ぽつり、ぽつりと、雨が降ってきた。本降りになる前にホテルに帰ろう。
少し急ぎ足でホテルに向った。
ここの路地を曲がれば、もうホテルだ。部屋に着いたらシャワーを浴びよう。そんな事を考えて路地を曲がったら何かを踏んづけた。
足を退けると男の顔面があった。男は気絶し血まみれで倒れている。
でも、なんで気が付かなかったんだろ。
よく観察して見ると男に傷は一つも無く、どうやら全て返り血のようだ。
思い切り男の顔面を踏んづけてしまったのでホテルに連れ帰る事にした。
重いので片方の足を掴み、引きずって運んだ。途中何度も頭をぶつけていたけど、大丈夫かな。
ホテルに着き部屋に入り男をドアの前に置き、私は雨に濡れたのでシャワーに入った。
シャワーから上がり男を見たが、まだ気絶中だ。
風邪を引くいけないので服を脱がせた。
安っぽい白と黒のストライプのシャツ、あと黒のジーンズを脱がせた。
衣服を脱がせると、懐からお手製ナイフが一本、腰からベンズナイフが一本、両足両腕にベンズナイフが一本ずつ、あった。
ナイフを机に置き、男の体をタオルで拭いた。
〜〜〜〜
うっう〜ん。頭が痛い。
「マジで痛い、頭ガンガンする」
起き上がり辺りを見回したが知らない部屋だった。ここはドコ?しかも俺パンツ一枚じゃないか誘拐か?いや俺を誘拐しても金なんて無いしな。そんな事を考えていたら部屋のドアが開き、眼鏡をかけた黒髪ショートの女性が入ってきた。服装はセーターにジーンズだ。
「えっと、どなた、ですか?」
何も分からないので、とりあえず聞いてみた。
「シズク。あなたは何者なの?」
ちょー淡々と女性に聞かれた。
「俺は、俺、は…、俺は誰だ?」
名前やら何やらが霞みがかかったように出て来なかった。
とりあえず俺とシズクさんは寝室から居間に移動した。ちゃんと服に着替えてね。
どうやら俺は記憶喪失っぽい、だけど思い出だけで良かったさ。赤ちゃんまで初期化してなくて良かったよ。そう思う事にした…
つか、シズクさんに聞いたが俺は血まみれで路地に倒れていたらしい。しかも返り血、自分が自分で怖い。よくシズクさんは俺を拾ったな、優しい人だぜ。と言うか、もしかして俺って危ない人だったのか?
「どうするの?」
ぽつりとシズクさんに聞かれたが…
「う〜ん、警察にでも行ってきます」
きっと公共機関なら何とかなるだろう。うん、大丈夫さ。
「そう。気を付けてね」
平坦な声と表情でシズクさんは言った。
玄関先に移動しシズクさんに挨拶をした。それにしてもシズクさんちっちゃいな、可愛い。
「じゃあ、色々とありがとうございました」
頭を下げ、シズクさんに御礼を言い歩き出そうとしたら。
「行ってらっしゃい」
シズクさんは手を振り、言われたので。
「えっと、行ってきます」
俺も手を振って答えてしまった。
で、警察署に来た。
名前が分からないなら無理だ、と言われたが腰にしがみつき何度もお願いし頼みに頼み込み、なんとか血で調べてくれる事になった。数十分ほど待っていたら、背後から声を掛けられた。
「おい、お前。とっとと流星街に帰りな」
はい?まったく意味が分からない。その後、野良犬でも追っ払うようにシッシッと手を振られた。
申し訳ないと思いながら唯一の希望、シズクさんにすがる事にした。
気合いを入れシズクさんの部屋のドアを軽く叩いた。
少し待っているとガチャとドアが開きシズクさんがあらわれた。
「お帰り」
「えっと、ただいま、です」
俺が警察署のいきさつを簡単にシズクさんに話すと。
「同じだね。私も流星街出身だよ」
シズクさんは相変わらずの無表情で、俺に告げた。なんでも流星街の住人は世界のデータベースに記載されないらしい。どんだけだよ、引きこもり国家か。
「私と一緒に帰る?」
少し首をかしげ、俺にたずねた。まるで女神様だ。
「あざすっ!是非!お供させてくださいませ!」
シズクさん何て良い人なんだ。俺って運が良いな。
