『えー……ヘラクレス。これはギリシャ最大の英霊でしてね。神側、つまりは星側の存在なんです。人側じゃないんで本人の合意なく意のままにするのは不可能ですね。ですがまあ、ぶっちゃけ彼に限らず英霊を
――其れは、悍ましき念。
『勘違いしてほしくないんですが、英霊の座の本体はどうしようもないんですよ、鉄腕さん。公式が完璧にガードしてますです。善玉を自負するワタシや、敏腕さんでもどうこうするとか無理ですね。でーすーが? サーヴァントとして現界してる分霊なんかは手出し可能ですよ。もちろん限られた状況下では、ですが。ですんでその状況というのがどういうものかをですね、話してしまうと簡単ですよ』
――其れが、何をしようとしているのか。狂い果てた己には分からない。
だが、抗わねばならぬ。英霊の誇りを貶める、邪悪な予感がするのだ。
『まず正気のサーヴァントは無理筋です。錯乱している、精神的に参ってる、そもそも正気なんてなくなるぐらい狂化してる、これぐらいが最低ラインですね。例を挙げると鉄腕さんが別の
――己が、視られている。この身を堕とさんとしている無邪気な悪意に。
『話を戻しますですよ。ヘラクレスを堕とすには、三画分の令呪に相当する魔力、強力な変質の呪術、聖杯の泥が必要です。特異点Fのヘラクレスは狂化してる上に泥に汚染されてるので、二つの条件を最初から達成してる楽勝プーな狙い目さんですね。あ、あと
――確信がある。己は、とっくに詰んでいるのだ、と。
『呪術と令呪は無いんで、ワタシらの用意した怨念
――嗚呼。全く、なんたる無様。せめて狂化さえされていなければ、抗う事だけは出来ただろうに。
全ては後の祭り。人の因果がこの身を堕としたなら、やむを得ない。
呪わしく悍ましいモノよ。貴様が人の総体であるというのなら――構わないとも。好きに利用するといい。
――我が復讐を遂げるのに必要なら、貴様を利用してくれよう。
『でーすーが。腐ってもヘラクレスです。下手に利用しようとしたり騙そうとしたり訊かれてないから黙ってた、なんて真似は通じない上に通じさせてもいけないのですよ。したら簡単に裏切ってきますです。本業以外ではガバガバな事に定評のある鉄腕さんとワタシは違いますですよ。善玉を自認するこのワタシは、誠心誠意嘘偽りなく契約を持ちかけます。この人を味方として据え置きにし、運用するためには騙さず隠さず正直に接しましょうね。善玉とのヤクソクですよ!』
明確な言語は解せない。だがその意志と、視線だけはハッキリと知覚できていた。
『見ててくださいねー? ではいきますですよー? ゴホンッ。――契約を結ぶか否かを問う。結ばないなら何もしない。何も迫らない。大人しく手を引こう。今後一切関わらないことも誓っていい。だが契約を結ぶのなら、ワタシは貴方の願いを全力で後押ししよう。さあ……この手を取り、人理の残党であるカルデアを滅する事へ協力してくれ』
そうして、知る。人理焼却の真相を。
今度はハッキリと伝わったそれに、私は嗤った。考えるまでもないからだ。
答えは是。人理焼却は神をも灼く。全ての神性に滅びを、死をくれてやれるのだ。結果として人間が滅び去ろうとも知った事ではない。
神を滅ぼせるのなら、安いものだろう。
『契約の締結を確認した。以後、貴方にはワタシに協力してもらう。契約の対価としては、貴方はただ人理焼却が成れば良いのだろう?』
「――無論。それでいい、それがいい。それだけを望む」
『では契約内容を確認する。貴方はカルデアを滅すればいい。以後、特異点は七つある。つまり機会は七回だ。
「いいだろう。確認はそれだけだな? それで……私のクライアントである、貴様は誰だ」
問う。名も知らぬモノに従うのは気分がよくない。
これが神ではない故に、即座に反旗を翻しはしないが。いいように操られる可能性は潰したかった。
故に、問う。すると――
金の髪。褐色の肌――魔の残骸。ソレは、名乗る。
