話のほうは、前の話の学園長室のその後のシエスタ、サイト、タバサ、キュルケ、ルイズのやりとりで、6500字程度です。
ヘトヘトになるまで話し合ったあと、部屋に戻った私と才人を出迎えたのはあったかいお布団でも、ホッとするお茶でもなく……
それを提供してくれるはずであった、「私、怒ってます」と全身で表現しているメイドだった。
「ルイズさん、なんで一声私にかけてくださらなかったんですか!?
こんなに遅くなるなら食事の一つもご用意できました!
お茶やお茶菓子だってあなた方が用意するのよりも良いものができました!
さらによく見ればその服、汚れているじゃないですか!
お客様の前でそんな格好で舐められたらどうするんです!?」
捲し立てるように怒る、彼女の名前はシエスタ、表向きはこの学園に勤務する、家事や炊事などの雑事をこなしてくれているスタッフだ。
どうやら、私がいつものように彼女に回すべき仕事を回さず、その上で私がするべきことをサボったことを糾弾しているようだ。
才人が隣で 「すげぇ、本物のメイドさんだ!」 と、楽しそうにはしゃいでいて、援護射撃は期待できそうにない。
チラと横を見ると、タバサが心配そうに、キュルケが面白そうにこっちを見ている。
……ちょっと、こういう時のシエスタへの説明となだめる役はあんたらでしょうが? なんでちゃんと仕事してないのよ。
え? 今回ばかりはあんたらもシエスタの側? 怒ってる?
……ごめんなさいでした。
目線だけで彼女たちと会話していると、それに気づいたシエスタが、怒っていても映える美人な顔を、さらに怒りに歪めて怒鳴る。
「聞いてるんですか、ルイズさん! こっちは心配したんですよ!」
「ごめんなさい……」
彼女の学園スタッフとしての顔は、表向きであると言ったが、真の顔は、我がヴァリエール家に雇われた……密偵を兼ねた私専属のメイド……というものである。
その縁で、昔から私の身の回りの世話もしてくれており、私は彼女に頭が上がらない。
「まあまあシエスタ。 ルイズも疲れてるみたいだし。 新しいお客様もいらっしゃるみたいだし。
とりあえずお茶とお茶菓子でも用意しましょうよ。
シエスタが用意してくれないと私たちてんでダメなのよお。
私もそろそろシエスタが”ちゃーんと”入れてくれた、おかわりが欲しくなってきたのよねえ」
「うん、追求はその後でもいい」
あの、あのあの、それは後から追求するってことですか? そんなに怒らなくてもよくない?
「それと、紹介を私たちの茶番の後に回してごめんね。
はじめまして、ミスタ・ヒラガ、私はキュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストー。
キュルケでいいわ。 そこのちんちくりんの保護者ね」
やかましい、誰がちんちくりんじゃ。 保護者ってのも否定しきれないところがあるのが、またムカつくわね……
「私はシャルロット・エレーヌ・オルレアン、わけあってタバサと名乗ってる、そう呼んでほしい。 ルイズの友人をしてる」
何でもないように、突如自分の正体につながる名前を名乗るタバサに私は瞠目する。
「タバサ!? いいの!? いや、才人は信頼できそうなやつだって私も思うし、私も才人のことには責任を持つつもりだけど、いきなり!?」
私たち4人の間では既に周知の事実だが、彼女が本当はガリア王ジョゼフの姪である。
タバサと偽って名乗っている話は、よほど信頼していないと彼女はしてくれない。
そんな彼女がいきなり才人にそのことを話ししている。
彼は私の使い魔であり、召喚の儀式でのイメージは悪くないとはいえ、私は驚きを隠せない。
「いい、使い魔は主人を写す鏡、ルイズを信頼してる」
彼女はなんでもなさそうに答える。 私に対する全面的な信頼が面映い。
……狙ってやってたらすごい悪女だが、彼女の場合は素だから恐ろしい。
「そう、ありがとう、その信頼に答えるわ」
私たちのやり取りが一通り終わって、落ち着くのをしっかり待ってから、シエスタが優雅に一礼する。
「シエスタ、ただのシエスタと申します。 当学園のメイドを務めさせていただいており、お三方とは懇意にさせていただいております」
流れるように美しい所作と喋り方だ。 私たちと一緒に過ごすうちに、私より貴族らしい振る舞いが様になってしまった気がする……
「ありがとう、キュルケ、タバサ、シエスタ。
シエスタ以外は召喚の儀式の時にいたよね?
