もしルイズに公爵令嬢としての余裕があれば   作:売ル座布団

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 ご訪問ありがとうございます、3話です。

 前回の話でサイトが呼び出され、学園長室に移動した後からです。 11500字程度で長いですが、話の区切りがいいところで切りたいので、この形にさせていただいております。


異世界交流と契約の魔法

 ここは地球がある世界から見たら、魔法などがあるファンタジーで不思議な異世界、ハルケギニア(と才人のような地球人からは見えるということになる)。

 そのハルケギニアの、トリステイン魔法学院、その学園長室で、3人のハルケギニア人(私ことルイズ、コルベール先生、オールド・オスマン)と、

 1人の地球人(私が誤って使い魔の代わりに呼び出した、ということにしている、平賀才人)の4人が、秘密裏にお互いの状況を確認しあおうと向き合っていた。

 

 私たちはあの後、軽くお互いを紹介していたが、やはりというかなんというか、才人は異国どころか、異世界からやってきたのだろう、という推測の確度が高くなっていた。

 ハルケギニア側の3人は頭を抱えた、何せこれは取り扱いを間違えればトリステインどころか、ハルケギニアに大きな混乱や災厄をもたらしかねない一大事だからだ。

 取り急ぎ、お互いについてさらに深く知り、どのように立ち回っていかないか相談せねばならない。

 幸いにして、才人が信用に値する人物だというのが、私たちハルケギニア人たちの(暗黙のうちに了解された)共通理解である、だから、才人自身が起こす問題については、おそらく心配しなくてもいい。

 私たち3人についても、元々交流があり、お互いに信用できると踏んでいるので、この中での会話に気を使わなくていいので、その点は助かる。

 ここで予測される問題点を、あらかた洗い出せれば、大きな問題にならないはずだ、たぶん、たぶん……。

 

 だから、だからさあ、そんなに露骨に面倒で嫌そうで、またヴァリエールかって顔しないでよ、おふたりさん……

 

 

「それにしても、ルイズくん、君は母君に似てやんちゃじゃのう…… 別に本当に召喚するフリだけして、なんもせんでも進級させるように手配していたのじゃがなぁ。

 君の素行、成績、その他の優秀な実績、いずれも学園内外の、”ただただ小うるさいだけ”の連中を、黙らせるには十分だったんじゃよ?」

「母ともども、汗顔の至りです、オールド・オスマン。 友の期待とあっては応えないわけにいきませんでした、最低限、万事を尽くさねばと短慮を起こしました」

 

 

 言い訳がましいが、実際、タバサやキュルケの期待とあっては応えないわけにはいかなかったのだ。

 

 

「まあまあオールド・オスマン、幸いにして才人殿にも、生徒にも、施設にも被害は出ませんでしたし、あまりミス・ヴァリエールを責めるのは酷でしょう、

 私もせっっっっっっかく、召喚の儀式は、一切、全く、なにも、口を挟まずに見守っていたことが”無駄”になったとは思っていませんし、この程度で、ねぇ?」

「すみませんでしたぁ!」

 

 本当に何も言い返せないので平謝りだ、直情的で熱くなりやすい性格は損だ。

 才人の召喚についても、いわばこれは拉致誘拐をしたとも言えるし、いいとこなしだ。

 それでもまあ、タバサやキュルケの期待に応えたことは後悔していない、ここまでに私の体質の本質に気づかなかった私が悪いのだ……

 

 そうでしょう? オールド・オスマン。 今回の件でハッキリしたけれど、私は”文字通り”ゼロなんでしょう?

