ侍。速筆にて御免。

こっから先も小説形式ですが時々GAIA視点やらが入る時もあるかも。
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