もしルイズに公爵令嬢としての余裕があれば   作:売ル座布団

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 くどいまでの感謝を、ご訪問ありがとうございます、6話です。

 話としては、前話のギーシュとの決闘の後の夜、再びの5人での相談会です、9000字程度で少し長めです。


タバサとガリア王、二人の因縁と確執

「全力はどれくらい速い?」

「んー、おそらくだけど、ギーシュとの決闘の倍くらいの速度が出るんじゃないか?」

 

 

 昼にギーシュと決闘した時に、才人はガンダールヴの力を、体感4~5割くらいで振るっていたらしい。

 あれが初めての発動で、習熟の問題があるから、全力はそんなものだろう、というのが才人の考えのようだ。

 

 

「とりあえず、決闘の時は静止した状態から、体感だけど0.1~0.2秒くらいで、目測20メイルの距離を詰めてたわ。

 単純に倍だとすると、少なく見積もっても1秒で200メイルの距離を詰めることになるし、少しでも大きく見積もったら音速を超えるわね」

「音の壁ってぶつかったら痛いかな?」

 

 

 地球人らしい、よくわからない疑問を持っている、しかしその話は今はする必要がない。

 

 

「力の方も近場で見つけた、目測50サント前後の岩で試してもらったけど、ただの数打ちの剣で、大根でも切るみたいに切ってたわね。 切断面もなめらかでキレイだったわ」

「わーお、石大工になれば食いっぱぐれないわね」

 

 

 音速で戦場を行き来して、鎧ごと相手を切り裂くような存在なら、伝説のように万の軍勢だろうが相手にできるだろう。

 防御力は私たちメイジとそう変わらないみたいなので、熟達したメイジを被害覚悟で数十人ぶつければ倒せるだろうけれど、非メイジはもちろん、メイジでもある程度の力量がなければ何人居ても傷一つ負わせられないはず。

 

 伝説においては通常の軍勢や、虚無の使い手と連携して運用されていたことを考えると、まさに一騎当千、いや一騎当万だなと思う。

 

 

「ただ問題は、あんまり使いたい力じゃないってことなのよね、私の魔力を持っていってる感じもあったし、才人もなにか生命を削るような良くない感じがするって」

「それは無視できない問題ですね、命や身体に代えてまでやることではないです」

「まあそんな感じがするってだけで、本当に危ないかどうかは、わかんないけどな」

「あら才人、楽観的ね。 アタシの微熱だって、そういう楽観さがなければ燃え上がれないから、好きよ。 でもね、だからこそ、そこには微熱を発揮する必要はないわ、いい?」

「キュルケに賛成。 緊急時に限定すべき」

 

 

 私も、才人には無理してまで、ガンダールヴの力を使って貰おうと思わない。

 ガンダールヴにそのような弱点があるというのは、伝説にはない。

 しかし、人が伝えたものなんだから、都合の悪いことは隠されていると考えていいはず。

 

 

「まあでも、どっちにしろ当面のアルビオンの話に、才人の能力を活かすことはなさそうだから、現状はこれ以上深く考える必要はないはね。 使わないってことにしましょ」

 

 

 うん、ちょっと危ないかもしれないが奥の手がある、くらいで十分有効な運用方法のはず。

 

 

「そうねぇ、偵察をしてもらうには隠密系の能力じゃないし、戦力として立ち回ってもらうにも、才人が死んじゃう危険も普通にあるしねぇ」

「しかも俺、人を殺すことがめちゃくちゃ重たい日本で育ったから、そういうの嫌だな…… こっちじゃ仕方ない場面も、あるかもしれないけど」

「まあ平和で豊かだとそうなるわよね。 こっちでも平和ではあったから、人を殺すのは嫌に感じるものよ。

 しかも才人の場合、戦いになってしまえば、嫌でもたくさん殺してしまうことは避けられなでしょうね」

 

 

 その意味でも、やはり強すぎる力というのは使いにくい。

 ”その力がある” という形で抑止力にするのが一番だが、現状、私も才人もそんな風に、力があることを表明したら、謀殺か暗殺されるかして、消されるのがオチだ。

 

 

「で、そのアルビオンの話なわけだけど、まず才人に説明が必要ね」

 

