青王と逝くブリテン異聞帯   作:飴玉鉛

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フランスに行く前の序章的な。


ボツ案供養の邪竜と永続狂気帝国
ホモくんには人の心が分からない……


 

 

 

 

「どういうことよっ!!」

 

 オルガマリー・アニムスフィアは激発させていた。

 怒りを、ではない。癇癪を、だ。

 

 ――特異点Fの消滅、及び定礎復元は成された。

 これにより2016年より先の人類史が観測できないという謎は解き明かされ、オルガマリーとフィニス・カルデアは確固とした実績を上げ、煩わしい協会や国連を黙らせられるはずだった。

 だが現実は違った。

 特異点Fは消滅したが、結果として判明したのは人理の崩壊、そして人類史の焼失という末路である。ある種の特異点と化したカルデアを除き、人類史の痕跡は現在と未来で確認できず、人理を救うには歴史上で観測された七つの異変を修正し、特異点化の原因を排除して正しい歴史の流れに戻すしかない。

 

 この結論にオルガマリーは激怒した。いったい何に対して怒っているのかと言えば――実のところ何に対しても怒ってはいない。

 

 だが怒らねばならなかった。憤怒の炎を燃やすしかなかった。オルガマリーの精神力は際立つものではない、故に押し寄せる絶望的な未来に潰されない為に、癇癪を起こしたようにしか見えなくとも、強い感情が必要で。それが怒りとして発露させたエネルギーだっただけだ。

 

「七つの特異点? 過去に遡って原因を探る? 原因を排除して歴史の流れを修正する? ――()()()()()()!?」

 

 過去の特異点にレイシフトして云々などという技術的な話ではない。

 

 戦力はある。当初の見込みと比べれば無いに等しいが、保塚とマシュという優秀なマスターがいる。岸波は今後の成長に期待するしか無いから即戦力とは言えないが、今のカルデアにとっては岸波もかけがえのない戦力の一端だ。

 セイバーは彼の騎士王だという。アーチャーは未来の英雄だというが、その異能としか言えない能力は非常に有用だ。デミ・サーヴァントであるガーちゃんも、神話の大英雄と正面切って戦える白兵能力があると証明されている。

 充分とは言えない。だが戦っていく上で、彼らの力を最大限に発揮させて、上手く立ち回ればなんとかなるのかもしれない。不安はあるにしろ、やってやれなくはないし、やらなければ滅びるだけだ。やるしかない。

 

 だが。

 

 ――オルガマリーは管制室で一人、親指の爪を噛んでブツブツと試算する。この絶望的な状況を打破するための知恵を絞る。

 

「――近未来観測レンズ・シバ、事象記録電脳魔・ラプラス、疑似地球環境モデル・カルデアス、霊子演算装置・トリスメギストスはなんとか通常運転ができる……必要分のコフィンは修理できた……けど守護英霊召喚システム・フェイトは落ち着いた環境で、専用の技師と資材が無いと完全な復旧は無理。保塚達のサーヴァントを維持するのも覚束ないわ。システムで肩代わりできる魔力負担は、保塚は二割、マシュは一割、岸波の五割が限界ね。どう足掻いてもこれ以上の英霊召喚は無理よ。破綻しちゃうわ……それに『プロメテウスの火』が足りない、足りないのよ……どうするのよこれ……どうしろってのよ!」

 

 プロメテウスの火。それはカルデアの炉、つまりはカルデアの運営に要する魔力リソースだ。

 ある程度は電力で廻せるが、それもすでに限界ギリギリで稼働させている。

 戦う、戦わないという話ではなかった。カルデアはただでさえ金食い虫な設備が多すぎる。金だけではなくエネルギーの消費量も天文学的な数値に達していた。

 カルデアを襲った爆破事件。それは的確にカルデアの急所を撃ち抜いてきていたのだ。このままでは単純なエネルギー不足でカルデアは破綻する。

 

 幸い特異点Fで、保塚達が聖杯を手に入れてくれた。だがこれを魔力リソースとして枯れるまで使い潰すとしても――やはり足りない。全く足りない。過去への時間遡行を行なうのに必要とする魔力・電力量は正視に堪えない。

