もしルイズに公爵令嬢としての余裕があれば   作:売ル座布団

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 拙作を訪問していただいて、誠にありがとうございます。

 タイトルの通り、サイトが召喚される前夜から始めさせていただきます、6500字程度です。


最初から時系列の順に繋がっている7話まで
使い魔の儀式前夜、友人たちの気遣い


 私はルイズ、公爵というそれなりに重要な責任と権力を与えられている貴族の娘だ。

 様々な魔法が世界を便利にして発展させてきた歴史を踏まえ、魔法を使えることもって貴族に叙されるこの世界、ハルケギニアで、なぜかどんな魔法をも爆発する魔法として発動させてしまう変わった体質を持って産まれた。

 そのことが判明した当初は色々困ったり悩まされりしたが、公爵の跡継ぎ候補として勉強しながら成長するうちに、魔法なんてできなくても実務上はほとんど困らないことに気づくのに時間はかからなかった。

 しかも私の使える爆発の魔法(?)はなぜか詠唱を必要としない上に異常に破壊力があるので、一芸特化型のメイジとして一応、貴族になるのにとやかく言われる度合いも少なく済みそうである。

 

 

 そして、私はこの腐敗しつつある、というかすでにかなり腐敗している上に、野心ある諸外国と接している、トリステインという祖国を救うために、末妹であるにも関わらず公爵家の実質の跡取りとして、ここトリステイン魔法学院に籍を与えられていた。

 本当はすぐに跡を継がねばならぬくらい事態は切羽詰まっているのだが、腐敗が進む程度には権威主義的なこの国では、

 トリステイン魔法学院の卒業者であるという資格と、そこで得る人脈は必要であるというのが我がヴァリエール公爵家全体の考えであり、

 私はそれに従いこの学院で勉学および学友との交友に精を出していた。

 私としては父様を……父様が退いてからは姉様を影から支えるだけで良いので、私の資格や人脈はそこまで必要ないと考えているが……

 

 

 ざっくり紹介したし、現状の説明に移りたい、ここは、トリステイン学院の学生の寄宿舎の一室、私に与えられた部屋だ。

 私は、次の日にある重要(であるとされる)イベントに思いを馳せていた。

 ふと、気になってベッドに腰掛け、薬学の知識を得るためであろう読書にふける青い髪の少女に問いかけた。

 

 

「ねえ、タバサ、明日ってどういう結果になるんでしょうね?」

 

 

 私の声に、タバサ……学院で最も親しくしている友人の一人だ……は読書を続けながらも、こちらにそれとなく視線を向けて答える、器用なやつだ。

 

 

「確かに、ルイズの場合どういう結果になるか予測がつかない」

「無難なものの召喚に成功するのが最上ね、現状維持できるわ」

「それが最上?」

 

 

 タバサは、非常に面倒な経歴と事情を持っており……その一つがなんと隣国のガリア王家の娘であることだ……私とは様々な面で共闘関係にある。

 タバサの当面の目的は彼女の母親が心を壊した理由を探ること、そして何より治療することだ。 また、彼女と彼女の母親をガリア王家のしがらみから解放することを請け負っている。

 

 

「おそらくはそうね。 最低でも単に召喚できず、何も起こらないことがいいわね、召喚できなくても進級できるように根回しは済ませてるし」

「なにか忙しそうにしてた、それが理由?」

 

 

 彼女はその見返りとして様々なことをしてくれている。 例えば、王家の娘として彼女自身の得る情報の譲渡、彼女の持つ様々な知識による助言。

 何より若くしてシュバリエの称号(高い戦闘能力およびそれに基づく実績を認められた者に与えられる)を持ち、

 風のトライアングルメイジ(スクエア・トライアングル・ライン・ドットの順に熟達したメイジとされる、私はこの分類で言えばドットですらなく「ゼロ」だ)であり、優秀な彼女自身の協力などだ。

 

 

「うん、根回しに奔走してた。 それでもまあ、我がことながら何かおかしなものを呼んだり、おかしなことが起きる可能性が否定できなくて、気が重いわね」

「イレギュラー対策、考えてあるはず」

 

 

 しかも、私としてはこの面倒な貴族の世界にあって、腹を割ることができる友情を感じていて、契約・利害関係だけでない付き合いが出来ている、タバサもきっとそう思ってくれているだろう。

 

 

