風に漂う   作:焼いた石

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2022/10/9 修正加筆。


火属性になりたい

 まだ旅立ちのスタートライン真上にいるといっても過言ではないのだが、心はもうボロボロである。家に帰って布団に包まりたい気持ちで溢れているが、仮称家には食料がない。あと布団がない。なんなら帰る手段がない。帰ったところでどうしようもないので、前に進むのだった。

 レイギエナは頼りない足に力を込め、最初の一歩を踏み出した。足が細いわりに翼が大きい。そのせいで歩くだけでも重心がぐらつき、腕を広げてバランスを取りながら歩かなければならなかった。動かし方がわからない尻尾が自然とバランスをとってくれようろ右へ左へと揺れているが、そのたびに背中がズキズキと痛む。おぼつかない足取りに目線が下へといってしまう。

 

 慣れないうちは、立ち止まって周囲を確認したほうがよさそうだな。めんどくさ。

 

 レイギエナは立ち止まって周囲を観察した。

 陸珊瑚の台地らしく白やピンクの平たい珊瑚が積み重なり壁を構築している。レイギエナがいるところは広場のように少し開けた平らな地形で、軽い運動ぐらいならできそうな広さだった。何処かへ続いていそうな通路が一本、まっすぐに続いている。小型モンスターなら通れそうな道幅であり、今の大きさのレイギエナであれば歩いて通れそうである。壁の上には紅色の樹状の珊瑚が空に向かって伸びているが空からレイギエナの姿を隠してくれるほどではなく空から丸見えであることは予想がついた。他には生き物も、水も見当たらない。巣穴から見下ろしわかっていたことである。

 

 敵がいないだけましだな。今なら小型モンスターにだって負ける。一対一なら……どうだろう……。

 

 頭の中でジャグラスと戦う想像をしてみたが、激闘になりそうだ。負けるつもりはないが。

 体を慣らすために広場をぐるぐると歩いて回る。何度か尻尾を壁にぶつけたり、曲がり切れずにバランスを崩しそうになったりはしていたが、20分ほど歩けば徐々に感覚をつかめ、小走りぐらいはできるようになった。走るにはまだ練習が必要だ。しかしレイギエナのお腹はずっとぐるぐると鳴っているのだ。

 

 動けるうちに動くしかない。

 

 空腹感に駆り立てられながらレイギエナは広場を後にした。

 

 

 

 

 しばらく道を歩いていると、珊瑚礁のトンネルに行きついた。今までの道幅よりも狭く、樹状珊瑚が刺々しい屋根を作り出している。自分の体とトンネルの大きさを比べるが、明らかに窮屈そうである。

 

 やればできるって!がんばれ。

 

 ここ以外に道はないのでいくしかない。意を決して突っ込めば、頭はスムーズに入ったが予想通り翼がひっかかり前にすすめない。できる限り翼を折りたたみ体に密着させ、足も折り曲げてできるだけ座高を低くし地面を蹴って体を押し込む。体の半分ぐらいは通ったが、すっぽりと嵌っており足が動かせなくなった。

 

 なんとかならんか。

 

 体を左右にくねらせる。張り出した珊瑚の枝が体を刺してくるが、僅かに体は前にすすんだ。なんとか通れそうである。そのまま這いつくばりながら押し進んだ。

 

 ドスジャグラスになった気分……まあレイギエナだけどな!

 

 自分でもわけがわからないことを言っていた。

 

 

 

 死闘の末、レイギエナはトンネルに勝利した。背中はスタート直後の打撃に加え、珊瑚からの刺突のせいでだいぶ痛いが、血の匂いはしないため問題ないという結論に落ち着いた。生きているならよし。

 トンネルを抜け出した先にはなだらかな坂が続いていた。大型モンスターが悠々と歩けるほど開けた通りで、レイギエナは思わず身震いする。周囲に鳴き声や痕跡は見当たらないが、おそらく危険が増えることになる。

 

 もういっそ嵌ったままでいられないかな……。逃げる時は頭をひっこめればいいだけだし……。

 

 しばらく周囲を警戒していたが物音はしない。思わず伸びをした。背中は痛いが、気分が晴れる。それでも空腹のせいか体が重いが、そのままゆったりと歩き出す。

 

 なるようにしかならんて。

 

 だんだん疲れてきたのか思考が投げやりになっていることを自覚してはいたが、実際に動くしかないのだ。脅威は感じない以上、探索するしかない。

 

 まずは水!フィールドから考えて水場は少なくないはず。なら下に向かうか。しらんけど!

 

 水は下に溜まるだろうという予想をもとに坂を下り始める。傾斜は緩いし、爪が滑り止めになっているようで転びそうではない。それでも一定間隔で立ち止まり、周囲を観察した。太陽の位置からして、自分が北に向かっていることはわかったが、それ以外に目ぼしいものはなかった。

 

 とりあえず脅威はいなさそうだ。

 

 レイギエナの耳に聞こえてくるのは風の通る音だけで、平穏を保っている。

 

 不幸中の幸いというか……多少危険でいいから水をくれー!