 そういう思いを込めて、頭を上げつつ、オールド・オスマンを見やる。

 

「……ルイズくん、気づいたんじゃな?」

「ええ、オールド・オスマン。 でも、この話はそう簡単にできなかった、でしょう?」

「そうじゃ。 そして、確かにそのことを……まあ確信が持てないのもあったのじゃが……黙っておったワシの落ち度もまた、大きいのう。

 しかし、今は責任の所在の追求より、ほかに話すべきことが盛り沢山じゃな、コルベール君、申し訳ないが、しばらくはよっぽどのこと以外は問わず、書記に徹してくれんか?」

「……了解いたしました、オールド・オスマン」

 

 

 コルベール先生も、私がやったことから推測される問題に思い当たり、私の進級とか、政治的配慮が台無しになったとか、そんな話をしている場合じゃないと気づいたようだ。

 いずれにせよこの話し合いは重要で、書記が必要だ、最初からある程度書いてくれているが、コルベール先生が本格的にやってくれるなら守秘や秘匿、改ざんも含めて書記を任せられる。

 

 

「とりあえず才人の世界って、メイジがいないにも関わらず、数百リーグ……そっちではキロメートルだっけ?……離れたところの食料や工業製品が数時間で、しかもひっきりなしに輸送されるし、

 たった数十リーグ四方の狭いところにウン百万の人が、数十メイル……そっちではメートルだっけ?……もある”垂直に細長い”高さの建物が、いくつも並んでるし、そこにひしめきあって暮らしているわけよね?」

「そうだよ、俺にとっては魔法のほうがよっぽどファンタジーだけど、そっちから見たら、こっちの方がよっぽどファンタジーってのは、そうかもなぁ」

「じゃのう、そんな国があったら、ハルケギニアでは覇権をとるのは簡単じゃな、メイジなぞという、つまらん人種に頼らなくて良いし、豊かで暮らしやすそうな世界じゃなあ」

 

 

 お互いに呼び方や喋り方が砕けているのは、信用できる4人しか居ないからだ。

 才人は彼の故郷……地球という惑星の日本という国……の一般庶民らしく、こういう腹芸は苦手なのか、現状の会話のやり方、くだけ方が、「我々はあなたを信用していますよ」って示していることに、気づいている気配がない。

 

 

「そうかもしれないな、俺も悩みや苦労とか人並みにあったけど、食うに困らなかったし、こっちで言うところの貴族に理不尽に処罰されるとか、物盗りや強盗を道行く他人に対して、ほとんど心配せずに暮らしてたよ」

「民主主義ってそんなにいいのかしら、私、貴族の特権なんて要らないし、そっちみたいに豊かになるなら、民主主義に今すぐ変えていきたいくらいだわ」

 

 

 まあ、民主主義にしたからと言って、現状のハルケギニアと相性がいいとは思えないけど、経済や工業その他の基盤があってこそでしょうけど。

 

 

「俺も政治や経済の仕組みや歴史について詳しくないから、もっと詳しいことはちゃんとした人に聞いてほしいけどね」

「その程度でも十分すぎるわ。 聞いてると地球の科学技術……まあそっちほどちゃんとしてないものは、こっちにもあるんだけど……ってのもヤバそうな雰囲気がしてるし」

「ほとんどそういうのに詳しくない俺でも、核兵器ってヤバいと思うもんなぁ」

「数千リーブル程度の重さの爆弾が、数百万の命を奪い、数リーグに渡って灰燼に帰すなんて、こっちだとおとぎ話の中にしか無いわね、魔法であっても」

「そんなものは、ほとんどホラーじゃな。 そのような兵器を突きつけ合うことで平和が維持できるというのは、こちらで言うとメイジ同士の消耗を嫌うがゆえに、平和を維持してるのと同じで、悲しい親近感があるのう」

 

 

 本当にホラーだ、そんな兵器を、まだ地球ほど成熟していないハルケギニアの、どこかの国家や、集団が持ったら、ハルケギニアが滅びかねない。

 

 

「俺ら庶民は、そんなこといちいち気にしたり、考えたりして暮らしてないですけどね」

「そこなのよ、才人、勝手に呼び出した上に苦労をかけて申し訳ないんだけど、あんたが気にしていない程度の、つまり庶民の知識ですら、こっちにとっては劇薬になりかねないわ。

