佐藤東沙さん、rains2さん、メイトリクスさん、so-takさん、ベンkさん、こはやさん、骸骨王さん、ソフィアさん、いつも誤字修正ありがとうございます…!
「ぐっ、う……ひぃ、ひ……ぁ、が……ガッ、ゲボッ」
「……冗談、ですよね? 嘘です……こんなの、嘘……そうですよ、嘘に決まって……どうせいつもの悪ふざけですよね? ねえ、そうですよね――」
「ゴホッ、ご、ゴッ……ひゅ、っ……」
「嘘。嘘。こんなの、こんなのって……そうだ、令呪、令呪でなんとか……なんで、こんな、効かない? 効いてないんですか? そ、そんな、そんな、そんな、ぅ、うわぁぁぁあああ――」
油断はなかった、慢心なんてするはずがない。なのに
何もできない。してやれない。目の前で彼女が
それは俺だけじゃなかった。皆、どうしてやればいいのかまるで判断が利かない。血反吐を吐いて、体を自分の血で赤く染める少女。真っ青な顔で、今に泣き出してしまいそうになりながら、それでも令呪を全画費やして救けようとして――無意味だった事に絶望する少女。
弓兵は、険しい顔を崩さない。騎士王は沈痛な面持ちで思案している。頼れる人は、冷酷な判断を下そうとしている。誰がやったのかなんて今はどうだってよかった。頼む、誰か――この娘を、助けてくれ――
「百年戦争ってそもそもなんだっけ?」
――もちろん、授業で習った基本的な事は知っている。
しかし使わない知識はすぐに錆びつくもので、概要こそぼんやりと覚えてはいるものの、具体的な事は何も覚えていない。人名だってジャンヌ・ダルクやエドワード黒太子ぐらいしか記憶になかった。
ジャンヌ・ダルクが救国の聖女……聖処女? とか言われていた……ような気もする。最期は悲劇的な末路だったはず。味方に売られて火刑に処され、魔女の謗りを受けるも、後世に名誉が回復されて聖女と呼ばれるようになったとか云々。
正直に言って関心はなかった。しかしこれからその百年戦争時代末期にレイシフト――タイムスリップじみた事をするとなれば、多少は野次馬めいた関心も出てくるもので、俺は予習のために資料を開いていた。
「なあなあでグダついてた戦争の事です。期間もたったの百年と、日本の戦国時代に比べたら大した事はないですよ」
「姉さん、その言い方はちょっと……というかだいぶ偏見と贔屓が入ってますよね。姉さんはかなりの日本贔屓だったはずです。もっと客観的な意見を出さないと先輩に誤った認識を持たれてしまいます。言い方を改めるべきかと」
「でも事実としてヌルいよ。戦国時代の末期は修羅も真っ青なレベルなのに比べて、百年戦争末期で本気で敵を殺しに掛かってたのはジャンヌ・ダルクだけだから。それだって凝り固まったルールを無視した横紙破りをしてたから連戦連勝だったわけで、敵方が本腰を入れて反撃し出したら苦戦の連続だよ。一応それでも勝ってたけど名将とは言えないし、家康の三河とか島津とか薩摩とか島津とか上杉とか武田とか。狭い島国で煮詰まってた戦国と比べるとやっぱりレベルの低さが目立つ。学のない農民出身は言い訳にはならない、後の豊臣秀吉も元は――」
「でーすーかーらー! そういう見方は一方的過ぎです! 先輩、姉さんはこんなふうに日本の戦国武将贔屓、特に剣豪に対しては神聖視してる節がありますので、あまり耳を傾け過ぎないでください。話半分で丁度いいですから」
「む。姉の言葉を話半分とは大きく出たもの、マシュに猛省を促すのが姉の責務なのでは?」
「姉さんっ!? またすぐそうやってヴァイオレンスな手段に訴えて恥ずかしくないんですかー!? 妹的にポイント低いですっ! やーめーてー! 先輩助けてください、センパーイ!」
「は、はは……」
両サイドをガーちゃんとマシュに挟まれ、ワチャワチャとじゃれ合われると……その、柔らかくていい匂いがですね……。
