――五日後。~道場~
「いだだだだだ!カナエさん、ゆっくり倒して!」
「うふふふ。男の子だから大丈夫。さ、もっと倒すわよ」
そう言って楓の背に居るカナエは、両足を開いて座る楓の体を床につけようと押し倒す。
「ちょ、待って待って!変な方向に骨が曲がっちゃうからね!」
「大丈夫大丈夫。楓は常中が習得できてるもの。それに、今日は最終訓練日じゃない」
「いやいや、それとこれとは話が別だからな!」
楓は声を張り上げる。――そう。楓はカナエたちと共に機能回復訓練を行っているのだ。ちなみに、機能回復訓練は三つある。
今楓がカナエから受けている体の解し。“反射訓練”と呼ばれる薬湯のかけ合い勝負。それから“全身訓練”と呼ばれる鬼ごっこ、である。
まあ楓の場合は、最後の模擬戦、というのが付け加えられているんだが。
ともあれ、一通り解れた所で、「よしっ」とカナエが呟く。
「解すのはこれで終わり。じゃ、最後の模擬戦に行こっか」
「……へいへい」
楓がそう言ってから立ち上がると、カナエが両頬を膨らませる。
「返事は“へい”じゃなくて、“はい”でしょう?」
「はいはい」
「“はい”は一回っ」
カナエは「もうっ」と優しく怒り、次いで、用意されていた木刀を楓に渡す。
木刀を受け取った楓は、これから剣を交える相手と対面する。
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「お待たせ、真菰」
「うんん。私も今準備が終わった所だしね」
楓と木刀を交えるのは、数日前に蝶屋敷に拠点を置いた真菰だ。
そして、両者が木刀を構える。
――桜の呼吸 参ノ型 秋桜・螺旋。
――水の呼吸 参ノ型 流流舞い。
楓が桜が舞うように、真菰は水が流れるような足運びで移動し、両者急所を狙いながら木刀を振るうが、両者の木刀が交差し木刀独自の音を響かせ鍔競り合いが起こる。
「ふーん。やっぱり楓のそれ、流流舞いにそっくりだよ」
「だろうな。型の元になったのは、水の呼吸だしな」
そう。楓の桜の呼吸の剣技は、他の呼吸が元になっている物があるのだ。
「じゃあ、乱舞一閃は、雷の霹靂一閃だねっ」
「ま、まあ。独自に創ったのは
だが、技の元が露見していても、強力な呼吸で有ることには変わりはないのだが。
そして、楓と真菰は木刀を弾き距離と取る。
――水の呼吸 陸ノ型 ねじれ渦。
――花の呼吸 弐ノ型 御影梅。
真菰は走り出し上半身と下半身をねじるようにして、勢いを起こしながら螺旋を描くように楓の周囲に斬撃を放つが、楓はその攻撃を自身の周囲に放つ花の剣技で相殺する。
――水の呼吸 弐ノ型 水車。
――花の呼吸 肆ノ型 紅花衣。
真菰は技を放った反動で空中に跳び、水車のように回転し技を放つが、その一撃は楓が上空に斬り上げた花の斬撃が衝突する。
――水の呼吸 肆ノ型 打ち潮。
――花の呼吸 弐ノ型 御影梅。
――水の呼吸 陸ノ型 ねじれ渦。
――花の呼吸 五ノ型 徒の勺薬。
真菰が繰り出す技に対して、楓も有効的な技を繰り出して迎撃する。
更には、その間に行われる剣技の応酬もかなりのものだ。……それはきっと、入隊直後の鬼殺隊員から見れば、異次元の光景だろう。
「(……真菰。柱に匹敵する剣技だろ、これ)」
だが、真菰の全体的な力は弱く、速さに変換させているようにも思える。
楓の場合はほぼ逆だ。剣技に力を乗せている分、剣の速さは真菰の方が一枚上だろう。……といっても、柱と渡り合える剣技なのは変りないのだが。
「(今の所力量は五分五分といった所だろうけど、楓、力技で私の剣技を潰せる技を隠し持ってるだろうなぁ。……まあ奥の手だろうし、簡単には出してくれなさそうだけど)」
だがこの時、パンパンと両手を合わせる音が響く。
カナエが手を合わせた音だ。
「はいそこまで。現状の楓と真菰ちゃんは、有効打を入れることは不可能だと判断します」
カナエがそう言うと、楓と真菰は木刀の構えを解く。