「もちろんよ、ただ、それでも全くコントロールの効かない力だからねぇ。 我ながら困ったものよ。

 別に魔法なんて出来なくても公爵の仕事をする上で困ることなんてないのに、使い魔召喚が進級の条件ってねぇ。

 『召喚の魔法に失敗する人なんて居ないし、これを適当に進級の条件にしておけ』って気楽に決めた奴を、過去に戻って締め上げたいわ」

「……実はオールド・オスマンかも」

 

 

 オールド・オスマンは現在のトリステイン魔法学院の学園長で、一説によると、彼はもう数百年も生きており、実はこの学院の創始者でもあるかもしれないと目されている人物だ。

 メイジとしても、指導者としても、教育者としても優れているが、ことあるごとに女性にセクハラまがいのことをする。

 また、それが生きがいであると公言してはばからない、困った爺さんなのだ。

 私は幼児体型で好みでないという理由で被害に遭っていないが(それはそれで腹立たしい)、

 権威も能力も実績もある人間なのだから、それ相応の態度をとってほしいと常々思っている。

 

 

「あのエロボケ爺、今すぐ私の爆発魔法をお見舞いしてやらにゃならんわ!」

 

 

 私のやつあたりみたいな冗談に、タバサがくすりと笑う。

 

 

「……そこまでしたら退学になる」

 

 

 冗談と分かっていても、私ならあるいは本当にやりかねない、とも思われているようだ。

 確かに私は少々……多少?……熱くなりやすいというか、素直というか、まあ感情的になりやすいところがあるのは、この友人には既に知られてしまっている。

 いいではないか、まあ熱い気持ちがあるということで。

 だがまあ今回に限って言えば、本当に冗談で、別に進級のための召喚の儀式のことだって、極論どうでもいいのだ。

 だから私は笑って冗談っぽく言う。

 

 

「それもいいかもね、今すぐこの学院を辞めてでも、父様と母様の元へ馳せ参じたいくらいだし、その方が結果としていいかもしれないわね」

 

 

 私としては軽い冗談のつもりだが、流石の付き合いの深さから、タバサは私の冗談に少し本気が混じってしまったことを察知したようだ。

 ため息を軽くつき、少し悩ましげに苦笑し、その後少し思案して、私を見つめて問う。

 

 

「ルイズみたいにそこまでトリステイン、それどころかガリアにも詳しくない、だから聞く。

 本当にルイズが今すぐに何とかしなきゃならないくらいの情勢?」

「どうかしらね、現状の私には言うほど情報を集められないのよ、信用できる情報提供者って、身内以外じゃ、あなたとほか一部を除いていないのよね。

 ただ、私が知り得る情報からの推測では、現状のトリステインの貴族の多くがダメになってるわね」

「統治に問題がある?」

「統治の問題というか、そもそもちゃんと統治してくれてないのよ」

「甘い汁を吸ってる?」

「ううん、そうだけど違う。 ちゃんと統治してくれるなら、多少の甘い汁は吸ってくれてもいいの。

 むしろ、ちゃんとした統治の対価として、支払われるべき範疇ってあるからね。

 実際は統治もしない上に、甘い汁を吸うためにやっちゃいけないこと、

 ……人身売買とか、財産や権利の不当な巻き上げ、果ては強盗団や国外の勢力との癒着……

 をやっちゃってるのよね」

「想像以上……」

「しかもその規模や範囲が私の立場からでもわからないの、つまり警察機構や司法機関までズブズブってことね。

 ……まったく、父様も母様も身内には甘いから」

「仕方ない、おじさまもおばさまも人がいい」

 

 

 人がいいといえば聞こえは良いが、上位の統治者である以上、冷酷さが必要なんだけど……

 

 

「責任ある立場の人間がそんな風に舐められるのも困るんだけどね……

 まあそんなだから、土くれのフーケ(貴族のところによく盗みに入る正体不明の盗賊)みたいなのが持て囃される程度には人心は離れてる。

 王都の商売人も、真っ当な商売を諦めて、ほどほどにずる賢くやる人がたくさん出てきてるし、それもあってなおさら全体の活気は減ってるわ。

 国外に退去したり、軸足を国外に移した大商店も多い。

 王都でこれだから、地方の状態はもうどうなっているか全くわからないくらい。

 つまりトリステインの情勢だけ見ても全然良くないわね、諸外国に接してる意識あるのかしら?」

「なるほど。 でも、それでもやっぱりルイズが公爵の仕事をやる必要はない。

 あなたは末の妹で、能力的に見ても正当性で見ても、問題ない後継者のお姉さんがいる。

 本当は勉強が好きだし、研究の一つもやらせないのは、あなたにとってもトリステインにとっても大いなる損失」

 