 

 そんなことを思っていた時期もあったなと、後々のレイギエナは振り返るのだった。

 

 

 

 

 しばらく歩いていたが一向に水場にたどりつかない。そこで先に食料を、と考えたところで問題が浮上した。自分は何が食べられるのだろうか、と。

 レイギエナの食性は大型モンスターの例にもれず肉食である。通常であれば陸珊瑚の台地に生息するラフィノスを狩ってそれを食べるが、ラフィノスは飛ぶ。しかしこのレイギエナは飛べない。ラフィノスからしてみればレイギエナは天敵であり、姿を見た瞬間に逃げ出すだろうから走って捕まえるというは現実的ではない。待ち伏せができればいいが、レイギエナのカラーリングは隠密性の欠片もなく鮮やかだ。隠れようもない。

他の小型モンスターであるシャムオスは群れで活動するうえ凶暴な性格でありリスクが高い。ケルビも群れで行動するが攻撃力は低い。とはいえあの機動力である。追い付ける気がしない。

 

 飛べるようにならないと何もできないが?でも飛び方がわからないんだって……

 

 飛べないレイギエナなんて、毒が吐けないプケプケである。最大の武器が使えない。

 考えなしはいつものことだが、途方にくれてしまう。知恵を借りようにも誰もいない。自分でなんとかしなければならないが、ぴんとくるものはなかった。今からでも飛ぶ練習をしようかとさえ考える。

 

 どうすんだこれ……

 

 諦観の境地に至りそうである。もう考えることにさえ疲れていた。

 ふと足元を見ればまるで海藻のような草が生えている。気楽そうにふよふよと風を受けている。悩みなどなさそうだ。いっそ植物に生まれ変わればよかったとも考えたが、植物なら芽生えた地点で人生のすべてが決まってしまう。溶岩の隅にでも生えたらもう終わりだ。それにいい場所に生えてもモンスターに食べられたらおわりかぁ、レイギエナはぼんやりと見つめながら、ふと考えた。

 

 つまり、食べられるってことだよなぁ……

 

 全く食欲は誘われないが、おそらく食べて死ぬことはないだろう。もう食べても食べなくてもたどり着く先は同じような気がしていた。

 

 野菜には水分があるとかなんとか……

 

 大きな口を開いて、ためらいなく雑草をバクリと口に入れる。

 

 にがい!!

 

 全身が震えるほど青臭い。舌全体に苦みが広がる。しかも硬い。一瞬で吐き出したい気持ちに襲われたが、なんとか自制する。さらに、噛み切るにも一苦労だった。なぜならレイギエナの歯は肉食らしく鋭く尖った牙であり、肉を引きちぎりやすいようになっている。一方で草食獣の歯はすり潰しやすいようになっている。牙しかないレイギエナは野菜を咀嚼するには向いていなかった。

 草がしっかりと根を張ってくれていたおかげで千切ることはできたが、口の中で何度も咀嚼する。顎が疲れてきたころに、やっと飲み込むことができた。

 

 ただの拷問だが?

 

 ご飯を食べたつもりだが体力が減っている気さえする、苦痛やしびれがないため毒はなさそうだが。

 気のせいかもしれないが空腹が紛れた気がして、再び草を口に運ぶ。

 

 とはいえ、こんなものばっかり食べてられるか!

 

 記憶をたどり、陸珊瑚で食べられそうなものを考える。

 ハンターは携帯食料を持ち歩いていたり、キャンプで料理を作ってもらったりで冒険の最中に食材をとって自炊するなんてことは、こんがり肉以外滅多になかった。とっさに食べられそうなものと言われてもなかなか思いつかない。

 

 ほかに食べられるもの……ツボアワビ?

 

 陸珊瑚の名物、ツボアワビ。採取クエストとして厳選ツボアワビをもってこいと言われることさえあるほど人気の食材だ。ハンターならだれでも食べたことがあるだろう。それに隅のほうを探せばまとまって壁に張り付いていることが多く、一個一個は小さいが集めるには苦労しなさそうである。厳選ツボアワビとなると見つけるのは手間だが、厳選しないツボアワビならたくさんあるのだ。だが問題もある。

 

 貝って生で食べられるのか?

 

 ツボアワビの刺身は食べたことがない。大抵は焼くか煮るかされている。ツボアワビではないが、お腹がすいたからとクエストの途中で貝を生で食べたやつが死にかけたという話しをギルドで聞いたことがある。その時は馬鹿なことをしたものだと笑ったものだが。

 

 確かひどい下痢になったとかいってたな……。下痢はまずいだろ……。

 

 お腹を下したら活動に支障がでる。しかも無駄に水分が消費されてしまうことは死活問題である。なるようになれ、とはいけない問題であった。

 

 レイギエナのお腹を信じるか、草を齧るか……

 

 口の中では雑草が苦みを発している。食べたくなければ食べなくていいんだぞと抗議しているかのようで心の中で謝る。植物も気楽ではなさそうだ。

 悩んだ末に、レイギエナは草を食べることを選択した。腕が翼のせいで鼻をつまみながら食べるわけにもいかず、真っ向から青臭さと対決する。

 

 これからは唯一の草食レイギエナとして生きていきます……

 

 一段と草からえぐみを感じて思わずえずいたが、なんとかこらえる。

 せめて生食でなかったらなとレイギエナが氷属性であることを恨みながら、名前も知らない草を咀嚼する。全くと言っていいほど水気はないが何度も噛むおかげで唾液が出て、多少口渇感は緩和された。

 

 水が飲みたい……

 

レイギエナはまたゆっくりと歩き出した、草を食みながら。

 

 

 

 

 

 




飛べないレイギエナさんは引き続き水を求めてがんばります。がんばれ!


こんな感じの小説ですが見てくださる方はいるそうで。皆さんどうやってたどり着いているんでしょうか。「レイギエナ」で検索する人がこんなに!?って思っていましたが、そんなわけないですよね。なんにせよいつもありがとうございます。
まだ書きたい気持ちはあるので、次もがんばります。


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