間違った世界で生きていく   作:輪廻の主

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プロローグ

感染病。差別。貧困。扮装。どうなったって、この世界は優しくない。

 

だけど………そんな世界でも、悪くないと思える瞬間がある。それは━━━━

 

 

「酒と女、それに美味い飯とふかふかのベッドがあれば文句無しよ!」

 

そう言って目の前の男は頼んでいた酒を一気に飲み干す。既にテーブルには空いたグラスが4つもある。これで5杯目。ペースを落とすかもう止めておけと伝えるも、男は口元を乱暴に拭いとりグラスを机にドンッ!と叩き付けた。

 

「良いか!?俺には仕事終わりに飲む酒が何よりの生き甲斐なんだ!!これは誰にも邪魔させねぇ!!おーーい!酒もう一杯追加ー!」

 

「はーい♪」

 

男が大声で注文すると近くを通り掛かったウエイトレスが笑顔で返事をした。

 

この酒場は可愛い子が多いことで有名だ。少なくとも他じゃ知らない。

 

「それにしてもよぉ………お前も飲め飲め!せっかく今回は羽振りの良い客だったんだからよ。金は使わなきゃ勿体ないぜ?」

 

男は肉が刺さった串を向けながら言う。男は既に顔が真っ赤になっているがまだ余裕そうだ。

 

「分かっては居るんですけどね。どうにもお酒は苦手で……良かったら飲みます?」

 

自分が頼んだ酒を男に近づけるが、男は呆れた表情で首を横に振った。

 

「いいよ。そりゃお前さんのだ。俺は俺の酒で満たすとするさ」

 

男は手に持っていた肉にかぶり付く。そこまで良い肉では無いが料金の割には美味いのが、ここの店の良いところだ。

 

「それにしても、今回の仕事は大変でしたね」

 

「まったくだ。盗賊に遭遇するのはまだ分かるとして、まさか感染者の集団に襲撃されるのは予想できなかった」

 

今回の仕事は簡単な筈だった。良家のお嬢さんを目的地まで運ぶ仕事だ。一人辺りの報酬が相場の3倍と言うビッグイベント。話を聞き付けた傭兵達がこぞって名乗りをあげた。結果、そこそこの人数が集まった。一人のお嬢様と世話役二名を離れた移動都市まで護送すると言う仕事。ルートは比較的安全な地域を選んだ。紛争地帯でも無ければ盗賊団のアジトも無い。いざ襲撃されても、自分達傭兵団で片付けられるだろうとたかをくくっていた。

 

ところが蓋を開けてみれば、盗賊の襲撃があったのはまだ分かる。分かると言うのは、あり得るだろうと予測していたからだ。決して警戒を怠らず移動していた為、損害は極小で抑えることが出来た。怪我人は居ても軽傷者が居るくらいだった。そこで油断したのが行けなかったのだろう。目的地までは1日で着く距離では無かった為、開けた場所で野宿をすることにした。夜営の準備をしていると、大規模な爆発が起きた。轟音が響き渡り砂煙により視界が遮られる中、突如として奴らは現れた。それぞれが軽い鎧を身につけ白いフードを被り仮面を着けた集団。そう言う奴らを噂で耳にした事があった。曰く、彼らは感染者の組織である。弾圧と差別によって虐げられてきた感染者は、1人が剣を手にしたことにより蜂起した。彼らの名は━━━レユニオン。

 

いったいどうやって至近距離まで近付いたのだろうか。開けた場所故に見張りがすぐ気付けるだろう。そんな疑問に対しての答えを出す暇もなく、レユニオンは自分達へ襲い掛かってくる。突然の奇襲に対応できたのは自分と、目の前で飲んだくれてる彼と他数名だけだった。幸いにも依頼人と世話役には被害が出なかったが、今回の仕事仲間の多くが死んでしまった。特に親しい者も居なかったが、顔見知り程度なら何人か居た。

 

レユニオンは数はそこまで多くはなかったが練度はそこそこ高かった。油断していれば護送対象を殺されていただろう。

 

その後、軽く死体を弔い、遺品などを回収してから朝一で出発した。目的地には昼過ぎに到着し、依頼の達成報告と報酬を受け取った。

 

目の前の男がいつも以上に早いペースで酒を飲むのは、それほど今回の仕事が辛かったからだろう。

 

