カナエはある鬼と対峙していた。
それは、頭から血を被ったような鬼。常にヘラヘラと笑みを浮かべるが、その笑みには感情が伴っておらず、カナエから見たら空虚な鬼。――その鬼の名は、上弦の弐“童磨”。
「(肺が痛い……冷たい。上手く呼吸を使用できない)」
カナエは童磨に対して刀を構えながら、自身の体の現状を確認する。
カナエは、徐々に自身の肺胞が壊死していくのが解る。肺が機能しなくなるということは、全集中の呼吸を上手く使うことが出来ない。
ただそれでも、カナエが刀を置くことはない。自身は鬼殺隊の――花柱なのだから。それにここで逃げてしまったら、カナエはあの子に顔向けが出来なくなる。
「大丈夫かい?さっきオレの血鬼術を吸っちゃったから、上手く息が出来なくて苦しいよね?無理しなくていいんだよ、オレが今から救ってあげるから」
カナエと対面に立ち、対の扇を構えた童磨がそう言った。
カナエが童磨と出会ったのは、柱警備をしていた真夜中の町中だ。そして、童磨の周囲には女性の遺体が倒れており、その体は対の鋭利な扇で斬り裂かれ、切断されていた。
童磨は、カナエの視線を感じると女性を喰うのを止め立ち上がり、「いい夜だね、オレの名前は童磨」「君みたいな綺麗な女の子に会えるなんて、今日は運が良いなぁ」とにこにこと笑みを浮かべていたが、その瞳には感情が無く、まるで虚無。
カナエにから見ると童磨は歪で、共感性に欠けながらも社会に溶け込もうとする子供。だからこそカナエはこう思ってしまう。
――何て哀れな鬼だろう、と。
童磨は、歪んだまま何十年、何百年と生きているのだろう。
カナエは童磨だけに限らず、鬼という存在自体が悲しく哀れなもの。そして鬼が存在する限り、悲しみの連鎖は続く。
だからこそ、カナエは鬼と仲良くしたい。手を取り合って、この負の連鎖を断ち切りたいのだ。
カナエがこの考えを言うと、妹のしのぶには「姉さんは甘すぎる」。恩人の行冥には「正気の沙汰ではない」と言われてしまったが。
「っけほ……。救われる、べきなのは、私じゃなくて、貴方でしょう……」
「わあ、オレを救いたいの?君みたいな優しい子、初めて会ったよ」
感動したように童磨は両目を細め呟くが、その瞳から感じ取れるのは虚無。
……――本当に、鬼は悲しい生き物なのだ。
「うんうん。君は綺麗に救ってあげることにしたよ。なんたってオレは教祖だからね」
童磨はそう言ってから扇を開き、カナエの首に的を絞る。
「……っく」
カナエは無理矢理呼吸を使用をしようとするが、やはり花の呼吸を使用することは不可能だった。
カナエは童磨との対峙で初手を誤ってしまい、童磨が散布した“粉凍り”を吸い、肺胞の半分が壊死してしまい、次いで受けた攻撃で肋骨、内臓を傷付けられた。
現実的に見れば、カナエは童磨に勝機は無い。だが命を賭け、後僅かな時間、きっと夜明けまで持たせて見せる。
――カナエは力が入らない指で刀を握る。――町を守る為、自身の想いを貫き通す為に。
「辛いだろう?もう頑張らなくていいんだよ。すぐに救ってあげるね」
童磨は、カナエが思っていた以上に速く動き、扇を振るいカナエの首を落そうとするが――、
――桜の呼吸 壱ノ型 乱舞一閃――極。
一陣の桜が童磨の腕を斬り落とす。
この時カナエは自身の死より「……なんで来ちゃったの、楓」という想いの方が強かった。
カナエは解っていたのだ。今の力量では、楓は上弦の弐に勝てる要素が全くないということに。
――でも楓はカナエの弟子。師を身捨てるなんてことは死んでも有り得ないのだ。
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咄嗟に距離を取った童磨は、高らかに笑う。
「速いねぇ、君」
カナエを守るように前に出て、童磨に向け刀を構えて立つ楓が鼻を鳴らしてから口を開く。
「そりゃどうも」
「うーん。でも君、鬼殺隊の子?鬼殺隊を示す隊服を着てないし?でも、呼吸を使用するんだよねぇ」
「さあな。その辺はどうでもいいだろ。悪鬼と対峙する人間が居る、その事実があれば十分だろ」
楓は童磨を見て直感した。――俺はコイツに勝てない、と。
だが、速度だけ見れば五分五分だろう。
「(……夜明けまで約二時間、といった所か)」
それまで耐えれば、童磨を退かせられるのだ。
でも時間稼ぎの前に、カナエを安全な場所に避難させるのが先決だ。そして都合がいいことに、楓の隣には童磨が落した扇がある。
――花の呼吸 肆ノ型 紅花衣。
楓が下から上に斬り上げる花衣の斬撃は、童磨の扇を持ち上げるように空高く遠くへ撃ち上げる。
童磨の攻撃姿勢は対の扇だ。楓の予想では、きっと童磨は扇を回収に行く筈。
「あー、オレの扇をあんな所まで」
童磨は、地をドンッと蹴り扇を回収へ向かった。これが逃亡の時間稼ぎになればいいのだが、童磨に背を見せたら死だろう。
それに、この町で童磨の好き勝手をさせる訳にはいかない。夜明けまでこの場に留めた方が良い。
「カナエさん。今の内に安全な場所まで下がります」
楓はカナエに肩を貸し、呼吸で身体能力を高め後方に跳び、カナエを戦場から遠ざける。
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楓がカナエを戦場から遠ざけ、ゆっくりとカナエを座らせる。
「けほっ……何で、来たの、楓」
「俺がカナエさんの危機に駆け付けない訳ないでしょう。それよりも、今出来る呼吸で延命に力を注いで」
カナエは「……うん」と頷く。
楓は安堵の息を吐き、
「これから俺はあいつの足止めをする。カナエさんは救援が到着するまで、ここで待機な」
楓は、カナエが何て言っても童磨と戦いに行くだろう。
だからこそカナエは、自身の『亞鬼滅殺』と彫られた日輪刀を手渡す。
そう。先の地を抉り打ち付けた扇を飛ばした時に、楓の日輪刀は刃毀れをしてしまっていたのだ。
「これ、使って」
「ああ。有り難く使わせてもらう」
楓はカナエから日輪刀を両手で受け取る。
そして楓は、この場から離れ童磨と対峙するのだった。
カナエさん生存ルートです!
……でも、柱引退は免れないかもです(-_-;)
ちなみに、日輪刀は交換した形になってます。
ではでは次回(*・ω・)ノ