あと俺が金を持ってないと言うと「私が出すよ」と答えてくれた。本物の女神様や。
「持ち物、持ってくる」
持ち物?突然どうしたんだ?シズクさんは部屋から出て行き、少ししてナイフを六本持ち戻ってきた。
「はい」
ドンと机にナイフを置いた。
「これは?俺の?ですか?」
「そうだよ」
いや、だったら、もっと早く出してくださいよシズクさん。記憶喪失の人間の持ち物あるなら、何か重要な手かがかりあるかもでしょ、と心の中で思った。
つか6本中5本が、まがまがしい形をしている。マジで俺は危ない人だったのか…。いやいや、きっとアレだ。このナイフは仕事用のナイフだよ…。いや!いや!こんなナイフが仕事用って…。
もう、この問題は置いておこう。うん、そうだ、どうせ分からないしな。
今度は一本だけ普通のナイフを手に取った。お手製感まる出しのナイフだ。よく見るとグリップの部分に名前みたいのが彫ってあった。は、る、と、ハルトか。これが会社名だったら泣けるな。まぁ名前が無いと不便だからハルトで良いかな。そんな感じで俺は自分の名前を決めた。
俺がぼーっとしていたらシズクさんが何やらガサゴソし、どこかに出掛ける準備していた。
「どっかに出掛けるんすか?」
「うん、散歩」
「お供して良いすっか?」
「いいよ」
で、ホテルから出た。
この町マーロは、古代の遺跡が沢山あり、巨大美術館、コロッセオなどなど、有名な観光都市だ。と観光パンフレットに書いてあった。
街並みを歩くだけで楽しいね。
そんな街並みを俺とシズクさんは、ぶらぶらしていた。夕方になり、そろそろ晩御飯を食べようと店を探していたら、見るからに不良の三人組にからまれた。めっちゃ怖いが男の俺が行くしかないよな。
シズクさんを庇うように俺は一歩前に出た。と同時に不良A君が奇声を上げ殴り掛かってきた。ヤバイ殴られると思ったが、体が勝手に動き不良A君の手首を捻り上げ、そのまま投げていた。続いて不良B君とC君が襲ってきたが、B君の腹に俺の拳が綺麗に決まり、C君の首筋にはナイフが当てられタラ~と一筋血が出ていた。
俺が茫然自失におちいっている間に不良君達は逃げていた。自分が自分で怖いです……いや、マジで!チョー怖い!自然にあんな事が出来るなん…
「ハルト、行こう」
考え込んでいたらシズクさんに服の袖をクイクイと引かれていた…。可愛い過ぎる!
「そうっすね!行きましょう!」
さっきまで考えていた事など、すっかり忘れ夕食を食べに行った。
晩御飯を食べ一息ついた頃、流石に先程の『不良に襲われ勝手に体が動く事件』の事がやっぱり気になり出した。
「あのシズクさん、…さっきの変じゃなかったですか?」
恐る恐る俺はシズクさんに聞いてみた。
「さっきの?」
なんの事?と純水に不思議そうな顔をしていた。
「えっと、不良に俺がした事ですよ」
「あぁ…。見事だったね」
「えっ、そんだけ」
「う〜ん。…綺麗だったよ」
この時ようやくシズクさんが天然なんだと理解した。
それからホテルに帰り、シズクさんはシャワーを浴びてる。シャワー音が聞こえてくるよっ、しかも鼻唄まで、なんかエロい。なんかエロい!大事な事なので二回、言いました!
しばらくして浴室からシズクさんがあらわれた…
その姿は、まさに女神。裸ワイシャツ姿で、グイグイ牛乳を飲んでいた。うつくしい。
なんか鼻血が出そう。あと他にも何か色々と熱いモノが出そう、だよっ!
いや、つか、いったい俺は何才だっ!青い春の中学生かっ!
ん?俺、本当に何才なんだ?分からないのでシズクさんに聞いてみた。
「俺、何才ぐらいに見えますか?」
「18才、かな」
「成る程〜」
そんぐらいに見えるのか。
「お風呂、入らないの?」
「あっ、入ります」
そして浴室に行くと、そこは楽園だった。
浴室にシズクさんの素晴らしくイイ匂いが充満していた。
そこで、目一杯スーハースーハーし、俺は自分が変態だと自覚した。
で寝る時間になったのでソファで寝ました。