 そんなもんだから、あんたを自由にはできないの、普段の振る舞いから、言動、その他、色々と制限をかけることになってしまいそうで申し訳ないわ……」

「そうか? 別にいいけど、どうなるんだ?」

 

 

 こいつこんなちんけな召喚事故で異世界なんていう恐ろしいところに呼び出されたのに、本当に気楽で前向きだ。 もうちょっと嫌そうにしたりしても誰もそのことを責めないのに。

 

 

「まだどうするかは決めかねてるけど、あんたの意思と尊厳を最大限尊重しても、軟禁するのが最善というのが現状の結論になってしまうのよ。

 もちろん、これはあってはならないことよ。 最大限あなたを元の世界に送り返す手段を模索しないといけないわ、それとそうね……」

 

 

 ここまでの交流中には適当な機会がなかったが、今こそ、その時だろう、オールド・オスマンと、コルベール先生に目配せする。

 

 

「まずは先んじて、ヴァリエールの名において、あなたにこの非を謝罪させてちょうだい」

 

 

 私は大きく頭を下げる。 それを見て、オールド・オスマンも、コルベール先生も頭を下げる。

 

 

「トリステイン公爵ヴァリエール家が三女、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールは、この度、己の不手際により、平賀才人に取り返しのつかないことをしてしまいました、

 あったはずの権利を奪い、不自由を強います、そのことを謝罪し申し上げます、平にご容赦を賜りたく願います」

「「同じく、オスマン(コルベール)も謝罪し、ご容赦を賜りたく申し上げます」」

「え、えええ? いや、頭を上げてくださいよ、俺もそんなに気にしてませんから」

 

 

 謝られた才人があたふたしている、どうやらこの国で偉い人の集まりだと薄々気づき始めたらしいから、余計に焦るだろう、そんな彼には悪いが、私たちなりのケジメはしておかなければ。

 だが、まあ、彼にとって居心地が悪そうなのも確かだし、私は程々で切り上げる。

 

 

「ま、あんま堅苦しいのは貴族の流儀だから気にしないで、ごめんって言いたいのはホントだからさ、才人」

「あ、ああ。 おっけー、許すよ、ルイズ、コルベールさん、オスマンさん。 それに、実はちょっとワクワクしてるんだ、こんなことになってるのにさ」

「……ありがとう、才人」

 

 

 庶民で無知というわけじゃなく、多分ある程度察したはずよね? 私ならこれ幸いにと色々要求する。

 明るくて前向きで、気遣いを察知したが、そのことを悟らせないように気遣いで返せるのは美徳だ。

 もしかしたら、私はとても良い使い魔を呼んだのかもしれない。

 だからこそ、ヴァリエールの屋敷に才人を軟禁してしまうのが一番だ、ということが心苦しい。

 屋敷から出られないこと以外は、ほとんど不自由させないつもりだが。

 

 

「おう! でもできれば折角の魔法があるような異世界なんだし、色々見て回りたいけど、どうにかならないか?」

 

 

 うーん、やっぱりそうだ、私なら自由に研究できる状況にさえしてくれれば、むしろ軟禁生活の方がいいとさえ思うけど、こんな感じの人ならそうなる。

 一応アイデアそのものはいくつかある、どれも採用できないものだが。

 

 

「才人が異世界人だってバレてさえなきゃ、私の従者ってことにすればいいかな。 相応の振る舞いをしてもらって、秘匿に気を使ってもらえば、それなりに自由にしてもらえると思う」

「お、いいなそれ、そうしようぜ、皆の前ではお嬢様と呼んで従者っぽくしたらいいのか?」

 

 

 才人の気づかせない気遣いに、私も同じような気遣いで返そう。

 

 

「呼び方はそれでいいとしても、なーんか、あんたちょっとそこらへん信用できないのよねぇ、ボロが出そうというか……」

「そうじゃのう…… とても腹芸が出来るように見えんのう。 ルイズくんが言えた義理じゃないが」

「プッ……」

 

 

 オールド・オスマンの余計な一言にコルベール先生が笑う、失礼な奴らだ。 私は彼らをキッと睨む、涼しい顔で受け流されたが。

 その様子を見て、才人も話を続ける。

 

