「起きろ。起きるんだ。オイ……」
隠の一人が炭治郎を起こす為に声をかけ始めるが、炭治郎が起きる気配がない。
「起きろ。起きるんだ。起き……オイコラ。ていめぇ。やい!」
そして、炭治郎は目を覚ます。
「いつまで寝てんだ!さっさと起きねぇか!」
炭治郎が地面に横になったまま顔だけを上げて、柱たちをその目に映す。
「柱の前だぞッ!」
炭治郎は目を丸くする。
当然だ。自身は那田蜘蛛山で気を失っていたはずなのに、今は大きな屋敷の中庭に倒れているのだから。
――閑話休題。
これから開かれる柱合裁判では、鬼を連れ鬼殺を行っていた竈門炭治郎の罪を言い渡す場でもある。
鬼を連れての鬼殺は、鬼殺隊の名に泥を塗っているとも捉える事ができるので、当然、柱たちからの反応は厳しかった。
「裁判の必要などないだろう!鬼を庇うなど明らかな隊律違反!我らのみで対処可能!鬼もろとも斬首する!」
「ならばオレが派手に頸を斬ってやろう。誰よりも派手な血飛沫を見せてやるぜ。もう派手派手だ」
この場で処刑を主張するのは、炎柱・煉獄杏寿郎。音柱・宇髄天元。
「しかし、柱が二人も隊律違反をするとはな。大体、拘束もしてない様にオレは頭痛がしてくるんだが、そんな柱二人はどう処分するどう責任を取らせるどんな目に合わせてやろうか」
蛇柱・伊黒小芭内が木の枝の上に寝転びながら、ネチネチと毒を吐く。また、岩柱・悲鳴嶼行冥も処刑に賛成。
「大人しくついて着てくれましたし、処罰は後で考えましょう。……それよりも私は、坊やの方から話を聞きたいですよ」
蟲柱・胡蝶しのぶがそう呟き、取り敢えず話を聞く姿勢だ。
……しのぶは炭治郎の話を聞いてから、今後どうするかを決める方針なのだ。――そう。楓たちが信じた者を見極める為に。
炭治郎はうつ伏せで倒れながら言葉を発しようとするが、口の中が乾いて言葉が詰まってしまう。
「水を飲んだ方がいいですね」
そう言ってからしのぶが片膝を突き、炭治郎の口許に小さな瓢箪で鎮痛薬が入れ混じった水を差し出すと、炭治郎はそれを啜ってから口を開く。
「……オレの妹は鬼になりました。でも、人は喰ったことは無いんです!今までも、これからも、人を傷つけることは絶対にしません!」
炭治郎は強く意見する。
炭治郎は柱の圧を受けながらも言い切るが、鬼は敵。と捉えている鬼殺隊では、ただの夢物語だろう。
「くだらない妄言を吐き散らすな。そもそも身内なら庇って当たり前、言うこと全て信用できない、オレは信用しない」
「あああ……鬼に取り憑かれているのだ。早くこの哀れな子供を殺して解き放ってあげよう」
やはり、小芭内、行冥は、鬼の禰豆子を生かすのに否定の意思だ。
「聞いて下さい!禰豆子が鬼になったのは二年以上前のことで、その間、禰豆子は人を喰ったりしていない!」
「話が地味に回ってるぞアホが、人を喰ってないことを、これからも喰わないこと。口先ではなく、ド派手に証明して見せろ」
音柱・宇髄天元がそう呟き、恋柱・甘露寺蜜璃は「お館様の意見を聞いてから」と主張し、霞柱・時透無一郎は無関心だ。
反論を述べるにしても、桜柱・栗花落楓。水柱・冨岡義勇。彼ら言葉では、強要力は無いに等しいだろう。彼らは、柱の任に就いているのに隊律違反を犯したのだから。
「妹はオレと一緒に戦えます!鬼殺隊として人を守る為に戦えるんです!だから――」
「オイオイ、何だか面白いことになってやがるなァ」
隠の制止を無視して、禰豆子が入った箱を片手に現れたのは、風柱・不死川実弥だ。
「鬼を連れた馬鹿隊士そいつかいィ。一体全体どういうつもりだァ」
実弥は殺気を露にし、日輪刀の柄を右手で握り、刀を抜き放つ。
「鬼が何だって坊主ゥ。鬼殺隊として人を守る為に戦えるゥ?そんなことはなァ、ありえねェんだよ馬鹿がァ!」
実弥は禰豆子が入った箱を貫こうとするが――その直後、キンッ、と凄まじい甲高い金属音が響き、抜剣し割って入った楓がそれを受け止めていた。
「……栗花落ィ。貴様、隊律違反を犯したのに鬼を庇うってかァ――さすがはァ、頭ガ花畑でもあった胡蝶カナエの弟子だなァ」
