もしルイズに公爵令嬢としての余裕があれば   作:売ル座布団

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 ご訪問ありがとうございます、7話からたくさんの話を飛ばしてクライマックスです。

 ルイズが一人でガリア王と対峙する最終決戦の場面です。

※-※-※
 途中の構成自体は作ってあるので、ざっとこの話につながる、あらすじを最初に書いておきます。
 しかしながら、おそらく、読まなくても問題なく楽しめると思います。
※-※-※



----------あらすじ開始(読まなくても本編を楽しめます)----------

 ガリア王は産まれた時から生に何の意味も見いだせず、ただただ求められたから統治者として振る舞い、野心に燃える弟を察知して、ガリアの改革のためにその手で殺した。
 また、自身が虚無であることに気づいたタバサの母をエルフから取り寄せた毒でもって、心を壊し、さらにタバサの母を利用してタバサを自由に動けないように縛りつけていた。

 レコン・キスタに協力したのもルイズと同じで、結局それが世界全体が平和で幸せになる可能性が高いから、犠牲が多くても『平然と』やってみようとしたからであった。
 何をしても価値を見いだせないガリア王は、そこまでやれれば、何かが感じられるかもしれない、と考えて粛々と悪辣な、だが世界全体のためになると思うことを実行してきた。

 だが、ルイズたち一行はアルビオンでガリア王の企みを看破し、ガリアの貴族を政治的に味方につけていき、最後に正式にガリア王の責任を追求する件になった。

 ガリア王ジョゼフ、彼は非常に落ち着いてルイズたちに向かい合うと、なにか意味があるのか、できればルイズだけについてきてほしいと要請し、ルイズもそれに応えた。
 ガリア王はルイズと語り合い、ルイズはやはりガリア王が 「壊れた正しい統治者」であることを理解する、そこからの展開です。

----------あらすじ終了(読まなくても本編を楽しめます)----------


クライマックスとエピローグ
ガリア王との対決


「なんで義妹に毒なんて盛ったの?

 結果的にあれさえなければ、なんとかタバサも説得できた。

 あなたにそれらしい失点なんて他になかったはずなのに」

 

 

 そう、すべてを計算づくで行う、正しい統治者たらんとするものの行動としては、あまりに不可解に過ぎる。

 ガリア王のこれまでの行動を振り返れば、私怨ではありえない。

 婦人そのものが問題なら、処刑してきた者たちと同じ末路を辿るだけのはず。

 

 

「ふ、そなたが気づいておらぬだけで、余にも数え切れぬほどの過失も失点もある。

 あれは結果的に、余の最大の失敗となってしまったがな」

 

 

 いや、あなたの他の失点なんて、失点と呼んでいいかどうかも怪しいレベルだと思うけど。

 

 

「ということはやはり、虚無って知ってしまったからね」

「そうだ、虚無の魔法が使える、という事実は……苛烈な血の改革とさえ比較にならぬ……統治の障害となると、考えたのだ。

 人は伝説になるような大きな力に対し、畏怖をもって結束する傾向があるからの。

 だが、そんなくだらぬことより、シャルロットやそなたが敵に回る方が問題だったとはな。 流石に読めぬものよな」

 

 

 それはそうだ、タバサがそこまでの執着を持つことも、私と共闘関係になることも、その私たちがここまで上手くやってしまうことも、すべて予測できるとしたら、それはもはや予知の類だろう。

 しかし、虚無と知られることにまつわる問題ですら、ガリア王にとっては 『くだらぬこと』 と述べたことで、私はいっそう、共感と理解を感じた。

 

 

「そうね、私があなただったら、やはり籠絡して取り込むか、実質的に殺すかしないと、いけなかったでしょうね。

 信頼して取り込んだ場合、裏切られるリスクがあるし、殺すのはそれ自体も、周辺への評価にもリスクが伴うわね。

 だからそもそも虚無ってバレないのが一番なんだけど」

 

 

 おそらく、それは本当に些細な事故で、たまたま知ってしまったという類のものだろう。

 そして、ガリア王はただ、いつもどおりに 『つとめて』 理性的に判断しただけなのだろう。

 

 

「そうだ、弟も、全ての処刑することになった家臣たちも、みな、殺したいわけではなかったわ。

 熟考を重ねた上で、取り込んだら改革はならず、ガリアは持ち直すことが出来ないと、判断せざるをえなかっただけのこと。

 義妹のことも、エルフとの縁を頼って、殺さずに済むようにと、心を壊すだけの毒を取り寄せたのだ。 解毒剤も持っておる」

 

 

