風に漂う   作:焼いた石

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忘れてなかった。

 幸いなことに相手はレイギエナに気づいていない。壁から顔の半分だけをだし、シャムオスの動きを観察する。

 シャムオスは5匹。庇のように突き出た珊瑚が影を作り、そこに集まって眠っていたり、寝そべりながらあくびをしている。明らかに眠そうな様子である。そうというのもシャムオスは夜行性。現在は真昼間であり、シャムオスたちからしてみれば深夜である。寝込みを襲えれば簡単だがそこは野生生物、きちんと群れで役割分担を行っており周囲の警戒をしている。あの中に戦いを挑みにいっても不意打ちにはならないだろう。

 

 いまからでも別の水場を探したほうがいいだろうか。ここに溜まっているということは、周囲を探せば他にも水が溜まっている場所があるかもしれない。だが、ないかもしれない。

 

 水分不足に陥れば動けなくなってしまう。もうすでに体のだるさを感じているレイギエナにとって、別の水場を探すことはリスクが高かった。それこそ、シャムオスたちと戦うのと同じぐらいに。シャムオスたちに勝てさえすれば、水は確保できるのだ。新たな水場を探す方に賭けるより、報酬が確定していた。

 

 やるしかない、この場所で。

 

 レイギエナは気づかれないように慎重に息を殺しながら深く息を吐いた。

 シャムオスの大きさと、自分の大きさはほぼ互角。それが5体。

自分の武器は嘴、爪、翼とインファイトを強要される構成だ。遠距離チクチクして数を減らすことはできない。これがアンジャナフとかであれば火炎放射でも吐けるのだろうが、レイギエナは冷凍ビームなんて吐けない。当たって砕け、それがレイギエナの基本戦術だろう。だが、その戦術が通じてるのは体格の差や飛べることが要因だ。どちらもない現状、本当に当たって砕けるしかない。本当に砕けそうである。

 戦闘のシュミレーションをしてみる。勢いよく突っ込んでいき上手くやれば1匹は捕まえられるだろう。そいつをなんとか倒すとして、周りから4匹に攻撃されることになる。最大のリーチである翼を使って追い払いながら戦うことになりそうだが、翼で力いっぱい殴ったとして撃退できるのだろうか。所詮は子どものレイギエナである。もし大した効果もなく翼に嚙みつかれれば千切れるかもしれない。翼を掴まれている間に首を狙われでもしたらあっという間に死んでしまう。巣からの落下のおかげで皮膚の頑丈さを少しは信用しているが、それでも相手は肉食獣だ。皮を引きちぎるのはお得意だろう。

 シャムオスに食べられる自分の姿が想像され、レイギエナは腰がひけてきた。数の差はそのまま力の差だ。壁を背にして戦ったとして、どこまでやれるのか。

 

 まさかシャムオスに怖気づく日がまた来るなんてな……

 

 シャムオスを討伐してこい、と言われて身構えるハンターはおそらく成り立ての若者だろう。多少なりとも大型モンスターと呼ばれる獲物と戦闘したことがあるハンターであれば、シャムオスだけから脅威を感じることはほとんどないと言っていい。数が多くとも、地道に数を減らしていけば余裕をもって勝利し素材を入手できる。それでもハンター以外の人間からしてみれば脅威となりえる戦闘力は有しており、数が多くなってくると討伐依頼のクエストが出される。そういったクエストは登竜門になっていて、モンスターに立ち向かう勇気が試される初心者向け。こなせなければハンターには向いていない。そこで別の道を探し始めたほうが賢明だ。

 そんなわけでシャムオスに苦戦するのは初心者だけ、といいたいところだが、ある程度の熟練者であってもいざ討伐しようとすると機動力に翻弄されることは少なくない。普段戦闘する相手よりも小回りがきくものの相手には、意外と手間取るのだ。それでも負けることは滅多にないが。

 

 なんだか懐かしいなぁ。

 