だから俺の名乗りを聞かれてたのかな?
知ってるみたいだけど、俺は平賀才人、ルイズの使い魔をやらせてもらうことになった……」
才人も、この集まりでは形式ばらなくてもいいと気づいたらしく、彼らしい快活な挨拶を返す。
が、途中で自分がどこまで喋っていいか判断に困ったのだろう、こちらを見る。
そうそう、上手くちゃんと秘匿しようと出来てるじゃない。
「このメンバーなら信頼できるわ、喋ったらいけないこともないし、思うように喋っていいわよ」
「おお、そうか。 地球って異世界……だと思うところからやってきた、君たちと同じような、でもあっちではありふれた学生なんだ、よろしくな」
あいも変わらず嫌味のない爽やかさで如才なく挨拶をこなす才人に、乙女3人が沸き立つ。
「まあまあ! こんな優しげだけど熱そうなイイオトコを使い魔にするなんて、ルイズには教えることがたくさんあると思ってたけど、もう免許皆伝でいいわ」
「黒髪黒目、シエスタと同郷の人?」
「いえ、お見かけしたことがないと思います、ですよね?」
「そんな出身がどこなんて細かいことを気にしてどうするのよ。 それより、才人、どう? 私と今夜一晩遊んでみない?」
ちょっと、主人の前で、会ったばかりの使い魔に、堂々と色目使うんじゃないわよ。
確かに才人はキュルケから見ても悪くない容姿と性格をしているが。
「キュルケの相手を真面目にしなくていい。 そんなのより人間の使い魔。 変わった風貌。 異世界人。 もっと身の上を教えてほしい」
「そんなのってなによ! まずは情熱的に相性を確かめて、そのあとはバッチリ信頼してお互いを深く知る、ふつうのコトでしょ」
「キュルケちょっと黙って。 それに才人の服のこの縫製、見たことがない。 興味が尽きない」
「タバサさん、そういうのをいきなり伺うのは不躾ですよ。 あと、才人さん、とりあえずお茶とお茶菓子をご用意しますので、好みがあれば伝えてください」
「え、えっと……」
女3人寄ればなんとやらと言うが、我が友人たちも例外ではなかったようだ、才人はあっという間に女子パワーに押されている。
心なしか、系統の違う美人に囲まれて鼻の下が伸びている気がしないでもないが、まあ年ごろの男の子なんてそんなもんだろう。
女の私から見ても、彼女たちはとびきりの美人だしね……
「はいはい、事の顛末や事情説明もしたいし、才人への質問はその後にしてちょうだい、シエスタ、防諜は?」
曲がりなりにも公爵三女でイケイケな私には、潜在的なものを含めれば敵が多い、用心のためにシエスタに防諜を頼んでいる。
私の部屋の掃除をしてもらうついでに、変化や痕跡から第三者が部屋に出入りしていないかを見て、そこから判断できるのだ。
「問題ないです、いつもどおりですね。 ……ですので安心して、きちんと。 過不足なく。 虚偽なく。 細大漏らさず。 ご報告ください、ルイズさん?」
うっ、まだ儀式とその後の対応のことを怒ってる……
「うう…… 仕方ないじゃない、あまりにもたくさんの問題が予測してない角度からやってきたんだもの」
「そんなことは先刻承知です。 一言、私でもタバサさんでもキュルケさんでも、言付けておくこともできなかったのですか?」
そのニコニコしながら怒るのやめて! 怖いから!
その様子を見た悪友二人が寄ってきてさらに言う。
「目だけで追い出された。 その後も一言も連絡なし。 気づけばこんな時間」
「そうだそうだー、友人に対する扱いの改善を要求するぞー!」
孤立無援! 包囲されている、持ちこたえられない! 援軍を要求する、才人!
「ま、俺らが悪いよな。 事情があったとは言え、友達に一言も告げず、蚊帳の外にしてオスマンさんたちと話し込んで、やきもきさせたんだから。 ごめんな皆」
裏切り者ー! しかも自分だけうまいこと立ち回りやがったー!
