刀を納刀すると、この場には静寂が支配した。
そして、最終選別の終わりを告げる朝日が昇る。――最終選別七日目朝だ。
「終わったね、楓」
「そうだな」
楓と真菰はそう言ってから歩みを進め、出口となる鳥居を潜る。
そこでは最終選別の説明を施した、白髪、黒髪の双子が参加者の到着を待っていた。
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楓たちは周囲を見渡すが、人影は無い。
「……私たちだけ?」
「……残りの参加者は、鬼に喰われたんだろうな」
――――選別の合格者は二人だけ。
選別開始時は約二十人居たはずなのに、合格者は半分以下。
「お帰りなさいませ」
「おめでとうございます。ご無事でなによりです」
楓たちの到着を待っていた、二人の少女が説明を始める。
「まずは体の寸法を測り、隊服を支給させていただき、その後は階級を刻ませていただきます」
「階級は十段階ございます。甲・乙・丙・丁・戊・己・庚・辛・壬・癸。今現在の御二人は、一番下の癸でございます」
「これからお二人には、鎹鴉をつけさせて戴きます」
黒髪の少女が手を叩くと、上空から二羽の鴉が下りて来て、楓と真菰の肩に乗る。
「鎹鴉は、主に連絡用の鴉でございます。任務の際は、鎹鴉でご連絡致します」
この鴉が、楓たちの相棒となるわけだ。
楓たちが「よろしくなー」と言ったら、鴉は「カァー」と一鳴きする。
「では、こちらをご覧ください」
少女たちは、手前に置いてある長台に視線を向ける。
そこには、幾つかの鉱石が置かれていた。
「こちらから刀を創る鋼を選んでくださいませ。鬼を滅殺し、己の身を護る刀の鋼は、ご自身で選ぶのです」
楓と真菰は長台の前まで移動し、感覚で鋼を選んだ。
どの鋼が良いのかが解らないので、楓と真菰はほぼ直感で選んだ。
ともあれ、隊服を支給され階級を刻み、楓たちは下山した。ちなみに、刀が仕上がるまでは十日から十五日かかるということ。
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~石階段前~
「真菰。送って行くよ」
真菰は、楓の言葉に目を丸くする。
実を言うと、楓の『送って行くよ』という発言は、カナエの教育の賜物だ。
「え?狭霧山まで、楓が?」
「まあな。女の子一人で出歩くのは危険だよ」
世間の目で見ればそうなんだが、呼吸が使用できる真菰から見れば、男の口説きや勧誘などに遅れを取ることはないだろう。
そんな真菰は笑みを浮かべる。
「そっか。じゃあ、お願いしようかな」
「おう。じゃあ行くか」
真菰の「おー!」と言う言葉を皮切りに、楓たちは狭霧山に向けて歩みを進める。狭霧山までの距離は、藤襲山から約八㎞といった所だろうか。
その間の道中は、最終選別での経験を話し合いながらだ。
――楓。三日目の私の水浴び、覗いてないでよね?視線を感じたんだけど。
――覗いてないわ!
――……怪しいなぁ。
――不信そうな目をするな!覗いてないからな、絶対だからな!
――花柱に誓って?
――……何でカナエさんが出てくるんだ?