 やはり、不思議に思っていたのだ。 義妹を殺さず、わざわざ心を壊すのはリスクが高すぎる。 単に殺したくなかったのだろう。

 

 

「……そう、それでも流石に人を殺すってのは感じるものがなかったの?」

「ふ、家臣たちを殺したときも、この手で弟を殺めたときでさえ、さほどの悲しみを感じることは出来なんだわ。 

 余はそんな自身が嫌いであったわ。 大きな感情も、深い感慨も持てず、機械のようであるとな」

 

 

 そうなのだ、ガリア王の世界には求めるべき欲望がない、望むべき希望がない、避けたい絶望すらも。

 ただただ、理想的で正しいだけの統治者である以外には、自己を形成するものが、なにもなかったのだ。

 

 

「それでもあなたがやったことで、幸福になった人は多い。 確かに恐ろしいことをしているけど、あなたが比類のない為政者なのも確かよ。

 理想を実現している喜びくらいはなかったのかしら?」

「……わかっておきながらそう問うとはそなたも人が悪かろう? これもまた、慰めにはならなかったな。 ただ、人々の幸福に奉仕することの方が、無為に過ごすより、悪事を成すより、虚しさもマシというだけであったわ」

「……でしょうね、あなたには私心がない、それは高潔な心があるのでも、計算高くそう見せてるんでもなくて、そもそも私心が最初から殆どないんだわ。

 あるにしても、あまりに小さすぎて、ふつうの人としては無いに等しい、だから純粋に理知的な判断をして、正しく残酷に実行できる」

「軽蔑するか?」

「まさか。 私はあなたと同類よ、我欲があまり持てなかったから、理知的な判断を残酷に実行できる機械だわ」

「そうは見えぬがな」

「……家族と友を持てたから、それも本当に信頼できるものをね。 私心はそこから借りたわ。 私はあなたみたいに世界全体よりも、少し優先する身内を持てただけのことよ」

 

 

 そうだ、ヴァリエールの誇りを…

 強い復讐心を持ちながらも、強い理性でもって気高く生きる気概を…

 人に細やかに気遣いをする優しさを…

 明るく前向きさを見せて、皆を鼓舞するやり方を…

 

 それらを身近で感じられていたから、それに自然と応えたいだけなのだ、私というやつは。

 

 

「自慢か?」

「自慢ね」

 

「そうか、そなたを見習って、弟は……せめて義妹だけでも取り込むべきであったか」

 

 

 ガリア王が滅多に出さないであろう強い感情……羨望をにじませて言う。

 

 

「いや、タバサには悪いけど、タバサの両親が信頼できる人だったかは私にはわからないから、結果論よ。 人を信じるのがうまくいくかどうかなんて分の悪い賭けでしょ?」

「やもしれぬな。 ということは、そなたは一人でなくなり虚しくなくなった自身の幸運を、一人で虚しいだけの余に、自慢しておるわけだ」

「軽蔑する?」

「まさか。 お前が正しく自慢できる相手は、同類である私くらいしかおるまいて……嫉妬はするがな」

 

 

 ここにおいて、彼と私は心を通わせつつあった。

 それは友情や親愛とは違う、人として虚無であるということに対する共感だ。

 

 

「ジョゼフ、勝手なことを言わせてもらうけど、あんたに同情するわ。

 あんたは結局、信頼できる家族も、仲間も、友も得られなかった。

 そして、何より、自分が信じるに値する価値を見出すことが出来なかったのね」

「ふ…… 本当に勝手な物言いだな、だが思ったより正鵠を射ておる」

 

 

 そう、私にはわかる気がする、私は単に恵まれたから信じるものがたくさん得られたのだと。

 彼はそうならなかった私に……不運だったもう一人の私に見えたのだ。

 

 

「私がもしあんたの立場だったなら、きっと同じように虚しさを抱えて生きることになったはずよ。

 そして私はあんたみたいに、悪いことをしたでしょうね。

 なんなら、やぶれかぶれで世界を破滅に追い込もうとしたかもしれない。

 そんな人生を耐え抜いて生きてきたあんたこそが、私なんかと違う、本当の”虚無”だわ」

 

 

 そう、何も信じられず、何も感じない、灰色の無間地獄に閉じ込められた生。

 虚無の使い手に選ばれるのは始祖の血筋というが、真の条件は”虚無の生”にある、と言われても私は驚かない。

 

 

「ふ、……そのことを同情するか? 憐れむか? 傲慢にも」

 

 

 そうだ、彼の言うとおりだ。 どんなに自分が正しくても、正鵠を射ても、同情したり憐れんだり、何かを言うのは傲慢だ。

 