「ったくよぉ。アイツらさえ、アイツらさえ来なきゃぬるい仕事だったのによぉ」

 

男とはそこそこ長い付き合いだが、ここまで悲しんでいる“匂い”を発しているのは初めてだ。目の前で知り合いが死んでいった事に対する悲しみだろうか。彼は自分とは違い人付き合いは得意な方だ。きっと友人も居たのだろう。

 

「…………感染者ってのは、みんなああなのか?」

 

━━━━感染者。鉱石病(オリパシー)に感染した者達の総称。鉱石病に感染した者の末路は酷いものだ。社会から完全に切り捨てられ、迫害され、隔離され、駆逐される。それが例え家族や恋人であったとしても、例外は無い。鉱石病は彼らに死と言う運命を突き付けるが、同時に力も与える。先のレユニオンも、恐らくはその力を手に入れていたのだろう。

 

男は決して強くはない。いや、そこいらの傭兵よりかは腕が立つが、決して強くはない。だがサバイバル術や危機管理能力、危険を察知する力には目を見張るものがある。━━━純粋な武力は星2、生存術は星3、あるいは4にも届くやもしれん━━━

 

「………そうでしょうね。感染者の辿る運命は残酷だ。彼らは哀れまれる立場にあるはすだ。救われるべき立場のはずだ。それなのに………今の世界は、彼らに対してあまりにも厳しすぎる」

 

自分の答えが気に食わなかったのか、男は机を叩いて勢いよく立ち上がった。

 

「それじゃ、アイツらが正しいとでも言うつもりかよ!?自分達が迫害されて、だから力を手に入れた途端に凶行に走って、盗賊紛いのことをする!俺たちがなにしたって言うんだよ……!!」

 

「落ち着いてください。何も彼らが正しいなんて一言も言ってません。彼らのしたことは許せませんが、僕ら傭兵の世界は弱肉強食。違いますか?」

 

「そっ、それは………そう…だけどよ」

 

「それにこの仕事上、いつ死んでもおかしくないでしょう。それは死んでいった彼らも承知していたことです。いくら簡単な仕事だからと言って、油断していた僕達の敗けです。だけど僕らは生き残った。死んだ彼らは弔った。ちゃんとした葬儀はしてあげられなかったけど、それでも十分だったはず。…………僕が言いたかったのは………感染者だからと言って、一括りにするべきではないと言うことです。レユニオンのような凶暴な物もいれば、その力を誰かの為に活かそうとする者も居る」

 

少なくとも自分は知っている。感染者の身でも、誰かを癒そうとする人を。絶望の未来を覆そうと足掻き治療薬を作り続ける人を、知っている。

 

男を落ち着かせ静かに席に座らせる。店内の注目を集め静まり返ってしまったが、店員さんの元気な声と陽気な音楽を流してくれたお陰で、店内はまた賑やかな雰囲気に戻った。

 

これは後でチップを渡さねばならないだろう。予想外の出費に溜め息が出る。

 

自分は荷物から財布を取り出し、現在までのお代を置いた。

 

「おい、なんだこれ」

 

「何って、お代ですけど。割り勘で良いですよね?」

 

「払いすぎだっつーの。お前ほとんど飲み食いしてねぇだろうが」

 

「良いですよ。受け取ってください。恐らく、こうして貴方とお酒を飲むのも、これで最後だと思いますから」

 

男は呆けた顔をする。なんやかんやで、男とよく一緒に仕事をするようになって二年以上になった。それも今日まで。

 

「なんだよ。どっか行くのか?」

 

「ええ、実はとある所から勧誘されまして。食と住の保証つきと給与も出るらしいので、お世話になろうかと」

 

「初耳だぞ」

 

「はい、言ってませんでしたから」

 

「何でだよぉ……」

 

項垂れる彼に対して、やはり前から一言伝えるべきだったかと思う。

 

「すみません」

 

「はぁ、謝るくらいなら前から言っとけよ。まぁ良いけどぉ。………達者に暮らせや。お前と仕事するのは悪くなかったぜ」

 

男はニヒルに笑う。悪人面だが根は優しい人だ。よく悪者ぶるが、悪になりきれない所がとても良い。

 