対面のアーチャーさん、微笑ましい感じで見てないでなんとか言って。俺の対処できる範囲を超えてるんですけど。
思わず縋るような目をすると、やれやれまだまだだなと言いたげに肩を竦められた。
「まだオレの知る域には程遠いな……マシュ嬢、ガートルード嬢、そろそろ勘弁してくれないか。マスターは要勉強の身だ、余り困らせないでやってくれ」
「むっ」
「アーチャーさん、ありがとうございます。姉さんは最近、妙にハイテンションで疲れてしまうので……」
「姉の相手が疲れるとはいったい……? それはそれとしてアーチャー殿。貴殿は何故にエプロン姿なのか」
「おお、私がスルーしていたところに平然とぶっ込む姉さん流石です」
ガーちゃんの指摘した通り、今のアーチャーはトレードマークの赤い外套を身に着けていない。黒いアーマーの上にエプロンを装着して、いつもはオールバックにしている髪を下ろしていた。
しかしこれは仕方ない。何せアーチャーは二人が来るまで、厨房でご飯を作り持ってきてくれていたのだから。
「なるほど。そういえばアーチャー殿はメシウマの日本人でしたね。鉄の料理人だったとはこのメスガキの目を以ってしても見抜けなんだ」
「微妙に言葉遣いが砕けてくれたのは嬉しいが、そのメスガキというのはやめないのか……?」
「アーチャー殿はわたしのアイデンティティーを奪うおつもりなのか」
「そんなアイデンティティーは捨ててください姉さん」
「――マシュ・キリエライト。どうやら妹としての立場を忘れたようだ。今一度妹としての立場を分からせる必要があるみたい。妹は姉に従うものって古事記にも書いてある」
「絶対書いてませんよね。それよりいいんですか? こっちには最終兵器の令呪があるんですよ。やるなら相手になってあげま……アイアンクローの構えはやめてください! やーめーてー!」
またすぐにじゃれ合う姉妹に、俺とアーチャーは目を見合わせて苦笑した。
今日日ここまで仲のいい姉妹を見たことがない。やはり仲良きことは美しきかな。
それはそれとして庇護欲でも刺激されたのか、それとも別の感傷を懐きでもしたのか、アーチャーがちょっと見たことがないほど緩んだ顔をして言った。
「なんなら二人にも今度ご馳走しよう。よければ物の好みでも聞かせてくれないか?」
「え、いいんですかアーチャーさん」
マシュが目を輝かせる。俺からアーチャーのご飯が美味であることを聞いていたから期待を懐いたのだろう。
彼女のこの反応からして、きっとガーちゃんも食いついてくるだろう。ご飯をがめつく貪っている光景が目に浮かぶようだ。
しかしそんな予想に反して、ガーちゃんは違った反応を示した。優しい目ではしゃぐマシュを見て、微笑んでいたのである。
「ん……わたしの分もたくさん食べるのだぞ。そしてプクプク太ってマシュマロと化すがよい」
「んぐっ……き、去年の事は忘れてくださいっ! あれは面白がってお菓子をたくさんくれたドクターが悪いんですっ!」
「……? ガーちゃんは要らないのか?」
聞くと、ガーちゃんはなんでもないように答えた。
「はい。わたし、ドクターの出す物しか受け付けない体にされてしまってて。すっかり胃を掴まれて
「はは、なんだそれ。ドクターって料理上手いんだ、意外だな……って、アーチャー? どうかした?」
「……、……いや、なんでも」
まるで何事かを察してしまったかのようなアーチャーの反応に、俺は首を傾げる。どうかしたのだろうか。
……。
……どうしたのか聞いてみよう。聞いておかないといけない気がする。
「なあ、アーチャー。ガーちゃんがどうか――」
『モチヅキ、マシュ、岸波。どこかほっつき歩いてるガーちゃんを探して、管制室に集合しなさい! いよいよ第一特異点へのレイシフトの時間よ!』
――しかし、聞くことはできなかった。
放送が流れてオルガマリー所長の召集命令が出たのだ。