 

「そうよ、傲慢にも同情し、憐れんで、尊厳を踏みにじり、命さえ奪うわ、幸運な者としてね」

「なぜそこまでする必要がある? ここに至って、私が死ぬのはほぼ決まったと言っていい。

 それらの罪までお前が背負う必要はあるまい?」

 

 

 そうだ、だが、傲慢でも、必要がなくても、この私がやらねばならない。 私が背負わねばならぬ罪だと思うから。

 

 

「今ここにおいて、私が……私だけがあんたを殺す資格がある、と思うの。 私だけが今あんたの本当の心に近づいたと、言ってくれたから」

 

 

 彼が嘘を言っているようには思えない、彼は本当に今まで誰にも真には理解されなかったのだろう。

 このまま彼を理解しない者の手にかかるよりは、私の手にかかる方が救いがある、と思う。

 それが別の見方をすれば悍ましいほどの傲慢であるとしても。

 

 

「そうか、私を殺すならば、我が姪か義妹こそがふさわしいと思っていたが、聞いてみればお前に殺されるのも悪くないものだな。

 虚しかった人生において、お前だけが私の苦悩を知り、それを尊重してくれるのは確かだ。

 これは存外悪くない、また違った運命ならば、共に歩む友にしてくれと願ったやもしれない」

 

 

 そうだ、それはあり得た幸せな”もし”。

 

 せめて、弟を殺していなければ、義妹の心を壊していなければ。

 

 

「ええ、私もあんたの妹に産まれていれば……そして共に歩めていれば、と考えずにはいられないわ。

 でも残念だけど、いまさら友となるには、遅きに失したわ。 私はタバサに、みんなに、自分自身に、縛られてしまっているの」

「そんなことは承知しておる、まさにお前が言う、幸運な者が背負う責務であり、生きる価値であろう?」

 

 

 これは流石に私の失言ね、賢明な彼がその程度のことをわかっていないはずがないもの。

 

 

「……そうね。 そしてホントはあの娘の手であんたを討たせたかったけど。 あんたにも救いが必要でしょう?

 だから、私が……このルイズが、傲慢に、力強く、死力を尽くして、認めて、同情して、奪いにいく」

 

 

 私の言葉を聞いて、ジョゼフがついに、楽しそうに笑った。

 笑い慣れていないのか、ひどく歪んだ笑顔だが、そこにはハッキリと愉快さを味わう感情が浮かんでいた。

 

 

「いいぞ、砂を噛むような味気のない人生であったが、存外悪くない死に方くらいは与えられるものだ。

 だがもちろん、私は不運なものとして幸運なお前を恨む。 それゆえに、殺すつもりで全力で行く。

 お前のそのよく回る舌が、実を……いや、真の虚無を……伴っていることを、お前の全力でもって証明するがいい」

「言われるまでもなく!」

 

 

 お互いに杖を構えて対峙する、目は言葉以上に語っていた、この瞬間、私たちは真に認めあっているのだと。

 不運(幸運)なるお前を心から同情(憎悪)する、なぜなら私たちが似ているからだと。

 お前の存在だけは他の者たちと違う。 同じ地平にある、だから無視することが出来ぬのだと。

 

 だからこそ、お前を殺すと、互いに告げていた。

 

 

「虚無同士の戦いというのは前例がない、あったとしてもまともな記録が残っていない。

 だが私は考えうる限りの最善手を打つぞ、ついてこれるか?」

「当然! 何の考えもなく啖呵を切るわけないじゃない」

 

 

 ジョゼフには守るものがない……友も、身内も、自身でさえもその価値がないから……だから常に捨て身で、保身もリスクの考慮もなにもない。

 彼は本当に死力を尽くすだろう。 私も、全力で応えなければならない。

 全力を出さねば私の敗北へ繋がるだけでなく、彼が感じてくれているであろう共感への裏切りとなる。

 

 だけど、その全力を出すのは怖い…… お互いに全力でぶつかればどうなるか全く読めないのだ。

 

 私には失うものが多すぎる。 彼ほど私は自由でない。 私の手にはたくさんの価値あるものがある。 私の世界にはたくさんの味がある。

 

 ……才人、タバサ、キュルケ、シエスタ、父様、母様、姉様、みんな……また無茶してごめんなさい。

 

 でも、彼は……彼だけは私が……この私が……この手で討ってあげたい!

