魔法科高校の復讐生   作:ボロ93

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三人称視線を取り入れてみました。感想などお待ちしております。


魔法じゃない、魔術だ

……止めようとは思わない、さっきはそんなこと考えてたなぁ…と、春弥は一人心の中で呟く。

春弥の隣で雫とほのかがおろおろしている。そして目の前では……

「いい加減に諦めたらどうなんですか!?深雪さんは、お兄さんと一緒に帰ると言っているんです!他人が口を挟むことじゃないでしょう!」

 

クラスメイトと食堂の二科生で口論の真っ只中だった。

雫に聞くと激突するのはこれで3度目、しかも3回ともうちのクラスの連中が仕掛けたものだ。こいつらには一科生・二科生以前に人としてのモラルは無いのかと頭が痛くなってくる感覚を覚え、春弥は思わず頭を抑える。

 

「一緒に帰りたいのならついてくればいいんです!なんの権利があって二人の仲を引き裂こうとするんですか!?」

 

その物言いに思わず吹き出しそうになる。それだと兄弟というよりも恋人の関係にみえてくるんじゃない…?と思うが現に深雪が顔を赤くしてクネクネしてる様子を見るとあながち間違いでもないのかなと言う気もしてくる。

 

「僕たちは彼女に相談することがあるんだ!」

 

「そうよ!司波さんには悪いけど、少し時間を貸してもらうだけなんだから!」

 

「ハン!そういうのは自活中にやれよ。ちゃんと時間取ってあるだろうが!」

 

「相談だったら予め本人の同意を取ってからにしたら?高校生にもなって、そんなことも知らないの?」

 

ーーーうん、確かにこの場合は10:0で君達の方が正しいよ二科生のみんな

と春弥は言葉には出さずうんうんと頷く。

しかしそんな二科生が言う様な常識がプライドがエベレストくらいある一科生に通じるわけが無い、それを表すかのように言い争いをしてた一科生……森崎の顔がみるみる怒りに満ちていく。

 

「うるさい!他のクラス、ましてやウィードごときが僕たちブルームに口出しするな!」

 

「同じ新入生じゃないですか!あなた達ブルームが、今の時点で一体どれだけ優れていると言うんですかっ!」

 

眼鏡をかけた女の子が、森崎の言葉に堪えられないと言うようにさらに声を荒らげて言い返す。バカにされて耐えられなかったのはわかるが…今の状況でそのセリフは少しばかり不味い。

 

「……どれだけ優れているか、知りたいなら教えてやるぞ」

 

「ハッ、おもしれえ!是非とも教えてもらおうじゃねえか!」

 

案の定の森崎の最後通牒とも取れるセリフに、ガタイのいい二科生の生徒が挑戦的な大声で応じた。

 

この売り言葉に買い言葉の状況を見ると次に森崎が取りそうな行動くらい容易に想像がつく。

正直今すぐにでもここから立ち去りたい気持ちでいっぱいだか、雫とほのかを残して自分だけ立ち去るわけにも行かないし、現時点でかなりの人がこの言い争いを注目してる。ここで逃げ出したところで後日しょっぴかれるのは必定だろう。

 

「あ、あわわ…どうしよう!早くみんなを止めないと!」

 

そうこう考えているうちに既に森崎はCADを抜き、赤毛の女の子が森崎に向かって走り出し、パニックになったほのかが魔法を行使しようとしていた。

 

「っ!ほのかストッ……くそ!……『(イサ)』!!」

 

 

 

 

 

♠ ♠ ♠ ♠

 

 

 

司波達也は信じられないものを見たかのように目を見張る。目の前には直前まで衝突寸前だった森崎という男とエリカとレオ。その3人に加えて向こう側で魔法を行使しようとした女子生徒。その4人が得物を構えた体制からピタリと制止してしまった。制止している本人達ですら何が起こったのか分からないのだろう。

 

「な…によこれ、体が…全然動かないっ…!」

 

「な、なんだ!?どうなってるんだ…!?」

 

森崎とエリカが思わず声を出す。全員がそれぞれ驚きの表情を浮かべる中、達也もまた驚きを隠せないでいた。

 

この現象を作り出したのが誰か。それは直ぐにわかる。向こうにいる腕を掲げて しまった…!という顔つきをしている男だろう。

 

だがこの現象を作り出したのが誰かというのは今はさして重要な事じゃない。

問題は…自分の精霊の目を持ってして魔法式が全くとして見えなかったことだ。

 