 

「仮に、よ。仮に。もしこれから挑む特異点全てで聖杯を手に入れられたとして、それをカルデアの運営能力維持の魔力リソースに回したとしても……計算だと()()。5つ目の特異点に挑むまでに枯渇する……! そうなったら私達は……どこにも行けないまま、カルデアの中で餓死するしか……どうにかしないと……どうにか……ど、どうやってよ……」

 

 オルガマリーは頭を抱えた、どうにもならないのだ。なるわけがない。

 詰んでいる。カルデアを爆破した下手人に決定的に詰まされていた。

 

 彼女は追い詰められている。誰にもこの事を告げていないのは、カルデアの所長――指揮官としての意地だ。責務だ。全員の士気を保ち、絶望させないために黙っている。

 必死に考えていた。打開策を模索し、思索していた。

 彼女の思考は完全に内に閉ざされ――故に、後ろから近づいてきた気配に、全くと言っていいほど気づけなくて。

 不意に、頬に押し当てられた熱い感覚に、声を裏返して飛び上がるほど驚かされる。

 

「ひゃぁっ!? なななな、何!? 誰!?」

「………」

「ほ、保塚……?」

 

 頬に当てられたのは、コーヒーカップだった。中には熱いコーヒーがある。

 振り向いたオルガマリーの目の前にはマスターの中で唯一の成人である男が仏頂面で立っていた。

 その男の名を口にする。保塚望月は愛想のない凪いだ目で、オルガマリーを見据えていて。その目に、オルガマリーは恐る恐る問いを投げる。

 

「……もしかして、聞いていたのかしら」

「ああ」

「―――」

 

 オルガマリーは己の迂闊さを呪う。それと同時に人払いをして、暫く誰も立ち入るなと厳命していたのに入ってきた保塚に怒りを覚えた。

 だがオルガマリーが糾弾する前に、保塚は淡々と訊ねてくる。

 

「無理か」

 

 何が、とは聞かない。

 

「無理よ!」

 

 オルガマリーは怒鳴った。

 

「なら俺に任せろ」

 

 保塚は、なんでもないように言う。

 ポカンとする。オルガマリーはなんと言われたのか、数瞬理解が追いつかなかった。

 冷たい空気の中、沈黙が流れる。

 カルデアスが鎮座する管制室で、女は男を見詰めて。やがて、おずおずと聞き返した。

 

「え?」

「俺に任せろと言った」

 

 保塚は再度、言う。それにオルガマリーは唖然とした。

 打つ手などない。なのに、任せろという。どこまでも自信に満ち溢れて、否――不動の佇まいには自信ではなく、()()という意志が満ちていて。

 思わず、怒りが鎮火する。

 

「……いいの?」

「ああ」

「頼って……いいのね?」

「そう言った」

「……どうするのよ、どうしようもないはずなんだけど。こんなの、どうにか出来る自信がある方がおかしいわ」

「人が良いな、所長。だが俺は魔術師だ。足りないなら他所から持ってくるまでの事だろう。特異点を修正し、聖杯を確保する。特異点を旅し、魔力リソースを手に入れる。()()()()()使()()()()()

「………」

「汚れ仕事は俺がやる。なに、どうせこの身は薄汚い死霊術師だ。やってやるさ」

 

 ――もし。もしこれを、保塚以外の誰かが言えば。オルガマリーは頭から信じず、簡単に言うなと怒鳴り散らしていただろう。

 しかしそれを言っているのは保塚だ。

 Aチームのマスターで、オルガマリーよりも年上で、綺麗事しか言えないやらないやれない人間ではない。

 優秀な魔術師だった。優秀な、()()()なのである。であれば、彼は宣言通りどんな手を使ってでも成し遂げるだろう。

 

 ふっ、と肩の荷が軽くなった気がして、オルガマリーはへなへなと座り込んでしまう。そんな彼女へ、男は確認した。

 