「僕も、貴方と仕事が出来て本当に良かった。貴方から学んだ事をこれからも活かしていきます。また機会があれば一緒に仕事が出来ると良いですね」

 

最後に握手をする。自分より大きくて無骨な手だ。ゴツゴツしていて手には幾つかの傷痕がある。彼は気づいたように聞いてきた。

 

「ああそういや、どこに行くんだよ?」

 

ハッとする。そう言えば言ってなかった。まぁ、別に言わなくても良いのだが。言わない理由も無いので素直に答える。

 

「ロドスに行ってきます」

 

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「うわーーー。おっきい基地だな」

 

傭兵をしていた時も様々な基地へ行くこともあったが、ここまで大きいものはそうそう無い。

 

基地への入り口で待っていると、職員と思わしき人な出てきた。側には軽度の装備をした人もいる。

 

「どうも初めまして、私は人事部に所属者している■■と言います。カインさんでよろしいですか?」

 

「はい、そうです」

 

「では念のために事前にお知らせしていたコードをお願いします」

 

「24965874」

 

「はい。確認しました。どうぞこちらへ。そしてようこそ、ロドス・アイランドへ」

 

 

基地を案内される前に、先ずは身体検査を受けることになった。身長や体重は勿論、鉱石病の感染の有無、アーツ適正など。それが終わればオペレーターとしての軽いテストだそうだ。

 

自身の戦闘能力を買われて来たのに、テストがあるのか?と職員に訪ねると困った笑みを浮かべて規則ですからと答えた。

 

それはそうだ。少し傲慢な発言だっただろうかと職員に謝罪する。

 

「気にしないでください。今日は色々とやっていただきたい事があるので大変ですが、頑張ってくださいね」

 

優しい笑顔と共に返ってきた。優しい人で良かったとホッとする。

 

人付き合いが苦手な自分にとっては、新しい職場の1日目は大事にしたい。初日から人間関係で躓くなんてことはあってはならない。

 

 

身体検査、オペレーターの適性検査共に順当に終わり、これならロドスの責任者と会うことになった。

 

職員に案内された部屋の前に着くとドアをノックする。

 

「■■です。今日到着したカインさんをお連れしました」

 

「そうか。入ってくれ」

 

扉の向こうから聞こえたのは若い女性の声。その声を聞くのは“2回目”だ。職員がドアを開けて先に入っていく。

 

「こうして顔を合わせるのは2度目だな。カイン」

 

「お久しぶりです、ケルシー医師。半月ぶりですか」

 

「ああ。君がもう少し早く来てくれれば、もっと楽が出来たものを」

 

「すみません。どうしても依頼を完遂したかったので」

 

「いや、良いさ。君の仕事に対する真面目さも買っている。………さて、それでこちらが━━」

 

ケルシー医師が視線を移した先にはウサミミをピンッと伸ばした“少女”がいた。

 

もしかして………この子が……?

 

「ケルシー先生が自らスカウトに行ったと言うので、どんな方なのか楽しみにしていたんです。初めまして、私がロドスのリーダー、アーミヤと言います。ロドスに来てくれて、本当に感謝しています!」

 

そう言ってアーミヤは手を差し出した。少し驚いたが、このご時世だ。この少女にはそれなりの実力と実績があるのだろう。でなければ………こんなにも覚悟を宿した目をしていない。自分はそのアーミヤの手を優しく握る。

 

「はい。よろしくお願いします、アーミヤさん。僕のことはカインと呼び捨てで構いませんから」

 

「さて、挨拶も済んだことだ。本題に入ろう」

 

「本題……?」

 

今回は顔合わせだけではないのか?

 

「あぁ。カイン、これから話すことは………外部に絶対に漏らさないで欲しい」

 

先ほどの穏やかな空気が一瞬で引き締まる。アーミヤの表情も真剣なものだ。

 

「カインさん………どうか私達に、力を貸してください」

 

…………どういう事だろう?

 

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要約すると、ウルサス帝国にいるドクターと呼ばれる最重要人物を秘密裏に救出するから、その作戦に参加して欲しい!とのこと。

 

ウルサス帝国。感染者に対する弾圧が特に激しい軍事国家だ。

 

それでドクターと言うのは、アーミヤやケルシー医師にとっての昔の仲間らしい。ドクターが居るのはウルサス帝国の都市の一つ、チェルノボーグ。確か主要な都市の一つだったような……?