 

 昨日は色々あって、当面の課題である、アルビオンの話に触れることが出来なかった。

 

 

「アルビオン王国、昨日話したとおり空に浮かぶ大陸にあるわ。

 始祖ブリミルの子供の一人が興したという、歴史ある王国の一つよ。

 ちなみにトリステインとガリアもそうね、だからトリステインやガリアとも親交がある。

 だけど、どこも歴史しかなくて、アルビオンともども、カビの生えた諸王国の一つってことでしかないわね。

 ……最近ガリアは持ち直してるみたいだけど」

 

 

 そう、父と母の仇であるタバサには悪いが、ガリア王は比類なき傑物だ、というか化物の類かもしれない。

 

 

「ガリア? もしかしてタバサの……?」

「そう、ガリア王ジョゼフは私の伯父」

 

 

 タバサが努めて感情を込めずにそう答える、きっと内心では色々なことを思っているのだろう……

 それにしても、やはり才人はとても鋭い。

 初日の名乗りを覚えていて、今までの状況からなんとなく察したのだろうか?

 

 

「そ、アルビオンの話をしたかったけど、話題に上げてしまった私も悪いわね。

 何よりタバサとガリアの話も大事だし、ついでに今、説明させてもらうわ

 ……いい、タバサ?」

「いい、昨夜も言った。 ルイズもサイトも信頼している」

 

 

 まあ、タバサの言うとおりだ、これは確認という名目のお願いに過ぎない。

 しかし、それとは別にして、そういう殺し文句みたいなことを、サラッと言わないでほしいわね、照れる……

 

 

「まず、ガリア王はタバサのお父様を殺し、お母様の心を壊した張本人よ」

「……いきなり穏やかじゃないな」

 

 

 そうね、でもなんとなく察してたでしょ?

 ……タバサは辛そうにしてるわね。

 

 

「カビの生えた諸王国と違って、飛ぶ鳥を落とす勢いの我がゲルマニアでも有名よ。

 うちも結構、大胆な改革をして、たくさんの血を流したし、今でも流してるんだけど、ガリア王はそれ以上のことを、しかも”一人で”やってるらしいわ」

「キュルケの説明でほぼ全てよ、ガリア王はおっそろしく冷徹で、過激。

 まず全ての特権階級に、横領や汚職などで、過ぎた私心ありとみなせば殺すなんて布告を出したわ」

「国民含めた内外に大々的にやってましたよね。

 てっきりあれで敵を作りすぎて、消されるものだとばかり思ってました」

 

 

 シエスタの言うとおり、普通の王ならば、そこまでの行動を起こすのは難しい。

 やりすぎない範囲で、ちょっとくらいは良い思いをできないなら……国の統治を、ましてや改革なんて……しようと思う人は少ないからだ。

 

 つまり、理想や理念で賛成できて、それなりに真面目で有能な人物ですら、味方にするのが難しくなってしまう。

 通常の水準で考えられる政治家としては、明らかに間違っているのだ。

 

 それなのに、キュルケの指摘どおり、政治的な味方を作らず、一人で改革を全部やってるらしいのだ。

 信じられない話だが、入ってくる情報を見るに、あながち嘘というわけでもないだろう。

 

 

「そ、普通は周りに消されるわ、だけどガリア王は普通じゃなかった。 どうやったのか知らないけど、次々と横領や汚職の証拠を見つけては、ガリアの改革に邪魔となると判断した貴族を処刑していったわ」

「……ますます穏やかじゃないな。 まさか、タバサの両親が殺されたのもその流れの一部なのか?」

「えっと……」

 

 

 その話に直接つながっちゃうか! 失敗だ! 話の導き方を間違えた。

 気づいたときにはもう遅い。

 

 才人の言葉に、途中からうつむいて耐えるように震えていたタバサが顔を上げる。

 

 

「そう、あいつは…… ジョゼフは……

 邪魔だという理由だけで、捏造した証拠で父さんを殺した!

 しかも母さんにも毒を盛って!

 それで母さんは、心を壊して!

 私は人形に娘であることまで奪われて!」

 

 

 怒りを思い出したのか、彼女のいつもの様子からは考えられないような、激情をむき出しにして叫ぶ。

 だが、私たちは彼女の本当の姿がこうであることを知っている。

 

 なぜ彼女がこうなったのか?

