馬車の旅は楽しかったが、やはりベッドで寝るのは素敵だ。疲れが癒され、俺は昼過ぎまで寝ていた。
当たり前だが起きた時にはシズクさんは部屋にいなかった。ただテーブルにメモが一枚、置いてあり「仕事、行ってきます。シズク」と書いてあった。字まで可愛いぜ。
とりあえず腹が減ったので街のカフェでパスタを食い、食後のティーを飲み終わり、暇なので有名な大図書館に行く事にした。
なんでも世界最大にして最古の大図書館『プレトサンドリア』三千年の歴史があり本館には薬草園が併設されている。医術や天文学など専門分野だけを集めた分館があり、その数は34もある。書物を集めに集めた学者達の夢と叡智の町、それがプレトサンドリアだ。全部パンフの受けおりです。
で件の図書館に向かった。本館ね。
外観は荘厳だった。白一色で、どでかい石の柱が連なり、まるで神殿のようだ。名前を書けば誰でも入れるようになっている。
中には棚があり、上から下までびっしり書物が並んでいた。でも上の本はどうやって取るんだろ?絶対、手じゃ届かないよ。
俺は図書館の案内板で気になった場所に向かっていた。それは「萌」だ。案内板には他には「神話」「生活」などは理解が出来た。が「萌」だけは分からなかった。
そして、その場所に俺はたどり着いた。
一冊の本を手に取り読んだが…、面白い!楽し過ぎるぞバカヤロウー!俺が読んでる本は「ズズミヤパルピの産院」だ。一生…忘れないだろう。たとえ記憶喪失になってもな!
そこから移動して机と椅子がある場所で俺は本を読む事にした。
俺が椅子に座り、さぁ読むか!と意気込んだ時に視線を感じた。気になり顔を上げ、視線の先をたどるとシズクさんが立って居た。
そのシズクさんの横には、あのピンクの悪魔マチさんも一緒に居た。後もう一人、スーツ姿の美人の女性も居る。シズクさん達がこちらに来たので俺は椅子から立ち上がった。
「暇してる?大丈夫?」
シズクさんは首を少し傾け、俺に聞いてきた。たぶん何もする事が無い俺を気にかけて声を掛けてくれたのだろう。
「暇っちゃ暇ですが、本好きなんで大丈夫です」
運命の一冊とも出会ったしな。
「あんた、まだシズクと一緒に居たの」
蔑みの目でマチさんは俺を見ていた。なんか…変な気分になっちゃうぜ!
「これが噂の、シズクが飼ってる男?」
スーツ美人から衝撃の言葉が出た。「飼ってる男」たまんねぇ!エロい!
今更だが、変態だとは認める。けど軽度の変態だかんな!
「違うよ。迷子だよ」
シズクさんは大分はしょった説明をした。まぁ人生に迷ってるし間違いでは無いな。
「ハルトです。シズクさんのお世話になってます」
とりあえずスーツ美人に挨拶した。
「パクノダよ、よろしく」
そうパクノダさんは言い、手を差し出してきた。
「よろしくお願いします」
手が柔らかいな。美人と握手できるなんて感無量だ。ただパクノダさんは俺の手をギュッと握り、なかなか離してくれない。何事!?
「駄目ね。無いわ」
しばらくしてから、やっと俺の手を離しパクノダさんは短く呟いた。
えっ!?何が!?もしくはナニが!?
「そう」
分かってます。そんな返事をシズクさんはした。
「夕方には帰るね」
俺に質問させる間を置かずにシズクさんは言い。パクノダさんやマチさんと共に、歩き去ってしまった。
うん、…本でも読むか。
この後になって知るが「萌」はラノベと言い、それらを好んで読む人種を「オタ族」と呼ぶようだ。俺も生粋のオタ族に生まれたかったぜ。いや、もしかしたら生粋のオタ族かもしれないんだ。うん、父母に恥じないよう俺はオタ道を極めるぞ!