「終わり、だね」
「そうみたいだな」
そして楓の体は、通常以上に動かせるようになり訓練が終了したのだった。
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~街~
機能回復訓練が終了し、楓、真菰、カナエは街に赴いていた。
その理由は、真菰の今後の物を揃える為だ。
「私、花の着物の一張羅しかないから、他の着物が欲しいなぁ」
「いいんじゃないかしら。私も新しく新調しようかな」
そんな中、楓は若干だが居心地が悪かった。
そう。美女二人に挟まれている状態だからなのか、周りからの嫉妬の視線が凄まじいのだ。……こんなことなら、買い物の同行はあの時に断っておけばよかったと思う楓だった。
「買い物、早く済ませてくれよ」
「え?お化粧品も購入する予定だから、結構かかるかも」
「そうねぇ。お化粧品は、女の子を魅せるのに重要になるものね」
ならば、この視線がかなり続くということになる。
楓は両肩を下げる。
「……勘弁してくれ」
その楓の呟きは、街の騒音の中に溶けていった。
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~着物店~
最初の目的地である着物店の内部に入ると、店内には様々な着物が陳列されていた。
そしてその中の着物から、カナエと真菰が選んだ着物は、カナエが紫陽花柄であり真菰は向日葵柄の着物である。
着物店では試着することが出来るらしく、カナエと真菰は先頭するおばさんの元、店の奥に入って行った。
「……帰りたい」
店内で待つ楓がそう呟く。
二人の試着を待つ楓に、女性客の暖かい視線が凄まじいのだ。
「(……これ、ある種の拷問だよな)」
そう思いながら、楓は他の着物に目をやり、視線から逃れるようとするのだった。
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「お兄さん、こっちにおいで」
時間を潰していると、着付けを手伝っていたおばさんが店の奥から姿を見せ、楓に声を掛ける。
それに楓は「わかりました」と答え、おばさんの隣を歩く。
「あの子たちは別嬪さんだねぇ。お兄さんの本命はどっちなんだい?」
「いや本命というか、二人は家族ですよ」
「家族ねぇ。お兄さんとお嬢ちゃんたちの見方によっては、様々な捉え方ができるんだよ」
「そうなんですかね?」
そんな会話をしながら、真菰とカナエさんが居る部屋に案内され、おばさんが襖を開けた。
そこには薄く化粧を施し、着物を着つけた真菰とカナエの姿。それにしても、向日葵と紫陽花の浴衣がもの凄く合っていて、一輪の花のようである。
「どうだい彼女たち?」
「あー、そうですね、えーと、その……美人さんだと思います」
月並みの言葉だが、楓が絞り出した答えである。
そしてカナエと真菰は、楓の答えにクスっと笑う。カナエと真菰は、楓が自分たちを見た楓が何て言うか予想していたのだ。そしてそれが的中し、笑みを零したのである。
ともあれ、今試着している着物を購入するということで、元の服装に着替えようとするカナエと真菰だが「購入するなら着たままでいいよ」というおばさんの言葉で、現状のまま会計することになった。
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「じゃあ、おばさん。ありがとうございました」
「着物、大切にします」
「またお願いしますね」
楓たちがおばさんにそう言って、楓が会計をしてから店を出る。
楓は、カナエと真菰が満足するまでお供しますか。と内心で呟き、次の目的店となる、後世で言う化粧品店に向かう。
こうようにして、楓たちの買い物が続いていくのだった。
読者の皆様。最近気温の変化もありますし、流行りウイルスもあるので、十分気を付けて下さいm(__)m
ではでは次回(*・ω・)ノ