「あ、楓さん」
楓の姿を捉えた炭治郎は、ベットの上で上体を起こしながら挨拶をする。
その挨拶に答えるように、楓は人懐っこい笑みを浮かべる。
「おう。さっきぶりだな、炭治郎。――怪我は大丈夫か?」
炭治郎は楓の問いに「はい!大丈夫です!」と頷く。
そう言っている炭治郎だが、炭治郎の怪我はかなりの重傷である。
「カナエさんもお久しぶりです!」
「ふふ。久しぶりね、炭治郎君」
カナエは、にっこりと笑みを浮かべる。
それによって、病室の患者の何人かがカナエに見惚れたのは言うまでもないだろう。
「炭治郎君も善逸君たちに負けず劣らず、いっぱい怪我をしてるわね。――下弦の鬼は強かった?」
「……はい。とても強かったです。でも、義勇さんは一撃で倒したと聞きました。――オレは、もっと強くなりたいです」
炭治郎は下を向き、両拳を強く握る。
炭治郎は「もっと強くなりたい。皆さんに迷惑をかけない為にも!もっと!」と強く心に誓う。
「その向上心があれば大丈夫だ。炭治郎はきっと強くなれる」
「そうね。それよりまずは、怪我を治してからかしら」
楓とカナエがそう言ってから、楓は炭治郎の隣のベットの方へ目を向ける。
「えっと。炭治郎の同期の子、かな?」
善逸は上擦った声で、
「ひゃ、ひゃい!わ、我妻善逸です!よ、よろしくお願いしますっ」
「よろしくな、善逸。俺の名前は栗花落楓」
緊張している善逸を見て、「そんなに畏まらなくていいのに」と思いながら楓は苦笑する。
楓は「我ながら名案だ」と内心で呟く。
「善逸、今度親睦を兼ねて飯でも行こう」
「い、いや。柱の者と飯なんて、恐れ多い、です……」
「まあ俺は柱だけど、俺からしたら階級なんて関係ないし」
「(……噂は本当だったんだな)」
善逸は内心でそう呟く。
善逸は、楓が一般隊士の中で有名人という噂は知っていたが、自身が当事者になるとは思ってもいなかった。
「楓。善逸君とご飯もいいけど、まずは怪我を直してからでしょ」
楓は「ああ、そうだったな」と頷く。
「善逸、怪我が直ったら行こうか。お勧めは、最近下町にできた団子屋だ」
「は、はい!怪我が直ったらお供させて下さい!」
そう言ってから、頷く善逸。
この時炭治郎は「いいなぁ、善逸。オレたちも進言してみようかなぁ」と、羨ましそうに善逸を見ていた。
「でもそしたら、機能回復訓練が先になるのか?」
「そうね。体が鈍ったままじゃ、今後に響いてしまうだろうし」
楓とカナエがそう言うと、炭治郎は「頑張ります!」という返事であり、横になっている伊之助も「……強クナレルンナラ参加スル」と言う声が上がるが、善逸からは「……訓練するんですか?」と嫌そうな反応が返ってくる。
炭治郎が善逸に共に訓練を受けるように説得をするが、善逸にとっては逆効果なのだろう。――善逸にとっての訓練は、育手である『じいちゃん』を起因する。
だが機能回復訓練は、寝たきりであった鬼殺隊士にとっては必須事項だ。
受けなくても咎める者はいないのだが、受けずに任務に出ると、その任務で死ぬ可能性が格段に上がるのだ。
なので、カナエが楓にアイコンタクトをすると、楓が頷く。
「楓は強くなって、女の子の視線が増えたんでしょ?」
「まあ一応。てか、気になってる人の為に強くなるのは効果的だぞ」
楓の言葉の裏は「俺は師の期待に答える為、皆を守れるように強くなろうとした」と、言う言葉が隠されている。
だが、次のカナエの言葉で、楓は驚愕することになる。
「――楓は、私を
「……え、ああ。……ま、まあ、今カナエさんが、俺のことをどう思ってるか解らないけどな」
……まあ、あれだ。楓のその言葉は、ある意味得策では無いだろう。……てか、完全に言葉の主導権を握られている楓である。
「ふふ。私は楓のこと大好きよ。――楓はどうかわからないけどね」
楓は、うぐっ。と息を呑む。
「……あー、えー、まあ、あれだ……カナエさん家族だし……大切な人、だけど」