 

 

「ふ、同じことを考えているな、私を殺す者がバカでないのもよいことだ。

 無理解で無遠慮の愚か者が、理解した気になって何かを言ってくるのもまた、虚しいことだからな」

 

 

 彼はあまりに楽しそうで、嬉しそうで、『ほんとうのこと』 を言ってくれてそうで……

 私はつい、友人に言うように軽口を叩きたくなる。

 

 

「……遺言はそれでいい?」

 

 

 あまりに膨大な魔力がお互いの内に充溢する、その魔力の衝突だけでガリア、いえハルケギニアそのものを消し飛ばすのではないかと錯覚するほどだ。

 

 そうだ、虚無は軍勢を相手するには比類なき強力さを誇るが、1対1向けの魔法ではない。 小回りがきかず、短時間では一手しか打てないのだ。

 ならば、虚無同士の直接対決になった時は、最大効率で相手を消し飛ばせる、一番効率のいい呪文を用いないのは下策だ。

 お互いに一手しか打てないなら、その一手を最大効率で打って相手を先に破壊する、そのための選択となるとこれしかない。

 

 才人の世界において、戦争とは、結局は先制して十分な火力を叩き込み、相手を無力化することを考えるもので、その方が防御を考えるより良いとされているらしい。

 これは突き詰められた合理的な考えだと思う、なぜなら、虚無同士の戦いでも似たような結論に至るからだ。

 

 

「遺言などあろうはずもない。 砂を噛むような人生だと言ったはずだ。 だがこの瞬間、私は確かに生を感じているぞ!」

 

 

 彼は確かに私とのやり取りに楽しみを見出し、それゆえに殺すつもりで、死力を尽くしているのだろう。

 

 一方で、それは成功した同類に憎しみをぶつけているだけ、というのもまた本当だろう。

 言葉の端々に、負けるつもりの……最後にただ一つ残った生命さえも捨て去ろうという……諦観が透けて見える。

 

 

「それはよかった、私の罪悪感も多少は減るわ」

 

 

 私はそれがあまりに悲しくて、軽口を叩くことしか出来ない。

 

 どんな説得も、飾った言葉も、彼を侵すことになる気がして、発することが出来ない。

 

 

「ふ、 ……いや、遺言は必要ないが、ただ一人の理解者の心に、確かな傷跡を残すというのも、悪くない気がしてきたな」

 

 

 喋りながらも全く隙を見せず、ひたすらに魔力を研ぎ澄ませ、高めていく。

 器用なものだ、とお互いに苦笑する。

 

 

「私が死ぬ時まで決して忘れはしないわ、心配しないで」

 

 

 ”自分の半身ではないのか” と錯覚するほどの相手だ、そもそも忘れたいと願ったとしても……そんなことはありえないが……忘れられまい。

 

 だから、やっと、軽口でない、私のほんとうの言葉で返すことが出来た。

 

 彼は私の言葉に薄く笑んだ、最初よりも自然で明るい笑顔だった。

 その笑顔に込められた感情に、悲哀を感じずにはいられなかった。

 

 

「ならば、何も言い残すことはない」

 

 

 会話の中で、お互いにタイミングを見極め、ギリギリまで力を張り詰めていく。

 もしどちらかが油断するなら、そこで一方だけが発動して終わりだ。

 

 だが、そんな、本当に虚しい終わりは互いに許せまい、隙はお互いに全く見せない。

 だから、最後は純然たる魔力比べになるはずだ、つまり、単純に力が大きい方が勝つ。

 工夫もなにもない、ただただ、私の全てをぶつける。

 

 ぶつけなければ負ける。

 

 負けたくない!

 

 私は生きたい! ジョゼフ、あんたと違って!

 

 

「「エクスプロージョン!」」

 

 

 よくよくこの魔法には縁があるな、と思う。 だが、なにがゼロだ、こんな物騒なゼロなどあるものか。

 それは虚無の呪文の初歩の初歩にして、虚無における……いや、魔法における最強の攻撃手段。

 魔力を恐ろしい効率で熱と速度に変換し、世界さえも焼き払う業火。

 

 お互いの詠唱から数瞬遅れて、唸りを上げる力がぶつかり、飲み込み合う。

 尋常ならざる魔力が互いに憎悪するかのように、慕情を抱くかのように、激しく衝突し、対消滅していく。

 二つの力はギリギリのところで均衡を保って絡み合う、その空間が、軋みを上げるのが見える。

 その様は本当にハルケギニアさえも焼き払えたかもしれない、と言えるほどで、ゾッとする。

 

 永遠に思えるほどの……だが実際には数秒でしかなかったであろう……時間の後に、遂に均衡が破れる。

 相手を打ち消してなお残った僅かな魔力が、相対する術者めがけて飛翔する。

 

 

 そしてついに、魔力が爆ぜた。

 