『■■■だ。――知覚できたかな? できていないとしたら、それはワタシが隠そうとしてるわけじゃない。人の身の貴方が知覚できないだけの事。それでは誠実とは言えないだろう、故にワタシの立ち位置を伝えようか』
「………」
『ワタシは獣の残骸を、この世界線の獣へ引き渡したモノ。つまりは――』
「――くだらん、興味が失せた。要するに私の雇い主は貴様ではなかったのだな。クライアントはこちらの獣とやらなのだろう。まあ……なけなしの良心を捨て去ってもよさそうなのは、善しだ」
――嗤わせる。この世界の行く末が、例え
どのみち人は世界ごと滅びるという。ならば神と諸共に滅ぼす事に躊躇いはない。せめてこの身のエゴの踏み台とする。元々躊躇うつもりなどないが、それでも躊躇わなくていい保障があるのは喜ばしい事なのだろう。
己は悲願を成せるか、成せないか。
なんとしても成す覚悟はある。この魂を焦がす復讐の想いが、炎がある。
だがもし万が一にも。
億が一、兆に一にも、人理焼却を防ぎ、剪定の結末すら覆せるのなら。
そんな奇跡を起こせるというのなら。
カルデアとやら――この身一つも超えられずしてなんとする。
私は全てを踏み躙る。
故に貴様らも私を踏み躙るといい。競い合いこそが人の世を繁栄させる。
存分にぶつかって来い、全霊を振り絞れ。こちらも容赦なく殺してやろう。
「フン。まあ……なんの下準備もなしにぶつかれば、こんなものか」
――私は鼻を鳴らす。
目の前にはカルデアの人間や、デミ・サーヴァントがいた。
霊核を砕かれ、首を半ばまで断たれ、そして右腕は刎ねられて、脚は砕けている。それでも真っ直ぐ立ったまま、宿命の敵対者達を見据えた。
「殺せたのは、冬木の者だけか。カルデアの戦力を削れなかったのは不覚だ」
左手に握っていた得物を放り捨てる。それは斧剣の残骸だ。もはや武器にもなりはしない。
私が討ち取ったのは、キャスターとランサー、アーチャーとセイバーだ。冬木のサーヴァントは殲滅できたが、そこまでとなっている。
ちらりと見たのは斬り飛ばされている右腕。それが握っているのは、冬木のセイバーが持っていた聖剣だ。乱戦の最中、私の宝具で所有権を奪えたのはいいが、聖剣は私を認めず真価を発揮しない。であれば刃渡りから何まで不満のある
「――意外です。潔いのですね。てっきり誰かを道連れにしようとするかと思いました」
「こんな状況では今更足掻けん。貴様らの勝ちだ。……今回はな」
消滅を待つだけの私を自らの間合いに捉え、動きを見せた瞬間にトドメを刺す構えを見せているのはデミ・サーヴァントの小娘だ。
その技の冴えは見事と言う他にない。私がこの小娘を確実に殺すには、小娘がマスターを守っている状況で狙撃に徹する事だろう。孤立させれば更に確実だ。周囲を巻き込む爆撃で広範囲を巻き込めば、回避させずに射殺せる。
接近戦では面倒な手合いだが、それでも一対一なら然程に脅威というほどでもない。
「騎士王よ。貴様は私を……いや、私の技を、癖を、戦術を知っているらしいな。
「……何? 貴様……、……ッ! まさかッ!?」
「ああ。契約しよう――貴様は必ず、この手で殺してやる。貴様のマスターも諸共にな」
セイバー、星の聖剣使い。騎士王である小娘は、憎悪すら込めて私を睨んでいる。いや私を通して、私を堕としたアレを睨んでいるのかもしれない。
なるほど、騎士王もアレを知っているのか。不憫なことだ。
せせら笑いながら
ただし、一度だけだ。今回だけだ。次の現界からは筋も、誇りも、何も通さないし守らない。徹頭徹尾我が怨恨を晴らす事だけに注力する。故に私の存在を刻みつけよう。恩讐。総てはこの人理を巡る戦いにあるのだから。
「私は貴様達を学ぶ。力を蓄え、知恵を絞る。忘れるな――貴様らの戦場には常に私がいる。貴様らを殺すのはこの私だ」
そして。
こんな無様な復讐者の一人も屠れずして、救世の旗を掲げる事などできようはずもない。超えて魅せろ――
不吉な予告を残しアヴェンジャー・アルケイデスを名乗った男は消滅する。