――何となく。
――……何となくって。あー、わかったわかった。花柱に誓います。
――そっか。信じてあげよう♪
――何か腹立つなぁ。
という会話もあったのだ。
ともあれ、狭霧山の麓に到着し、楓と真菰は歩みを止める。
「……ねぇ楓。鱗滝さん、褒めてくれるかな?」
「どうしたんだ、急に?」
真菰の問いに、疑問符を浮かべる楓。
真菰は不安そうに呟いた。
「実はね、鱗滝さん。私が最終選別に向かうのは渋ってたみたいだから」
楓は「なるほど」と言ってから頷く。
まあ確かに、育手から見れば弟子を死地に送り込むのだ。だから、不安に決まっている。
楓の場合も、
「鱗滝さんにとって真菰は義娘みたいなもんだろ?そりゃ不安にもなるよ」
「義娘?私が?」
「そうだと思うぞ。今までの話を聞いて思ったんだが、鱗滝さんは真菰の義父みたいな者だろう?」
「……そんなこと考えもしなかった」
真菰はにこにこ笑った。
「――でもそっか、鱗滝さんが義父かぁ」
そして思い浮かべる、義父になった鱗滝と、義娘になった自身の姿を。
つい思い浮かべて、笑みが零れてしまう真菰である。
「その辺については、真菰は鱗滝さんと話し合えばいいと思うぞ」
でもきっと、楓の予想では、真菰が鱗滝の義娘になるのはそう遠くないんじゃないか。とも思っている。
そして楓はふと思った。――今の話だと、楓は鱗滝から見れば悪い虫なんじゃないかと。
その時、目先に見える小屋の扉が開き、薪を両手で持った天狗面の姿が現し、佇んだ真菰を見るとガランガランと薪を落した。
「……真菰。よく戻った!」
「鱗滝さん。ただいま~」
「……お邪魔してます、鱗滝さん」
そう言った楓を見る鱗滝は、天狗面の下で視線を鋭くする。
そしてこうも思ったのだろう、『真菰の傍に悪い虫が居るぞ』、と。
「――客人も一緒なんだな。二人とも中に入るといい」
「は~い。――行こっか、楓」
「え、ああ、おう」
真菰が楓の右手を握ると、鱗滝が楓を見る視線がより一層鋭さが増した気がする。
――送ったら帰るつもりだったのに、どうしたこうなった!?と叫びたい楓でもある。
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~小屋、炭鉢付近~
「――真菰と共に異形の鬼を討ったのか」
「――はい。客観的に見ると、可哀想な鬼でした」
鱗滝は天狗面の下で眉を寄せる。楓の考えは、鬼狩りの中では変ったものだからだ。
確かに、鬼は元人間だ。その人間にも悲しい過去があり、鬼になり、人を殺す。――何とも悲しい連鎖だ。
「そうか。あの異形の鬼は、儂が鬼狩り時代の時に捕らえた鬼だ」
鱗滝は異形の鬼について語った。
異形の鬼は、凄まじい執念を持ち鱗滝を恨んでいたのだと。そして、自身の弟子を優先的に狙い殺していると。
「……そう、でしたか」
「ああ。でもお前たちが討伐してくれた、礼を言う」
頭を下げる鱗滝を見て、楓は慌てて両腕を振る。
「いえいえ。当然のことをしたまでです」
「むふふ~。楓って、本当に謙虚なんだね」
そう呟くのは、鱗滝の両膝の上に乗る真菰だ。
楓は「そうか?」と呟いた。
「じゃあ、俺はそろそろお暇します」
鱗滝は顔を上げる。
「後数刻で日が沈む。今日は泊まってゆけ」
「いえ。厚意は嬉しいのですが、育手がかなり心配してるでしょうから、今日はお暇します」
日が沈むと鬼が出現する時間帯になるが、楓は余程のことが無い限り命を落とすことはないと鱗滝は思った。
楓から感じ取れる雰囲気は、鱗滝が鬼狩り時代に出会っていた“柱”と同種だからだ。きっと剣術もかなりの物なのだろう。
「そうか。気を付けてな」
「はい。――真菰もまたな。何かあったら鴉で連絡するようにしとくよ」
「うん、私もそうするね」
楓は真菰の頭を一撫でしてから立ち上がり、帯剣してから段を下り、靴に履き替え扉前で「お邪魔しました」と言って鱗滝が住まう小屋から出た。
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~夜~
狭霧山を出て蝶屋敷を目指して歩いていたら、数刻後に日が落ちてしまった。
その時、楓の鴉が空中を旋回する。だが、楓は最終選別を終えたばかりであるので、日輪刀も届いていないし、支給された隊服にも袖を通していない。現状使えるのは、カナエから借りた花色の日輪刀だけだ。
――そして、次の鴉の叫びで楓に驚愕が走る。
「カー!カー!一里先ノ町デ
一里先ならば“桜の呼吸 壱ノ型 乱舞一閃――極”を連発すれば、直に到着できる。――――それに、花柱。
「花柱が単独で迎撃してるのか!?」
「ソウダ!伝エ聞イタ同士カラノ話デハ、カナリ押サレテイルソウダ!」
「……そうか。すぐに合流する」
楓は心を落ち着ける。
上弦となれば、藤襲山で対峙した鬼とは訳が違う。隙を見せたら、待つのは死だけであろう。
そして楓は「必ず助けます」と心に刻み、刀の柄に右手を添える。
――桜の呼吸 壱ノ型 乱舞一閃――極。
楓は爆発的に加速し、一輪の桜と成り――約束を護る為に貴女の元へ向かった。
楓は支給された隊服を道中に置いていきました。
袖を通してなければ、ただの重りですからね。
ではでは次回(*・ω・)ノ