レユニオンのしたことは果たして正義と言えるだろうか。
目には目を。歯には歯を。罪には罰を━━━━
誰もこの世界の負の連鎖からは逃れられない。
情報を引きずり出すことに成功した僕は、真っ直ぐ救出部隊との合流を目指していた。あくまでも最優先事項はドクターの救出だ。なるべく戦闘は二の次に。被害は最小限に。助けられる人は助ける。
燃える町。殺されていく人々。幼い子供ですら、彼らの復讐の炎の前には等しく焼かれていく。これが、この惨劇が、彼らのしたかった事なのか………?
今にも剣を振り下ろそうとする奴を蹴り飛ばして子供を助ける。多少の擦り傷をしているようだが、大きな傷は無かった。倒れている子供を優しく抱き上げ立たせる。
「大丈夫?」
「う、うん、ありが………ヒエッ」
少年は僕の顔を見て怯えてしまった。どうして………あぁ、そう言えば仕事用のマスクをしていたままだった。僕はいつも仕事中に着けているマスクを外す。歯が剥き出しになったような黒色のマスク。左目だけが見えるようになっている為、かつての傭兵仲間からは、『隻眼』と呼ばれていた。
少年に出来るだけ優しく声をかける。
「まだ歩ける?」
「う、うん、大丈夫」
「お父さんやお母さんは?」
「わ、わからない………お母さんと逃げてる途中で……いつの間にかいなくなっちゃってて……」
はぐれたのか………。まぁ、これだけの混乱の中だ。無理もない。
しかし、今は迷子の両親を見つける時間はない。
「ごめんね。お兄ちゃんは行かなくちゃいけないんだ。ここを真っ直ぐ行くと脱出用の船があるはずだから、そこへ行くと良い。たぶん他の大人の人もいるはずだから」
「お兄ちゃんは……?」
「お兄ちゃんは大丈夫。とっても強いから。ほら、早く行っておいで」
「うん、ありがとう!お兄ちゃん!」
そう言って少年は走っていった。無事に逃げられると良いな…………。
少年を見送っていくと、背後から足音が多数聞こえてきた。その足音からは怒りや苛立ちが聞き取れる。レユニオンだろう。逃げてきた少年達を追ってきたのか。ここで彼らを通してしまったら、あの少年も殺されてしまう。それは駄目だ。
「お前は、誰だ?」
リーダー各であろう人が話し掛けてくる。ここに居る時点で敵であることはほぼ間違いないだろうに。随分と呑気なことだ。
マスクを着け直し、親指で人差し指を押さえながら鳴らす。いつからか身に付いてしまった癖だ。
「貴方達に恨みはありません。だけど、貴方達のしたことは許せない。だから━━━」
四本の鱗赫が蛇のように鎌首をもたげる。
「死んでください」
四本の鱗赫はそれぞれ一番近い敵の心臓に突き刺さった。速さに誰も反応できなかったらしく、殺された人のすぐとなりに居るやつは目を見開き硬直していた。
全員が僅かに固まったこの瞬間を逃すほど、僕は優しくない。
空中へ飛び上がり、羽赫をマシンガンのように撃ち下ろす。これだけで全員死んだ。レユニオンの雑兵ではこの程度だろう。
「早く行こう」
予想外の出来事に時間を食ってしまった。予定通りに進んでいれば、アーミヤさん達は既にドクターを救出したはずだ。
混乱が支配する街を駆け抜けて行くと今日一番の衝撃を感じた。それはすぐ近くで起きていた。
超高熱の炎は近付くだけで死をもたらすだろう。それに抗うは黒いアーツ…………あれは━━━━
「アーミヤさん……?」
敵の炎を押し留めているアーミヤ。彼女の背には、救出部隊とドーベルマンさんやAceさん、二アールさん達もいる。そして彼らが取り囲むようにして守っているのがドクターだろう。フードを被り顔の大半をマスクで隠している為、表情はおろか性別も分からないが、恐らくは男性だろう。
アーミヤと敵の攻防は拮抗していたかに見えたが、それも一瞬の事だった。再び激しい衝撃の後に立っていたのは━━━
「面白い力だ━━━しかし、これで終わりだ」
敵だった。
彼女の周りは燃え盛る炎に呑まれ灰塵となる。それは感染者の負の感情を表しているようで、何故か僕にはそれが、とても痛々しく見えた。
状況は正に絶体絶命。今の彼らにあの敵を倒せる力は無い。あと炎の前にはどんな盾も剣も、等しく灰となるだろう。
しかしそうはさせない。