それは呪いのようだった。耳に、頭にこびりつく。――だが呪怨の類いには慣れている。前途に暗雲が立ち込めてもいつものことだ。
ともあれ勝利の余韻に浸ってはいられない。俺は空気にしこりを残している面々を動かすことにした。
メスガキを急かし、マシュを促し、セイバーを小突いて戦果を確保させる。無論自分は指示を出すだけ、等と怠惰で傲慢な真似はしない。まずは黒いセイバーが渡してきた、キューブ状の聖杯を魔犬の一匹に格納する。何があってもカルデアへ持ち帰らねばならない貴重な資源だからだ。
思えばあの黒い騎士王は、突然出て来るなり訳分からん事を言っていた。だがアレは聖杯と魔力経路を接続していたからか、攻撃力だけなら俺のセイバーよりも上だった。アレが黒いアーチャーを連れて参戦してこなければ、俺達はアヴェンジャーに敗れていただろう。
色々と謎ばかりが生まれた戦いである。
だがそれは一先ず置いておこう。竜牙兵の残骸やら何やらを確保させて、カルデアとの通信を試み、特異点が崩壊していくため帰還する旨を伝える。後は全て、帰ってから話し合えばいい。
特異点の終極を眺める。世界全体が揺らいでいるかのようだ。
カルデアへ帰還するまでの間、目を閉じて立っているだけだと先程の戦いを思い返してしまう。アヴェンジャーは化物じみて強いサーヴァントだった。単騎のサーヴァントを相手に、こちらは甚大な損害を被ってしまったのだ。
実際にカルデアへの被害が出たわけではなくても、アレの脅威は強烈に焼き付いてしまっただろう。
アヴェンジャー・アルケイデスは、まず最初に黒いセイバーの指示に従っていたらしいランサーを屠った。石化の魔眼を持ち、不死殺しのハルペーを有していた事から、アレの真名はメドゥーサで確定だ。
アヴェンジャーの怪物殺しの手腕は衰えていないらしく、鮮やかに首を刎ねて
次に殺られたのはキャスターだ。乱入してきたあの男は、英霊としての直感なのかアヴェンジャーだけは斃さねばならないと決意していたらしく、死にものぐるいで戦ってくれて、そして心臓を貫かれた直後、奴の首に噛み付いて首を食い破ってくれた。
あれは確実に致命傷だった。惜しむらくはアヴェンジャーが、戦闘続行スキルをかなりの高ランクで有していた事。霊核を破壊されるまで散々にしてやられたものだ。黒いセイバーとアーチャー、奴らが特攻し戦いの流れを引き寄せてくれなければ危なかった。
宝具を奪う宝具。アヴェンジャーはそれを持っていたようで、黒い聖剣を奪われた時は勝利が絶望的になりそうだったが、最強の聖剣は奴を担い手として認めなかったようで真名解放はできないようだった。故にこそ使い慣れない武器を用いたアレの隙を突き、メスガキが奴の右腕を斬り飛ばせた。
隻腕になったアレは、その時点で勝利を諦めたのか、代わりに霊核を破壊されるまでに黒いアーチャーを弓で殴り殺し、死の寸前に宝具を爆発させた黒いアーチャーによって脚を潰された。奴の心臓を貫いたのは俺のセイバーだ。それも黒いセイバーが自らを肉壁とし、盾にならなければ俺のセイバーも道連れにされていたかもしれない。
何はともあれ――
「――お疲れ様。保塚、経過を聞かせてちょうだい」
カルデアの管制室で、コフィンから出た俺達を出迎えたオルガマリー。この女と、ロマニ・アーキマン、そして万能の天才を交えて会議をする。
次の戦いに備えねばならないからだ。俺は止まるわけにはいかない、死ぬわけにはいかない。前までは別に死んでもいいかと思っていたというのに、なぜか隣にセイバーがいると、死ぬわけにはいかないという気分にさせられる。
俺達の戦いは、始まったばかりだ。
――完。
はい、戦闘はキンクリです。
なぜならここで描写し過ぎると、後々のアルケイデス戦(決戦)でネタ切れになるからです。書き様がなくなるよぉ!だからお兄さん許して…許して…。
※システムメッセージ。
・以後の特異点全てにアルケイデス出現。
何ヶ月か後のはくのん「何度も出てきて恥ずかしくないんですか?(満身創痍)」