青王と逝くブリテン異聞帯   作:飴玉鉛

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(作者燃焼中につき速筆モード中)


初手殺意全開刺客

 

 

 

 

「マシュ、岸波、準備はいいな。一瞬も目を逸らすなよ」

「はい!」

「はい」

 

 螺旋の刀身を引き伸ばし、矢に転じた赤い外套の騎士。自前の魔力を削っているのか、彼のマスターである岸波白野に苦痛を感じた様子はない。

 凄まじい魔力の猛りは、人間の域を遥かに超えていた。なるほど、これが英霊、これが宝具。だがその圧倒的な破壊の福音も、鳴り響くまでにもう数秒、あるいは十数秒の溜めを必要とするだろう。

 自身のサーヴァントを一瞥する。まだ真名を聞けていないが、ステータスは一級品だ。前衛として使うのに不足はない。透明な剣は暴風を纏い、解放すれば暴虐の嵐となるだろう。魔力を引っ張られていく感覚はそこそこだが、これが全力ではないはずだ。

 その華奢な背中は戦意に滾り、接敵の瞬間を待っている。いや、俺の指示を待っているのか。

 

 ――サーヴァント・セイバー。

 

 彼女に対して俺は不可思議な既知感を懐いている。召喚してからここまでの短い時間で、根掘り葉掘り色々と聞いてくれやがったのは記憶に新しい。

 矢鱈と気安い小娘――見掛けの印象はそれで、今までの自分なら余り良い気はしていなかったはず。

 なのにそこまで不快でもないのが、逆に不愉快で苛立たしかった。

 なんでこんな奴が自分のサーヴァントなのかと不満を吐き出したい気持ちは強い。俺が理想とするサーヴァントは、もっと機械的で合理的な、単なる使い魔と使役者という関係を持てる者だったというのに。召喚されるサーヴァントは、基本的に召喚主と相性のいい相手ではなかったのかと毒づきたくなる。

 それを表面に出さず言葉にもしないのは、サーヴァントとの関係に険悪な空気を出すわけにはいかないから。むしろ自分から歩み寄るべきなのだろう。なんとなく嫌いだと感じる、子供じみた感情があるのを振り払って、魔術師として――マスターとして判断する。

 

 サーヴァントに人間は勝てない。故に俺が成すべきは小細工のみだ。

 

「まずは小手調べだ。俺から仕掛けるぞ」

 

 俺はセイバーに待てと伝え、宣言する。瞬間、実体化して顕現するのは傑作を自負する魔術礼装『貪欲なる魔犬群』だ。

 索敵に出していた分を除いた総軍、総勢三十五匹。これまで巡ってきた戦場跡地の死体、敵対した魔術師を殺し奪い取った魔術回路と刻印。それらを腑分けして造り上げた魔術兵器。

 それぞれが異なる魔術属性を有し、高い戦闘能力を誇っている。対人戦では極悪なまでに有効な質と数を兼ね備えていた。それを使役し、まずは敵の強さを測るためにけしかける。

 だが急速に肉薄してくる敵サーヴァントは、四方八方から押し寄せる魔犬の群れを目視する事無く、視線を正面に固定したまま手にしていた斧剣を振るった。凄まじい膂力、剣速による衝撃波。斧剣の直撃を受けた魔犬は一撃で粉砕され、直撃していないものも衝撃波で吹き飛ばされる。

 

「――――」

「――な、何?」

「拙者驚嘆」

 

 声もなく緊迫感を強めるセイバーやアーチャーと、メスガキの驚きの種類は違うようだった。後者が素直な感嘆を示したのに、前者は信じられないものを見たとでも言いたげである。

 

「保塚望月、価千金の情報の奪取、感謝する。全く―――毒が裏返ったとでも………!」

 

 毒づいたアーチャーが螺旋の剣矢を消す。代わりに現したのは黒い大剣。赤い魔力を禍々しく放つそれを黒弓に番え直した。今度は自前の魔力だけで賄うのはやめ、白野から魔力を引っ張ったらしい。白野が微かに呻いた。

 そうしている頃には、敵は目の前まで迫っている。セイバーに鋭く指示を飛ばした。

 

「セイバー、行け!」

「フッ――!」

 

 言い切るまでもなく、呼びかけた瞬間にセイバーが飛び出していた。射出台より打ち出された砲弾の如く、蒼い弾丸が黒化英霊へと食らいついたのだ。

 逆袈裟に振り抜かれる剣撃。膨大な魔力放出によって肉薄したセイバーを、偉丈夫は寸分の狂いなく迎撃する。まともに受ければ武器を損なうと見ての精妙なる剣技だった。

 噛み合った透明な剣を受け流し、突撃の勢いを保つセイバーの矮躯へ拳を放つ。ほんの一度の交錯で、いとも容易く呼吸を合わせるだけでなく、あっさり死を迫る技量。その戦慄を何度も体験していたかのように、セイバーの判断は迅速を極めた。脇腹へ巌の如き拳撃を受ける刹那、セイバーは魔力放出によって急制動を掛け紙一重で直撃を躱したのだ。