実弥がそう言うと、楓は刀を反動で弾き、実弥の首筋目掛けて刀を振るうが、実弥は箱を落しながら後方に跳び回避。
「……テメェ、何のつもりだ」
「……すいません。つい――」
柱としては情けなく映るだろうが、楓はカナエのことを馬鹿にされたので刀を振るったのだ。
……楓の今の行為は隊律違反に当たるかも知れないが、楓は家族を馬鹿にされ、平静でいられる程の精神は持ち合わせてはいなかった。
そして、刀を構える楓と実弥。
「……テメェ。その根性を叩き直してやろうかァ。アァ」
「……是非お願いしたいですね」
楓と実弥は一色触発だ。
だが、この場で待ったを掛けたのは、胡蝶しのぶだった。
「――楓、刀を納めなさい。貴方は、姉さんを困らせたいのですか?」
しのぶが
「……悪い」
「不死川さんも刀を納めなさい。今は柱同士が争う場では無いはずです」
しのぶのその言葉聞いて、実弥は眉を寄せ「チッ!」と苛立ちを覚えるが刀を納めた。
「お館様のお成りです!」
そう告げられると、柱たちはその場で片膝を突け、頭を下げる。
先の攻防を見て、両腕を縛られながら目を丸くしていた炭治郎は「どういうことだ?」と疑問符を浮かべていたので、禰豆子の箱を奪還した楓が、炭治郎の隣で「頭を下げて、炭治郎」と優しく言うと、炭治郎は急いで片膝を突き頭を下げる。
ご子息の、ひなき、にちかに手を引かれ現れたのは、鬼殺隊を束ねる長――産屋敷耀哉である。
「よく来たね、私の可愛い
耀哉は周りを見渡して、口を開く。
「つい先程まで賑やかだったけど、どうかしたのかい?」
「はい、お館様。実は俺と不死川さんとで模擬試合をしてまして。……煩かったでしょうか?」
楓が片膝を突けながらそう告げる。
楓の言葉は、完全な嘘、という訳ではないが、事の成り用を濁しているのも事実である。
耀哉は笑みを浮かべながら、
「いや、気にしてないよ。でもそういうことなら、柱合会議が終わってからの方が良いと思うな。――それでいいかな、楓、実弥」
耀哉には解っているのだろう、楓と実弥と間で何があったのかを。
「「御意」」
耀哉は「お願いね」と呟くと、ご子息の手を取って用意されていた座布団の上に座る。
♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦
実弥が耀哉に挨拶を交わしてから、柱合会議が始まろうとしたのだが――、
「畏れながら、柱合会議の前に、竈門炭治郎なる鬼を連れた隊士についてご説明いただく存じますが、宜しいでしょうか?」
「そうだね。まずは、驚かせてしまってすまなかった。――それとね、炭治郎と禰豆子のことは私が容認していた。そして、皆にも認めて欲しいと思っている」
耀哉がそう言うと、柱たちの間に動揺が走った。
そして、禰豆子の容認に反対したのは、行冥、杏寿郎、天元、小芭内、実弥。
容認するとしたのは、無一郎、蜜璃。――中立に立ったのは、しのぶである。
「では、手紙を」
「はい」
そう言って、ご子息のひなきが手紙を読み始める。
「こちらの手紙は、元柱である鱗滝左近次様から頂いたものです。一部抜粋して読み上げます」
その内容は、二年間の歳月が経過しても禰豆子は人を喰ってないと言う内容だ。
そして、次の内容に柱たちに驚愕が走る――、
「――もし禰豆子が人に襲いかかった場合は、竈門炭治郎、鱗滝左近次、水柱・冨岡義勇、同門の
炭治郎は唖然とし、涙を流した。――そう、禰豆子存命の為に命を懸けている者が、五人もいるのだから。
だが、反対意見を提示したのは、風柱・不死川実弥だ。
「……切腹するから何だと言うのか。死にたいなら勝手に死に腐れよ。何の保証にもなりはしません」
「不死川の言う通りです。人を喰い殺せば取り返しがつかない!殺された人は戻らない!」
炎柱・煉獄杏寿郎が同意する。
それに対して、耀哉が口を開く。
「確かにそうだね。でも、人を襲わないと言う保証ができない、証明ができない。――ただ、人を襲ういうことも証明ができない」
耀哉は手紙を持ち、言葉を続ける。
