鬼滅の刃~花咲く桜舞~   作:舞翼

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月夜の報せ

 刀を納刀すると、この場には静寂が支配した。

 そして、最終選別の終わりを告げる朝日が昇る。――最終選別七日目朝だ。

 

「終わったね、楓」

 

「そうだな」

 

 楓と真菰はそう言ってから歩みを進め、出口となる鳥居を潜る。

 そこでは最終選別の説明を施した、白髪、黒髪の双子が参加者の到着を待っていた。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

 楓たちは周囲を見渡すが、人影は無い。

 

「……私たちだけ?」

 

「……残りの参加者は、鬼に喰われたんだろうな」

 

 ――――選別の合格者は二人だけ。

 選別開始時は約二十人居たはずなのに、合格者は半分以下。

 

「お帰りなさいませ」

 

「おめでとうございます。ご無事でなによりです」

 

 楓たちの到着を待っていた、二人の少女が説明を始める。

 

「まずは体の寸法を測り、隊服を支給させていただき、その後は階級を刻ませていただきます」

 

「階級は十段階ございます。甲・乙・丙・丁・戊・己・庚・辛・壬・癸。今現在の御二人は、一番下の癸でございます」

 

「これからお二人には、鎹鴉をつけさせて戴きます」

 

 黒髪の少女が手を叩くと、上空から二羽の鴉が下りて来て、楓と真菰の肩に乗る。

 

「鎹鴉は、主に連絡用の鴉でございます。任務の際は、鎹鴉でご連絡致します」

 

 この鴉が、楓たちの相棒となるわけだ。

 楓たちが「よろしくなー」と言ったら、鴉は「カァー」と一鳴きする。

 

「では、こちらをご覧ください」

 

 少女たちは、手前に置いてある長台に視線を向ける。

 そこには、幾つかの鉱石が置かれていた。

 

「こちらから刀を創る鋼を選んでくださいませ。鬼を滅殺し、己の身を護る刀の鋼は、ご自身で選ぶのです」

 

 楓と真菰は長台の前まで移動し、感覚で鋼を選んだ。

 どの鋼が良いのかが解らないので、楓と真菰はほぼ直感で選んだ。

 ともあれ、隊服を支給され階級を刻み、楓たちは下山した。ちなみに、刀が仕上がるまでは十日から十五日かかるということ。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

 ~石階段前~

 

「真菰。送って行くよ」

 

 真菰は、楓の言葉に目を丸くする。

 実を言うと、楓の『送って行くよ』という発言は、カナエの教育の賜物だ。

 

「え?狭霧山まで、楓が?」

 

「まあな。女の子一人で出歩くのは危険だよ」

 

 世間の目で見ればそうなんだが、呼吸が使用できる真菰から見れば、男の口説きや勧誘などに遅れを取ることはないだろう。

 そんな真菰は笑みを浮かべる。

 

「そっか。じゃあ、お願いしようかな」

 

「おう。じゃあ行くか」

 

 真菰の「おー!」と言う言葉を皮切りに、楓たちは狭霧山に向けて歩みを進める。狭霧山までの距離は、藤襲山から約八㎞といった所だろうか。

 その間の道中は、最終選別での経験を話し合いながらだ。

 

 ――楓。三日目の私の水浴び、覗いてないでよね?視線を感じたんだけど。

 

 ――覗いてないわ!

 

 ――……怪しいなぁ。

 

 ――不信そうな目をするな!覗いてないからな、絶対だからな!

 

 ――花柱に誓って?

 

 ――……何でカナエさんが出てくるんだ?

 

 ――何となく。

 

 ――……何となくって。あー、わかったわかった。花柱に誓います。

 

 ――そっか。信じてあげよう♪

 

 ――何か腹立つなぁ。

 

 という会話もあったのだ。

 ともあれ、狭霧山の麓に到着し、楓と真菰は歩みを止める。

 

「……ねぇ楓。鱗滝さん、褒めてくれるかな?」

 

「どうしたんだ、急に?」

 

 真菰の問いに、疑問符を浮かべる楓。

 真菰は不安そうに呟いた。

 

「実はね、鱗滝さん。私が最終選別に向かうのは渋ってたみたいだから」

 

 楓は「なるほど」と言ってから頷く。

 まあ確かに、育手から見れば弟子を死地に送り込むのだ。だから、不安に決まっている。

 楓の場合も、カナエ(育手)の心の中は不安が支配していただろう。

 

「鱗滝さんにとって真菰は義娘みたいなもんだろ?そりゃ不安にもなるよ」

 

「義娘?私が?」

 

「そうだと思うぞ。今までの話を聞いて思ったんだが、鱗滝さんは真菰の義父みたいな者だろう?」

 

「……そんなこと考えもしなかった」

 

 真菰はにこにこ笑った。

 

「――でもそっか、鱗滝さんが義父かぁ」

 

 そして思い浮かべる、義父になった鱗滝と、義娘になった自身の姿を。

 つい思い浮かべて、笑みが零れてしまう真菰である。

 