 

「う、確かにそういうの得意じゃないけどさ、頑張るから!」

 

 

 よっぽどこの世界について好奇心が湧いたのだろう、才人がそれはもう表情を輝かせて力強く言う。

 こういう真っ直ぐさは嫌いじゃない、なんとかしてあげたいが、彼が思う以上に話は簡単ではない。

 

 

「うん、その意気を買うし、そうしてあげたいんだどさ、もう一個あったでしょ、あんたが異世界人ってバレてなきゃってのが。

 この学園の生徒は 『本当に卒業した後は統治者になるという自覚があるのか?』 って言いたくなる暢気なバカも多いけど、全員じゃない。

 中には勘が働いて頭も回るやつもいるし、その中には悪意をもった困ったやつがいる可能性は、否定しきれないのよね」

「ちょっとルイズくん、一応その学園の教員たちの前なんじゃよ、もうちょっとこう、言葉を選ぶ努力をだね……」

「事実でしょう? 学園長および一部教員の怠慢として正式に抗議してもいいんですよ?」

 

 

 いや、めちゃくちゃ嫌そうな顔をしていらっしゃいますけど、冗談ですよ? 本当に抗議はしません。

 単なるさっきからかったことに対する意趣返しです。

 

 

「まったくかなわんのう……」

「はは、貴族の世界って地球にも昔はあったらしくてさ、俺のイメージはよくなかったんだけど、現実には面白くて良い人たちなんだな。

 わかった、軟禁っていっても、気を使ってくれてるんだろ、受け入れるさ」

 

 

 本当に才人は聞き分けが良くて助かる、必ず帰してあげる方法を見つけてみせるという気持ちにさせてくれる、幸いにしてどうやら私は 「ゼロ」 なのだし。

 なんか伝説の魔法にそういうのあったりしないのかな? 本当に出来る可能性が私にはあるのだし。

 

 

「なんか悪巧みしてそうなところ悪いがのう、ルイズくん、提案がある。 才人くんとコントラクト・サーヴァントをしてみてはどうかな?」

「コントラクト・サーヴァント?」

 

 

 学園長の言葉の意味を一瞬取り損ねて呆ける。

 事情を知らない才人が不思議そうにしているが、私も似たような顔をしているだろう。

 やっと何を言われたか理解した私は、ジトッとした表情で学園長を睨む。

 

 

「……正気ですか? 彼は人間、ましてや我々が勝手に呼び寄せた、異世界の無辜の民ですよ?

 コントラクト・サーヴァントには、使い魔を意思なき傀儡としてしまう作用もあるのはご存知のはず。

 才人殿には比類なき利用価値……良くない言い方ですが……があるのは認めますが、私に才人殿の魂を侵す罪を背負えと?」

 

 

 意味を理解した私は、湧き上がる不快感を隠しもせず表現し、学園長にぶつける。

 だが、流石の百戦錬磨のオールド・オスマンは落ち着いた表情で受け止め、私に挑発という名の説得を試みる。

 

 

「そういう君だからじゃよ、コントラクト・サーヴァントは主人側が正しくコントロールし続ければ、使い魔側への精神への汚染はないはずじゃ、まさか君ともあろうものが、自信がないとでも言うつもりかの?」

 

 

 このジジイ、いけしゃあしゃあと……

 化け物! 妖怪! 悪魔! 数百年生きたせいで心を無くしたんじゃないのか? 心の中であらん限りの罵倒を込めて睨みつける。

 やはり、全然堪えた様子はないので、何か考えがあるのは理解できるが、感情的に許せない。

 その一触即発の空気に居心地悪そうにしていた才人が、おずおずと手を挙げる。

 

 

「あのさ、なんかよくわかんないけど、『俺に危険があるかもしれないけど、俺の自由のために、特別な魔法を使ってみたらいいんじゃないか』 って話をしてるんだよな?」

「え、ええ、そうよ」

 

 