いったいやつは何をしたのか。魔法を使かってないという線も無くはない。だがあの男が手を掲げると同時にかなりの量のプシオンの乱れが見て取れた。十中八九魔法に関連することで間違いないだろう。

BS魔法…もしくはそれに類似するなにかか…?それとも……

 

「あなた達!こんな所で何をしてるの!」

 

そんな達也の思考は、不意に横から入ってきた1つの凛とした声によって引き戻された。

 

 

 

 

 

 

 

 

♠ ♠ ♠ ♠

 

 

 

「あなた達!こんな所で何をしてるの!」

 

不意に、横から入り込んでくる凛とした声。何者かと横を向けばーーそこに居たのは生徒会長、七草真由美だった。

 

「あなた達…1-Aと1-Eの生徒だな。事情を聞きます、着いてきなさい」

 

冷たい、と評されても仕方の無い硬質な声でこう命じたのは生徒会長の隣に立った女子生徒ーー風紀委員長、渡辺摩利。

 

2人の先輩は毅然とした表情でこちらを睨みつけている。しかしそんな中でも臆することなく、達也は前に出た。

 

「すみません、悪ふざけが過ぎました」

 

「…悪ふざけ?」

 

「はい、森崎一門のクイックドロウは有名ですから、後学のために見させてもらうつもりがあまりに真に迫っていたもので思わず手が出てしまいました」

 

「…なるほど、しかし後学のためと言う割には場が騒然とし過ぎている。些か無理があるんじゃないかな?」

 

「ですから、あまりに真に迫っていたので咄嗟に動いてしまったんです。幸い、あそこにいる一科生が咄嗟に動きを止めてくれたので事なきを得ました。」

 

そう言って達也は春弥の方を見る。見られた春弥は咄嗟に視線をずらした。

 

「…あいつは……そうか。ではもう一方、あの女子生徒の方はどう言い訳を付けるつもりだ?まさか彼女にもクイックドロウを見せてもらっていたなんて言うつもりじゃないだろうな?」

 

見られたほのかの肩がピクリと跳ね、雫が落ち着かせるように背中を撫でる。

 

「…彼女が使おうとした魔法は目くらまし程度の先行魔法です、そこまで大袈裟なレベルではありませんでしたよ」

 

摩利と真由美が思わず息を飲む。

 

「ほぅ…どうやら君は、展開した魔法式を読み取ることが出来るらしいな」

 

「実技は苦手ですが、分析は得意です」

 

「……誤魔化すのも得意なようだ」

 

値踏みするような、睨みつけるようなそんな眼差し。すると今まで後ろに控えていた深雪が前に進み深々と頭を下げた。

 

「兄の言う通り、本当に行き違いだったんです。すみませんでした」

 

「摩利、もういいじゃない。達也くん、本当にただの見学だったのよね?」

 

そこに真由美の助け舟が入る。深雪の謝罪、そして真由美の助け舟もあってしぶしぶ摩利も矛を納めた。

 

「……会長がこう仰られていることだし、今回のことは不問にします。今後このような事がないように」

 

ぐるっと一同を見渡しこの場を締めた後、踵を返して歩きだしーー一歩進んだところでこちらを振り返った

 

「…もう校内の地図は覚えたか?土門」

 

「…いえ」

 

「…そうか、また道が分からなくなったらいつでも聞きに来るといい。先程は見事だった」

 

そう言って意味ありげな笑いを浮かべると、今度こそ、踵を返して校舎に戻っていった。

 

 

 

 

 

 

♠ ♠ ♠ ♠

 

 

 

 

 

「こ、怖かったぁ……」

 

ホッと胸をなで下ろしながら雫に寄りかかるほのか。あのまま連行されれば魔法を使おうとしたほのかは間違いなくしょっぴかれていた事だろう。そう考えるとほのかは生きた心地がしなかった。

 

「…まぁ、何はともあれあそこでいきなり魔法の使用はダメだよ、ほのか」

 

そんなほのかを見ながら先程まで苦々しげな顔をしていた春弥が窘める。

 

「す、すいません……」

 

しゅんっと肩を落として項垂れるほのか。

 

「ほのか、謝るのも大切だけど、まずは春弥にお礼を言わないと」

 

「え?あっ!そ、そうだった。止めてくれてありがとうございます、春弥さん」

 

「私からも、ほのかを助けてくれてありがとう、春弥」

 

2人揃って頭をさげられて春弥は少々面食らう。

 