「この事を知っている奴は俺以外にいるのか?」

「……いないわ。計算して報告してきたスタッフは、私が暗示を掛けて忘れさせてる。本人も忘れたがってたみたいだし、思い出す事はないでしょうね」

「ならいい。所長と俺だけでは手と頭が足りん、ダ・ヴィンチあたりを巻き込んで、どうにかしていこう。――いいな、この事はマシュとメスガキ、岸波にだけは絶対に漏れないようにするぞ。こういう汚い話は、大人だけで処理していくものだ」

「……ふふ」

 

 その物言いに、オルガマリーはつい笑みを零してしまい、保塚に怪訝な顔をさせてしまう。

 

「なんだ」

「いいえ? ただ……アンタもかなりのお人好しみたいで可笑しかったのよ」

「……馬鹿め。お人好しが外道な手段も視野に入れて動くものか」

 

 吐き捨てる保塚の様子に、オルガマリーはますます可笑しくなった。

 こんな事になるまでは、無愛想で何を考えているか分からない、陰気臭い死霊術師らしい男だと思っていたが。

 なんだ――存外、頼りになる。レフがいなくなってしまったのは痛いけれども、保塚がいたらまだ折れずにいられそうだ。

 

 保塚からコーヒーを受け取る。そしてふと思い出して問い掛けた。

 

「そういえば私に何か用? いちおう、ここには誰も入るなって言ってあったはずなんだけど」

「用もなく来る馬鹿がどこにいるんだ? 特異点Fでの経過や、得た情報を纏めたレポートが仕上がった。これからメスガキやマシュ、岸波を交えて、ロマニとダ・ヴィンチ、お前で作戦会議でもしようという話になっている。だから俺がお前を呼びに来たんだよ。どうも……ダ・ヴィンチが言うには、俺でないと宥められんらしいからな」

「……ガーちゃんのこと、メスガキ呼ばわりで通してるのアンタだけだから。そこのところは自覚してなさいよ」

 

 万能の天才には、何かを気取られていたらしい。確かに保塚のような年上の男性で、しっかりして落ち着いている人柄でないと、オルガマリーは癇癪を鎮められなかっただろう。

 なんだか照れ臭い気分になっていると、保塚に腕を掴まれ立たされた。意外と優しげな手付きで、オルガマリーは微笑する。

 

「ヘンな奴……いいけど、あんまりレディに気安く触るものじゃないわよ?」

「ほざいてろ、ガキ。寄り掛かる相手にも難儀するようだから、俺みたいな下衆に近づかれるんだ」

「誰がガキよっ」

「お前だお前。そら、さっさと行くぞ。ガキ呼ばわりを撤回させたいなら、会議で威厳の一つでも示してみせろ」

「……ハァ。仕方ないわね、期待に沿ってやるわよっ」

 

 保塚の手を振り払い、肩を怒らせながら先行する。

 しかし不意に、管制室から出る直前に、オルガマリーは立ち止まった。

 訝しむ保塚へ彼女は言う。耳を赤くして、何かを誤魔化すように。

 

「――なにしてんのよ。早く付いてきなさい、()()

「………あ?」

「とっ、特別よ。ファーストネームで呼んであげるわ、だって共犯者になるんだもの」

「………はあ?」

「私の事は、マリーって呼んでもいいわ。ただしあんまり大っぴらに呼んじゃ駄目よ。……いいわね!?」

 

 そこまで言うと、オルガマリーは早足に歩き去ってしまった。

 なんとも言えない複雑な顔でそれを見送り、保塚は眉を顰めて思い返す。

 女に縁のない人生だった。不要だと切り捨ててきた。だがカルデアでは問答無用に切り捨てるわけにもいかず、何人かの女と知り合った。

 

 メスガキ。

 マシュ。

 オフェリア。

 芥ヒナコ。

 ペペロンチーノ――は違う。

 そしてセイバー。

 黒いセイバー。

 

 オルガマリー。

 

 全員の顔を思い浮かべ、保塚は万感の想いを込めて呟く。

 

「女って奴は……分からんな……」

 

 まさに理解不能だった。

 

 

 

 

 

 

 

 




レフは未だカルデア爆破事件の真犯人と判明していない模様。
死んでるものと思われて、ショックを受けてるオルガマリーの心の隙間にホモくんが……!
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