 タバサの父は死に、母は心を壊して人形を娘と思い込むようになったからだ。

 タバサというのは本来はその人形の名前だったそうだ。

 

 それは、聞くだけで痛ましい話だ。

 

 

「「「「……」」」」

 

 

 何かを言えるはずがない、私たちにどんな言葉がかけられようか?

 

 もし私がタバサの立場なら、慰めや同情こそ裏切りだと感じるだろう。

 

 しかも、私は、彼女の主張に反して、オルレアン公に野心があったのも確かだ、と考えているのだ。

 

 彼女も言葉とは裏腹に、薄々そのことは気づいているだろう。

 いや、彼女は賢い、きっと自分の父が無罪ではないということを、理路整然と理解しているだろう。

 

 

 でもそのことを言って何になる?

 

 

 タバサの次の言葉を私たちは待つ、そうすることしか出来ないのが悔しいが、そうする以外に方法は思いつかない。

 

 わかったつもりで同情する傲慢さだけでも、彼女に味あわせたくない。

 

 

「ごめん…… ダメ…… 難しい。 ジョゼフの話が終わるまで外で待つ。 後で呼んで」

「わかったわ。 けどタバサ、友人として、一つだけ言わせてもらってもいい?」

「……なに?」

 

 

 流石に友人と言えど、今は話してほしくないのだろう、言葉には棘がある。 

 

 

「才人に私たちの前で話ししてくれて、ありがとう、大事な話をできる友と認めてくれて、ありがとう」

 

 

 本当は友人として復讐なんかに囚われず、忘れて幸福になる努力をしてほしい。

 

 あなたのやっていることは、逆恨みになってしまっている可能性があると言ってしまいたい。

 

 でも、そんな正しいだけのことを言うのは、どうしようもなく間違っていると私には感じられた。

 

 

「……かまわない」

 

 

 タバサも察するところがあったのだろうか、今できる、最大限の許しの言葉を告げてくれた。

 

 

 ありがとう、許してくれて、利害関係を超えた友人を続けさせてくれて。

 

 

 バタンと大きな音を立てて戸が閉じる、タバサが出ていった後の部屋には静寂が残った。

 こうなるなら、最初からタバサを呼ばないのが正解だったか……

 いや、それはそれで間違ってるだろう……

 

 

「あ、タバサの様子は私が見てくるわ、アタシ以外はみーんな、そういうの下手だからしょうがないわよね」

「……そうね、キュルケなら任せられるわ、お願い」

「お願いします、キュルケさん」

「頼んだ」

 

 

 このタイミングで追いかけるのはなんとも気まずいが、タバサを放っておくわけにもいかないだろう、キュルケが適任なのもあるし。

 

 

「ちょっと、軽口で返しなさいよ……まあ、難しいのはわかるけどね。

 ま、任せておきなさい、あんたらと違ってコミュニケーション上手のキュルケちゃんが、なんとかしてあげるわよ」

 

 

 気を使ってキュルケが再度おどけてみせる、こいつのこういうところには、いつも本当に助けられる。

 パタンとタバサの時より小さな音を立てて、キュルケが出ていった。

 残された私たちは、お互いの顔を見て苦笑する。 

 

 

「正しいだけのことを言わなきゃいけないのって、辛いですね」

「まったくね、正しいだけのことなんて、つまらないわ」

「だなあ、俺も正しいだけのことを、今から教えてもらわなきゃならない、と思うと辛いよ」

 

 

 口々に言う、二人は気が重そうな顔をしている、私もきっと似たような顔をしているだろう。

 それでも私たちは本当のことを、正しいだけのことを話さなければならない。

 

 ただ、少なくともタバサの前で言うのは、はばかられた内容だ。

 

 

「そう、タバサの前では言えなかったけど、正当性のない王位簒奪の意思ありとして、動かぬ証拠を突きつけられて、ガリア王の弟、オルレアン公シャルルは処刑されたわ」

「ちょっと待てよ、実の弟だろ!?」

「そうですよ、しかも自らの手で刑を執行したと発表しました」

「嘘だろ……」

 

