青王と逝くブリテン異聞帯   作:飴玉鉛

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離反、そして

 

 

 

 

 ガーちゃんが倒れた。

 

 ガーちゃんとマシュはデザインベビーという奴で、試験管から生まれた。

 

 ガーちゃんはデミ・サーヴァントとしての力を長く使ってるから、本来設定されていた寿命が減り、活動限界は後一年あるかないか。

 

 ガーちゃんは既に限界で。ドクターの処方する特別な薬がないと、まともに立って歩けもしない。だけどその薬があれば戦闘も熟せる。

 

 食べ物の味は分からない。実は弱視でサーヴァント形態でないとまともに物が見えない。眼鏡を掛けず、コンタクトレンズもしていないのは、目に頼らないでも日常生活を行なうのに支障がないからだ。

 

 そして素の力だと、片手の握力がほとんど無い。

 

 サーヴァント形態になっても、なぜか青色が認識出来ず黒色に見える――

 

 

 

「――マシュは、知ってた?」

 

 

 

 訊くと、マシュは沈痛な顔で頷いた。

 

「はい……。姉さんの事はマスターとして、把握しています」

「………」

 

 信じられなかった。あれだけ仲がよく、じゃれ合っていた光景が。マシュは知っていて、ああも自然に振る舞えていたのだろうか。

 他人事じゃないはずなのに。マシュだって、同じ境遇になるかもしれないのに。

 

「私は、姉さんが好きです。でも、だからこそ、姉さんに心配を掛けたくありませんでした。だから……先輩も普段通りに接してください。姉さんもそれを望んでいると思います。マリスビリー前所長の時は、辛い事がたくさんあったはずで……せめて、後一年……残りの一年間の、最後の記憶だけは――綺麗であって欲しいんです」

 

 マシュは割り切ったように言う。

 けど、嘘だ。割り切れてなんかいない。その証拠に声が霞んでいて、辛く感じているのを誤魔化せていない。

 でも俺なんかがそれを指摘する資格はないだろう。

 姉妹のマシュが気丈に振る舞っているのに、それを台無しにする真似はできない。

 本当は俺には話さない事になっていたらしい。けどこうしてマシュが話してくれたのは、俺がドクターにしつこく食い下がって、無理に聞き出そうとしたからだ。

 

 どう見てもガーちゃんの様子は普通じゃなかった。気にするな、なんて言われてはいそうですかとは頷けない。人として見て見ぬふりなんて出来ない。何よりも俺だけ蚊帳の外に置かれるのは納得がいかなかった。

 俺がどうあっても引き下がらないと悟ったドクターが、渋々話そうとしてくれたのをマシュが制止し、自分から話すと言って教えてくれたのだ。

 結果はこの通り。打つ手無しだ、どうにもならない。ガーちゃんは病気でもなんでもなく、あれで正常なのである。

 

「俺は……」

「先輩の言いたいことは分かります。私も同じ気持ちです。ですが……」

「分かってる。……ガーちゃんに戦闘をさせない事は?」

「無理です。姉さんは戦闘に意欲的で、義務で、使命だと思っていますから。それに戦闘員として極めて秀でている姉さんを、待機させていられる余裕が今のカルデアにはありません」

「……、……よし。分かった」

 

 こうして沈み込んでウダウダしてても仕方ない。そういうものだと受け入れていこう。

 俺は無理矢理納得した。納得しないと何も始まらない。

 始めないと。そして、始めたら何か希望が見えるかもしれない。見つかるかもしれない。後一年しかないんじゃない、一年もあると思うのだ。

 

「先輩?」

「マシュ。下を向いてても仕方ない。俺もガーちゃんにはいつも通りに接するよ。それでいい?」

「……はい」

「これから先、出会うかもしれないサーヴァントの中に、ガーちゃんの事をどうにかできる人がいるかもしれないだろ? そうでなくたって、どうにでもできる霊薬とかが見つかるかもしれない」

「……それは」

 

 無い。そんなものはない。そんな都合よくはいかない。人の生死を覆すのは魔法の領域だって事、俺も知っている。勉強した。

 否定の言葉がマシュの中で渦を巻いてるはずだ。けど、マシュは笑顔を浮かべて頷いた。

 

「はいっ。きっと見つかります。いえ――見つけましょう」

「ああ、希望はある。何もかもが上手くいく大団円が、絶対に俺達には見つけられる。だってカルデアは時間を超えて旅をするし、魔法とか魔術とかだってあるんだから。アーチャーやセイバーさんは凄い人だし、マーリンって人もカルデアの大問題を解決できる凄い人らしいし。カルデアは科学でも魔術でもとんでもSFな組織だ。世界を救おうって言うなら、()()の女の子も報われないと嘘だろう?」

「――はい。……先輩」

「ん……」

「ありがとう、ございます」

「――お礼は、全部が上手くいったら聞くよ」

「はい。はいっ」

 