この場で、楓の想いを吐露させたカナエは、ある意味策士とも言えよう。
いやまあ、楓はできる限り言葉を濁したが。(多分)
「ま、まあ、話が脱線したけど、そんな姿を見せれば女の子たちは放っておかないと思うぞ」
「そうね。今のが、強い男の子が女の子を
カナエは、炭治郎たちを一瞥する。
「――元柱の私から見て、善逸君たちは強くなれると思うのだけれど」
「仕方ないんじゃないか。善逸は訓練を受けたくないんだし」
「――何言ってるんですか、カナエさんたちは。オレはやらないなんて一言も言ってませんよ!」
この時の善逸の脳内は「げへへへ。強くなれば、オレはこんな感じに女の子から好きになってもらえるのかっ!」と、呟く。
炭治郎も「……成程。強くなればなるほど、様々な視線を集めるのか」と、真に受けている様子だ。
「(うん。釣れたな)」
「(そうね。釣れたわね)」
だがまあ、ある意味楓にとっては、色々と覚悟を決める現場にもなったが。
「(天ぷら食いてぇ)」
強くなれると聞いたあたりから、周りの会話を全て聞き流していた伊之助である。
ともあれ、楓とカナエは「今は怪我を直すことに専念(だな)(ね)」と言って、炭治郎たちがいる病室を後にした。
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~蝶屋敷、縁側~
楓とカナエは縁側に座りながら、屋敷内を飛ぶ蝶を眺めていた。
「……ねぇ楓。私のこと――大切な人って、本当?」
「……まあ、そうだけど。カナエさんは、命の恩人だし、家族だしな」
「うーん。とっても嬉しい解答だけど、楓が私のことを異性として見てるのか知りたいな」
楓は、マジかぁ。と内心で頭を抱える。――そう、楓は今の関係が崩れることを恐れていたりもするのだ。
でもまあ、先の一連で逃げ道が無くなっていたりもするが。
「――私はね、楓。楓とは、お爺ちゃんとお婆ちゃんになるまでずっと一緒に居たいし、子宝にも恵まれたい。もっと楓のことを深く知りたいの。……こんな私じゃ、ダメ、かしら?」
サラサラと風が吹いた。肌を霞めるような風だ。
カナエの絹糸のように美しい、長い黒髪が風に舞う。艶やかで繊細な髪だ。光を弾いて輝く。
「……そ、そんなことはないけど。……てかカナエさん、そこまで将来設計してたの?」
「うん。私、重い、かしら?」
カナエは両眉を下げる。
まあでも、世間一般で見てしまえば「愛が重い」に該当してしまう可能性も否めない。
「い、いや、重くないっ、重くないからっ」
「そ、そう。げ、言動が怪しい気がするけど、そう解釈するわね」
楓は「もう隠すのは無理かぁ」と悟る。
とまあ、遂に楓のパンドラの箱が開くのだった。
「……まあ、俺もカナエさんのことは異性として好きだけど。……でもあれだぞ。俺に恋人らしいことなんて皆無だぞ」
「ふふ。そこはいいの、いつも通りで。まあそうね。表面上は師弟関係で、裏では恋人関係。ってところかしらね。楓もその方が、色々と気楽でしょ?」
さすがはカナエ。楓のことをよく理解している。
「ま、まあそうだけど。よ、よく俺の考えが読めたな」
「ふふ。三年も同じ屋根の下に住めば、楓の
「ある程度はな。カナエさん、解り易いし」
「そ、そうかしら」
「おう。解り易いな」
まあこれが、蝶屋敷での一幕である。
大正のコソコソ噂話。
楓とカナエが縁側で話していた時、それは任務から帰って来ていた真菰、様子を見に来ていたしのぶには露見していたのは、楓とカナエは知る由もなかったりする。
しのぶから、真菰の呼び方は?
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真菰姉さん。
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真菰さん。
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真菰。