 

 まあそう言いたくなる気持ちはわかる。

 

 

「残念ながら、ガリア王本人が大々的に発表しました。 周囲の証言もありますし、嘘の可能性はありません」

 

 

 そう、普通はせいぜい幽閉か流刑なのに、ここもまたガリア王の恐ろしいところだ。

 

 王族の、ましてや血を分けた弟を処刑など、まともな神経ではできない。

 反対も嫌悪感も凄まじかったはずだし、その後に人がついてこなくなっても、何ら不思議はない。

 

 しかも自らそういう人物であると、大々的に宣伝する……おそらくは全て計算の上で、ガリアのために……なんて、人間にできることとは思わない。

 

 彼の過ぎたる異常さは、この一連の事件においてだけでも、十分過ぎるほどに現れている。

 

 

「まあ過激なことをやり始める兄と、忠言をする弟って図式だったわね。 多くのガリア王家の家臣が弟側についたんだけど、家臣ごとバッサリよ」

 

 

 弟……タバサの父上……も、家臣たちを多く味方につけ、孤立していた兄を見て、本来はそこまで大きくもなかった野心を肥大させた、というのはあるだろう。

 最初からそこまで野心的だったとは思えないからだ。 ガリア王があそこまで過激でなければ、影で支えれば十分だと思っていたはず。

 

 けれど、結果的に過激な兄に反発する家臣も多く、立場的にも、結果的にも状況に流されてしまい、仕方なく半分、野心との合致半分で、反逆することになったのだろう。

 

 恐ろしいのは、やはりそのことも見据えていたように、即座にその計画を細部まで暴かれたらしいことだ、ガリア王が賢く、計算高いのは疑いようがない。

 

 

「家臣はガリア王に反対ってだけでバッサリ?」

「いえ、

 『理由があれば、恐れず反対する家臣がいるというのは、国家として健全な証拠である。

  また、正当性さえあるのなら、反逆という手段に訴えるということは……短慮ではあると思うものの……一定の理解を示す度量なくして、正しき王とは言えない』

 と、すぐに公的な場で見解を打ち出しました、即日で隣国まで伝わる速さでした」

「完璧すぎるな……」

「ええ、反対派の家臣の多く処刑されましたが、あくまで疑いようのない不正の証拠を突きつけられた結果のバッサリです。

 少数ですが、反対派であろうと、不正が見逃すべき範疇だとみなされた貴族は、軽い処分で終わりました、見解通りです」

「もちろん、すり寄ったやつも中立だったやつも、ガリアに要らなくて、求めるべき対価を超えた不正をしたとみなしたら、バッサリいってたわ」

 

 

 そうなのだ、あくまで自分は良き統治者たらんと、行動し続けているのだ、ガリア王というやつは。

 これがまた、タバサが気に入らないところだろう。

 ”せめて何の気兼ねもなく怨むことができれば” と思わずにはいられないはずだ。

 

 

「でも、どうやればそんな途方も無いことが実現できるのかはともかく、実現してしまった以上、風通しは信じられないくらい良くなったわ。

 同時に多くの旧態依然の制度や法を変えて、どこからともなく連れてきた優秀で無難な人材を補充して、空いた政務をやらせて…… と、次々に改革を断行してったわ」

「結果として、キュルケさんのところのゲルマニアほどじゃないにしても、ガリアでの人々の暮らしは豊かになったそうです」

 

 

 ゲルマニアは元々がマイナスじゃないどころか、国力が高くなる地盤があったことを考えれば、ガリア王のやったことは、良い面だけを見ても歴史に語り継がれるレベルだ。

 

 だから私も、タバサには 『母親の心を治療し、ガリアとのしがらみから解放する』 としか言えていない。 公的にガリア王を責める理由がないのだ。

 タバサもそんなことは先刻承知で、私に復讐を真っ当に手伝わせるために、ガリア王の失点を探している ……心苦しい話だが。

 

 当面の課題であるアルビオンの話に、タバサがいつも以上に協力的なのもその関係だ。 どうやらガリア王が裏で噛んでいるらしい。

 しかし、あの稀代のトカゲ王のことだ、そう簡単にはしっぽをつかませないだろうし、つかんでみてもアルビオンに噛む正当な理由を持っていて、しっぽだけで終わる可能性は高い……