 浮かんだ冷や汗が雫となって虚空に散る。慣れても薄れない畏怖。まともに戦えば死の結末は覆るまい。だがセイバーは知っている、これは一騎打ちではない。ましてや絶望的な一対多の蹂躙劇でもない。その逆で、自分達が数で押す側なのだ。魔力の放出による高速機動(クイック・ブースト)で、地に足を付けたセイバーが地面に剣を叩きつける。

 ほぼ同時に巨雄が飛び退いた。爆発する暴風、垣間見える光の剣。セイバー渾身の『風王鉄槌』は、類稀なる心眼を有する偉丈夫に見事な回避を遂げられた。だが飛び退いて風圧の勢力圏を脱した偉丈夫は脚を止めない。むしろ加速して振り向き様に斧剣を薙ぎ払った。

 

「殺った」

 

 宣言は確実。セイバーとの挟撃を狙っていたのだろう、音もなく回り込んでいた無想の剣聖が斬刀を以って堂々と不意打つ。剣術とは殺し業、斬術とは死を追うもの。偉丈夫の剣を躱す所作に無駄はなく、余裕がある。

 腰から放たれる光は殺人剣。それは過たず、回避も赦さずに偉丈夫の首を捉え首を刎ねた。だが――

 

 やるな、と。

 

 薄く笑む貌に、ガートルードは瞠目し。先程とは打って変わった果断さを見せるのはマシュ・キリエライト。

 あのキリシュタリア・ヴォーダイムを抑え、Aチーム主席の座に就いていた少女は素早く告げていた。

 

「令呪で支援します! 姉さん、躱してっ!」

 

 的確な指示だ。行動が強化される。残心を残していなければそれでも間に合わなかっただろう。首を半ばから断たれていながら、偉丈夫は動いていた。

 即死しなければ即座の反撃も叶う戦闘続行の能力。閃いた斧剣を辛うじて躱したガートルードは無念無想の心得からか動じず、氷のような冷静さで決断する。これと正面切っての切り合いは不利を通り越して無謀。首は断ったのだ、後はマスターを狙わせないようにしつつ、敵が消滅するまで回避に徹する。

 そう判断したらしきメスガキ。その首根っこを咥えたのは、まだ残っていた俺の魔犬だ。敵の周囲をぐるぐると遠巻きに走らせていたのだ。意図は牽制、あるいは援護の用意。あれ? と間の抜けた声を残して魔犬を疾走させる。逃げるのだ、逃がしたのだ。

 

「判断が甘い。殺しても死なん化生の類いは、跡形もなく消し飛ばすのが定石だろうが――岸波!」

「え、っと……こんな感じか! 令呪を以って命じる、アーチャー! アイツを倒せ!」

「フン。及第点をくれてやるが、もっと威厳を込めてほしいものだ。とくと見ろ、自分のサーヴァントの力を。赤原を征け、緋の猟犬――!」

 

 撃ち放たれる魔剣。逆巻く颶風を置き去りに、魔剣は偉丈夫を食い殺さんと虚空を奔った。

 迎撃は速やかに。最小の力と動作で敵は魔剣を弾く。だが魔剣は弾かれても虚空で翻り、その剣先で敵を睨んだ。斜め後方から迫る脅威に気づいた敵は、追尾弾である事を悟るや全身に力を漲らせ、首の復元が済んでいない状態のまま渾身の一撃を叩き込む。その瞬間をアーチャーは狙っていた。剣弾と斧剣が噛み合う直前、ニヤリと嗤った弓兵が嘯く。

 

壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)

 

 瞬間、世界に爆光が満ちた。強烈な光の奔流は不可避の打撃となって、敵を呑み込んだ。敵の即死は疑う余地はないと確信できる。

 しかし、セイバーが諌めてくる。すると不思議と即断できた。

 

「これではまだ足りません。更に一手を――」

「――いいだろう、ダメ押しだ。令呪を以って命じる。セイバー、自己紹介の時間だぞ。宝具を使い奴をブチ殺せ!」

 

 アーチャーが躊躇う素振りすら無く宝具を自壊させた事への驚きはない。そんな余分はない。執るべき選択肢だけが脳裏にある。

 令呪を使い惜しまないのは、一日一画が補充されると分かっているからだ。少女騎士の忠告を受けるや、俺はあの敵が危険な存在だと判断し、本領を発揮される前に片付けてしまおうと考えたのだ。

 セイバーが風の鞘を解く。姿を現したるは星の聖剣。目を剥いた。カサブタの裏で疼く何か。既知感が強まるのをよそに、騎士王は出し惜しむ様子は欠片もなく大上段に振りかぶる。

 

「忌々しい過去、沈殿した負の想い、この因縁ごと断ち切ってみせましょう。受けるがいい――約束された勝利の剣(エクスカリバー)ッ!」

 

 唸る究極斬撃。怒涛の如く重ねた追撃の決め手。煌めく極光は直線上の全てを消し飛ばす。天高くそそり立つ光の柱が、ソラに立ち込める暗雲をも吹き飛ばした。

 

