【掛けまくも
俺の視界は二重構造だった。
今は遅く、先は霞み、どちらに焦点を結ぶべきなのか。俺は
生まれた時からだ。いい加減、向き合い方の一つでも心得るべきなのだが、俺はどうにも人として破綻しているらしい。
誰も俺と同じ時間を生きていないのだ。だから俺にとって、俺以外の総ては過去の亡霊、死人に等しい。構う価値など寸毫たりとも存在しない。
【
死霊魔術。俺からすると、俺のためにあるような魔術だ。元より死んでいる俺以外のモノを使うのに、僅かばかりの躊躇いも生じるはずもなし。俺以外に生者はおらず、俺にしか俺を理解できない。故に、俺は一人で歩み、一人で生き、独り死を想う。
孤独。俺は孤独なのだろう。だがそれがなんだというのか。生まれた時からそうなのだ、そんなものに惑う価値観などありはしない。
だからそれは、まさしく俺にとっての猛毒だった。
はじめ。その女に何かを感じる事などなかったのに。それも所詮は過去から遣わされた影法師に過ぎないと断じていたのに。
その女は、俺を理解した。誰も彼もが痴愚のように、のろまで霞んだ幻のようだったのに。その女は俺の視ているもの、俺が考えている事、俺がしようとしている事、俺が歩んでいる道に沿う事。諌め、正し、寄り添った。
単に波長が合った、などという簡単な話ではない。
あの女は――
俺と同じ時間に追随し、同じ道を寸分の狂いなく歩んだ。俺と同じ時間軸で話し、食し、生きた。
困惑しかなかった。突然、俺の視界にあの女が割り込み。俺が生きるための道、死すら救いだったかもしれない世界で、唐突に紛れ込むはずがなかった異物が現れたのだから。
戦いが終わった時。俺は重みが消えるのを感じた。
あの女は、俺が敵を始末して戻った時、俺がなぞる未来が分かっていたように微笑んで。その時になって漸く俺は、この女が俺の世界の住人だった事に気づいたのだ。
思えば、俺ははじめてあの時に出会ったのだろう。俺以外の人間と。
英霊というものは過去の影法師に過ぎない? 知った事か。誰も彼もが同じこと。俺にとっては全てが過去だ。だから些末な問題で、あの女は俺にとって唯一の
だから、だ。
あの女が俺を狂わせた。
あの女――アルトリアが、消え去った時。
俺は、孤独を知り。
そして知ってしまった孤独に、俺は耐えられなかった。
【
寂しい。
寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい。
この孤独という猛毒で侵したあの女が憎い。ただの孤独に価値を与えてくれたあの女が愛しい。
あの女は、俺のものだ。聖杯は俺のものだ。あの女の魂は誰にも渡さない。
「―――」
一つずつ密やかに。秘かに。
一人と話し、親しみを演じ、殺めてすり替える。
俺の知識量ではカルデアの設備に触れられない。また、学ぶだけの時間もない。なら最速最善の手段は、過去の亡霊を俺の端末にすること。
記憶を漁り、操り、俺には出来ない事をさせる。たった一度だけ。
まるで人形。真実、人形。そして俺は、綱渡りをする。
気づくな、過去。俺の外道に。
慎重に行われる俺の悪行は、俺だけが知り俺だけが闇に落とす。
名も記憶していない職員の誰か。過去の影。それをすげ替えて、遠隔で操作し続ける。
することは一つ。カルデアに登録されている様々な反応値を、少し先の未来で隠蔽するだけ。そのためだけに過去を殺めた俺を、あの女は糺すだろう。もしかすると、嫌われる。いや、それは絶対だ。だから俺は、あの女がいない時にだけ、有象無象が言う悪とやらを行なう。あの女が居る時は聖人君子にだってなってやれるが、いないとなれば目的を遂行しよう。
後は、俺にコマンドされた指令に沿う。誰とも深く関わらず、ひっそりと影に徹する。カルデアの課す課題の悉くを高水準でこなし、Aチームに居座り、Aチームの過去どもだけと話す。
Aチームが増えた。カドック。オフェリア。ペペロンチーノ。マシュ。
必要最小限に付き合いを留めレフを避ける。ロマニを無視する。そしてダ・ヴィンチとだけそこそこ話し、ダ・ヴィンチにだけ
「? なんだい、これ」