 

 そうなのだ、私は本当はヴァリエールの娘でなければ、本を読み、旅をする、知識と世界の探求者になりたかった。

 タバサと気が合ったのもそういう感性の近さが居心地の良さにつながったからというのもあるだろう。

 ……付き合いで蓄積された信頼と経験から、彼女に隠し事はできない、だから正直に告げる。

 

 

「そうね、時代が許してくれるなら、本当はここで、あの人畜無害さと、研究心が形を成したみたいなコルベール先生(トリステイン魔法学院の研究好きの教師)を焚き付けて、研究室の一つでも作らせたいわね。

 そんでもって、私は彼の人の良さにつけ込んで、面倒な政治とか予算取りとか全部ぶん投げて、のんびり研究して道楽娘としてバカにされるわけね、でももしかしたらすごい発明をして……」

 

 

 私がそんなあり得た願望を述べていても、タバサはそれを笑うどころか真剣な表情で見つめている。

 

 

「私としては是非そうしてほしい、それで母様を治す手段を作ってくれれば私はあなたに一生尽くしてもいい」

 

 

 そして、研究で発明ということが琴線に触れたのか、私の言葉を遮って言う、彼女には母親のことは本当に大事な問題なのだろう。

 

 

「タバサ、コルベール先生の扱いに関するツッコミがないどころかその発言って……そういうのを普通は重いって言うらしいわよ。

 まあ、悪い気はしないし、あんたにはそれくらいしてあげてもいいんだけどね」

 

 

 タバサはいい友人だが、私の冗談を流して、本気の話にするのは困ったところだ。

 だが、いつでも真摯な彼女に私も自然と真摯になり、答える。

 

 

「私は誇りあるヴァリエール家の一員として、この国も救いたいの、もちろん友人として、あなたも、あなたの母上もね。

 だから、あんたの母さんのことは可能な限りのリソースを振ってるし、今はそれで我慢してちょうだい」

「……わかった」

 

 

 重いと言ったが、こういう真面目さ、真摯さは美徳だ。

 私はタバサ相手にはそういう意味で何かを演じなくてもよい、彼女との会話は疲れはしても、気疲れはしないのだ。

 さて、明日の儀式のことを愚痴り相談するという当初の目的は達したし、私はまた様々な悩ましいことを解決するための思考へ入ることを試みる。

 その時、部屋の扉が勢いよく開き、スタイル、容姿に優れた女が飛び込んできて、大声を上げる。

 

 

「ルイズにタバサ、あんたたちまた二人で息苦しい雰囲気を出してじめじめしてるわねぇ!

 そんなアンタたちのために、この優しい優しい友人のキュルケちゃんが、明日の召喚の儀式のことが心配で心配で夜も眠れないであろう、あんた達のために話し相手になりにきてあげたわよ!」

 

 

 今、私の部屋に入ってきたのはもう一人の気のおけない友人のキュルケで、隣国の貴族の娘だ。

 キュルケの実家のツェルプストー家と我がヴァリエール家は、国境で接しているため縁がある。

 そんな地理と立場の問題で、事あるごとに利権などを巡って対立して因縁があり、あんまり仲が良くない。

 

 

「キュルケうるさい、近所迷惑」

「召喚の儀式を心配してるのはアンタの方じゃないのキュルケ? ていうか今アンタの話し相手をするだけの元気も時間もないから帰ってちょうだい」

「雑! 友人に対する扱いが雑! 泣くわよ、いいから構いなさいよ、二人とも」

 

 

 だが、私やタバサとキュルケは妙に気が合い、こうしてよく3人で話をしたり、隠れて貴族らしからぬ遊びに興じたりする仲である。

 今の会話も、一見ぞんざいで悪意あるようなやり取りに見えるが、実はそういう軽口の叩きあいが楽しくてやっているところがある。

 

 

「全く、最初から素直にそう言いなさいよ、今日はシエスタが居ないから、まともな味の茶とお菓子は用意できないわよ」

 

 

 私が名前を出したシエスタは、私が幼少の頃から世話になっており、現在この学園に勤務しているメイドだ。

 

 

「あら、シエスタ不在は残念ね。 でもあんたたちにそうやって世話されるのも悪くないからいいわ、にっくきヴァリエールの女に加え、やんどころない子にご奉仕されるのもいいわね、燃えるわ」

 

 