「アーミヤさん!下がって!」
僕の声に近くに居たAceさんがアーミヤさんの腕を引っ張り無理矢理下がらせた。
羽赫による攻撃が炎を纏った敵に降り注ぐ。これだけで倒せるとは思ってないけど、目眩まし程度にはなるはずだ。
「なんとかご無事なようで何よりです。ここは僕が引き受けます。アーミヤさん達は直ちに離脱を。もう時間がありません」
ここに来る途中から状況は最悪なものとなった。天災が容赦なく降り注いでいる。この中で戦うなど無謀すぎる。しかし、やらねばならない。
誰かがやらないと…………この怪物を押し止めていないと━━━
「…………珍しい物を見た。
「……………」
答えは無し。口を開くな。体を動かせ。少しでも長くこの怪物を足止めする事だけを考えろ。
僕の羽赫が流弾となり相手を襲う。しかし相手はそれを剣を横一閃に振るっただけで消したのだ。
状況を冷静に処理していく。僕と相手との力量差は明確だ。まともにやり合えば勝ち目は薄い。0じゃない。奥の手を使えば勝てるかもしれない。あくまで可能性ではあるけれど、それにはアーミヤさん達が完全に離脱することが条件だ。と言うかまだ居たのか。
「カイン………さん……っ」
アーミヤさんは気を失ったようだ。だがこれは都合が良いのかもしれない。彼女はどうも優しすぎる。リーダーとしての素質は十分だが、やはりまだ幼い。状況次第では仲間を切り捨てねばならないのだ………。
「………リンネ」
「ドーベルマンさん、即座に離脱を。天災に巻き込まれて任務失敗なんて嫌でしょう? ここは僕に任せてください」
「━━━すまない」
流石は元軍人。やはり判断が早いし的確だ。
僕はこの間にも相手から目を逸らさない。殺そうと思えばいつだって殺せるはずだから。
「リンネ。俺も残る」
後ろから盾を構えたAceさんが僕の隣へ並び立った。確かに彼の実力は高い。彼もまた、ロドスを支えるエリートオペレーターだ。それに彼が居れば稼げる時間も長くなるのかもしれない。だけど
「いいえ。貴方も一緒に撤退してください。ここは僕一人で十分です」
「それは無茶だ。奴のヤバさは既に知っている。ここで仲間を一人残して行くことなど」
「ですが貴方も、同じ状況ならそうしたはずです」
Aceさんは苦い顔をして黙った。やはりそうだ。僕の任務は突入部隊を安全に帰還させること。それにAceさんはこんな所で死んで良い存在じゃない━━━━
「まだお喋りする余裕があるとは………気楽なものだ」
ッ!不味いッ!
敵の前だと言うのに喋りすぎた。
敵の炎はまるで津波のように迫ってくる。あらゆる物を飲み込む絶望として、僕達を飲み込もうとする。それはまるで怪物の顋のようで━━━
「ふっ!はああああああっ!!」
Aceさんが盾を構える。何をしたのかはよく分からなかったが、どうやら炎の津波から守ってくれたようだった。
「感謝します」
「礼なら良い。それよりも━━」
状況は最悪と言って良いだろう。次第に激しくなっていく天災。目の前にはその天災にも似た怪物。フリーの傭兵と言う立場だったなら迷いなく逃げるんだけど………そうもいかないな。
せめて彼女達が逃げきるまでは
「僕が、
僕の鱗赫が激しく蠢く。赤いシンプルな触手状から、禍々しいモノへと━━━。
「………化け物め」
「貴方に言われたくないですね」
僕を見て顔をしかめる敵のリーダー格………そうだ、名前。彼女の名前は━━━。
「気をつけろカイン。油断すれば一瞬で死ぬぞ」
「Aceさん……」
「俺には仲間を一人残していく事などやはり出来んよ。共に戦わせてくれ」
「…………はぁ、あなたも頑固ですね。あなたの部隊も同じですか?」
チラリと後ろを見ると、Aceさんの部隊のみんなは頷いた。
「では、なるべく死なないように。死んだら僕のご飯になることを覚悟してください」
「おいおい」
「嫌なら、絶対に死なないで━━━ッッ来ますよ!!」
再は怪物が動き出す。全てを灰塵へ帰さんがために。
━━━全く、ロドスでの最初の任務が、こんなハードモードだなんて聞いてませんよ………
原作死亡キャラを生存させるか否か……悩みますねぇ。
遅くなりましたが、今回も良ければコメントくださいね。