 

 まあそうだとしても、何をやっているか、つかまないことには始まらないし、調査はしている。 タバサのためにも、私たちのためにも。

 

 

「待ってくれ、それじゃあタバサのお父さんはともかく、お母さんはなんで心を壊されたんだ? 毒って言ってたけど……」

「そうよ、毒で、しかも理由不明よ。 ここだけが唯一、誰から見ても正当な理由なく行われたことね ……露見していたら」

「露見してないのか、やり手すぎるな」

 

 

 露見すればガリア王を真っ当に批判できる明白な失点だ。 義妹に理由もなく毒を盛るなど、誰が見ても悪事と言うだろう。

 なぜ毒を盛ったのかはよくわからないが、ガリア王の何か重大な秘密を知ってしまった可能性が高いと見ている。

 

 ガリア王のまるで見当もつかない手練手管。 心を壊すだけの毒などという、聞いたこともない薬品を手に入れて扱う秘密の部下、あるいは取引相手。

 

 まさかとは思うがガリア王の秘密というのは…… 私と同じ……

 

 現段階ではただの推測に過ぎないことだから、これ以上は考えても意味がないが。 

 

 

「対外的には夫が死んで心を壊したってことになってるわね。

 夫が死んだことで心を壊したってのは、何の違和感もないから。 私たち以外にこのことを知ってる人は、ほとんどいないでしょうね」

「ちなみに、婦人の心が壊れた原因が毒で、盛ったのはガリア王というのは、タバサさんの言葉を基に、私が彼女と共に調べさせていただきました。 証拠には至っていませんがほぼ確実です」

 

 

 そうだ、以前にも少し触れたが、シエスタは我がヴァリエール家に、というか私のために秘密裏に遣わされた工作員だ。

 表向きはトリステイン魔法学園の使用人をしているので、その方向の伝手があり、ガリア宮中の使用人を通じて調べてもらった。

 

 

「じゃあ、それを理由にガリア王を正式に批難するってのはどうなんだ?」

「少しは評判を落とすかもしれないけど、もはや今更、分かったとしてもガリア王を追い落とそうって人は少ないでしょうね。

 あまりにも統治が完璧すぎるもの、婦人を毒で害したことは我欲からじゃなさそうだし、失点を受け入れるって人のほうが多い可能性があるわ」

「またそういう対応も上手いんですよねぇ。 対応が早い、変にプライドを持たない、嘘をつかない、真実でも余計なことは言わない、なんですよ」

「むしろ、もっと我欲に塗れた失点をなんとか見つけたいって、政敵の人たちは思ってるでしょうね、あまりにも気味が悪いもの」

 

 

 そうなのだ、ガリア王は自分がどう見られているかに敏い。

 心を壊したタバサのお母様の保護を自ら行い、そのことをわからないように公的に発表するという徹底ぶりからも伺える。

 

 そもそも現状では確かな証拠を十分に用意できていないので、追求することはできない。

 私たちが言いがかりをつけたことになって、逆に追い込まれるだろう。

 

 心を壊す毒というのが、そもそも知られていないものだ。

 治療方法のためにも、証拠とするためにも、せめて何の毒かだけでも知りたいのだが。

 

 

「……タバサには悪いことをしたな」

「そうね、でも友人だもの、本心で付き合う以上、お互いに譲れないところもあるわ。 私は特に、嘘をつくの、嫌いだから」

 

 

 大事なところで友人に嘘をついて、それが果たして本当に友人であり得るのか……

 私には優しい嘘をついて利用する(/される)関係が、友人であるなんて、言いたくない。

 

 嘘でも 『私が復讐を肯定してあげる、手伝ってあげる』 なんて言えない。

 結果として、タバサを傷つけることになっても、私が傷つくことになっても。

 

 私はタバサを籠絡し、利用したいのではない。

 

 横に立つ友人として、お互いのためになるなら、思ったことを思ったとおりに言えるような ……それが自然で当たり前の存在になりたいのだ。

 

 

