~蝶屋敷~
蝶の少女たちの案内の元、少年少女が訪れた場所はかなり大き目の屋敷だ。
屋敷の名を――蝶屋敷、というらしい。蝶の少女たちが言うには、医療施設の役割もあるとか。
ともあれ、カナエが少年に問いかける。
「とりあえず、彼女をお風呂に入れて来るわ。あなたはどうする?」
「俺は置き水場所で水浴びをしてるよ」
少年の視線の先には井戸があり、その隣は置き水を成している。
「そう。でも、あなたにもお風呂に入ってもらうからね」
カナエはそう言ってから、少女を連れて屋敷に上がって行った。
少年が水浴びを終え屋敷の扉部に腰を下ろすと、風呂に入って綺麗になった少女がしのぶに世話を焼かれていた。
「……駄目だわ姉さん!この子全然反応もしないし、まるで自身の意思がないみたい」
「きっと、心を閉ざさざる得ない出来事があったのよ。でも、きっとどうにかなるわ!私たちも居るし彼も居る。それに、この子は可愛いもの!」
「姉さん!楽観視しすぎよ!……えっと」
しのぶは名前を続けようとしたが、少年たちの名前を知らない。
まあ確かに、しのぶとカナエは自己紹介をしたが、少年たちからはまだなのだ。
「そう言えば、あなたの名前は?」
しのぶが少年に問う。
少年は僅かに逡巡したが、口を開く。
「……楓だ。名字はない」
――楓、と言う名は、きっと楓の両親の想いが詰まっている名前だろう。
カナエはにこにこ笑い、口を開く。
「――楓。いい名前ね」
「ああ。両親からの大切な贈り物だ」
カナエは「そう」と言って、これ以上踏み込むことはなかった。
きっと言葉の裏を解っていたのだろう。両親が死んで、楓は身売りされたことに。
「それじゃあ、彼女は?」
カナエが少年に問う。
「……無いんだ。彼女には名前がない」
「どうして名がないのかしら?」
「全ての親が良い親じゃないってことだよ。俺たちが居た塵溜では、名前が無い子供たちが殆んどだったしな」
しのぶは「……そんな」と信じられない顔をし、少女を抱き締めた。
そう。カナエたちと楓たちの境遇は、かけ離れ過ぎていたからだ。
「だからなんだ。あんたらが付けてあげてくれ」
そう聞いたカナエは微笑みながら、少女の両手を握った。
「うふふ。決まったわよ、あなたの名前はカナヲ。“栗花落カナヲ”よ。どうかしら、気に入ってもらえると嬉しいのだけれど」
「………………」
カナヲは返事をしない。いや、声は聞こえているが、どう判断していいのか解らないのだろう。
「返事くらいして欲しいはね、全く」
しのぶが文句を垂れながらも、カナヲの頭を優しく撫でる。
カナエは「それとね」言ってから、
「楓も今日から、“栗花落楓”ね。名字が無いのは寂しいでしょ?」
「……なんで義兄妹になってんだ?元々、俺たちは他人だ」
「血の繋がりは余り関係無いわよ。大事なのは、あなたたちの想いだけよ」
カナヲは胡蝶姉妹より、楓に懐いているのだ。
まあ確かに、楓が行動を起こさなかったら、カナヲはあの塵溜から動くことは無かったのかも知れないのだ。――楓はある意味、カナヲにとっては命の恩人と言うことになるのだ。
「さて、次は楓がお風呂に入る番ね」
「……いや待て、何で俺はこの屋敷で暮らすことになってるんだよ」
「これも何かの縁よ。栗花落兄妹は、蝶屋敷で暮らしてもらいます」
「……横暴だろ」
「失礼ね。いいのよ、この屋敷はしのぶと二人は広過ぎるのだから」
楓がしのぶを見ると「やれやれ」という風に首を左右に振る。
「こうなった姉さんを止めるのは不可能よ。諦めなさい、楓――それにほら、カナヲも賛成らしいわよ」
カナヲは楓に両手を伸ばしていた。
きっと「行かないで」と言っているのだろう。
こうなると、楓はとことん弱いのだった。
「……わ、わかったよ。てか、俺も世話になってもいいのか?」
「一人も二人も変わらないわ。カナヲ為に残りなさい、楓」
「うふふ。家族が増えるのね~。姉さん嬉しいわぁ」
一刻で、三姉妹>楓、という風に家族の位が決まったように感じた楓である。
――――このようにして、“栗花落楓”の新たな人生が幕を開ける。
ではでは、次回(*・ω・)ノ
今後の大筋の流れは?
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胡蝶カナエ生存ルート
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胡蝶カナエ死亡ルート