 驚いた、才人は話のあらましを理解しているようだ。 やはり庶民であっても知的レベルは高い、この学園のボンクラ共と比べるのも失礼なくらいだ。

 

 

「その魔法は、下手を打つと命の危険があるようなやつなんだけど、ルイズがちゃんとすれば、特に問題はないってことで合ってるか?」

「君は優秀じゃな、才人くん。 そのとおりじゃ、そしてルイズくんは学園でもとりわけ優秀じゃからの、危険も心配も少なかろう」

「オールド・オスマン!」

 

 

 私の反対を無視して話を進めようとするな! 強引に進めて許される話じゃない!

 

 

「じゃ、やってください。 いや、これはルイズに頼むことなんだよな? じゃあルイズ、頼む」

「才人!」

 

 

 だからなんであんたはそんなに楽観的なのよ! そんな軽い話じゃないのよこれ!

 

 

「だってルイズって話したらすぐにイイやつって分かったし、しかもやる気も能力もあるってんなら、疑う理由がないじゃないか。

 ちょっと危ないってだけで自由になるなら、ルイズに命あずけるくらい、なんてことないぜ、頼まれてくれ」

 

 

 ……殺し文句だ、キュルケならその場で火遊びに誘うレベルだ。

 はあ、参ったわね、とりあえず説明の義務を果たしましょう、それでこいつが諦めてくれればいいけど……

 

 

「才人、コントラクト・サーヴァントとその周辺の知識を説明するわ、しっかり聞いて、しっかり吟味してちょうだい」

「おう!」

 

 

 あまりに軽くて力強い返事に不安になる、諦めそうにないなこいつ……

 

 

「まず先に説明するけど、私が召喚したのは別の使い魔じゃなくて、あなたが召喚された使い魔なの、あの場を誤魔化すために嘘をついたけどね。

 ハルケギニアに来たばかりのあなたにはピンと来ないでしょうけど、これは異常事態よ、まず召喚の儀式で人間を呼ぶってのが前例がない。

 そして、異世界からの召喚っていうのは前例どころか、そもそも異世界と繋がることそのものが、歴史を見ても聞いたことも見たこともないことなの」

 

 

 まあ、ゼロの伝説が本当なら、まさに前例どおりの結果ということになるが。 それは今の説明には関係ない。

 

 

「なるほどな! つまりルイズは常識や前例をいくつもぶち破るほどの天才ってわけだ」

 

 

 前向きか! ダメだなこれは、どうあっても勝てる気がしない……

 

 

「……話を続けるわよ、それでまあ、普通は人ほどの知性がない使い魔が呼ばれるから、使い魔を魔法で強制的に使役しても問題になりにくいわけ、

 だから、呼び出した使い魔と、コントラクト・サーヴァントという魔法で契約を結ぶの、契約を結べば主人の側が圧倒的に有利になるわけね、文字通り下僕にできるほどに」

「ふーん、でも別に、ルイズなら使い魔を下僕なんかにせず、大切にするだろ? 例えそれが人間でなかったとしてもさ」

 

 

 こいつ! だから! いちいち! 私を! 口説くな!

 

 ……昨夜のキュルケみたいなことを考える程度にはちょっと赤くなる。

 そしてあたふたしてる私を見てニヤニヤしてる教員ども、後でしばく。

 

 

「……そうかもしれないわね、使い魔を持ったことがないからわからないけど。

 私以外を見ても大抵のメイジは使い魔を大切にするわ、それには理由があって、使い魔の契約は一生に一度だからなの。 どちらかが死んでしまった場合を除いて破棄できないのよ。

 コントラクト・サーヴァントは、そういう生涯の絆を結ぶ意味合いを込めて、召喚の後にキスを……そうキスを……することで成されるわ」

 

 

 私は言いながらそのことに気づいて勢いが弱くなる、知っていたことだが、改めて認識するとキスすることになる。

 

 

「え! キス!? いやそんな…… 他に方法はないのか?」

 

 