 

「……生きる理由がある者の執着とは恐ろしいものだな。 ついぞ私は得られなかったものだ、純粋に嫉妬するぞ」

 

 

 下半身を無くした彼が私に言う。

 そこには砂を噛むなどとは間違っても言わぬであろう、確かな感情があった。

 

 だが、彼の言に反して、私の信念が勝ったのではない、勝利は偶然の産物だ。

 私はたまたま全力を出せて、その力がガリア王よりなぜか大きかっただけのことだ。

 

 それでも、そんなことを、私が彼に言うのは許されまい。

 彼の言うとおり、お互いの信念の戦いと言えるのも、また確かだろうから。

 

 だから私は、その言葉を飲み込んで……何より彼だって言われずとも分かっているだろうから……彼の言葉に真摯に、ほんとうの言葉で答えるように努める。

 

 

「……ええ、何度も言うけど、私の人生はただ幸運だっただけ。 あんたはただ不運だっただけだと思うわ」

「神というものは…… 人々の人生の幸運の格差…… というものには…… 気を払わぬものだな……」

「……まったくね」

 

 

 彼の言うのは、そのとおりだと思う。

 

 私が神様なら、各登場人物のこの酷い格差を嘆いて、このハルケギニア叙事詩という物語を書き直すだろうから。

 

 

「だがよい…… 不運の生でも…… 得るものはあった…… そしてせめて…… お前に…… ルイズ…… 君に看取って…… もらいたい…… 頼めるか……?」

「ええ、私は全て覚えたし、覚えておくわ、あんたの言葉、表情、姿をね。 だから私が死ぬその時まで、あんたは私の中で生き続ける」

「そう…… か…… 悪く…… ない…… わる…… く…… ない…… ぞ……」

 

 

 誰かの記憶にある限り、人は死なない(死ねない)という思想があり、私は好きだ。

 そんなものは確かに嘘だとも思う、だけれど、どこか一面の真実を含んでいる気がするから。

 

 だから、私もあんたもきっと死ねない、これだけのことをしてきた私たちだ、きっと歴史にだって残るだろうから。

 

 私たちは、人々の記憶にずっと生き続けるのだ。

 そう考えてくれていいと、言葉で、目で、訴える。

 

 私の考えと想いを感じ取ってくれたのか、末期の力を振り絞って、ジョゼフは目で笑った。

 

 

「あ…… り…… が…… と…… う……」

 

 

 一字一句だって聞き逃さないつもりで聞く! 睨むような勢いで、彼を見る!

 

 

 

 だが、その言葉を最期に、ついに彼が動かなくなる。

 

 

 

 私は張り詰めきっていた緊張を解き、天を仰いだ。

 

 

「さようなら、ひとりぼっちだった、虚しいだけだった、もうひとりの私」

 

 

 間違いなく最強の敵の一人で、最強の味方の一人でありえた人だった。

 それを私は奪ったのだ、彼のからっぽだった人生の、入れ物そのものまで。

 

 私は彼を横たえる。 その表情は満足しているようにも見えるが、私がそう見ようとしているだけかもしれない。

 

 

(神よ、天上の存在よ、我が祈りを聞け)

 

 ……祈るべき相手はずっと、今だってわからない、だが、それでも祈る。

 

(彼の魂がもし、この後にも続くものならば、そこには確かな味を与えたまえ。 また、安らぎを与えたまえ)

 

 罪や罰は現世でやりとりすれば十分だ。 あの世でまで、人の咎を責めたいと、私には思えなかった。

 

 せめて死後にはどんな人も……彼のような不幸な人々は特に……幸せになっていいはずだ。

 

 

 死後の生なんて…… 魂なんてものは…… ない、と思いつつも、私は祈らずにはいられなかった。




 この場面とエピローグを書くのは、作者にとって得難い楽しさがありました。

 4話くらいまで書いた後に、クライマックスとエピローグへの道筋が見えたので、書いてみたところ、あまりに筆が乗ったため、この作品の構成をちゃんと考えることになりました。
 そのためか、この場面は、ほんとうに自分の「良さ」が出ていると思っていて(もちろん未熟だったり人を選ぶことはわかっています)、何度自分で読み返しても自分で泣きそうになります。

 結果として、闘病もあって、時間が空いたのに加え、『あくまでこれはゼロの使い魔の二次創作にすぎない』という感覚が拭えず、筆を折ったというのが実情です、申し訳ないとしか言えません。
 にもかかわらず、恥をかくつもりで、供養として、勉強としてアップロードさせていただきました、ご容赦ください。 あとはエピローグです。
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