 

「ウルサス帝国………チェルノボーグへ救出作戦ですか……。彼らが感染者を入れるとは思えませんが…」

 

ロドスアイランドは感染者を救うための組織だ。表向きは製薬会社だけど、裏では感染者同士の争いに対しての武力介入も行っている。勿論組織には感染者が居るし、今回の作戦だって感染者抜きにとは行かないだろう。

 

「だからこそ、秘密裏に行う必要がある。既に潜入ルートと脱出ルートは確保してある。そして今回に参加するメンバーも選出済みだ」

 

「なら、どうして僕を?」

 

「君の戦闘能力や臨機応変な対応能力を私が高く買っているからだ。不足の事態が起こらんとも限らない。勿論、その時の為に参加メンバーにはより訓練をしてもらってはいるが………君が居る事でより任務の成功率をあげるのが目的だ。私がここまで言うのは珍しいぞ?」

 

そうなのだろうか?だが確かに、ケルシー医師のような美人に能力を買われて嬉しくないはずもない。

 

「………分かりました。その作戦に参加しましょう」

 

「本当ですか!?」

 

「はい。ロドスに入っていきなり大仕事ですが、頑張ります」

 

「ありがとうございます!」

 

「よし、そうと決まれば早速作戦についての説明………と言いたい所だが、それは明日にしよう。君も疲れただろう。今日は基地を案内してもらって自室で休みたまへ」

 

「それでは、我々のロドスを案内させてもらいますね」

 

どうやらアーミヤが直々に案内してくれるようだ。しかし良いのだろうか?リーダーであるアーミヤに案内させるなんて。

 

「気にしないでください。今日の分のお仕事は終わっていますから。それにこれもお仕事のうちです。新しく来た人をよく知るためですから。さぁ!行きましょう!」

 

アーミヤに手を引かれて僕はそのまま部屋を後にした。意外と力強い………

 

 

 

二人が出ていったのを確認して、ケルシーは机の引き出しから資料を取り出した。それはカインの検査結果だ。

 

「検査結果は流石と言うしか無いな。そうでなくては困るが。彼が今回の救出作戦に参加してくれて本当に良かった。何も無いのが1番だが………この世界はそう甘くないと知っているのでな」

 

ケルシーはもう一度資料へと目を落とす。

 

━━━━━━━━━━━━━━

コードネーム:カイン

性別:男

職業:未定

戦闘経験:7年

出身地:不明

誕生日:8月30日

種族:サルカズ(突然変異種)

身長:182cm

鉱石病:非感染

 

物理強度:優秀

戦場機動:優秀

生理的耐性:標準

戦術立案:標準

戦闘技術:卓越

アーツ適性:優秀

 

・個人履歴

幼い頃から戦闘訓練を積み、戦場を渡り歩いてきたと言う。一人立ちをしてからは傭兵業に身を置き、その任務の達成率から依頼には困らなかったと言う。しかし、ケルシー医師による熱烈な逆ナn……口説k……アプローt………説得により、ロドスへと所属することになった。傭兵時代には様々な地域で仕事をしてきたため、ロドスで会う元傭兵のオペレーター達とも大半が顔見知り。

 

 

・第一資料

彼の一族の先祖はサルカズのブラッドブルードだと考えられる。それが彼の何代か前に突然変異を起こした結果、どの種族にも見られぬ特性を得た。産まれながらにして一定以上のアーツ適性を持っている。彼らは興奮すると眼球が黒く染まり瞳は血に染まったかのような鮮烈な赤に変わる。彼を含む彼の一族は特別な器官を持ち、戦闘をする際はその器官を使う。肩から翼のように展開する羽赫、アーツと相性がよく遠距離攻撃に適している。肩甲骨辺りから現れる甲赫。金属質でとても固く、並大抵の攻撃ではびくともしない。しかしどうやらとても重いらしく、機動性に欠けるとのこと。腹部辺りから現れる鱗赫。鱗のような表面を持ち一撃の威力がとんでもなく高い。これを持つ者は再生能力もずば抜けて高い。尾てい骨周辺から現れる尾赫。総合能力が高く、中距離で高威力を発揮する。彼の一族ないし種族にはまだまだ分かっていない事が多く、彼についての説明がとても重要になっている。

 

 

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