 いや、キスより死ぬまで契約が破棄できないことを気にしなさいよ……

 

 

「……ないわね、というか人間が呼ばれることなんて無いから、あんまり気にすることもなかったのよ」

 

 

 そうだ気にすることもなく、すっかり失念していたが、実はファーストキスだ。

 初心なことを受け入れ諦めていた私よ、なぜキュルケに恋愛を指導してもらって、納得できる程度の男を捕まえて、ファーストキスを望んだ形で終えておかなかったのか、後悔先に立たずである。

 才人みたいな男なら、キスするのは別に嫌悪感はないが、こんな形でしてしまうのはお互いのために良くない気がする。

 

 

「なあ、ルイズ。 トリステインの文化に詳しいわけじゃないけど、キスって特別な意味があるんだろ? 嫌なら俺は諦めるぜ」

「ありがと、才人、別に嫌というわけではないわ。 とりあえず、説明を続けるわね。 最後まで説明を聞いて、お互いによく考えてから決めましょう。

 コントラクト・サーヴァントをしたら、使い魔と精神的に繋がるの、使い魔の見ているものが見えたり、聞こえたりね。

 さらに使い魔の精神を侵すことができるの、さっきオールド・オスマンと揉めていたのはこれが原因ね、親愛の情を抱かせたり、記憶をいじったり、やりたい放題できる」

「確かにそれはゾッとしないな」

「でしょ? たとえ人間相手でなくても、冒涜的なことだと思う、もちろん私はする気はないけど、意識的にコントロールが出来ない可能性だってある。

 才人は人間だから、なおさらね、才人にそうしてしまったら、私は自分を許すことが出来ないわ」

 

 

 そうだ、私は手段はあまり選ばないつもりだが、正当性は選ぶつもりだ、結局のところ、正当性のない人間は強くて長い統治をできない、何らかの形で潰されるからだ。

 それに、そもそも私は自分の信念を理由もなく裏切って生きるのは嫌だ、家族に、友に、自身に顔向けできないやり方はしたくない。

 

 

「なんだ、ならやっぱり問題ない、ルイズは意図的に悪いことはしないだろうし、意識的にコントロールできないってのも、ルイズが心配性なだけみたいだし。

 俺とのキスが嫌じゃないなら、そのコントラクト・サーヴァントとやら、やろうぜ。 俺も女の子とキスしたことがないから役得だな!」

 

 

 おのれ! 爽やか野郎代表か! こいつめ! ちったあ危機感を感じろ! 人をそんな簡単に信頼するな!

 ……まあ、止められないことは予測していたから、お互いに望ましかったかどうか、わからないままなのは仕方ないと割り切る。 だけど、とりあえず確認だけはしておいたほうがいい。

 

 

「才人、わかったわ、やりましょう。 だけどその前にオールド・オスマン、なぜコントラクト・サーヴァントを結べば彼を自由にできると考えたのですか?

 その見通しが甘いと少しでも思えた場合、この話はなかったことにさせていただきます」

「もっともじゃな、じゃが、シンプルに答えてしまうと、おそらく才人くんは契約によってガンダールヴになるからじゃ」

「ガンダールヴ?」

「っ……」

 

 

 思わず私は絶句する、確かにそうだ、酷い見落としだ。

 私がゼロである以上、そうなるのは当然の帰結だ。

 

 

「失念していました。 ですが! 仮に私が本当にそうだとして、彼がそうだとしても、結果として彼に非凡な戦闘能力が与えられるだけです。 杞憂は依然として残り、自由にできる理由になりません!」

「なぜじゃ? 最初から問題はその身を狙われる程度に 『危ない爆弾』 の安全管理の話じゃろう。 爆弾そのものが問題なく自衛できるなら、爆弾の好きにすればよかろう?

 なにせ、”あの”ガンダールヴじゃぞ?」

 

 

 このジジイ! 本気で心を無くしたのか!