 聖剣エクスカリバー。ソレを持つサーヴァントなど一人しかいない。

 俺のサーヴァントが、騎士王だとは。触媒もないのに何故彼女が、騎士道とは縁遠い俺などに喚び出せたのか疑念が生じる。

 しかしそれよりも、俺はホッと固い息を吐き出した。全員が確信したのだ。戦いが終わったと。

 

「戦闘終了です。お疲れ様でした、皆さん」

 

 マシュもそういった。ああ、終わった。

 そう思うのに、アーチャーだけが唯一、訝しげだった。

 

「妙だな……」

「……? 何が、でござりましょうや?」

「ガートルード嬢。君の剣がアレに徹った事がだ」

 

 ぎくり。アーチャーの呈した疑問に、セイバーが身を強張らせる。

 ドッと冷や汗を浮かべた彼女の様子に、俺は眉をひそめた。

 

「奴の宝具は肉体そのもの。Aランクに満たない攻撃は、そもそもが全て弾かれてしまう。にも関わらず君の剣が徹った。宝具でもないただの剣が、だ」

「む……」

「それ以外にもある。アレはヘラクレスだ。だが冬木の聖杯戦争で彼の大英雄を呼び出せる触媒を用意できるとすれば、それはアインツベルンをおいて他にはない。だがアインツベルンはサーヴァントの裏切りを警戒し、ヘラクレスをバーサーカーのクラスでしか喚び出そうとしないはずだ」

「――それに、彼はバーサーカーの姿でした。他のクラスだったなら、彼はもう少し小柄です。狂化の影響で神性も強まっているが故の弊害なのでしょう。なのでたった今交戦したのはバーサーカー……」

「あれがバーサーカーであるわけがない。あの剣の冴えには間違いなく理性の力が働いていた」

「……拙者、あの方に剣を褒められた、気がしなくもないでござる」

 

 アーチャーとセイバーが交互に言い合い、嫌な予感を強めていき、最後にメスガキがそれを補強する。

 全員が、土煙の舞う前方に視線を戻す。

 するとセイバーが突然俺を突き飛ばした。

 

「――よくやったと褒めてやる」

 

 声が、する。斃したはずの敵の声が。

 

「煩わしく、呪わしい霊基を吹き飛ばしてくれるとは、有り難い限りだ」

「………ッッッ!! 貴様は………」

「今、射抜いたのは誰だ? 厄介なマスターを殺せていれば僥倖だが」

 

 セイバーは、甲冑を貫き腹に突き立つ大矢を無理矢理引き抜いて地面に捨てて、極大の憤怒を満面に浮かべた。

 清廉なる騎士王には相応しくない、等身大の人間がそこに居る。アーチャーは戸惑うが、彼は戦闘のプロだ。すぐに雑念として処理して()()()()を見据えた。

 

 晴れた土煙。その中から進み出てきたのは、黒化していたヘラクレスの霊基を捨て去り――否、脱ぎ去って再臨した刺客。

 赤黒い肌。人理を弾く裘。無骨で巨大な弓。

 その姿の敵を、知る者は一人もいない。セイバーですら見たことがない。

 俺は立ち上がり、敵を睨む。ガートルードは胴衣をまさぐって、中から一匹の獣を取り出した。

 

「ふぉーう!」

「フォウくん。マシュにくっついてて」

「ん? その獣は――ク、面白いモノを飼っているな? 技量のみはこの私を超える娘、貴様は八つ裂きにして犯してやる」

「――させん」

「赤い弓兵。貴様は底が知れんな、手を晒し切る間も与えず轢き潰す」

「ヘラクレス……貴様、私のマスターを狙ったなァッ……!」

「その名で呼ぶなよ、騎士王。そんなに大事なら、優先的に貴様のマスターを狙ってやろう」

 

 邪悪に嗤い、復讐者は悪意を振り撒く。

 反転し、堕ちに堕ち、極まった人間の極限たる反英雄。

 アルケイデス――彼は、自らの意志で、人理に敵対した。

 

「――全ての神を鏖殺する。それを成せるのが人理焼却であるならば――ああ構わないとも。一切を燃やし尽くすため、貴様らを絶やしてくれよう。さあ、殺し合おうか。カルデア」

 

 その暴威。その脅威に、俺は頭の芯が凍りつく錯覚に見舞われる。

 そして呟いた。謎が解けたな、と。メスガキの剣が徹ったのは、アレがヘラクレスではなかったからだろう。

 殺しても死ななかったのは、命を複数持っている霊基を纏っていたからだろう。

 全身を消し飛ばしてなお健在なのは、それがあくまでアレのカサブタを剥がす行為でしかなかったからだろう。

 

 戦闘力は未知数だ。しかし弱いという事はあるまい。

 俺はちらりと岸波達を見渡した。

 

「乱戦は危険だ。ここは俺とマシュの組で引き受ける。岸波、アーチャーと下がれ。決め手はお前らが打つんだ」

 

 

 

 

 

 

 




次回に続く戦闘パート。長スギィ!
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