そんな決意をし、ホテルに戻った。
あと数冊の本を借りた。
日が沈んだ頃、シズクさんはホテルに帰ってきた。借りた本を全部読んでしまったよ。まだ俺もシズクさんも夕食を食べて無いので、ホテルの食事所で夕食を食べに向かった。
シシカバブーを俺が食べていたらシズクさんが話しかけてきた。
「団長が会ってみたいって」
「なんでですか?」
ちなみ団長とはシズクさんの上司だ。変わった役職名だよな。
「わかんない」
「良いですよ。断る理由ありませんから」
部屋に戻り寝る間際になって思ったが、大事な部下に変な男が付いてないか確かめる為に呼び出されるのではと俺は考え戦々恐々した。だって職も無いし、金も無い、まるでダメ男だもの。俺は眠れぬ夜を過ごした。
無情にも時は過ぎ、日が昇った。
朝食を食べながら、それとなく団長さんの事を聞くと「とても強い」「本が好き」だった。どんな人か分からん。無情にも飯を食べ終わり団長が待つ場所に向かった。シズクさんに案内された場所はアジトっぽい古びた工場だった。何やっぱボコされるの!?
工場の中に入り進んで行くと広い部屋に出た。そこにはパクノダさん、マチさん、モジャモジャさん、その三人が居た。で、肝心の団長さんは…
「そこの部屋に居るから、入って」
シズクさんは扉を指差した。
「俺一人で、ですか?」
まさかの二人きり?団長と?
「うん、そうだよ」
今の「うん」可愛いなぁ、じゃなくて!マジでヤバくない?
「…わかりました」
チキンの俺は今更、無理です。とは言えなかった…
気合いを入れ、扉をノックし「失礼します」と部屋に入った。
そこにはアート的なコートに、髪をオールバックにしたイケメンが座っていた。つーか若い、それにオーラ的な、雰囲気的な、気的な、そんな見えない圧力が半端ないです。
しばしの間、じーっと団長は俺を見ていた。
怖くて目がそらせない…ちびる…
そして、いきなり。
「…無理だな」
はい!?何が!?まったく意味がわからないよ!?
「だが盗めなくて良かったか、シズクに怒られないですむ」
団長さんは独り言のようにブツブツ言っていた。
その後、何故か団長さんに「準団員、決定」と言われた。
俺と団長さんは部屋を出た。団長さんの名前は「クロロ、なんたら」で後半は覚えられなかった。後でシズクさんに必ず聞かなくてはな。モジャモジャさんの名前がコルトピさんだ。もちろん俺も自己紹介してホテルに一人で帰った。
それから一日が過ぎ、二日が過ぎた。
そして三日後の深夜に、慌ただしくシズクさんが扉を開け帰ってきた。俺はラノベを読んで起きてたが、こんな深夜にどうしたんだろ?部屋のドアが勢いよく開いて。
「逃げるよ」
俺が言葉を発する前にシズクさんは言ったが…
一体全体、何から逃げるのですか!?つか何をしたんですか!?
俺が何かを聞く前に、扉をバンバン叩く音と罵声が聞こえた。とりあえず俺はホワイト・ラビットを使いシズクさんの手を取り中に入った。ホワイト・ラビットは縦に50m移動が出来る念能力だ。中は四角い個室になっており左右に五ヶ所ほど丸い穴があり、右が上りで、左が下りだ。のぞき込み良さそうな穴からシズクさんと一緒に外へ出た。
場所は一階の天井だったので、地面に着地する寸前にブラック・ラビットを使い潜った。出たり入ったりを繰り返し、闇夜の中、飛行場にたどり着いた。つか宿泊代、払ってない…まぁ仕方ないよね。うん。
で、俺とシズクさんは止まってる飛行船に乗り込んだ。無断でな。
バレる事なく飛行船は飛び立ちグングン上昇している。
サヨナラ。図書館の町プレトサンドリア。
ラノベとの出会い忘れないよ。