「今は知らなくていい。ただ約束してくれ。それには俺からのメッセージを記してあるが、それを開き中を見るのは、
「んんー? ちょっと意味が分からないな。どうしてだい?」
「お前にだけ話しておこう。誰にも話すな、知られるな。お前がカルデアを信用していないのと同じだ、俺も信じていない。特に、レフとマリスビリーを」
「―――へえ」
ダ・ヴィンチは、カルデアの行なっている非道な実験の数々を知っている。故にマリスビリーを筆頭に一部の人間を信じていない。
だがロマニをはじめとする善良な人間だけは別だ。俺がこう言ったのは、要するにダ・ヴィンチの信頼していない、非道な人間達に漏らすなと暗に伝えるためで、そして善人を演じているレフを警戒させるためだ。
そして俺は言う。これを伝えるのは、ダ・ヴィンチで二人目だ。とはいえ、所詮は過去。俺にとってはなんの価値もないから、伝えてもなんの感慨も湧かない。
「
「――な」
「『なんだって? それは本当かい? だとしたらどうして私に話したんだ。それは誰にも知られてはならない君の秘密だろう。魔術協会とかに知られたら封印指定待ったなしだし、マリスビリー達だって君を放っておかない』か」
「………」
「『……なら次に私はどうすると思う?』試しに俺の肩に手を乗せ、反対の手で自分の頭を掻く仕草をしようとするだろう」
「……参ったな。私の取ろうとするヘンテコな仕草、私の言葉。どれも完璧に先回りしてる。分かった、信じよう。私が、今だ、と感じた時だね」
「感謝する」
ダ・ヴィンチがあれを開くタイミングも分かっている。先を見るための視力が良くなっているのだろう。
どうだっていい。
時間を潰す。流す。隠れ、籠もり、避ける。そうしていると、マリスビリーが何者かに殺害された。表向きは病死だか自殺だか事故だかと処理されたが、俺はそのタイミングでだけはキリシュタリア達といたためアリバイを証明できる。疑われない、疑わせない。俺は関与していないし、知っていて黙っていただけのことだ。
そして時を過ごす。今と先の二重螺旋を見据え、俺は俺の最善をなぞる。疑似死徒化薬とそれの解除薬も作成した。後は時を待つ。
そして、来た。
フジマルリツカとかいう少年。もうそろそろかと、俺は秘かに欲張りな犬ども、魔術礼装『
カルデアは特異点Fを発見したようだ。オルガマリーがマスター候補達を招集し、ブリーフィングを開く。レフは俺がいるのを確かめ、目を細めた。
フジマル某がオルガマリーに叩き出される。遂に、だ。俺は錠剤に固めて、歯の奥に仕込んでおいた薬を噛み砕く。
心臓が強く脈打った。これはあくまで擬似的な死徒化を成す。死徒の前段階としてのグールになったりはしない。その代わり死徒としては欠陥品にしかなれない。だがそれでいいのだ、どうせここを出たら解除薬を飲むのだから。
目的はあくまで死徒化に伴う再生能力と、肉体強度の底上げだ。レフは確実にAチームを殺そうとするから、爆破対象になれば肉体はバラバラになる。跡形も残らないかもしれない。キリシュタリアだけがなんとか即死を免れる。
何もしていなかったら俺は死んでいただろう。どころか、犬どもに聖杯の核を移してなければ、俺が重傷を負っただけで聖杯が破裂しカルデアは滅んでいた。だから対策として死徒化し、爆破によるダメージでの即死を逃れるのだ。後はコフィンの中で息を潜め、生体反応を隠し、オルガマリーの判断で凍結されておく。来たる時が訪れるまで。
そして、その未来をなぞり、俺は爆破された。
はーい、ほとんどする事のないRTAはじめますよー。
お。無事にホモくんが冬眠してますね。レフくんはヤッてくれたようです。
特異点F、みんなで頑張ってねー。冬眠中のホモくんには何もできないので超倍速で流しましょう。
第一特異点クリアしてー。第二、第三、第四、第五、第ろ――ん?
んんんぅ?(困惑)
ちょっ、は? はぁぁあ?!
ダ・ヴィンチぃいいい!! なーにホモくんの冬眠解除してんだゴラァ!!
「
ホモくんと同じ視点になれるのは、同じ千里眼持ちと擬似的な未来視に匹敵するAランク直感が必要な模様。