「ほら、才人さんもこう言ってらっしゃいます。
私たち、今日はちゃんと交代で昼寝もしましたし、徹夜をする準備もありますから、
……ちゃんとお聞かせいただけますよね?」
「はい……」
いや、元々ちゃんと説明するつもりだったからそう睨まないで……
シエスタには頭が上がらないなぁ。
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あらかたの才人をめぐる、こちらの事情説明を終えた後、私たちはタバサとキュルケの召喚した使い魔について聞いた。
二人の使い魔は主人の近くで寝そべっている、夜も遅いし、おねむなのだろう。
キュルケは立派で、しかも可愛らしいサラマンダーを召喚したようだ。
フレイムと名付けてめちゃくちゃ可愛がっており、既に主人バカの片鱗を見せている。
対してタバサはなんとイルククゥと名乗る風韻竜を呼んだらしい、これはこれで才人ほどではないが、問題だ。
風韻竜は人間と同様に言葉を操る知性体で、先住魔法も使える高度な生物だ。
捕まえようとしたり害したりしようとする動機は存在そのものに十分にある。
このことを公言するのはイルククゥ、ひいてはタバサにとっても良くないと判断し、仮の名としてシルフィードと名付けてそう呼ぶようだ。
また、シルフィード自身も人前で喋らないように伝えたらしい ……若干幼い雰囲気のある子で、なんだか心配になるが。
いずれにせよ、この中の誰も情報戦に強そうな使い魔を呼んでいない、立派で強力な使い魔たちには悪いが、ままならないものだ。
「しっかし、ゼロのルイズって悪口言ってた連中はどう思うでしょうね、文字通り”ゼロ”のルイズだってわかったら」
「そんな凡百の連中のことはどうでもいいんだけど、才人のことも私のことも、勘のいいのにバレたら、どんなひどい目に遭うか、考えたくもないのよねぇ」
妬まれるくらいなら特に実害はないし、別にどうでもいい。
ただ畏怖や崇敬までいっちゃうと、何をしでかすかわからないのが人間だ。
「私もルイズじゃなかったら、怖くて近寄らないくらいの衝撃」
「近寄らないだけなら優しい部類よタバサ、私ならゼロの使い手なんて、籠絡して虜にするか、殺すわ」
実際、私がタバサの立場なら私を籠絡することを狙う。
リスクはあるが、せめて友人として、そうするくらいしか良い案が思い浮かばない。
というかタバサには、そういう政治的な判断とは違う感じで、人を籠絡しそうな感じがある。
天然って強いわよね……
「薄々そうだとは気づいてたけど、ルイズってちょこちょこ怖い感じあるよな……」
「そうなんですよ、才人さん。 でもルイズさんのあれは悪ぶってるだけですから」
「あー、やっぱり?」
「そこの黒色コンビ、うるさいわよ」
私は立場上、必要に迫られたら悪い事の一つや二つ、やる。 ……ほんとよ?
「今日はもう遅いからもう解散にするつもりだけど、明日以降はアルビオンの件について話し合うわよ」
「アルビオン?」
才人が知らない単語だぞ、と訴えてくる。
「アルビオン王国。 3000メイルの上空に文字通り”浮かんだ大陸”を基盤とする国家よ」
「え! なにそれ!? まんま天空城じゃんか、さっすが剣と魔法のハルケギニア!」
こいつ本当になんでも楽しそうにするなー。 皆に微笑ましそうに見られてるわよ。
「情報戦に強い使い魔、出なかった」
「そうよねぇ、誰か一人でも情報戦に使える使い魔を使役できれば、一挙に作戦を立てやすくなるんだけど」
そうなのだ、結局のところ、リターンもリスクもバカみたいに大きくて取り扱いに困り、頭を抱えたくなる要素は山盛り増えたが、手堅い手札は増えなかった。
にも関わらず、目下、もっとも私たちが解決すべきだと、意見を一致させた問題に向き合わなければならない。
「才人には悪いけど、細かい説明も含めて明日以降に回すわ、寝させてちょうだい」
この時間は本当に眠くて辛いのよ……
「おう、興味はあるけど明日以降でいいぜ! ところでどこで寝ればいい? そこの藁か?」
「あっ!」
そうだ、一般的な使い魔が来る可能性も考慮して藁を敷き詰めた寝床はあるが、人間が寝るにはあんまりだろう。
「あー、あー…… もう疲れた、考えるのめんどい。 私が藁で寝るから才人はベッド使って寝てちょうだい」
それくらいはまあいい、やんちゃしまくって育ったので、野宿にも慣れている。 野宿よりはよっぽどマシだ。
「「「「それはダメ(です/だ)!」」」」
4人が声を揃えて叫ぶ、それで問題ないと思うが、また私何かやっちゃった?