「いや…頭を上げてよ、2人とも。あの時のやつは咄嗟にでただけだし……むしろ俺としてはなかった事にしてくれるとありがたいんだけど……」

 

どうにも気まづそうな、歯切れの悪い春弥の言葉に首を傾げる雫とほのか。何故そんなことを、と尋ねようとしたその時、今度は横から声がかかった。

 

「あー…少しいいか?先程の礼を言いたくてな」

 

見ると先程まで森崎に噛みつかれていた達也、そして一歩後ろに深雪と、他のEクラスのメンバーが居た。

 

「先程は動きを止めてくれてありがとう。おかげで言い訳もしやすかった」

 

そう言って感謝を述べる達也。それに対して春弥はまたも気まづそうな表情を浮かべて

 

「いや…礼を言われるような事じゃないし、気にしないで。咄嗟にやっちゃっただけだから」

 

と視線をずらしながら返答した。

なにか不都合なことでもあるのだろうか。そう考えた達也だが兎にも角にも先程の魔法が気になって仕方がなかったので少しその部分に触れることにした。

 

「…咄嗟の判断でもすごいことさ。それに随分と面白い魔法を使うんだ…「魔法じゃない、魔術だ!」

 

魔法の話に少し触れた時、今まで視線をずらしていた春弥が不意に達也を睨みつけながらそのようなことを口にし、そしてさらにまたハッとした表情をしてフリーズしてしまった。

 

「……えっと、魔術ってどういうこと?さっきのは魔法じゃないの?」

 

固まってしまった達也と春弥の会話に、今度は先程その魔術を受けたエリカが興味深そうに入り込んでくる。

 

「…クソ、この性格ほんとどうにかしないと……いや、ごめん、なんでもないんだ。今のは聞かなかったことにしてくれると……」

 

「…春弥、さすがにそれは無理がある」

 

なんとか誤魔化そうとしたところで今度は後ろから雫による諭すような声。

うぐっ…という漫画みたいな呻き声を上げつつどこかに逃げ場はないかと探すがーーあいにくその場にいる全員が興味深そうに春弥のことを見ていた。

 

「…とりあえず、どこか場所を移してそこでゆっくり話でもしようか」

 

達也のその提案にーー春弥以外はーー誰も異議を唱えるものはおらず、そのまま通学路の中程にある喫茶店に行くことになった。

 

(…これが、ドナドナってやつか……)

 

この一連の流れの発端となった春弥は、頭で現実逃避をしながら、半派諦めるように達也たち一行について行くこととなった。

 

 

 

 

♠ ♠ ♠ ♠

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の日、放課後に立ち寄った喫茶店で春弥はみんなから質問攻めにあい、ついには自分がルーン魔術を継承した魔術師であることを打ち明けてしまった。

今となっては意味をなさない行動ではあるが、昔より魔術は秘匿するものだという魔術師の常識があるので打ち明けるのだいぶ粘った春弥だったが、打ち明けたことで雫やほのかだけじゃなく、達也たち二科生のみんなとも仲良くなれた。

実際もう魔術を秘匿する理由もないし、これはこれで正解だったのかな、と1人自分を納得させながら、現在は仲良くなった達也たち一行と登校を共にしている最中だった。

 

「にしても昨日は凄かったなぁ!まさか春弥が魔術師の生き残りだなんて…久しぶりにびっくりしちまったよ!」

 

「ちょ!レオ!?話す代わりに他のところで話題に出すのは辞めてくれって、昨日約束したばっかりじゃん!」

 

「え!?あ、わ、わりぃ!」

 

だからと言って昔から延々と染み付いた常識はなかなか払拭できないのが現状ではあるが。

 

「…レオ、昨日春弥はそれを条件に俺たちに秘密を打ち明けてくれたんだ、それをいきなり破るのはどうかと思うんだが…」

 

横から達也の呆れた声が入ってくる。昨日の話し合いの中で、顔には出さずとも誰よりも魔術という未知の存在に対して好奇心を抑えられていなかったのが達也だ。

 

「わりぃ…次からは気をつけるぜ…」

 

本当に申し訳なさそうな顔をして謝るレオ。本人も悪気があったわけじゃなく、ただ本当に約束を忘れていただけなのだろう。…正直それもどうなんだと思わなくもなかった春弥だが、レオの真摯な態度に免じてこの場は流すことにした。

 

「まったく…昨日の今日でもう約束を忘れてるなんて……ちゃんと脳みそついてんの?あんた」

 

「んだと!このアマ!」

 