 マシュは目を潤ませて、何度も頷いた。

 俺には何もできない。でも、できないからって何もしないのは駄目だ。

 挑まないといけない。乗り越えないといけない。駄目だった時のことを恐れて何もしないよりも、遮二無二に乗り越えようと足掻く。

 俺はマシュの手を握った。勇気づけるように。

 俺はベッドで眠るガーちゃんの手を握った。俺の命を分けてあげるように。

 二人でガーちゃんの寝顔を見詰める。穏やかな寝顔には、自分に待ち受ける結末を受け入れているかのような儚さがあった。

 ――そうだ。気合を入れろ、俺。未熟だけど世界を救おうって奴が、女の子の一人や二人を救えないなんて嘘だろう。目に映る何もかもをって欲張るぐらいで、漸く世界を救うマスターという虚像に追いつける。

 俺は、絶対に諦めない。諦めてたまるか。強く、そう思い――

 

「ガチャ……ガチャを回す……溶けりゅ、溶けちゃうぅ……三千個もあった石がぁ……」

「っ……」

「は……はは……ガーちゃんは、寝ててもガーちゃんなんだな」

 

 ――無いに等しい握力で、必死に俺の手を掴んで。ガーちゃんが魘されて寝言を溢すと、ついついマシュと二人で笑ってしまっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それじゃあ、準備はいいわね?」

 

 はい! と遠足に行く前の小学生みたいに返事をするガーちゃんに、束の間オルガマリー所長は眦を緩め、優しい表情になった。

 けどすぐに厳しい表情に戻って、俺達を見渡す。

 これから俺達はレイシフトをする。場所と時代は西暦六十年代のローマ帝国らしい。跳ぶ年代と国を聞いた時のアーチャーの顔は見ものだったけど、アーチャーは複雑な表情で曖昧に誤魔化してきた。念話で言ってきた、『つくづく()があるようだな、マスター』ってどういう意味なのだろう?

 管制室にはたくさんの人がいる。所長、ドクター、ダ・ヴィンチちゃん、ムニエルとかいうガーちゃんオタ化の元凶、スタッフの皆。保塚さんにマシュにガーちゃん。セイバーさんとアーチャー。そして、花の魔術師マーリン。彼はにこにこと笑顔を浮かべて皆を見渡して、傍らのドクターの脇腹を肘で小突いた。

 

「やあ、アーキマン。壮観じゃないか。これから人理修復に乗り出すマスター達の出陣を、こうして目の前にできるなんてねぇ。いやはや感無量だ」

「……なんで僕に絡むかな君は。頼むから近寄らないでくれ、僕はまだ君やセイバーには怒ってるんだからな」

「その件についてはアルトリア共々散々謝ったじゃないか。それで足りないなら――」

 

 ドクターの言葉に、居た堪れなさそうにして、眉を落としているセイバーさん。彼女も悪意があったわけではなく、むしろ善意しかなかったはずだ。結果的にガーちゃんは倒れてしまったが、セイバーさんとマーリンの一件がなくても近い内に表面化していた問題だろう。

 そういう意味で、俺はこの人たちに思うところはない。ただ事前の相談ぐらいはしておくべきじゃないかなと思うだけで、そのことについてはセイバーさんも充分に理解してくれたはずだった。

 

 と、マーリンがガーちゃんを見た。気不味そうな無表情で見返すガーちゃんに、花の魔術師は意味深な笑みを向けている。

 

「――お詫びに一つ、予言しておこう」

「なんだって?」

 

 ドクターが敏感に反応する。予言……? 見ればセイバーさんが聞き耳を立てて、アーチャーまでちらりと視線を向けた。

 いや、彼らだけじゃない。この場にいる全員がマーリンに注目している。もちろん、俺も。彼はにこやかな笑みを崩さずに全員の視線を受け止めて――俺を指さした?

 

「ガードルード嬢、マシュ嬢、二人の少女の命運を長らえさせる手段と縁は、存在する。キーマンは彼、岸波白野だ」

「お、俺……?」

「なっ、そんな、まさか――そんな事グフゥ!」

「ちょっと! それは本当なんでしょうね!?」

 

 愕然とする皆。ドクターが信じられないような、嬉しそうな顔をする中で、真っ先に強く反応したのは意外なことに所長だった。ドクターを押しのけて魔術師に食って掛かっている。

 あ――そうか。所長は、マシュとは適度な距離感を保ってるけど、ぐいぐい押してくるガーちゃんとは仲がいいんだっけ。そっか……そりゃあ、そんな手段があるなら聞き流せないよな。所長、なんだかんだで優しいみたいだ。

 

 マーリンは笑みを崩した。不意に真面目な瞳で、全員を見渡す。

 

「――本当だとも。ただしその道のりは険しい。これから先の戦いは熾烈を極めるだろう。第二の特異点は……大したものになりそうにないけど、第三から第六までに、カルデアは敗北する可能性は極めて高い。もちろん敗けないように私も尽力するけど、それでも厳しいだろう」

「……」

「けど、それを乗り越えたなら。第七の特異点で待つ最古の王が課す試練を乗り越えた暁に、褒美として賜わしてくれるかもね。――二人の命脈を長らえさせる何かを」

「っ――」

 

 最古の王。

 その呼び名に、またアーチャーが反応する。そんなアーチャーをニヤニヤしながら見るマーリンと、苦虫を纏めて百匹噛み潰したような顔で睨む弓兵。

 なんだ……? というかアーチャー、未来の英雄のくせしてなんでそんなに過去の人と縁がある感じなの? おかしくない……?