 キュルケは自分をわざと下げる、つまり道化を演じるやり手だ、機転が利き、それは私とタバサではできない軽妙な会話をもたらしてくれる。

 また、よく気がつくので、案外私たちが本当に嫌だと思うことは言わないようにしてくれるし、一人にしてほしい時は放っておいてくれる。

 そのような絶妙な距離感の上手さが彼女の良さで、私たちが本当に彼女を邪険にすることはあまりない。

 

 

「あら、私たちにまで微熱を発揮するなんて、今日の相手では満足できなかったの?」

 

 

 キュルケはそんな性質と優れた容姿が相まって非常に異性から(なんなら同性からも)モテるし、 自分のことを微熱と称してよく火遊びをしているらしい。

 友人としては心配なところもあるが、恋愛に関しては、彼女より圧倒的に経験値の劣る私たちでは、釈迦に説法だろうと諦めている。

 

 

「あら、ルイズ、ヤキモチ妬いてくれるの? ごはんは美味しくても、その後にケーキが食べたいのってそんなに変かしら?」

 

 

 今日もどうやら、彼女は私たちに気を遣って、そうとはわからないように明日のことで気を病んでいないか、様子を見に来てくれたのだろう。

 おそらく私だけでなく、タバサにも照れ隠しの気遣いはバレているが、言ったところで、実は照れ屋なキュルケはそうと認めないだろう。

 いずれにせよ私も、おそらくタバサも、キュルケとの会話は日々の楽しみの一つにしている。

 そんなこんなで、口調とは裏腹に楽しそうに、私はお茶を、タバサは茶菓子を用意するために立ち上がって、いつもの準備を始める。

 

 

「はいはい、で、明日の召喚の儀式なんだけど、実はあたし別に何を召喚してもいいし、何なら何も召喚できなくてもいいのよねぇ」

 

 

 キュルケが本題に到るための会話のじゃれ合いをしようとしてくれたみたいだが、それを無視する。

 私は茶を入れて席につきつつ、いきなり本題を、しかも結論を述べる。

 じゃれ合いを楽しむつもりだったキュルケは、意図をわかった上で会話を流した私を見て、少し困ったように苦笑した。

 だが、彼女はそのあと一口だけ茶に口をつけると、めげずに話を続ける。

 こういう辛抱強いところも彼女の美点で、モテる所以だろう。

 

 

「またまた張り合いのないこと言っちゃって、アンタ本気でそうだからやんなるわ。

 でも、使い魔ないと不便だし、欲を言えば偵察・情報収集向きの使い魔とか呼び出したいんじゃないの?」

「確かに、ルイズの目的を考えれば、部屋に潜んだり、遠くの音を聞けたり、すごく目が良い使い魔がいると便利」

 

 

 そうなのだ、使い魔は人間と違って契約を結び、一心同体になるので、二重スパイの可能性などを考慮しなくていい密偵として運用できるのだ。

 できれば、私としては、そういう情報戦向けの使い魔が欲しかったりする。

 

 

「そうなんだけどねぇ、こればっかりは呼んでみないとわかんないしねぇ。

 ていうか呼べるかどうかもわかんないしねぇ、最悪、爆発するだけで済めばいいんだけど……」

「ま、そりゃそうか、なるようにしかならないわね。

 ていうか爆発で済めばっていうけど、いつもよりすごい爆発とかになったりしない?

 ちゃんとコントロールしてよ」

「そうね、最悪、あんた以外が巻き込まれないように位置と威力を調整するよう努力するわ」

「そこまで! できるなら! あたしも! 巻き込むな!

 ねえ、本当に私たち友達なの? 最近、私に対する扱いが不当だと思うわ!」

「あんたと友達かどうかは諸説あるわよね……」

「確かに検討が必要」

「ないわよ! 薄情者ども! 私をハブってイチャついてなさいよ、うわーん」

 

 

 キュルケの遠回しで分かりづらいが、気の利いた励ましに、私もタバサも色々心配していた重たい気持ちがいつの間にか吹き飛んでいたみたいだ。

 二人して笑顔になって、嘘泣きをする彼女を見やる、それを見てキュルケも優しげに微笑む。

 私たちはそのあとも貴族らしからぬ知能指数の低い会話を楽しんだ。

 

 

 さあ、明日は召喚の儀式だ。




 このルイズとタバサ、キュルケの会話だけでも、ある程度書きたい友情や親愛、みたいなものを自分なりに描けたかな、と思います。
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