こうやって本人たちは否定するが仲睦まじく喧嘩するのもいつものことらしい。特に止めることも無く楽しみながら静観する。

 

その後もレオとエリカの夫婦漫才や美月と文学の話に花を咲かせていたのだが……不意に後ろから達也くんと大きく呼ぶ声が聞こえた。振り返って見ると……生徒会長の七草真由美が手を振りながらこちらに走って来ていた。

 

「達也くん、深雪さん、オハヨ〜。他の皆さんも、おはようございます」

 

肩で息をしつつもにこやかに朝の挨拶をする真由美。春弥以外の5人もそれぞれ挨拶を返した。

 

「ちょっと達也くんと深雪さんにお話したいことがあって…道中ご一緒しても構いませんか?」

 

「俺は構わないですが…」

 

そう言って達也はみんなの顔を見る。みんなそれぞれ頷くなどして同意を示すがーー

 

「……達也、悪いけど俺は先に行かせてもらうよ」

 

唯一春弥だけは先に歩を進めようとした。

 

「あっ!待って待って!話は土門くんにもあるの!」

 

「……なんでしょうか」

 

その言葉を聞いた春弥は1度立ちどまり、嫌そうな顔を隠そうとせず真由美に尋ねる。

 

「えと…昼休みに生徒会室に来て欲しくて……摩利に呼んでくるように頼まれてるの」

 

「……渡辺先輩に?」

 

こくんと、真由美は頷く。

 

「……わかりました、渡辺先輩の用件であれば昼休み伺わせてもらいます。それじゃ」

 

話は終わりだと言わんばかりにーー先輩に対して会釈することも無くーー春弥は踵を返して今度こそ歩き去って行った。

 

 

 

 

♠ ♠ ♠ ♠

 

 

 

次の日の放課後、先日は風紀委員に任命されたり、生徒会の市原鈴音先輩より生徒会長への態度を窘められたり、達也と服部先輩が模擬戦をしたりと、なかなかに濃ゆい1日を過ごした春弥は風紀委員としての仕事に就くため、摩利と共に風紀委員室に向かっていた。

 

「いやぁ、それにしても達也くんに加えて君も…風紀委員になってくれて助かったよ」

 

ご満悦な表情で隣を歩いている摩利。今年は有望な1年生が3人も入ってくれたのだから、余程嬉しいのだろう。実際摩利としても表現するなら小躍りするほど嬉しいものだった。

 

「まぁ…確かに風紀委員の仕事は向いてると思いましたし……それに、こういう物に入っていた方が学校生活がより楽しめるような気がして」

 

春弥も春弥で風紀委員になるのは満更でもなく。こうしてちゃんと大人しく摩利と共に風紀委員室に向かっている。

 

「ほら、着いたぞ。ここが風紀委員室の外からの出入り口だ」

 

そう言って摩利は風紀委員室と掲げられた扉の前で立ち止まる。昨日は出入りを生徒会室に繋がる扉からやったのでちゃんとした出入り口の場所を把握しなければならない。そう思い春弥は念入りに教室からここまでのルートをメモしていた。

その様子を見て苦笑しながら摩利が部屋のドアを開ける。ドアを開けるとそこには昨日に比べて見違えるくらい綺麗になった部屋。そしてその中でぎゃいぎゃいと騒ぐ森崎の姿とそれに対処する達也の姿だった。

 

「……静かにしろ!そこの新入り!」

 

騒いでる森崎に対して摩利が一喝する。森崎は一昨日の記憶が残ってるのか顔を恐怖に引き攣らせながら慌てて口をつぐみ直立姿勢で固まった。

 

「よ、達也。初っ端から災難だね」

 

「…ああ、こんなに会う度に敵意を向けられるとさすがに疲れるよ」

 

森崎が怒られてるのを傍目にお互い言葉を交わす春弥と達也。

 

「まあ、そういう時は実力で黙らせるのが1番だと思うよ?あいつが口出し出来ないような手柄をあげるか実力行使で黙らせれば大丈夫さ」

 

さらっと攻撃的なことを言いながらけらけらと笑う春弥。その言葉に達也は眉をひそめる。

 

「さすがに前者ならともかく、実力行使に訴える気はないさ」

 

「達也がそれでいいならいいけど……自分の身にかかる火の粉を払うなら、実力行使が1番の手だと思うけどなぁ」

 

そう言いながらカバンから1冊の本を取り出す。その本のタイトルは『ハムレット』。

 

「『ハムレット』…シェイクスピアの名作だな」

 