「それに、禰豆子が二年以上もの間人を喰わずにいるという事実があり、禰豆子の為に六人の命が懸けられている。これを否定する為には、否定する側もそれ以上のものを差し出さねばならない」
実弥と杏寿郎は押し黙ってしまう。
更に、炭治郎が無惨と遭遇した事実も告げ、炭治郎が無惨へ繋がる手掛かりになるかも知れないという考えを見せた。
そんな中、楓が立ち上がり禰豆子が入った箱を手に取る。
「お館様。日陰にて証明の許可を頂きたいです」
柱たちは
「うん、いいよ。屋敷に御上がり」
楓が頭を下げると、箱を両手でしっかり持上げ、屋敷へ上がる前に一礼し、履き物を脱いでから屋敷へ上がる。
「禰豆子。出ておいで」
楓がそう言ってから日陰に置いた箱をゆっくり空けると、箱の中からゆっくりと出て来たのは幼い
禰豆子は今の状況が解っていないのか、ボーっと、楓を見つめていた。
「禰豆子。今から大きくなれるか?」
「ムームー」
禰豆子がそう呟いた時、徐々に背が伸びてゆき、口枷をし鬼の牙が見えないものの、その瞳は鬼のそれだ。
「……禰豆子。今からお前を斬る、証明するには必要なことなんだ。――我慢できるか?」
「ムッっ」
禰豆子がそう言うと、楓は右手で柄を握り、刀を抜き放つ。
楓は禰豆子の右肩に刀を向け――勢いよく突き刺す。
「――グゥ!」
痛みに禰豆子が苦悶の声を上げる。――禰豆子が楓の表情を見た時、楓の表情は申し訳なささであった。
刀を抜き、刀に付いた血を払うと、楓はその刀で左腕の皮膚の一部を刀で薄く斬る。――皮膚が裂け、そこからは鬼の好物であろう人間の血がポタポタと滴り落ちる。
禰豆子の口からは大量の涎が垂れ、それは口枷を通り流れ落ちるが、禰豆子は首を左右に振って血の誘惑を振り切り、自身の長い袖口で楓が血を流している左腕を覆う。
「ッ!?ね、禰豆子。羽織が血で汚れるぞっ」
「ムームームー」
「……禰豆子さん。ひょっとして怒ってる?」
「ムっ、ムムっ」
禰豆子は「楓が自ら傷ついたので怒ってます」と言いたい表情だ。
ちなみに、楓の傷口は呼吸で止血済みである。
「……まあ、あれだ。……悪かった」
「ムっ」
柱たちはこれを見て驚愕を隠せない。
それもそうだろう、鬼が
「どうだったのかな?」
「栗花落様が鬼の子の右肩を刀で刺し、ご自身の左腕の皮膚を刀で斬りました」
「鬼の子はそれを自身の袖口で覆い、止血しようとしていました」
ご子息の言葉を聞いて、満足そうに頷く耀哉。
「うん。これで、禰豆子が人を襲わない証明がされたね」
耀哉の言葉を聞いた楓は安堵し、禰豆子に箱に入るように促すと、禰豆子が小さくなり箱に入る。それから禰豆子は、体を丸めるようにして目を閉じた。
楓はそれを確認した後、箱を閉めそれを両手で持ち屋敷から下り、しのぶの隣に並び片膝を突ける。
「炭治郎の件はこれでお終いにしようか。いいね、皆?」
若干不服そうな柱はいたが、全員が「御意」と頷くのだった。
だが、柱たちが認めても、隊士の中には鬼の存在を良しとしない者も居るだろう。
なので、耀哉は炭治郎に「十二鬼月を倒しておいで、そうすれば炭治郎の言葉の意味も変わると」言って、それを聞いた炭治郎は「禰豆子と共に鬼舞辻無惨を倒し、悲しみの連鎖を断ち切る!」と豪語したが、耀哉に「今は無理だから、まずは十二鬼月を倒してからだね」と言われて恥ずかしさで顔を赤く染めてしまっていた。
「竈門君たちは私たちの屋敷でお預かりしましょう。いいですよね、楓」
「ああ。いいんじゃないか」
しのぶは頷き両手で手を叩き隠を呼ぶと、隠たちは炭治郎と禰豆子を連れてこの場を去る。取り敢えずは、楓たちは賭けに勝ち、禰豆子を存命することが出来たのだ。
このような柱合裁判が終わった後に、本筋でもある柱合会議が開かれるのだった。
ちなみに、楓は実弥が回避できるとわかって刀を振りましたね。
……まあ首筋である急所を狙っていたのは事実ですが。
追記。
この作では、鬼は自身が傷つくと人間の血(肉)が無性に欲しくなります。
大正のコソコソ噂話。
楓が実弥に刀を振ったのを見て、しのぶは「楓、よくやったわ」と思っていたのは、内緒である。