 

 

「話にもなりません! 流石のオールド・オスマンも長い年月を経て耄碌したと見うけます。

 コントラクト・サーヴァントがもたらす彼に対する冒涜的な危険、彼の価値を狙った彼の身体的な危険に対しては不十分です。

 さらに、真偽は不確かですが、心を操る魔法があることを考えれば、彼が情報を引き出すために心を壊される危険もある。

 そのような数多の危険に、自国どころか、自世界ですらない無辜の民を晒すなどと!」

「問題があるかの? 我々を批難するべきニホンとやらはこっちに来る手段を持たんし、そもそも問題があると知らんままにおるじゃろ。

 それならば、いちばん大事なのは本人の意思じゃが、それも才人くんは別にいいと言っておる」

「この妖怪ジジイ!」

 

 

 目の前がカッとなる、尊敬できる人物だと思っていたが、まさかこんな愚か者とは。

 目を閉じ、拳に力を込める、目を開くと同時に地を蹴り、この化け物に制裁を加えるべく飛びかかろうとして……

 その手をつかまれた、振り向くと、才人が穏やかな顔でこちらを見ていた。

 

 

「ありがとう、ルイズ。 俺のためにこんなに怒ってくれて、嬉しいよ。 でもさ、オスマンさんの言うとおり、俺が望んだんだよ。

 俺はこの世界に来た以上は俺の出来ることをしたい。

 ルイズは絶対に偉い人になって、トリステインを、ハルケギニアを変えるべき存在だと思う。

 そのためにさ、俺は力になれるんじゃないか? いや、なってみせるよ。

 だからさ、やろうぜ、コントラクト・サーヴァント。 なんならルイズみたいなのに下僕にされるってのも、悪くないかもしれないしな」

「……才人」

 

 

 なんという人たらしなのだろう、私は幸運だ、家族に友人、さらには使い魔にまで恵まれるのか。

 才人の覚悟を聞いて、一気に心が決まった、彼も私の野望に付き合ってもらおう。

 短い付き合いだが、確信できる、彼は私と共に歩むことが出来る立派な、私には過ぎた使い魔だ。

 

 

「ホントは私とキスしたいだけじゃないの?」

「バレたか」

「……ありがと、才人」

「こっちこそ」

 

 

 才人は悪そうな顔をして笑った、憎めないやつだ、これは人たらしだろうな。

 

 ちゅっ。

 

 悪くないファーストキスになった、誓いのキスなんて、ロマンチックじゃないか!

 ……誓いの意味がそういうことじゃない気もするが。

 

 

「つっ!」

「才人!?」

 

 

 突如、才人が左手を抑えて苦しそうにしている、いきなりやってしまったのか!?

 

 

「慌てなさるな、ガンダールヴのルーンの発現じゃろう、コルベール君、確認を」

「はい、才人さん、落ち着いたら左手を拝借しても?」

 

 

 才人は説明で落ち着いたのか、左手に新たに浮かび上がったルーンを一瞥したあと、コルベール先生に左手を差し出した。

 良かった、悪いことがあったわけじゃなくて、予測通りの結果になっただけなのね。

 

 

「ふむ、見たことがないルーンですが、これがガンダールヴのルーンなのでしょうな…… はい、書き留めました、後で図書館で確認してきましょう」

「それでよかろう。 さて、平賀才人殿、ミス・ヴァリエールの使い魔になってくれてありがとう、君の気高さに感謝を」

 

 

 さっきまでの飄々とした雰囲気をすっかり消して、神妙な雰囲気を出してオスマンが謝辞を述べる。 コルベール先生も続く。

 

 

「私からも、ありがとう、ミスタ・平賀」

「いえ、それになんだか面白そうですし」

「君は本当にポジティブじゃの…… さて、おめでとう、ミス・ヴァリエール、良い使い魔を得たの、進級も文句なしでクリアじゃな」

「おめでとう、ミス・ヴァリエール」

 

 

 やられた! 才人と私が気が合って、こうなることを読んでやがったな、このジジイども!