「ん?ああ、俺の大好きな本のひとつなんだ。…あ、もしかして達也も文学すきだったりするのか?」

 

「いや、そこまでじゃない。知識として知っているだけだ」

 

「そうか…それなら読んでみる?昔からある名作だけあって、今読んでもとても面白い作品だよ」

 

そう言って『ハムレット』を手渡す春弥。達也はそれを受け取ると紙媒体の本が珍しいのかぱらぱらと捲った後、謝辞を述べた。

 

「じゃあせっかくだし借りさせて貰うよ。ありがとう。……しかし今のご時世に紙媒体の本とは珍しいものだな」

 

「達也も1度紙媒体で読んだら直ぐにその魅力の虜になるさ、やっぱり本は紙媒体で読むのが1番だ、ってな」

 

「おい!そこの新入り2人もいつまで話している!そろそろ始めるぞ!」

 

和やかに本の談義をしていた2人の元に鋭い声が投げかけられる。慌てて摩利の方を向くと既に風紀委員は全員揃っていたようで、全員こちらの方を向いていた。

 

「申し訳ありません」

 

「すみませんでした」

 

すぐさま謝罪し所定の位置に座る2人。

 

「はぁ…まあいい、これで全員揃ったな」

 

摩利はため息1つ吐きながらぐるっと全員を見渡した。

 

「諸君、今年もこのバカ騒ぎの時期がやって来た。風紀委員会にとっては新年最初の山場になるが各々気を引き締めて当たってもらいたい。今年は幸い卒業生分の補充が間に合った。紹介しよう、立て」

 

摩利に視線を向けられて春弥達が立ち上がる。

 

「1-Aの土門と森崎、それに1-Eの司波達也だ。3人とも今日からパトロールに加わってもらう」

 

「役に立つんですか」

 

「ああ、心配するな。三人とも私が実力を認めた実力者達だ」

 

リーダーである委員長にそう言われると引き下がざるを得ないのか、尋ねた風紀委員の先輩はそうですか。と一言述べたあと黙り込んでしまった。

 

「他に言いたいことがあるやつはいないな?…よし、最終打ち合わせを行う。巡回要領については前回まで打ち合わせのとおり。今更反対意見はないと思うが?」

 

 すでに毎年恒例のことで、新人の補充ができた時点で準備は整っているのだろう。特に何も異論が出る様子も無く、摩利は満足気に頷いた。

 

「よろしい。では早速行動に移ってくれ。レコーダーを忘れるなよ。新入りの三人については私から説明する。他の者は出動!」

 

 

 

 

 

 

風紀委員長の号令を受けて先輩の風紀委員の人達はそれぞれ巡回を開始し、春弥達新人も簡単なレクチャー…春弥だけは校内マップの念入りな説明を受けたあと巡回に出た。

待ち合わせの用があるという達也と別れた春弥は、現在絶賛取り締まりの最中であった。

 

「こんの…!待て!新入生を無理やり誘拐して勧誘とか、先輩としての矜持はないのか!」

 

視線の先には、新入生2人、それも友達である雫とほのかを拉致って猛スピードで逃げるSSボード・バイアスロン部の先輩の姿が。

 

「くそっ、あの先輩達めちゃくちゃ早い…!……こうなったら…『(エワズ)』!!」

 

このままじゃ追いつけないと判断した春弥はルーン魔術を使い速力を上げる。正直昨日の1件があった事でルーン魔術を日常で使うのにもそこまで抵抗がなくなった。これが良い事なのか悪い事なのかはさておき、今現状に置いては拉致られてる友人二人を救出する為に使っているのだから良い事になるのだろう。

 

「待て!2人とも!雫とほのかを離せ!」

 

「くっ…ねぇ!あの後ろの風紀委員の子、わけわかんないんだけど!走ってるだけなのにこっちに追いつこうとしてる!」

 

「くそっ!こうなったら次の角で撒いてやる!」

 

風紀委員に追われていようが先輩としての矜持を問われようが知ったことではない。こちらも新入生を確保するのに必死なのだと心の中で唱えながら、なんとか追ってくる春弥を撒く方法を考える先輩2人。だがそのような悪事を働くもの達を、風紀委員が見逃すはずがない。

 

「そこの2人!止まれ!」

 

「げっ!あれは風紀委員長!?」

 

春弥の無線で応援に駆けつけた摩利が2人の前に立ちはだかったのだ。すでにCADを構えて魔法を行使する準備を整えている。

 