「その辺については、真菰は鱗滝さんと話し合えばいいと思うぞ」

 

 でもきっと、楓の予想では、真菰が鱗滝の義娘になるのはそう遠くないんじゃないか。とも思っている。

 そして楓はふと思った。――今の話だと、楓は鱗滝から見れば悪い虫なんじゃないかと。

 その時、目先に見える小屋の扉が開き、薪を両手で持った天狗面の姿が現し、佇んだ真菰を見るとガランガランと薪を落した。

 

「……真菰。よく戻った!」

 

「鱗滝さん。ただいま~」

 

「……お邪魔してます、鱗滝さん」

 

 そう言った楓を見る鱗滝は、天狗面の下で視線を鋭くする。

 そしてこうも思ったのだろう、『真菰の傍に悪い虫が居るぞ』、と。

 

「――客人も一緒なんだな。二人とも中に入るといい」

 

「は~い。――行こっか、楓」

 

「え、ああ、おう」

 

 真菰が楓の右手を握ると、鱗滝が楓を見る視線がより一層鋭さが増した気がする。

 ――送ったら帰るつもりだったのに、どうしたこうなった!?と叫びたい楓でもある。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

 ~小屋、炭鉢付近~

 

「――真菰と共に異形の鬼を討ったのか」

 

「――はい。客観的に見ると、可哀想な鬼でした」

 

 鱗滝は天狗面の下で眉を寄せる。楓の考えは、鬼狩りの中では変ったものだからだ。

 確かに、鬼は元人間だ。その人間にも悲しい過去があり、鬼になり、人を殺す。――何とも悲しい連鎖だ。

 

「そうか。あの異形の鬼は、儂が鬼狩り時代の時に捕らえた鬼だ」

 

 鱗滝は異形の鬼について語った。

 異形の鬼は、凄まじい執念を持ち鱗滝を恨んでいたのだと。そして、自身の弟子を優先的に狙い殺していると。

 

「……そう、でしたか」

 

「ああ。でもお前たちが討伐してくれた、礼を言う」

 

 頭を下げる鱗滝を見て、楓は慌てて両腕を振る。

 

「いえいえ。当然のことをしたまでです」

 

「むふふ~。楓って、本当に謙虚なんだね」

 

 そう呟くのは、鱗滝の両膝の上に乗る真菰だ。

 楓は「そうか?」と呟いた。

 

「じゃあ、俺はそろそろお暇します」

 

 鱗滝は顔を上げる。

 

「後数刻で日が沈む。今日は泊まってゆけ」

 

「いえ。厚意は嬉しいのですが、育手がかなり心配してるでしょうから、今日はお暇します」

 

 日が沈むと鬼が出現する時間帯になるが、楓は余程のことが無い限り命を落とすことはないと鱗滝は思った。

 楓から感じ取れる雰囲気は、鱗滝が鬼狩り時代に出会っていた“柱”と同種だからだ。きっと剣術もかなりの物なのだろう。

 

「そうか。気を付けてな」

 

「はい。――真菰もまたな。何かあったら鴉で連絡するようにしとくよ」

 

「うん、私もそうするね」

 

 楓は真菰の頭を一撫でしてから立ち上がり、帯剣してから段を下り、靴に履き替え扉前で「お邪魔しました」と言って鱗滝が住まう小屋から出た。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

 ~夜~

 

 狭霧山を出て蝶屋敷を目指して歩いていたら、数刻後に日が落ちてしまった。

 その時、楓の鴉が空中を旋回する。だが、楓は最終選別を終えたばかりであるので、日輪刀も届いていないし、支給された隊服にも袖を通していない。現状使えるのは、カナエから借りた花色の日輪刀だけだ。

 ――そして、次の鴉の叫びで楓に驚愕が走る。

 

「カー!カー!一里先ノ町デ花柱(・・)ガ上弦ノ弐ト交戦中!隊士ニナッタバカリダガ、楓、即刻向カエ向カエ!」

 

 一里先ならば“桜の呼吸 壱ノ型 乱舞一閃――極”を連発すれば、直に到着できる。――――それに、花柱。

 

「花柱が単独で迎撃してるのか!?」

 

「ソウダ!伝エ聞イタ同士カラノ話デハ、カナリ押サレテイルソウダ!」

 

「……そうか。すぐに合流する」

 

 楓は心を落ち着ける。

 上弦となれば、藤襲山で対峙した鬼とは訳が違う。隙を見せたら、待つのは死だけであろう。

 そして楓は「必ず助けます」と心に刻み、刀の柄に右手を添える。

 

 ――桜の呼吸 壱ノ型 乱舞一閃――極。

 

 楓は爆発的に加速し、一輪の桜と成り――約束を護る為に貴女の元へ向かった。




楓は支給された隊服を道中に置いていきました。
袖を通してなければ、ただの重りですからね。

ではでは次回(*・ω・)ノ
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