 自分の最初のクエストもシャムオスではなかったが、同じような小型モンスターの討伐だったことを思い出した。なんとかなるから大丈夫だ、と受付嬢と同行してくれた先輩ハンターには強がっていたが、いざ目の前に立つと普段より大きく感じられて怖気づいていた。そしていざ戦闘が始まれば猟虫は当たらなくて苛立ちながら戦っていたような気がする。その頃は赤エキスがないと戦えないと思っていたからまずは印弾を当てようと、必死に遠くからちまちま飛ばしていた。猟虫を直接あてるとか、無強化のまま殴るなんて考えもしていなかった。あまりにも当たらなくてだんだん情けなさがこみ上げてきて、泣きかけていた。実際、遠くから当たらないなら確実に当たる距離まで近づけばそれでいい話なのだが。あまりにも恥ずかしい思い出だ。

 

 あの時の先輩の悲しいものを見る目……やめてくれって思ってたなぁ。

 

 笑われたほうがましだったかもしれない。生温かい視線が脳内によみがえってくる。苦い味が広がったが、先輩に優しく助言された記憶も蘇ってきた。

 

 上手く隙を作って戦いなさい、だったっけ……?あの時は確か……。

 

 そのヒントをもらっても何も閃かなくて、結局は当たるまで飛ばし続けた記憶がある。ちなみに攻撃も当たらないせいで、何度も赤エキスをとらなければいけなくてもものすごい時間がかかった。それでも見守ってくれていた先輩には感謝しかない。

 

 あの時と同じってことだよな。

 

 初心者クエストと同じ難易度。つまりレイギエナとしての登竜門といえるのかもしれない。負けたら諦めろ、生を。という大自然からのクエストだ。しかも強制的に受注させられた。大自然ギルドは横暴である。見守ってくれる先輩はいないが、2回目の初心者クエストだ。過去の助言を元に戦っていけばいいのだ。

 

 そうだ。なにもレイギエナとして戦わないといけないわけじゃないんだ。俺はハンターで、体はレイギエナかもしれないが、先輩の助言まで忘れたわけじゃない。

 

 クエスト帰りに先輩は隙の作り方をきちんと教えてくれていた。自分には思いつかなかったことで、経験の違いを感じ取れた会話であったから未だに印象に残っている。結局、ハンターランクがあがっても頭を空っぽにして殴り続けることが多かった自分にはあまり実践できなかったが、それでも苦戦した時の選択肢には上がるほどだ。本当に先輩には感謝しかない。

 上手くいく保証は全くないうえに体がレイギエナのせいでハンターの頃と同じ動きはできない。それでも光明が差してきた。

 

 クエスト名は……そうだなぁ……『水場の争奪戦!赤光を払え』とかでどうだ。わりと上出来じゃないか?

 

 勝ち筋が見えたとはいえ、道具も使えず体格差もなく、練度もない。そのうえ数の差がある以上厳しいクエストであることは変わりない。だがハンターに戻ったかのような感覚に気分は高揚していた。何もシャムオスを倒さなくてもいいのだ。追い払いさえすればいい。そう考えるだけで気持ちはだいぶ楽だった。

 

 そうと決まれば日が高いうちに準備しないと。いそげー!

 

 レイギエナは音を立てないように気を付けながら、それでも早足で来た道を戻ってゆく。その足取りは軽かった。

 

 

 

 

 

 




いよいよレイギエナとしての初戦闘ですね!がんばれ、レイギエナさん!

赤光、という表現はMHWのシャムオス討伐のクエスト名からお借りしました。いつもクエスト名がかっこよくて、公式が神。


本当は戦闘の終わりまで書く予定でしたが、長くなりそうなので区切りました。戦闘か!と思っていた方はすみません。次回になります。(この長さなら4話と一緒に投稿してよかった……。行き当たりばったりなんで……)

レイギエナさんしか登場人物がいないせいで会話文がなく読むと疲れるので1話としてはこの長さでいいかなと思っております。

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