 

「先輩が……」「私達の……」「命運を……」「長らえさせるキーマン?」「これは責任を取ってもらわねばなりませんね」

 

 マシュとガーちゃんが交互に言う。声が同じなせいで抑揚の差を聞き分けないと同じ人が喋ってるみたいで面白い……って、ガーちゃん、なんか意味深な言い回しだな。どうせネタなんだろうけど。

 でも、マシュは心なし顔が明るくなっている。熱い目を向けてきて、こそばゆい。ガーちゃんはポーカーフェイスのままだけど、マシュに対して嬉しげな目を向けている。――二人共が、自分より相手の事を喜んでいる。

 マーリンは脅すように過酷な戦いを強調していたけど誰も気にしていなかった。だって過酷なのは分かりきっているからだ。退路がないのに、前方に聳え立つ壁が高いからと諦めるわけがない。進むしか無いなら進むだけだ。

 

 ドン、と肩を拳で殴られた。ちょっとだけ力を込められたそれに、思わず体勢を崩しかけてしまう。なんだと思って横を見ると、そこには目元を緩めた保塚の兄貴がいた。

 

「責任重大だな、岸波」

「兄貴……」

「誰が兄貴だ。メスガキの影響を受けてるんじゃない。――それより分かったな、岸波。キーマンはお前らしいぞ、気張っていけ。……望みが無いままだったらよかった、なんて想いはさせてやるな」

「……はい!」

「マーリンは人でなしだが、外道じゃない。お前たちの士気を上げるためだとか、お前たちの歓心を買うためだとか、そんな理由で予言はしないはずだ。だから……まあ、なんだ。お前という鍵が壊れない程度には、気にかけてやる。潰れそうなら俺を頼れ。いいな?」

「分かったよ、兄貴」

「兄貴とか言うな馬鹿垂れ」

 

 ゲンコツを軽く落とされ、俺は苦笑する。なんだ――やっぱり保塚さんも、良い人だ。それにやっぱり――保塚さんもガーちゃんの事、気にかけてくれていた。

 いける。やれる。絶対に。やるんだ。俺達が。人理を救う、キリエライト姉妹の事もなんとかする。全部やる。それぐらいの気概でいこう。

 

「――よぉぅし、いい感じに場が温まってきた。やっぱりどこか張り詰めた空気で行くよりも、一握りの希望を胸に懐いていた方が良い面構えになるじゃないか。それじゃあレイシフトを始めよう! 夢と希望と書くと人の夢は儚いとか望みは希にしかないとか言いたくなるが、それはそれとして先に進むのが人ってものだ。よき旅を、カルデアの諸君! 私はお花を束にして君たちの帰還を待っているよ!」

「ちょっと何勝手に仕切ってんのよ!? 所長は私! 司令官は私よ!? ってガーちゃん勝手にコフィンに入らない――他の皆もよ! 何してるのまだ私の訓示が終わって――ダ・ヴィンチもロマニも笑ってないでなんとか――ああもうっ! レイシフト開始! モチヅキ、良いわね?! 現場の指揮官はアンタなんだからきっちり仕事して来なさいよ――!」

 

 マーリンが音頭を取り、所長が怒鳴る。俺達は意気揚々とコフィンへと入って、ローマへのレイシフトを開始した。

 夢と希望。浪漫を抱いて旅をしよう。かけがえのない出会いが、きっと俺達を待ってるはずだ。

 

 ――そう思っていたら、早速ガーちゃんがやってくれた。

 

 悪い意味じゃない。現地につくなり魔犬を索敵に出そうとした保塚さんに先んじて、誰かの気配を感じたガーちゃんが走り――隠れていた人にタックルをぶちかましたのだ。

 

 

 

「大変です皆さん! 野生のレフ教授を確保しました!」

 

 

 

「え?」

 

 

 

「や、やあ……諸君。随分と久し振りな気がするな……」

 

 

 

 緑のシルクハットと外套を纏った紳士が、憑き物が落ちたような――それでいてひどく気不味げな佇まいで頬を掻いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




昔三千個あった石が溶けてはくのん(男)ばかり出たヤツおりゅ?w
ワシじゃ(全ギレ)

感想評価等ありがとうございます。
一つ言えるのは、下がった株は上がるだけなのですじゃ。
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