~蝶屋敷~
楓とカナエが蝶屋敷に帰還すると、正門前で迎えてくれたのは真菰だった。
真菰は狭霧山に帰ろうにも、楓とカナエが心配であり、それにきよたちに懐かれてしまっているので、どうすればいいのか解らないのだ。
「楓、カナエさん。お帰り~」
「ただいま、真菰ちゃん」
「ただいま、真菰」
楓たちは蝶屋敷の門を潜り、玄関で靴を脱いでから、廊下に上がり病室へ戻る。
未だに傷が完治していない楓とカナエは、自室に戻ることが許可されていないのである。
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~病室~
「なるほど。それでどうするか困っていると」
楓は、真菰の今後の話を聞いて頷く。
「うん。帰ろうにも帰れなくて」
カナエの隣にある丸椅子に座る真菰が苦笑し頷く。
この会話を聞いていたカナエは「閃いた」という風に両手を合わせる。
「真菰ちゃん。良かったら蝶屋敷を拠点にするのはどうかしら?」
ベットの上で上体を起こすカナエは「無理強いはしないけどね」と言って微笑む。
その言葉に真菰は目を丸くする。さすがに、カナエの言葉が予想外だったのだろう。
「えっと。私が蝶屋敷に住んでもいいの?」
「真菰ちゃんが良ければ私は問題ないわよ。屋敷には、まだ部屋が余ってることだしね。それにしのぶとカナヲ、きよたちの許可も必要になると思うけど、皆『問題ないわ』っていう解答だと思うしね」
真菰が楓を見ると、楓は頷く。
「俺も問題ないぞ。てか、俺はほぼ居候って感じだしな」
でもそうなると、楓は入浴時を一段と気を付ける必要が出てくる。
女性の入浴時に鉢合わせるのは色々な意味で拙すぎる……。まあ、既にカナエと鉢合わせたことがある楓なんだが。
「そっか。今日からお願いしようかな」
そう言ってから、真菰は微笑んだ。
次の言葉で、楓の顔から血の気が引く。
「じゃあ、鱗滝さんに鴉を飛ばさないとね」
そうなると鱗滝には、楓が蝶屋敷へと真菰を引き抜いたと捉えられるだろう。
今後楓には、鱗滝と『対談』する必要が出てくるのかも知れない……なので、楓に取っては胃痛案件になるのだろう。
「そうと決まったら、真菰ちゃんには楓の右隣になる部屋を使って貰おうかしら」
カナエは「着替えはどうしよっか?」と真菰に問いかけると、新たな物を街で購入し揃えるとのことだ。
もしもの時の為に、替えの着物等は鱗滝の小屋に置いておくとのことだ。ちなみに、街での買い物はカナエも同伴することになったので、カナエの傷が完治するまでは、カナエの物を使用するとのことだ。
「そうするね。あと、買い物には楓も同伴ね」
「はい?」
首を傾げる楓。
真菰の買い物ということは、女性特有な物が主となるのだ。
それに真菰が言うには「男性から見た主観も必要」だということ。まあ確かに、八割を男性で占める鬼殺隊では、女性の見せ方が必要になるような、ならないような。的な感じでもある。
「楓の意見は参考になるかなって」
「あー、まあそういうことなら。でも、俺の見る目には期待するなよ」
楓は後世で言う、服選びのセンスには自信が無いのだ。
まあ確かに、楓に取ってはそんなこととは無縁の生活を送っていたからなのかも知れないが。
「問題ないよ」
真菰はにっこり笑う。
そして翌日からは、真菰の引っ越し作業が始まる。ちなみに楓とカナエの怪我だが、約一週間で、骨折、肺胞破壊以外の傷は癒え、日常へ復帰することが叶った。
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楓と真菰が縁側に座りながら雑談していたら、居間の方からカナエの声が届く。
『真菰ちゃん、楓。お客様よ』
お客様、俺たちに?という風に首を傾げる楓と真菰。
「もしかして、刀かな?」
「今日を合わせたら十二日だし、刀かもな」
ちなみに、真菰の刀の届け先は狭霧山となっていたのだが、真菰が拠点を蝶屋敷に移した日に、刀の届け先を変えるように担当鍛冶屋に鴉を飛ばしたのだ。
楓は立ち上がろうとするが、「楓、待って待って」と真菰に止められる。
「まだ骨がくっついたばかりなんだから、余り骨に負荷をかけたらダメだよ」
「いや、踏ん張りくらいは問題ないだろ」
「…………」
真菰の無言の圧力。
「わ、わかった。肩を貸してくれ」
「うんうん。わかればよろしい♪」
ころころと表情が変わる真菰。
ともあれ、楓は真菰の肩を借りて立ち上がり、鍛冶屋が待っていると思われる居間へ移動する。
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楓と真菰が居間へ向かうと、ひょっとこの面をつけた二人の鍛冶屋が座布団に座っていた。
楓たちは鍛冶屋に一礼をしてから、対面になるように座る。
鍛冶屋の前には、風呂敷に包まれた長い箱。おそらく、日輪刀を格納している箱だろう。
「私は、真菰の刀を打った鋼鐵塚という」
「私は、栗花落殿の刀を打った鉄穴森といいます」
今は平静な鍛冶屋の者だが、鍛冶屋の者はかなりの情熱家が多いそうだ。――刀に対する愛情が狂気に近いのだ。
鋼鐵塚と鉄穴森が風呂敷を取ると、そこからは長細い木箱が姿を見せ、取っ手を外すと箱の中には鞘に納められた日輪刀。
「さ。手に取ってみてくれ」
「どんな色に変化するか、楽しみですね」
――日輪刀は、別名“色代わりの刀”と呼ばれ、持つ者によって色を変える。だが、才が無ければ色が変わることはないのだ。
楓と真菰が箱から刀の鞘を取り、刀の柄を握り刀を鞘から抜くと、刀身が緩やかに色付けていく。
「……凄い、本当に変わるんだ」
「……どういう仕組みなんだか」
楓の刀身は桜色に変化し、真菰の刀身は深い蒼色だ。
「真菰は、水の呼吸の使い手に多い色だな」
「栗花落殿の色は初めて見ました。綺麗な桜色ですね~」
満足そうに頷く、鋼鐵塚と鉄穴森。
ともあれ、これからはこの日輪刀が、楓たちの手足も同然になるのだ。
「「刀、大事に扱います」」
楓たちがそう言うと、鋼鐵塚は「刀折ったら殺す」と言い、鉄穴森が「二人なら大丈夫ですよ、鋼鐵塚さん」と慰めるように言っていた。そして、鋼鐵塚たちは長居すること無く帰って行った。
そして楓と真菰は、正式な鬼殺隊士になったのだ。
ちなみに真菰ちゃんの滞在の許可は、カナヲたちは二つ返事でOKでしたね。
ではでは、次回(*・ω・)ノ