「そこがルイズさんのいいところじゃないですか。 遠慮して沈黙を利用することはしても、大事なところで友人には”絶対に”嘘をつかないじゃないですか」

「なによそれ、格好つけないでよ……」

「ふふ、ルイズさん、照れて軽口も叩けなくなってますよ」

 

 

 なによ、ちょーっぴり……ほんの少しだけ?……嬉しく思っちゃったのよ。

 私の様子を微笑ましそうにシエスタが見てくる。

 やめてよ、恥ずかしいじゃない……

 

 

「なんかいいよな。 俺、ルイズに召喚されてよかったよ、ルイズたちを手伝うの、誇らしいよ」

「そうですよ、才人さん。 これはハルケギニアの、その中でもトリステインなんていう、いっとうケチくさいところに呼び出されたことの、不幸中の幸いです。

 ルイズさんはガリア王に負けない偉業を……ガリア王と違って優しい心で……成し遂げちゃう人ですからね。

 その使い魔さんとして、才人さんもすごいことを成し遂げちゃうこと、間違いなしですよ!」

「確かに、ルイズはなんかやってくれそうな感じがあるんだよな、期待に応えてくれる感じが」

 

 

 なによそれ、優しい心は為政者としては一長一短だと思うわよ……

 だって、私もガリア王の立場なら、同じことをしたかもしれないような、意外と冷たい人間なのよ。

 そもそも、能力的に見たら、大した人間じゃなかもしれないわよ。

 

 でも……

 

 

「……気を使ってくれてありがと」

 

 

 私は小さく言う、それを聞いて、二人は笑った。

 

 

「さて、アルビオンの話もしないといけないんですけど、タバサさんを呼び戻して今日やる雰囲気じゃないですよね?」

「そうね、タバサにも落ち着く時間が必要でしょうし、私も流石に気まずいわ」

 

 

 タバサは強い、明日の夜にはまた落ち着いて話できるようになっているだろう。

 

 

「結局ガリアの話で終わっちまったな。 ま、タバサのことが知れて俺としては逆に良かったけど」

「悪いわね、アルビオンの話も結構急がないといけないんだけど、一日二日を急いでるわけじゃないから、明日の夜にしましょう」

 

 

 もう時間も遅くなってきたし、状況が状況だ、解散にしたほうがいいだろう。

 

 

「そうですね、おやすみなさい、ルイズさん、才人さん、タバサさんとキュルケさんには私が伝えておきますね」

「頼むわ、おやすみなさい」

「おやすみ」

 

 

 シエスタがそう言って帰っていく。

 残った才人がこっちを向いた。

 

 

「そういや、今日から寝るのを共にすることになるな、ルイズみたいな美人と一緒に寝れるのはラッキーだな」

「なに、あんたロリコンなわけ?」

 

 

 才人の世界の言葉に若干汚染された軽口を叩く。

 

 

「ルイズみたいな美人相手なら、みんなロリコンになっちまうのは仕方ないだろ」

「ちょっと、私が幼児体型なことを否定しなさいよ」

「嘘は嫌いなんだろ? それに幼児体型には幼児体型の良さがある、少なくともルイズには似合ってて、すげー魅力的だぜ」

「調子のいいこと言って…… 見て分かってると思うけど、シエスタに頼んで用意してもらったわ、ベッドは別よ」

「残念」

 

 

 そうやって笑い合う。

 

 こいつとは短い付き合いだが、なぜか既に、タバサやキュルケ、シエスタと接するような感じで話せる。

 使い魔との相性は悪くないようで、嬉しいことだ。

 

 

「おやすみ、ルイズ」

「ええ、おやすみ、才人」

 

 

 タバサのことが気になって寝付けなかったが、体調を崩す方がもっと迷惑を掛けるだろうと、私は苦労して眠りにつくのだった。

 




 話の種として、アルビオン大陸は少なく見積もっても600兆トン以上ある(私のあたった資料からの概算なので間違っていたらすみません)、というのを使いたいなと思いましたが(なんで浮いてるんだろほんと、作中では風石が足りないから数百トン程度の船が飛べないとかいう話をしてたはずなのに)、構想上使うポイントがないのでお蔵入りしました。

 書いていて楽しいと同時に、いつもそばに居てくれる 「これでいいのか不安」 さんがより身近に感じられた話です。
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