「横着やめたほうがいい」
「もうちょっと貴族らしく振る舞うってことをしなさいよ。 見てて恥ずかしくなるし、舐められるわよ?」
二人の言い分はもっともだ、だが今は本当に面倒……
「二人の言うとおりだ、そんなことをされるくらいなら、俺が藁で寝たほうが気が楽だ、やめてくれ」
「そうですよ! それにとりわけ重要なお客様の、才人さんにだってそんなことはさせられません。
ちゃんとタバサさんから人間の使い魔が呼び出されたことは伺っていましたし、使用人の部屋を手配してあります。
用意したのに使ってもらわないと、徒労になって困ります」
「あら、それはありがたいわね、じゃ、その空き部屋の場所を教えてちょうだい」
今はその気遣いがありがたい、一応年頃の少女である私は、既に限界いっぱい眠たいのだ。
「だからなんでそんなに危機感がないのアンタは! 才人がそっちに移動するに決まってるでしょ!
あ、いや、才人を追い出したいわけじゃなくてね?」
「いや、異世界人の俺でもわかるよ…… これはルイズが変なんだろ?
そもそも男を、しかもまだ知り合って間もないヤツをなんで自室に泊めるんだ?
何されるか、わかったもんじゃないだろ」
「もっと言ってやって」
キュルケが珍しく少し本気で怒っている、こいつが真面目に怒るというのはよっぽどやらかしたらしい、そんなにまずいかな?
別に盗られて困るもんもないし、才人は短い付き合いだが、そういう困ったことはしないだろうとわかる。
「”ええ、いいじゃん別に……”みたいな顔しないでくださいよ。 ルイズさんそんなんだから、お子様とか言われちゃうんですよ。
私もまったく目が離せいないし、ほっとけませんよ……」
「あー、ごめんって、悪かったわ、素直に従うし、全部任せるわ、シエスタ」
まあ自分の上司がシャンとしてないと困るってのはわかるが、今は身内しかいないようなもんだし、楽にさせてほしくもある。
……まあ自分の場合は度が過ぎているから怒られるのだろうが。
「最初からそうやって素直にしてくださいよ、ではまず才人さんをお送りしてきますね」
「よろしく頼むよシエスタ、個室?」
うん、今になって自分がいかにおかしいか気づき始めた。
彼は男の子だから、別に何もしない善良な人物と知っていても、そもそも部屋に泊めることを気にしないのがまずいのだ。
……そりゃ皆怒るわ。 諦められてるフシがあるが。
「残念ながら4人部屋です。 ただ、同室の方たちは、私が自信を持っていい人たちだと言えるので、そういった心配はされなくて大丈夫だと思います。
それでも、なにか変なことをされたり、言われたりしたら伝えてください、マルトーさんに言って締めてもらっておきます」
マルトーさんはこの学園の食事の一切を取り仕切っている凄腕の料理人だ。
シエスタの言うとおり、心優しいが、強面でいかつく、怒らせたら怖い、才人相手に問題を起こすやつの心配はしなくていいだろう。
「はは、大丈夫だよ。 シエスタが推薦してくれる人なんだから安心してるさ」
「ふふ、ご案内しますね」
わかっていたことだが、このさりげない会話に、シエスタの使用人内におけるヒエラルキーを見た気がする……
二人が出ていくのを見送ってから、残ったキュルケとタバサが私の前に立つ。
「さて、私たちも自室に戻るわ、じゃあね、おやすみルイズ」
「おやすみ」
「ええ、おやすみなさい、二人とも、今日はありがとうね」
「構わない」
「構わないわよ」
二人も、私に挨拶を終えると部屋を出ていく。
本当に今日はたくさんのことがあった。
才人のこと。 異世界のこと。 そしてガンダールヴ。
私自身も虚無の使い手だということ。 これからのこと。
考えなければいけないことはたくさんある。
明日はそれらと向き合うという決意をしながら、私はベッドに倒れ込む。
着の身着のままだが、もう限界だ。
ベッドについてすぐに私は深い眠りに落ちた。
シエスタも出てきました、彼女には最初からヴァリエール家つきの訓練されたメイドで、ルイズの身の周りの調査員であると同時に、身の回りの世話までしてもらっている重要な立場になってもらいました。
密偵としての仕事だけでなく、暗殺もある程度の訓練を積んでおり、使用人関係の人脈もある、といったような 「強い」 キャラクターになってもらっています。
合間の説明的シーンですが、なんとか面白く書けるよう苦心しました。