 

 

「……ありがとうございます、オールド・オスマン、コルベール先生、特別なご配慮、感謝の至りです」

「なに、若いもんのラブシーンも見られたし、感謝するのはこっちじゃよ、な? コルベール君」

 

 

 このジジイ、やっぱ吹っ飛ばそうかな?

 コルベール先生と才人は苦笑している。

 

 

「おお怖い怖い。 さて、他につめておく話はあるかの?」

 

 

 涼しげな顔で流して、締めるところは締めてくる。 やはり、まだしばらく、この人には勝てそうにないな。

 

 

「……僭越ながら、対外的に話していいこと、嘘を付いておくべきこと、またその嘘の内容、公の場での才人の言葉遣いをどうしてもらうか、

 彼が気をつけるべきこちらの常識・法律の説明など、枚挙に暇がないと思いますが?」

 

 

 私の列挙に、才人が 「うげ、そんなにやることあるのか……」 と、ボヤいている。

 

 

「おお! そうじゃそうじゃ、歳を取るとついさっき考えていたことすら思い出せなくなってのう」

 

 

 流石にわざとらしすぎよ! まあ負け犬の遠吠えね。

 コルベール先生が続ける。

 

 

「そうですなぁ、そこら辺はこの後に詰めましょう、なに、こういうのは我々貴族の日常茶飯事ではありませんか、簡単な部類であるとすら言えますな」

「そうそう、あと、ルイズくんは才人くんの心配ばかりしておるが、君自身の問題もあるんじゃぞ」

 

 

 そうだ、失念していた、伝説が本当なら、私は才人の世界で言えば歩く核兵器キャリアーだ。

 伝説通りなら、自分の意志で移動して場所を取らず、秘匿も簡単で連射も可能らしいと、威力はともかく、性質の悪さで言えば核兵器とやらの比ではない。

 

 

「そうなのか、ルイズ?」

「うむ、常識破りの天才という君の言葉のとおり、彼女はとびきりなんじゃ」

「とびきりなんて生易しいもんじゃないですよ、この事実、秘匿するしかないじゃないですか……」

 

 

 私がもし、自分のような「ゼロ」の立場の人間をどう扱うかと聞かれたら、軟禁でもまだ生ぬるいと答える。

 いっそ殺すか、危険覚悟で取り込んで利用するか考えて、その中から状況で最善の答えを述べるだろう、政治的に。

 またいずれの場合でも、そうするに際して、公爵の娘として、当然手段は問わないだろう。

 私でさえこうなのだ、悪辣な人間なら、何をするかと想像すると、背筋が凍る。

 

 

「そうじゃのう、当面それで良いが、勘の良いものはおる、隠しきれるものじゃないじゃろうな」

「頭が痛い、泣きたい、おうちに帰りたい……」

 

 

 あまりの事実に、私はすっかり現実逃避をしたくなっていた。

 

 

「えっと…… 頑張れ、ルイズ、俺も付き合うからさ」

「しゃっきりせんか、ヴァリエール家で一番の才女。 全部考えておかにゃ、困るのは後のお前さんじゃぞ」

 

 

 そうなのだ、ここで全部決めてしまわないといけないのだ、はあ、この交流会議は深夜までコースかしら。

 すみませんオールド・オスマン、コルベール先生、私のためというのもあって、才人との契約を薦めたんですね、カッとなって怒りましたが、理知的な判断だと思います、本当にご迷惑をおかけします。

 そしてごめんなさい才人、私のために、大変なことに巻き込んでしまったわ、けど、その分の責任は果たすわ、ブリミルに、いえ、我が名に誓って。

 

 

 ……結局、その後解散したのは、夜もたっぷりと更けた後だった。

 




 原作ゼロ魔ではコントラクト・サーヴァントをしていないと、異世界の言葉を理解できたり、喋ったり出来ない設定だと思いますが、当作品では召喚の鏡をくぐった段階である程度契約が成立しており、言語による相互伝達に問題がなくなっているとさせていただいております。

 書いていてすごく楽しい場面だった、自分にとって感じられる種類の良さがあるように思う。
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