どうやらのんびりとし過ぎたようで、時間が来てしまったらしい。所長の物言いにガーちゃんが不服そうに頬を膨らませた。
「……わたし、いっつもほっつき歩いてると思われてるみたいです。フォウくんと同じにしないでほしいです。名誉毀損で訴える代わりにショチョーにも分からせなきゃ……!」
「やめてあげてください、所長が可哀想です。それに色んなところをフォウさんと散策してるのは本当ですよね」
「ガーちゃんってそんなに歩き回ってるんだ?」
「はい。この間はフォウさんと隠れんぼしてました」
フォウくんと隠れんぼ……? その光景を想像してくすりと笑ってしまう。
「違う。誤解。行方不明になったフォウくんをわたしが探してあげてただけ」
「そのフォウさんは姉さんを探してましたけどね。ってこうしてはいられません! 先輩、管制室に急ぎましょう! 時間に正確でないと保塚さんに怒られます!」
「んんっ、ヤバイ。保塚の兄貴を怒らせたらヤバイ。この一週間で距離を詰めすぎたので遠慮がないんです。白野さん、アーチャーさん、急ぎますよ――というか先に逝ってます!」
「ああー!! 抜け駆けはズルいですよー!」
行ってますの発音がおかしかったような気がするのは錯覚だろうか?
俊足を活かして消えたガーちゃんを追って、俺達も管制室に向かう。
「頭が割れるように痛いですー!」
すると先に着いていたガーちゃんは保塚さんにウメボシを食らって悲鳴をあげていた。
両拳で両こめかみを挟み込み、捩じ込むアレだ。
凄く痛そう……思わず唖然とすると、保塚さんは俺とマシュにはデコピンをして来て言った。
「遅い。五分前集合は基本だぞ」
兄貴……デコピン凄い威力ですね……。
「レイシフト、無事完了です。前回のような非常事態ではなく、コフィンを使用した正規のレイシフトなので問題ありませんでした。身体状況も良好です」
直前のブリーフィングを終えた後だ。デコを赤くしたマシュがそう言う。
コフィンに入った時は俺や保塚さんと同じマスター礼装、カルデア戦闘服を纏っていたのに、今はカルデアの制服姿に戻っていた。
外装だけは普段の服装になっているが、これでもマスター礼装の力は使えるらしい。俺としてはこのガンドとかいう魔術を使えるのはかなり心強い。
「セイバー、身辺の警護を頼む。俺は犬どもで索敵をする」
「了解しました、マスター」
レイシフトして周囲の光景が変わった直後だというのに、保塚さんは相変わらずだ。その様に安心感を懐きつつ、俺はふと空を見上げ――
「――なんだ、あれ……」
それを見つける。
青空を包み込むような、光の帯。それが円環となって、まるで空を閉じ込めているかのような……そんな印象を受ける、異常な光帯だ。
やはり何かが起こっている。俺は空を見上げたまま、握り拳を固めた。
「――奴らもそろそろ来た頃か」
そう呟いたのは、最悪にして最強の敵。
神性を失い、反転した事で純粋な人間に堕ちた存在は、自らが打ち倒した
両腕をもぎ取り、背中に乗って地面に押し付けている様は、まるで狩人が危険な獣を狩ったかのようである。
「ではな、
「a――aaa――」
「
両腕を首に回し、首を圧し折った狩人は不敵に笑う。
「此度は様子見だ。どれほどやるか、観察させてもらうとしよう――」
前回の敗北の原因は、ひとえに数の差にあった。
こちらの手の内を知り尽くしていたらしき騎士王や弓兵の存在もある。
カルデア側が不慮の事態でレイシフトしていたのに敗けたのだ。であれば敗因を覆すために情報を集め、分析し、
――とはいえ余り隙だらけなようだと、つい手が出てしまうかもしれんな?
内心そう嘲笑い、アヴェンジャーは再戦での
一度で勝つ必要はない。一度の交戦につき、一人は殺す。それだけで事足りるのだから。
ガス欠しましたので明日こそホントにナシです。