「ど、どうすんのよ!さすがにあの子相手じゃ…!」

 

「くっ…かまうな!私たちは百戦錬磨のバイアスロン部!風紀委員長くらい押し通してみせるわよ!」

 

摩利の姿をみた2人が一瞬動揺するも、そのまま押し通ることをすぐさま決定。摩利目掛けて一目散に突撃を敢行した。

 

「少しはかまえこのバカどもが……」

 

摩利は呆れたような表情を浮かべると減速の魔法を行使した。しかし徐々にスピードが弱まって行く誘拐犯先輩2人組は臆することなくそのまま推し通ろうと迫ってくる。

 

「よし!風紀委員長を抜ければあとはもう大丈夫よ!安心してこの新入生を……」

 

この速度と距離なら風紀委員長を押し通れる。そうすれば後はもうこちらのもの。安心してこの新入生2人組を脅迫…もとい勧誘することが出来る。だがそんな誘拐犯先輩たちを摩利は呆れたような、それでいて面白いものを見るような目をして問いかける。

 

「あー…ところで2人とも、後ろの存在を忘れてないか?」

 

「「え?」」

 

思わず振り返るとそこにはーーほぼ真後ろぴったりに迫った春弥の姿があった。

 

「や、やば!方向転換を…!」

 

「いい加減…止まれこの誘拐犯!!…『(イサ)!!」

 

雲ひとつない青空に、誘拐犯先輩たちの悲鳴が響き渡った。

 

 

 

「まったく……ほんとどうなってるんですかこの学校…勧誘目的で誘拐だけならまだしもその誘拐犯がただのOBだったなんて…」

 

白熱のデッドレースを繰り広げ誘拐犯をお縄にした春弥は、疲れと呆れを入り交じったような表情を浮かべた。

 

「まぁ…こればっかりは慣れろ言う他ないな。勧誘にOBが参加してるなんて、この時期には普通の事だ」

 

それに苦笑しながら摩利が応じる。彼女にとっては去年も一昨年も経験した、ごく普通のことなので特段驚くこともない。

 

「はぁ…とりあえず、大丈夫?雫、ほのか」

 

いろいろと言いたいことはあったが一先ずため息で全て吐き出し、先程救出した友人二人を気遣う。

 

「は、はい…正直レース中は何度か死にそうになりましたけど……なんとか大丈夫です…助けてもらってありがとうございます…」

 

「私も、大丈夫。助けてくれてありがとう」

 

2人とも当たり前ながら疲れた表情をしつつ感謝の意を述べる。雫とほのかは恐らくこのデッドレースで1番の被害者と言えるだろう。

 

「あはは…まあ、あの誘拐犯は捕まえたし。もう大丈夫…って訳でも無いか。良かったら校門まで送ろうか?」

 

これからも勧誘は続くしただでさえ1年の中でもとりわけ成績優秀な2人だ。この後も先程みたいな勧誘に合わないとも限らない。なので2人のことを心配して提案することにした。決して自分が休みたいからとかそういう理由ではない。ないったらない。

 

「そう…だね、風紀委員の春弥と一緒にいればあんなことにもならいだろうし…お願いしてもいい?」

 

その申し出を若干申し訳なさそうに受ける雫。

よしっ。と内心ガッツポーズした春弥は2人に手を差し伸べた。

 

「了解。それじゃあ…「春弥!たった今達也くんから連絡が入った。剣道場で乱闘騒ぎが起こったらしい。今すぐ現場に向かってくれ!」……」

 

手を差し出して無言のまま固まる春弥。雫とほのかは苦笑しながら同情の視線を向けた。

 

「…ごめん、行ってくるよ」

 

「…うん、頑張って」

 

「あ、あはは…行ってらっしゃい、春弥さん」

 

恥ずかしいが2人に別れを告げ、現場の剣道場へと走る。ここから剣道場へは真っ直ぐ進むだけなので道を間違えることも無いはずだ。

 

「…ちくしょう、ほんとにこの学校はどうなってるんだ!」

 

苦々しげに空に向かって悪態をつきながら、春弥は現場へと急いだ。




評価をくださった
ロケットウサギ2号さん。
ハルシオン三世さん。
ニアランテ・オルタさん。
初季さん。
このような作品に評価をつけて頂きありがとうございます!

応援、批判に至るまでコメントお待ちしております!
また、そのついでにこの作品の評価をつけていただけたら幸いです…!

使用ルーン魔術
(イサ)』…静止、氷のルーン。
(エワズ)』…加速のルーン。
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